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第五十九話 チェルニー家との会談

 案内されたのは応接室だろうか、領主の館にある部屋の中でも上等な部類に入る所だ。

 

「こちらです」

「ああ、開けてくれ」


 さあチェルニー家の当主にご対面といこう。

 レフがガチャリと扉を開くと、中には男二人に女が一人の計三人が俺を待ち構えていた。


「皆さんがチェルニー家の方々だろうか。俺は松永家当主、松永秀雄である。この度は当家に援軍を送っていただいて心より感謝をしている。この場を借りて礼を言わせて欲しい」


 俺は誠意を持って三人に頭を下げた。

 するとチェルニー家の面々も立ち上がり、


「私はチェルニー家当主ウラディミーラといいます。この度は松永家のお陰で、長年苦しめられてきたバラキン家を討伐することができました。こちらこそ礼を言わせてください」


 と口上を述べてから、真ん中の女性が頭を下げてきた。

 

 その女性、年は二十代半ばを過ぎた辺りだろうか、肌はこの地方には珍しく白みがかってはいない。

 どちらかと言うと中央アジア系のような顔立ちであろうか。

 堀が深く美人系である。

 大人の色香がムンムンである。

 

「随分と謙遜するじゃないか、そう畏まらなくても約束は守るから安心してくれ」


 チェルニー家にはバラキンの三割は割譲するという条件で、援軍にきてもらっている。

 勿論気前良く差し上げるつもりだ。

 ここで約束を反故にでもしたら、今後松永家に協力してくれる勢力は現れなくなるかもしれないからな。


「感謝致します。実際に言質をいただいて安堵しました」


 ウラディミーラも内心不安だったに違いない。

 俺の言葉を聞いて、少しは表情の固さがとれたような感じがする。

 しかしまだスッキリしていない感じがするな。


「俺は約束は守るから安心してくれ。今後とも貴家とは良い関係を築きたいからな」


 チェルニー家は兵の数は少ないものの、質は高いようだからな。

 それにチュルノフ家にも話を通して欲しいから、厚遇するのは当然だろう。


「松永様、それは我々と正式に同盟関係になるということでしょうか?」

「ああ、俺はそのつもりだが。ウラールにはピアジンスキー家が手を伸ばしてきているから、一致団結する必要はあるだろう」


 その原因は松永家にあるということは黙っておくとしよう。


「はい、我々も松永家との同盟は願うところです。正直、親縁のチュルノフ家だけは心許なかったのが本音です。私が人質になっても構いませんので、ぜひ当家をよろしくお願いします」

 

 チェルニー家はこれまでエロシン家からの攻撃を受けてきた歴史がある。

 これが今は松永家に取って代わったことになるだけだ。 

 ならば今のうちに同盟を結んで、安全を確保しておきたいを思うのは当然だろうな。


「当主が軽々しく人質などと発言しない方がいい。確かにあなたは魅力的な女性だが、その発言は松永家に実質吸収されること意味するのだぞ」


 彼女のようなタイプは松永家の女性陣にはいないな。

 機会があればぜひお願いしたいと言いたいところだが、外交上そう簡単に関係を持つわけにもいかないだろう。


「いっ、今私が魅力的っておっしゃいましたね? チェルニー家の者はこの肌の色と顔立ちから、ウラール近辺では穢れた者として周囲に認識されております。そのため血族のチェルノフ家以外の他家は相手をしてくれないのです。お陰でこの年になっても引き取り手が見つからず、困ってたんですよ! 松永様、私が魅力的ならお側に置いてくださいませんか? それが嫌なら子種を頂けるだけでも構いません! どうかお願いします」


 おっとなんだこの急展開は。

 ウラディミールさんがいきなりカッと目を見開いて、俺をロックオンしてきたぞ。

 出会って数分しか経っていないのに、いきなりすぎるじゃないか。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。取り合えず事情を聞かないと判断ができない。ここは一つ落ち着こうじゃないか」


 俺は興奮した子供を諭すように話し掛ける。

 

「いいえっ、この機会を逃してはっ――」

「姫様!」


 暴走気味のウラディミーラを見かねて、家臣の男性が割って入ってきた。


「じっ爺……、またやってしまったな。驚かせてすみません。私はこの手の話になると興奮して、つい我を忘れてしまうことがあるのです」


 彼女がバツが悪そうな感じで侘びを入れてきた。

 いろいろと拗らせると女でも大変なんだな。 

 

「そうか、その気持ちは解らないでもないが、何故そこまで必死になるんだ。あなたなら一族内でも良縁がありそうだが」


 彼女程の美貌の持ち主なら同じ民族内ならば、さぞかしもてるだろうと思い、率直な意見を述べた。

 すると彼女は俯き気味になり、ポツポツと語り始める。


「実はチュルノフ家も含む一族内ではしきたりにより、長年にわたる近親婚を繰り返してきました。そのため、ここ何代か前から子ができにくくなっているのです。また子ができたとしても、何らかの障害を抱えており早世する場合も幾度か見られるようになりました。そのため、従来の考えを改めどうにかして他家の血を入れようと苦心してはいるのですが、我らは穢れた民族故なかなか相手も見つからずに悩んでいるのです」


 なるほど、スペイン・ハプスブルク家も結婚に制約があり、近親婚を繰り返したことで断絶したという話もある位だから、根の深い問題なのだろうな。

 ウラールで全く彼女達に差別意識がないのはクレンコフ家にアキモフ家、次点でロマノフ家といったところか。

 どれもチェルニー家とは距離が離れており、婚姻するメリットも少なかったからこれまで接点がなかったのだろう。

 チェルニー家は不運だったんだな。

 周辺勢力から受け入れられなかったことは、さぞかし大変だっただろう。

 その気持ちは俺でも察することができる。


「そうだったのか。なぜ女性が当主になっているのかと、疑問に思っていたんだ。今の話を聞いて合点がいったよ」

「ならば、私に子種を下さるのですか!?」

「そうだな、そのような事情があるのなら無下に断る訳にもいくまい。前向きに考えてもいい」

「では早速今夜にでも!」


 ウラディミーラはやる気十分のようだ。

 もう少し情緒というものがあるだろう。

 しかしここまで切羽詰ると、必死になるのかもしれないな。


「そう焦るな。まだ知り合ったばかりなのだから、これから信頼関係を高めてからでも遅くはない。だが女性にも年齢的な問題があるのも確かだ。そこで俺から提案なのだが、あなたをしばらく客将として預かるというのはどうだろうか。いきなり人質というのも気が引ける。客将であればこちらも快く受け入れられるというものだ」


 これならば、お互いの信頼関係を深めていけば自然にムフフな関係になれるだろうしな。

 

「ええ、もちろんそれで構いません! 松永様のお心遣い、心より感謝致します。当家のことも立てていただき、私は感激しました。ぜひこれからは松永家の将として働きたいと思います。我が一族は固有の能力を持っておりますので、戦場では少しは役に立てる自信はあります。ぜひ重用ください」

 

 ほう、固有の能力か、それは楽しみだな。

 チェルニー家は森でのゲリラ戦を得意とするらしいから、その絡みの能力なのだろう。

 後で詳しく聞いてみることにしよう。


「いきなり決めてしまったが、あなたがそれで納得しているのなら俺は受け入れよう。しかし少し考える時間を置いたほうがいい。一目惚れしたが、一日置いたら熱が冷めたということはよく聞く話だからな。それに領地の分配も考えなければいけないので、俺の側にくるのは少し先のほうがいいだろう」


 ウラディミーラは家のために早く俺の所にきたそうな感じは見られた。

 

「姫様それがようございます。焦りすぎては松永様に嫌われてしまいますぞ」

「そういうものなのか……。爺が言うならそうよう」


 しかし爺が上手く取り成してくれたことで、彼女も一応は納得したようである。

 

 俺としてもいきなり押しかけられては困る。

 嫁達の合意を取り付けないと、一夫多妻制はやっていけないのだ。

 既に後ろで氷の視線を送っているマルティナが怖い。

 はぁ、今日は眠れそうにないな。

  

なんかハーレム要因が急増ですね。

なるべく自重するつもりではいるのですが、つい書かずにはいられなかったんです。


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