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第六十三話 ビアンカとチカの実家へ①(地図)

 一週間後、バラキン領の掃討を任せていたナターリャやセルゲイ、エロシン領東部に残したレフに加え、バレスやコンチンなどの重臣が帰還したので、先程論功行賞を執り行った。


 チェルニー家からは爺のベンヤミンが出席した。

 ウラディミーラはチュルノフ家との交渉に出掛けているため、代わりに彼を寄越したそうだ。

 彼らには予定通り千五百石を与えることにした。

 もちろん大喜びである。しかし一度に領地が広がることに対する不安も見え隠れしていたが。

 これも弱小勢力故の悲哀であろう。


 それ以外にもバレス隊、ナターリャ、レフ、セルゲイらバラキン領攻略戦で手柄を挙げた者に加増を行った。

 サーラにも功を認め百石を加増してやろうとしたが、止めておいた。

 彼女に領地経営などできるはずもないし、するつもりもないだろう。

 俺の副官として適度な褒美を与えながら頑張ってもらうことにしよう。


 論功行賞を終えた後の勢力図は以下のような感じである。

 

 挿絵(By みてみん)

 

 当家も随分と成長したものだ。

 つい地図を見ながらにやけてしまう。

 まだこの世界にきて一年も経ってもいないことを考えると、なんか怖くなってきたな。

 しかし、まだ落ち着く時ではないと思う。

 ウラールを統一し、ピアジンスキー家と決着を付けてからも、行けるところまでは行ってやろうと思う。


 さてこれから停戦期間中はウラディミーラからの連絡を待つ以外は、内政や鍛錬以外はすべきことがなくなった。

 この間を生かして、俺はチカの様子を見に忍びの里へ行ってから、チカ、そしてビアンカの故郷へ挨拶に伺うことを計画した。

 先日ふとチカのことを考えてた時に思い立ったのである。

 これまでも何度なく同様の計画は立ててはいたものの、いつ何が起きるか分からない状況だったので、なかなか踏み切ることができなかった。

 もしこの停戦期間を逃せば、しばらく時は巡ってこないかも分からないので、行けるうちに行こうと決断したのだ。


 共に行くメンバーだが、ビアンカにチカは確定として、ついでに蜂蜜を補給するかもしれないのでリリを、あとは留守番は可哀相なのでクラリスも連れて行く。 

 さらに護衛として、バレスの息子のニコライとヒョードルも伴う。

 ニコライとヒョードルは将来の松永家を背負う人材なので、今のうちに様々な経験を積ませるべきだと考えた故である。


 バレスにナターリャにコンチンの三人に加え、マルティナやサーラなどに留守を任せておけば、たとえエロシン家が盟約を破り攻め込んできたとしても跳ね返せるだろう。

 そのため不在時の守りに関しては、まず安心できると考えてよいだろう。


 さてこれから旅支度を整えるとなると、出発は二日後が丁度いいな。

 既に先程の論功行賞で皆にはそのことは伝えてあるので、後は用意をするだけだ。

 

 旅をするのはしばらくぶりだ。なんだか性分にも無くワクワクしてきたぞ。



---



 何事もなく出発の日を迎えた。

 俺達はバレスやナターリャさんに見送られてマツナガグラードを後にする。

 一行はまずは松永領を北東に進み、忍の里へ立ち寄りチカと合流する予定だ。

 そしてアキモフ領を抜け亜人領域へと歩を進め、最寄の猫族の村へと向うことになっている。


 今日はウスリースク村で一泊し、翌日到着する予定だ。

 道中はピアジンスキーの駿馬を使ったことで余裕を持ってウスリースク村へと到着した。

 俺は相変わらず乗馬が苦手なので、クラリスをおぶり、リリを頭に乗せるいつものスタイルで走り抜いた。

 そして翌朝、一行は早朝に村を出て旧クレンコフ領へと入り忍の里を目指す。

 

 直線距離ではそこまで離れていないが、起伏が激しい山道を往くので時間は多めに見積もった。

 しかしそれは杞憂だったようで、馬もばてることなく午後三時前には忍の里へ至った。

 里に入ると、俺の匂いを嗅ぎ付けてやってきたが出迎えてくれた。

 

「久しぶりだニャー! こんな所にくるなんて何かあったのかにゃ?」


 抱きついてくるチカの顎を撫でてやりながら事情を説明した。

 すると、


「父ちゃんに強くなったところを見せてやるのにゃ!」


 と意気込んでいた。


 チカと久しぶりの再会を済ませてから、俺は里の視察を開始する。

 現在里にいる忍びは千代女とお銀の二名だ。

 あとの三人は任務についているためここにはいない。

 

 俺達は二人に案内され里の中を一通り見回ってから、夕飯をご馳走になることにした。

 里の中はお銀の子供達や、領都のスラムにいた獣人の子供たちが、一生懸命に訓練をこなしていた。

 端から見ても訓練はきつそうだったが、スラムで見たときの表情とは異なり生き生きとしていたので一安心だ。

 夕食後はこれまた懐かしい五右衛門風呂で汗を流し、明日からの長旅に備え英気を養う。

 

 そして日を跨いでから、一行は忍の里を出立しアキモフ領方面へと前進し、その日のうちにアキモフ村へとたどり着いた。

 そこでボリスの歓待を受け宿を借りる。

 ボリスは将来バロシュ領に国替えすることを約束されているかめか、夕食時も酒が進み随分と気分が良かった。

 最近領地が増えすぎたこともあるのか、ボリスの浅ましさを受け入れられるだけの余裕も出てきたようだ。

 クレンコフ村の戦いの後の追撃戦で、領地を横取りされたのも懐かしく思えてきた。

 これからは目の前に人参をぶら下げて、上手く操縦して行くにことしよう。

 

 さあ明日は遂にウラール地域を抜け亜人領域に足を踏み入れる。

 少しの興奮を覚えながら、ボリスから譲り受けた地図に目を通し明日に備えて早めに寝ることにした。

 

 翌朝、ボリスに別れを告げ一行はアキモフ領を抜け亜人領域へと進入する。

 本日の目的地は猫族の村である。 

 途中、狸族の領域を突っ切て近道をする予定だ。


 狸族はアキモフ家の食糧や銅と引き換えに、特産品の竹細工や狸釜を仕入れているらしい。

 竹細工や狸釜は部屋の装飾品として富裕層に人気があるようだ。

 アキモフ家としては需要があるため大量に仕入れたいのだが、資金に余裕が無いのと、狸族がそれ程積極的に売りたがらないので、取引量はそれ程多くないようだ。


 狸族に関してはアキモフ家を国替えしてから話し合うことにして、今日は猫族の村へ向うことに集中しよう。

 あまり寄り道をする時間はないからな。 

 猫族の村まではそこまで距離は離れていないので、少々急げば今日中にたどり着けそうである。

 

 そのため、一行は少し速度を上げて前進する。

 道中感じたことなのだが、チカの身のこなしが随分と滑らかになっている。

 短期間の特訓でも随分と変わるものなのだな。

 彼女も相当本気で訓練していたようなので、潜在能力の高さがそのまま結果に繋がったのだろう。

 

 チカのレベルアップした姿を目に焼きつけ、再び獣道を偉くした程度の細道を前進する。

 馬がなんとか通れる程度には開けているので助かった。

 昼食は小川が流れていたのでそこで取った。

 その後はゴブリンなど知能の低い雑魚魔獣に出会った程度で、大事もなく順調に進むことができた。

 まあこの集団に挑んでくる、知能ある魔獣は居なかったということだろう。

 ユニコーンのベルンハルトちゃんですら尻尾を振った程だから、この辺りの中途半端な魔獣では近寄るはずもないか。

 

 その結果予定通りに夕刻には猫族の村近くへと到着した。


「ここの木を右に曲がれば小川にぶつかるにゃ。そしたら村が見えるニャ!」


 どこかで聞いたような台詞をチカが言ったかと思ったら、俺達の案内を放棄して駆け出して行った。

 これもいつか見た光景だな。

 やれやれ、幸い一度訪れているので道は知っている、ゆっくりと追いかけるとするか。


 ゆるりとチカの足跡を辿り村の入口へと向う。

 そこにはチカが手を振っており、その後ろではチャレスら村の住民が総出で迎えてくれていた。

 感動なんかしてないんだからな。

 

「秀雄ー、早くこっちにくるにゃー!」


 チカが急すので少し駆け足になる。

 そして村の入口に到着すると早速チャレスが、


「久しぶりだな秀雄! チカと結婚したらしいじゃないか! ハハハこれはめでたい。その上この短期間でウラールで名を上げているとはさらに驚きだ! 流石はわしが見込んだ男よ」


 と挨拶代わりに背中をバシバシ叩きながら言ってきた。

 そしてチャレスの横でチッチが達観した面持ちで頭を下げてきた。

 チカがさらには嫁に行ったので発狂するのではないか、と思ったがそうでもないようで安心した。 

 一時期より精神状態は落ち着いたようだ。


「こちらこそ久しぶりです。チャレスさんから頂いた籠手のおかげで、敵将の一撃を防ぐことができました。また、これまで色々と立て込んでいたため、結婚のご挨拶が遅れたことをお詫びいたします」

「気にするな。こうして再び顔を出してくれただけでも有り難いことだ。長旅の所で立ち話しは疲れるだろう。ささ、早く我が家にきてくつろぐがいい。今から宴会の準備を始めるからそれまで、酒でも飲みながら待っててくれ」


 いきなり酒かよと思ったが、ここは義父であるチャレスに逆らえるはずもなく、言われるがままに彼の家へと連れて行かれた。 

 

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