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第六話 決意表明と盗賊退治① 

 布団の中に入ってようやく人心地がついた。

 ここで一度この世界を整理しよう。


 まず時間だが、アンドレに聞いたら一日二十四時間だと判明した。

 故郷の時間表記と違う、という切り口から自然に話を持っていったのだ。


 次にこの世界の文明レベルは中世のヨーロッパ程度のようだ。

 ただ魔法により一部の分野で地球とは明らかに異なる文明体系をしており、生活水準は飢えなく食べていけるレベルではある。


 政治情勢はミラ、レナ、ローズの三公国を中心として、東にローザンヌ王国に異民族領域、北西にポルタンテ王国とこれまた異民族領域、南は小国が数多く存在し、北はノースライト帝国が位置している。

 アンドレ曰く三公国は南以外からは常に侵略を受けてきたが、どうにか手を組みはね返してきたらしい。

 だが最近ローザンヌの内戦に加え、ローザンヌ王国のさらに彼方東に位置する中央平原の大国が勢力を拡大しており、近隣の力関係が変わってきているらしい。


 あと魔法の力は強大だと言うことが判明した。

 アンドレ曰く一人の魔力の扱いに長けたものは、兵士五十に比すると言われているらしい。

 さらに記録上では一人で壱千の軍を相手にして、それを全滅させた猛者をいたらしい。


これはひょっとして、魔力を扱える俺にも成り上がれるチャンスがあるのではないか。

  

 日本で理不尽を受けていた身から考えたら、今の俺の置かれている状況は天国じゃないか。

 己の及ばぬ力で負け組が確定していた日本とは違い、力で理不尽な扱いもはね退けられる可能性があるだけで、この世界の方が公平だ。


 俺はふつふつと血の滾りを感じた。

 それは今まで生まれてこの方、感じたことのない感覚だった。

 それは純粋に、この世界で何が何でも一旗揚げて美味しい思いをしてやろう、というハングリー精神の発露に他ならなかった。

 同時にこれまでの人生で鬱積されてきた何かが、スーっと体から抜けていった。

 それは若者特有のやり場のない閉塞感からの決別に他ならない。

 その上、俺はある種の優越感、いや万能感すら覚えたのだ。


 あえて触れると、たとえ俺が魔法を使えなかったとしても、その思いは持っただろう。

 例えば、高校レベルの数学の知識や、経済学、政治学などを知っているだけで、その人材は引く手数多だろう。

 それを切欠に重要な地位を占められれば、それだけでいい生活ができそうである。 

 現代知識だけでも、このように明るい未来が想像できるのだから、さらに魔法が使える俺は想像がつかない程の可能性を秘めていると考えるのも当然だろう。


「せっかく異世界に来たのだから、一度きりの人生悔いなく生き抜いてやろう」


 俺は間近に死を感じられるこの世界に来たことで生存本能が刺激されたのか、自分でも驚くほどの気持ちの高ぶりを噛み締めながら目を閉じた。

  


--- 


 

 翌日、ありがたいことにシーラさんは朝食までご馳走してくれた上に、弁当まで用意してくれた。

 お礼にリリ特製の蜂蜜をプレゼントしてやったところ、蜂蜜は大層高価な物のようでいたく喜んでくれた。

 

 俺は本格的に情報を収集するため、公都ミラリオンへ向うことに決めていた。

 リリが衆目に晒されるという難点はあるが、それよりも新鮮な情報を求めることを選んだ。

 クラリスを守るには周辺の情勢はしっかり頭に入れておかねばならないからだ。

  

 アンドレが言うには、この村から公都ミラリオンまでは、西に進む事徒歩で二日の道のりとのことなので、今日は途中のティオンという町まで進むことにした。

 

 出発前に村の商店で数着の衣服一式と雑貨類、それに数日分の食料を買い込んだ。

 そしてピーターの服とはおさらばし、それ以外をリリの袋につめこんだ。


 金は二人の騎士から頂戴した分と、クラリスの持っていた分を預かったので、かなりの大金を所持している。

 その額は金貨百枚強だ。

 この村の生活水準と商店での値段から価値を推測すると、金貨一枚が十万円、小金貨一枚が一万円、銀貨が千円、銅貨が百円、銭貨が十円といった具合だろう。


 つまり俺は日本円で一千万円以上の大金を持っているわけだ。

 ちょっとした小金持ちだな。

 しかし収入源の無い今は無駄遣いをする訳にはいかない。


 ところで、今は何時だろう。

 一通り準備を終え、俺は時刻設定を直した腕時計に目をやる。

 えー、今は朝七時を過ぎたところか。

 早く着くに越したことはないのでそろそろ出発しよう。


「リリ、クラリスそろそろ行くぞ。 そして二人には本当に世話になった、この恩は決して忘れません」


 俺はアンドレとローザさんに礼を述べてから村を後にし、目的地のティオンへ向けて出発したのだった。

 

 村を出て数時間経過したが、ティオンまでの道中は至って順調だ。

 昨日と同じく魔力を廻らせながらクラリスをおぶり、そしてリリを頭に乗せながら進んでいる。

 少々早歩きにして速度を速めての移動だ。

 その甲斐あって、まだ昼前だというのに行程の六割近くを踏破してしまった。

 このペースなら二時くらいにはティオンに着きそうだ。

 

 しかしここで油断する訳にはいかない。

 この先は林を通り抜けなければならない。

 林の中は道幅も狭くなり周囲からも目立たないため、盗賊の荒し場になっているとアンドレが言っていたのだ。

 

 もしその話が事実なら、金髪超絶美幼女に妖精連れの俺達は確実に狙われるだろう。

 だがここで日和って、迂回をしては負けのような気がする。

 ここは一計までいかないが、頭を使い林の中を全力疾走で駆け抜けることにした。

 俺の全速力は時速五十キロメートル近くは出る。

 そのような高速で移動すれば、さすがに盗賊も襲う暇もないと考えたのだ。

 林は三キロメートル程なので、魔力が尽きる前に余裕で抜けられるだろう。


 よし盗賊対策はこれでいこう。

 その前に腹も空いたし、弁当を食うとするか。



--- 



 三人で楽しく昼食を取ってから再び歩を進め、今俺たちは林の入口にいる。

 林の大きさは俺が最初に飛ばされた森に比べると全く小さいが、盗賊が隠れて悪さをするには十分な大きさがあると思う。

 

「さあ、ここからは全力で飛ばすからな。しっかり掴まってろよ」


「おー」

「了解なのじゃ」


 リリは問題ないとして、クラリスは心配なので紐で縛り、落ちないように対処をしておいた。 


「よし、行くぞ!」


 俺は思い切り魔力を集中して全力で駆け出した。


「おおー」

「……」


 リリはこの程度の速さは自分でも出せるため、なんとも感じてないようだ。

 一方クラリスは怖いのだろう、俺の肩に必死になってしがみついている。


 そして気づいた事がある。

 昨日より全力疾走の継続可能時間が、僅かだが延びているようなのだ。

 これまでは一分で全魔力量の約二割が削られてたのだが、ほんの少しだがその量が少なくなったのだ。

 

 これは嬉しい誤算だ。

 たった一日で鍛錬の成果が表れたからである。

 これから毎日鍛錬を続ければ、『ちりも積もれば山になる』でかなりの魔力量に成長することができるだろう。

 

 気を良くし少し顔は緩みながらも、まだ林の中なので油断はせずに俺は走り続ける。


 既に二キロメートル以上を走り抜け、そろそろ出口が見えてこようとしていた。

 しかしそのとき、俺の目に誰かが盗賊に襲われている光景が映った。

 戦況は明らかに盗賊が有利だ。


 よし、素通りしよう。

 

 盗賊の戦力が分からない今、助けてやる義理も無い。

 悪いが、俺はこれからあなた達の横を通過しまーす。


「リリ、通り際に一発くれてやれ」


 ただし、俺の寝就きを良くするための免罪符くらいは買うとしよう。

 あとは知らんよ、本当に。


「退け退けどけーい」


 俺は全力で盗賊と襲われている商人らしき一団の脇を通り過ぎようとした。

 すれ違いざまにリリのウインドカッターが一人の盗賊の首を切り落とした。

 だがそれだけだ。

 後は頑張ってくれ。


「うわぁお、グロ」

 

 俺は初めてみる人の死に際にたじろいだが、こんな事でびびっている訳にはいかないと活を入れた。

 そしてそのまま速度を緩めずに通り過ぎようとしたが、…………事情が変わった。


 檻の中に猫耳と犬耳の美少女が、肩を抱き寄せながら震えていたからである。

 

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