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第五十六話 バラキン領攻略戦 ⑤

 よし、まず集中攻撃を受けているサーラを助けることにしよう。

 彼女は敵騎兵にとっては格好の大将首なのだろう。

 先程から四騎がかりで彼女を囲み、どうにか打ち負かそうとしている。

 

「こないでくださいぃー!」


 サーラは俺に敵の目が向いた時間を用いて、アースウォールという魔法と使い、自身の周りに土壁を作り敵の攻撃を喰らわないようにした。


「秀雄様ー! 援護はするので、後はお願いしますぅ」


 自分の安全を確保できたので、少しは落ち着くことができたのか、彼女は涙を拭いながら俺に騎兵の処理を丸投げしてきた。

 彼女の実力からしたら、この程度の敵ならば普通に対処できるはずである。

 しかし戦場に出るのは今回が初めてだというので、大目に見てやることにした。


「ったく、今回だけだぞ! 次からはちゃんと働いてもらうからな!」


 サーラは曲がりなりにも俺の副官なので、兵の手前、厳しめの叱責を飛ばすことにした。


「ごっごめんなさいぃ、だっていきなり敵が私のこと狙ってくるんですよぉ。でもこれからはちゃんとやりますから、許してくださいぃ!」


 また処罰されるとでも思ったのだろうか、彼女は俺の言葉を受け、半べそで魔法を放つため魔力を集中し始めた。

 

 そして俺は彼女の援護を少し期待しつつ、サーラを取り囲む兵へ突撃する。

 まず狙うは馬からだ。

 敵騎兵が振り下ろす斬撃を軽くいなしてから、馬の横っ面を目掛けて拳を打ち込む。


 その一撃は馬に嘶く間も与えずに、頭蓋骨を粉砕し脳漿を撒き散らした。

 そのまま馬は崩れ落ち、馬上の兵も放り出される。 

 

「えーい、『ストーンハンマー!』」


 その瞬間、サーラが地面に投げ出された兵士の頭上に岩を落とし、首から上を押し潰した。

 俺が前で敵を引きつけているため、彼女にも幾分余裕が出てきたようである。 


「いいぞ、この調子で頼む」

「はい!」


 周囲が土で囲まれているので彼女の表情は見えないが、声色は先程より張っている。

 サーラからは銃眼のような小さな穴が開いているので、視界を確保することはできている。

 

 これなら大丈夫だなと思い、俺は先程と同じく残りの三騎に対して殴りこみをかける。

 

 再び懐へ入り込んでは、馬の頭を次々とぶん殴ることを繰り返す。

 そして後ろから落とされる大岩で、兵の頭を押し潰す。

 これを繰り返すことで、サーラの適切な援護もあり、特に苦戦することもなく全滅させることに成功した。 


 さて周りの様子はどうなっているだろう。

 そう思いぐるりと見回してみると、兵達も俺の指示に従い訓練のときのように、五人一組で騎兵に当たっている。

 そのため敵騎兵も攻めあぐねているようだ。

 

「サーラ! 隠れてないでいい加減に出て来い! これから兵達に加勢するぞ!」

「はいぃ、わかりましたぁ」


 騎兵を倒し自信をつけたのか、案外落ち着いている彼女を連れ、味方の支援へと向う。

 一度に五人の兵を相手にして手一杯になっている、騎兵に向けて炎の矢を放つ。

 威力は弱めでスピード重視だ。

 なぜなら馬上から落とせれば、後は味方がなんとかするだろう。

 また俺が手柄を独占しても意味が無いので、兵達にも少しは気を使っておいたこともある。


「見たか。今の感じで岩弾を撃て」

「はい、こんな感じですかぁ?」


 バシュッ! バシュッ! ……ドン! ドカ!


 そうそう、やればできるじゃないか。

 サーラはババンと岩弾を飛ばして、一気に二騎を馬上から落っことした。

 ははは、この娘は飲み込みはいいんだよな。

 メンタル面を鍛えれば、かなりの戦力になりそうである。

 しばらくナターリャさんに預けるかな。

  

「そうそう、その調子だ。やればできるんだから、もっと自信を持て」

「はい、頑張ってみますぅ」

 

 それからは、二人でバシバシと敵騎兵を魔法で狙い撃ちをした。

 十分程で敵の半数、即ち二十騎は無力化することができた。

 

 さすがに分が悪いと思ったのだろう。

 敵は馬防柵の敷かれていない、バラキン領内へと引いていった。

 奇襲に失敗したので、恐らく山中を迂回して退却するのだろう。

 

「ふー、なんとか凌げたな。しかしこっちも結構な被害が出たな」


 辺りには騎馬や敵兵士の死体が転がっている一方で、味方の兵もそれ以上の被害を出してしまった。

 これ程の陣を構築したにもかかわらずなのにだ。

 悔しいがピアジンスキー家の評価を上方修正しなければならないな。


「はいぃ、私も殺されるかと思いましたぁ」

「それは災難だったな。サーラも敵に囲まれながらもよく頑張ったな」


 さっきまで厳しいことばかり言っていたので、少しは褒めてやることにした。

 ついでに耳もなでてやろう。


 さわさわ、わさわさ。


「ひゃっひゃう! いきなりどうしたんですかぁ」


 サーラは突然のことに驚いたのか、体をびくびくっと震わせた。

 うむ、いい反応をするな。


「いや、俺の生まれた地では、女性を褒めるときには耳を撫でる習慣があるんだ。今はそれを実践したまでだよ」


 適当に言い訳しておけば問題ないだろう。


「そっ、そうなんでひゅかぁ……、ひゃう」


 なんだか嫌がってはいないようだな。

 もう少し攻めたいところだか、リリも気になる。

 ここは口惜しいが今後の楽しみにとっておくとしよう。


「ああそういうことだ。さてここは片付いたが、正面にいるリリの様子が心配だ。俺はこれから再び前線へと赴く」


 ぱっと、サーラの耳から手を離し、踵を返して先程きた方向へと走り出す。


「私もいきますぅー、待ってくださいー」


 また一人にされるのが怖かったのか、サーラは時速三十キロ程の速度で走っている俺の背中を、引き離されることなく追いかけてきた。



---

 

 

 さあ最前線はどのようになっているのだろうか。

 ゴロフキンは両腕を破壊しておいたので、リリがいれば恐らく問題ないだろう。

 突撃してくる騎兵もマヒ毒霧によりほぼ無力化されている状態だったはずだ。


 なので、余程のことがない限り、戦況が悪化することはないだろうと思い、半ば安心して前線へと舞い戻った。

 すると様子がおかしい。


 目を凝らして見ると、リリと戦っている奴がいた。 

 まだ隠し玉が居やがったのかと思い目を凝らすと、そいつは白馬に跨った女だった。

 しかもその白馬には一本角が生えている。

 もう驚かないぜ、ユニコーンだろ。


 ユニコーンはAマイナスランクの魔獣だ。

 なので、それに跨っているということは余程の実力者が、清純な乙女かのどちらかだ。

 前者だとするとリリが危ない……かもしれない。

 念のため助太刀にいくとしよう。

 

 ギアを上げてリリの下へと近づく。

 すると女騎士の周りを飛び回りながらトゲを放ち、馬ごとグサグサと突き刺しているリリの姿が見えた。


「あっヒデオー、おかえりー!」


 リリがこちらを向いて手を振ってきた。

 やっぱり余裕だよな。だってSランクだもの。


「おーい、危ないから集中しなさーい!」


 一応注意はしてはいるが、リリは俺に言葉を送っているあいだも、女騎士の振り回す剣戟をひょいひょいとかわしている。


「だいじょーぶだよー、だってこの人弱いんだもーん!」


 そして隙をついてはトゲを放ち、グサグサと突き刺す。

 既に女騎士は血だらけである。

 しかしゴロフキンも持っていた薬を飲み、致命傷は免れているようである。


「それじゃー殺さないで捕まえなさーい!」

「りょーかーい!」


 するとリリは蔦を編みこんだような網を出し、女騎士を捕まえようとする。

 しかし彼女もこれはまずいと方向転換し、退却を開始する。


「リリー、先に馬を殺せー! そうすれば簡単に捕まえられるぞー!」


 俺は遠くから指示を出す。


 するとリリは魔力を集中し強めの魔法をユニコーンに放とうとする。

 しかしリリが魔法を放つ前に、危険を察知したユニコーンがその場に座り込みリリに頭を垂らした。

 なんと先にユニコーンが降伏してきたのである。

 これもSランクたる魔獣の凄みなのだろうか。


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