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第五十五話 バラキン領攻略戦 ④

 こいつは強敵だ。

 俺はこのおっさんを見た瞬間に分かった。

 バレスやチャレスには劣るが、それに似たような雰囲気を纏っていやがる。


 ここは俺がどうにかしないとまずい。

 リリや兵士には、マヒ霧をくぐり抜けてくる敵を、叩いてもらわねばならないからだ。

 くそ、適当にいなすつもりが、おっさんのせいでガチで遣り合わなければならなくなっちまった。


「面妖な技を使いおって、正々堂々と勝負せんか! わしの刀の錆びとなれぃ!」


 いきなりおっさんが名乗りもせずに、馬上から斬りかかってきた。


 いやなこった。

 俺は魔力を全力で込めてバックステップをし距離を取る。

 そしてファイアーウォールを使い防御を整える。

 以前より腕が上がったため、高出力の炎の壁だ。

 普通の人間ならばすぐに燃え尽きる。

 

「うぬぬ、小癪な。お主名をなんと言う。私はピアジンスキー家四将が一人、マリオ=ゴロフキンと申す。先の体捌きに魔法の腕、相当な強者と見受けるぞ」


 いきなり四天王さんのお出ましかよ。

 こんなのがあと三人もいるかと思うと嫌になってくるな。 


「俺は松永秀雄だ。お前もジジイの割には耄碌していないようだな。その雰囲気バレスには劣るが中々のもんだ」


 なんか偉そうだったから、こっちも言い返しておかないとね。


「ほう、そなたが松永か。随分と勢いのある小僧と聞いたが、なるほどな。エロシンを撃破したのも偶然ではないようだ」


 なんか俺のこと買ってくれているみたいだな。

 まあそれもそうだな。

 超弱小勢力のクレンコフ家を率いてこの短期間で、ウラールに覇を唱えているのだから。

 客観的にみても、警戒しないほうがおかしいわな。


「ピアジンスキーの四天王様にそういってもらえるとは有り難いねえ。そんなに俺を買ってくれるのなら、ここは退いて欲しいんだがな」


 俺はせせら笑いながら、無理な相談をする。


「ふん、それができたらここには来ないわ。いい加減おしゃべりも終わりにするぞ!」


 お前がしゃべってきたんだろと思いながらも、俺はファイアーサテライトを用意する。

 

「だまれジジイ。これでも喰らいな」


 安全地帯から放つ魔法はこの上なく気分がいい。

 チャレスと戦ってから魔力もかなり伸びているので、以前は五発が限界だったファイアーサテライトの数も今では八発まで増やすことが可能になった。

 ゴロフキンも流石にこの数の火球は見たことがないのだろう。

 多少面食らったようではあったが、せまる火球に備えて防御体勢を作る。

 

 馬鹿が。

 正直におっさんを狙うと思ったら大間違えだ。

 俺は愛馬のバイコーン目掛けて全弾を射出する。

 卑怯と思われようが知ったことではない。

 勝てば官軍なのである。


 バイコーンはBプラスランクの魔獣である。

 つまり地竜より格下ということだ。

 普通に考えたら馬が竜に勝てる訳はないな。

 あのとき地竜ですら魔法抜きで倒せそうだったのだから、今の俺からしてみればはっきり言って雑魚である。

 バイコーンは猛スピードで襲い掛かる、八発の火球を避けきることができずに二発を被弾してしまう。 

 一発は右前足を吹き飛ばし、もう一発は腹を抉り取った。

 これは上級の回復魔法でも掛けない限り助からないだろう。


 バイコーンは足を失いバランスを崩し、跨っているゴロフキンを投げ出す形となる。

 卑怯といわれようが、これは大チャンスだ。

 俺は地面で体制を崩しているおっさんに向けて炎の矢を連発する。

 この魔法は威力はファイアーボールに劣るが、チャージも短く速度も早い、


 バイコーンを従えるということは、少なくともAマイナス以上の実力はあるはずだ。

 ここは下手に避けられるよりも、確実に当ててダメージを与えることを選択したのである。

 

 それが功を奏したのか、三発放ったうちの一発がゴロフキンの左肩に命中した。

 しかしゴロフキンは痛みを堪えて立ち上がると、こちらを睨み付ける。

 そしてにやりと笑うと、突然何かを袋から取り出すと、それを飲み込んだ。

 するとおっさんの傷がたちまち治る。


 ずるい……。


「くぅ、私の可愛いゴンザレスちゃんを! よくもやってくれたな! 馬を狙うとはなんたる卑怯者だ。絶対に許さんからな!」


 ゴロフキンは怒り心頭のようである。

 うるさいジジイ。こっちも必死なんだよ。


「うるせえよ。戦に卑怯もクソもあるか!」

「生意気なガキがぁ! これは教皇様から受け賜った希少な秘薬だが……、使わざるを得まい」


 ゴロフキンは再び腰袋から丸薬を取り出し口に放り込む。

 するとおっさんの雰囲気が変わった。

 すると炎の壁に臆することなく、一直線に突っ込んできたのだ。


 無謀かと思った突撃だったが、ゴロフキンは多少の火傷で炎の壁を突き抜けてきた。

 秘薬の効果なのだろうか。

 そして得意の接近戦に持ち込むと、渾身の一振りを上段から降ろしてくる。

 

 ガァキィイン!


 俺はチャレスから貰った籠手でおっさんの一撃を受け止める。

 もちろん籠手をつけた右手の下には左手を添えてある。

 そうしないと腕ごと持っていかれる恐れがあるからだ。


 やはり力は強い、しかしマヒ霧の影響か全力を出せていないようである。

 これは好機だ。この隙を見逃さずに攻撃を仕掛けようと自然に体が動く。

 俺はゴロフキンの剣を持つ腕を掴むと、それを支えにしながら飛び上がり腕ひしぎ十字固めに持ち込む。

 所謂飛び関節である。

 恐らく受けたことのない技なのだろう。

 特に抵抗されることもなく簡単に腕を極めることができた。

 

 俺は全力で腕を折りに掛かる。

 おっさんもまずいと思ったのか、必死で俺の足に噛み付いてくるが、極めた腕を放すわけにはいかない。


 ゴキィ!


 骨が折れた音と共に、腕がありえない方向に曲がる。

 俺は間接技を解き、立ち上がると反対の腕も極めにかかる。

 ゴロフキンは片腕を使えないため、楽にもう一本の腕も極めることができた。

 そして、


 グキィ!


 と容赦なくへし折ってやった。

 しかしゴロフキンは苦悶の表情を浮かべながらも、なんとか立ち上がろうとする。

 

「逃がすかよ!」


 俺は上体を起こしたおっさんの後頭部にサッカーボールキックをお見舞いした。


「グヘボッ!」


 すると訳の分からない言葉を発しながら、ゴロフキンは再びうずくまる。

 俺はこのまま倒れこむおっさんに、蹴る殴るの連発を加えようとした。

 

 しかしそのとき、後方で異変が起こる。

 ドドドドドという蹄音と共に四十騎程の集団が崖の上の弓兵を蹴散らし、急斜面を下り松永軍の側面を突いてきたのだ。

 

 くそっ、義経じゃあるまいし、なんて奴らだ。

 逆落としなどは所詮作り話だと思っていたが……、しかし現実に起きているのだから仕方が無い。

 ゴロフキンは諦めて後方をなんとかしないとまずいな。

 

 後ろではサーラが何とか対応しているようだが、統率力が足りないため、混乱を収めることはできていない。

 ここは俺かリリが後方へ向い対応しないと被害が広がりかねない。

 リリには突撃してくる兵の対応を願いたいので、ここは俺が行くとしよう。

 

「俺はサーラとビアンカの援護をするから、ここは任せたぞ!」

「うん! 任せといて!」


 俺はゴロフキンの腰袋をもぎ取ってから、前線をリリ託し、全速力で後方へと向う。

 堀の脇に作ってある、細い通路を抜けて後方へと移動する。

 一分程全力で走ったところで、とうやく後方へ到着した。


 するとそこではサーラが孤軍奮闘しているものの、地力で劣る他の兵達は押され気味であった。


「よく頑張った! もう大丈夫だぞ!」

「ふぇぇ、怖かったですぅ。いきなり敵が降りてきたんですぅ」


 サーラが半泣きになりながらも、岩弾をバシバシと放ち騎兵を近づけさせていない。

 むしろ何発かは命中し落馬させている。

 流石は実力者だけあり、泣き顔とは裏腹に仕事はしっかりこなしているようだ。


「お前ら! この程度の雑魚にびびってるんじゃねえ! 教えたとおり、強敵には五人一組になって立ち向かえ! そうすればどうということはない!」

 

 俺は混乱し恐慌状態になりかけている味方に一喝入れる。

 兵達も俺が助太刀にきたことが分かったのか、多少は気を持ち直したようである。 

 そして徐々に鍛錬で教えられたことを思い出し、五人一組で槍衾を組み始めた。


 うん、これなら一方的にやられることはないな。

 これなら味方のお守りをせずに、散開している敵騎兵を各個撃破することができる。

 敵は己の力を過信し、一騎で複数人を相手にしている。

 旧エロシン家の弱兵のつもりで相手をしているのだろう。

  

 調子に乗っている騎兵共に痛い目見せてやらないとな。

 松永は一味も二味も違うと。

 

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