第七話 盗賊退治② 奴隷GET
「いかん、このままでは二人が危ない」
興奮してつい言葉を発してしまう。
猫耳と犬耳を見つけてしまった以上、早急に作戦を練り直さないといけない。
俺は速度を落とし盗賊たちから百メートルほど離れた所で停止した。
振り返って様子を窺ってみよう。
おそらく二人のケモミミ美少女は、檻に入っている点から考えると、不覚にも捕らえられたのだろう。
そして盗賊が襲ったのはたぶん奴隷商人だ。
きっと盗賊は奴隷商人からケモミミ二人を分捕って、どこかに売り払おうって魂胆だろう。
大体事情は掴めたぞ。
さてどうするか……。
俺はリリから蜂蜜を受け取った。
そしてそれを飲み魔力を回復させながら様子を窺っているところだ。
盗賊たちは俺たちの存在を認識しているようだが、目の前の奴隷商人の相手で手一杯らしい。
奴隷商人側も護衛を雇っている様子なので、盗賊側も気を抜いたらやられるだろう。
その間、俺たちは高みの見物といくか。
理由は以下の二点だ。
一つはこの世界の一般的な人間の戦闘力を把握するため。
もし敵いそうでなければ、ケモミミには悪いが途中で速攻退散しよう。
二つは両勢力を限界まで戦わせて、疲弊したところを俺が頂くためだ。
卑怯と言われようが知ったことではない。
義憤に駆られて助けた結果、リリに目が眩んだ奴隷商人に後ろから刺された、なんて落ちは容易に想像できるからな。
もし奴隷商人が生き残った場合もケモミミを攫った報いはしっかり受けてもらおう。
アンドレとクラリスの話によると、犯罪者だと判別する便利なグッズも無いようなので、ばれなければ殺しても恐らく平気だろう。
そして俺がケモミミを手に入れると……。
我ながら素晴らしい作戦だな。
そして俺は二人に先に考えた作戦を解り易く伝える。
その結果、
「うん!」
「妾も大丈夫じゃ!」
と二人とも理解してくれたようである。
クラリスは子供なのでともかく、リリは言葉遣いとは裏腹に知能レベルは大人な以上に発達しているようだ。
例えば、九九は勿論、二桁以上の掛け算のやり方を教えた時も、あっという間に理解してしまった程である。
今回もすぐに俺の意図する所を把握したようで、自信を持って頷き返してきた。
「ではしばらくは様子見だ」
俺達は遠めから両者の戦闘を観察する。
…………そろそろ片が付きそうだな。
結果は戦況通り盗賊の勝利に終わりそうだ。
既に奴隷商人以外の護衛は全員死んだ。
そして懸念材料だった敵の戦闘力も、盗賊の首領が魔法を使える以外は大したことはなさそうだ。
ただその魔法も、直径十センチメートル程度のちっちゃい火球だったから問題ないな。
それに奴隷商人側も頑張ってくれたようで、盗賊の三割を戦闘不能に持ち込んでくれた。
残ったのは十人程だ。
こっちに目が向けられる前に、そろそろ攻撃を開始したほうがいいな。
「ではこれから盗賊の殲滅戦を開始する。俺は奴らの中心にバーストを放つ、その隙にリリは首領を仕留めてくれ。クラリスは応援をよろしく頼む」
「おー!」
「了解じゃ! 秀雄がんばるのじゃー」
「さあ喰らいやがれ! バースト!」
クラリスの応援を背に俺はバーストを放つ。
込めた魔力は前回の倍の総魔力の四割程、ケモミミ達も巻き込まないようにあまり大きな爆発にならないように配慮したつもりだ。
角度をつけて発射された爆弾は、盗賊の中心からは少しそれた所に着弾した。
その瞬間、ドカンという爆発音と共に直径三メートル程の範囲が炎に包まれ、二人の男を丸焼きにすると、さらに三人を爆風で大火傷を負わせ戦闘不能に追い込んだ。
まあ御の字の戦果だ。
「いけートゲトゲー」
一方、リリは花魔法だろうか、十本程の長さ数十センチメートルの棘を盗賊の首領に向けて発射した。
首領もなんとか回避を試みるが、時速百キロメートル以上で迫りくる棘を避けきれずに何本か被弾する。
その内の一本は首領の腹にささったようだ。
これは致命傷になるな。
「リリ、もう一発お見舞いしてやれ」
「うん!」
リリは指示通りにすぐに追撃を放つと、動きの鈍くなった首領の頭を棘が貫き見事に絶命させた。
俺は好機と見て、火球を作り、動揺している盗賊に次々と命中させる。
リリもウインドカッターや棘攻撃で援護してくれたため、奴らに近づく間も与えずに、僅か数分で盗賊を全滅させることに成功した。
「よーしやったぜ。あとはこいつの処理だな」
盗賊を殺したことに、微塵も罪悪感は覚えなかった。
そしてしぶとく生き残った奴隷商人に視線を送る。
「お前! 助けるならなぜもっと早く助けなかったんだ! お陰で高い金で雇った護衛が全滅してしまったではないか!」
奴隷商人は自分の立場をわきまえずに怒り出しやがった。
礼の一つも言わないなんてろくな奴じゃないな。
「それは済まなかったな。ところでこの娘達はあんたが捕まえたのかい」
「そうだ、わざわざ獣人の領域で苦労して捕まえたのだ。お前、俺を町まで護衛しろ。そうすれば日和見したことは見逃してやる」
こいつはダメだ、ここで殺そう。
「うるさい、死ね」
ドゴッ!!
俺はピーターから頂いた鉄の剣で奴隷商人の頭を思い切り叩いた。
物理攻撃で人を殺すのは初めてだったが、既に覚悟は決めているのでためらいはなかった。
鈍器による一撃を受けた奴隷商人は脳漿を撒き散らしながら絶命した。
思ったより罪悪感は無いな。
まあ既に日本に居た時から感覚が狂ってるのかもしれないがね。
感慨にふけるのもばかばかしいので、俺はさっさと奴隷商人の懐をまさぐり金、所持品、檻の鍵を強奪する。
さあお待ちかねのケモミミとのご対面だ。
「ちょっと待ってろよ、もう大丈夫だからな」
怯えている二人に優しい言葉をかけながら、俺は檻の鍵を開けてやる。
「鍵は開けたぞ、二人とも出てきな」
すると二人はおずおずと檻から出てきた。
しかしまだ俺に対して警戒心を抱いているようだ。
「そうびくびくすんな、俺はこいつとは違って乱暴には扱わないよ。ほらっ、これでも舐めて落ち着け」
俺は余った分の蜂蜜を二人に与える。
するとお腹が空いていたのか二人は競い合うように蜂蜜を舐め始めた。
あっと言う間に全部平らげてしまうと、やっと信用してくれたのか年上の犬耳美少女が先に口を開いた。
「人族の方、奴隷商人から助けてくれた上に、施しまで頂いて本当にありがとうございました。私達はこの通り、着の身着のままの状態で連れ去られたため、何も返すものはありません。しかし感謝のお気持ちだけは受け取って下さると有り難いです」
「ありがとうなのにゃ、蜂蜜とっても美味しかったのにゃ」
犬耳ちゃんは随分丁寧な口調だな。
もしかして、良いとこの娘なのかもな。
猫耳ちゃんは俺の期待を裏切らないぜ!
正にテンプレ通りの喋り方だ。
おじさんテンションが上がってきちゃったよ。
「気にするな。俺はいたずらに獣人が差別されるのが気に食わんだけだ。証拠に俺は獣人と同じく、人間に標的にされる妖精と友誼を結び共に行動をしている」
そう言って俺はリリを指差す。
「花妖精のリリだよー」
「えっ妖精」
「ほんとにゃ」
二人はリリの姿に釘付けだ。
リリの姿を見て二人は安心した表情で口を開いた。
「妖精は本能でその人物の本質を見抜くと言われています。私はあなた様の言葉を信用します」
「あたしもにゃ」
よしよし、リリのお陰で信用してくれたみたいだ。
これで話しやすくなったぞ。
「そう言ってくれると助かる。自己紹介がまだだったな、俺は秀雄という。しがない旅人だ。良かったら二人の事情を教えてくれないか?」
すると犬耳少女がぽつぽつと語りだした。
「私の名はビアンカ、この子はチカといいます。私達はここから東の亜人たちが暮らす地域で、種族ごとにコミュニティーを形成して生活していました。私は弟と近くの森へ薬草を取りに行っているときに罠に掛けられて捕らえられました。何とか弟は逃がしてあげることができたのは幸いでした。チカは一人で集落の外で遊んでいるところを猫じゃらしのおもちゃに釣られ、それに夢中になっている隙に、網に掛けられたらしいです」
ふたりとも不本意ながらここまで連れてこられたということか。
チカの理由は笑えるが、猫族の性質上仕方が無いのだろうな。
「そうか、それは不運だったな。俺はこれからやらねばならないことがあるので、二人を集落まで送ってはやれない。だが一緒にくれば面倒は見てやれる。どうだい、ついてくるか?」
自分のことで精一杯の今、わざわざ送ってやる義理はない。
それにそんな簡単に二人と別れるのは惜しいしな。
「はい、私は秀雄様のお言葉通り、ご一緒したいです。犬狼族は受けた恩は墓場まで決して忘れません。私は秀雄様に命を支払ってでも返せない恩を頂きました、ぜひともそのご恩をお返しさせて下さい」
「チカも秀雄に付いて行くにゃ。蜂蜜も美味しかったし、お腹いっぱいご飯食べられそうにゃ。それになんか一緒にいると楽しそうニャ気がするにゃ」
犬狼族のビアンカは忠義深く、猫族のチカは少々気まぐれな性格のようだ。
まるで犬、猫そのままだな。
ビアンカは恩を与えれば裏切ることはないだろう。
チカもきまぐれな面はありそうだが、自分に益を与えてくれる人物からは、そうそう離れられないだろう。
それに二人共、阿呆でなければ自分達の立場を理解しているはずだ。
恐らく彼女達が暮らしている地域への帰路は、魔獣の類が出るのだろう。
さらに再び人族に見つかりでもしたら、今回の幸運がパーになる。
その上、装備も食料の無い状態で放り出されても、あっと言う間に野垂れ死ぬのは目に見えているからな。
俺は少なからず、彼女達の打算的な考えも考慮に入れることにした。
その上で、早い内に恩を上乗せて、簡単には俺から離れられない状況を作るつもりだ。
ならばおいそれと離れる事は、簡単にはできなくなるだろう。
もしそれでも離れるというのならそれまでだがな。
「二人の気持ちはよくわかった。だがこれから俺は人族の町へと行く。なので二人には悪いが形式上、俺の奴隷という形を取らせてもらう、そこは我慢して欲しい」
奴隷商人のような者がいることを考えたら、リリも含めて自分の所有権を主張しておかないと面倒になりそうだからな。
「わかりました」
「しょうがにゃいのにゃ」
二人は素直に了承してくれた。
「よしではこれから二人ともよろしくな。あと俺の背中にいる娘はクラリスと言う、仲良くしてやってくれ」
「妾はカルドンヌ家の長女クラリス・ド・カルドンヌじゃ、よろしくなのじゃ」
クラリスは特に獣人に嫌悪感を抱いてはいないようだ。
カルドンヌ家は忠臣と言われるだけあって誠実な家柄だと思える。
差別的な教育は行っていなかったみたいだ。
「みなさんこちらこそ宜しくお願いします」
「チカもよろしくなのにゃ」
女達はあいさつを済ませると、集まって仲よさげに話を始めた。
その間俺は死体の処理をしないとな。
明らかに魔法で殺された形跡を残したら、後で疑われるかもしれないしな。
俺は周囲に人がいないのを確認してから、死体を道脇に一箇所に集める。
そして全員の死体から金目の物を抜き取ってから全力のファイアーボールを、蜂蜜をがぶ飲みしながら数回打ち込んだ。
死体を跡形もなく消し去るために。
中途半端に焼くと臭いが充満しそうなので、高火力で一気にやるのが最善と思えたからだ。
ふう、とりあえずこれで証拠隠滅成功だな。
後始末も済んだことだし、他の人が来る前にさっさと出発しよう。
俺は四人に出発を告げると、ティオンへ向けて再び道を先へと進む。