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第五十四話 バラキン領攻略戦 ③

 街道を少し奥へ入ると丁度良い場所が見つかった。

 そこは側面が急斜面に挟まれている隘路で、一度に大軍が通過することは困難である。

 せいぜい騎馬五頭分程度の道幅しかない。


「最高の場所が見つかったな。ここに陣を敷くことにしよう」


 ただし、前方には四百の兵達が待機している。

 早急にこちらへ呼び寄せないと、堀や土塁を造ることができない。


「リリ、ビアンカに食事が終わり次第すぐに全軍をこちらへ向わせるように伝えてくれ」

「おっけー! じゃー行ってくるねー!」


 リリは昼食のパンを口にくわえながら、キューンと飛び立っていった。 

  

「さてサーラ、いよいよ出番という訳だ。兵達がこちらへきたらお前の魔法で土を掘り起こし、その土を固めて土塁を築いてくれ」


 俺はこのために彼女をエロシン方面軍に参加させたのである。

 防衛戦では彼女の特性は大いに役に立つからな。


「わかりましたぁ! やっと私の出番ですね。じゃあ、今のうちにご飯食べておきますぅ」


 セーラも腰袋からパンと蜂蜜を取り出して、うまうまと頬張りだした。

 これで魔力も万全になるだろう。

 俺もセーラの働きに期待しながら、パンにかじりつく。

 

 

---



 さて腹も一杯になったところで、そろそろ作業を開始するか。

 俺達だけではなく、もちろん四百人の兵にもやってもらうことはある。


「リリ、あれを出してくれ」

「うん、あれねー」


 と言ってリリが出したのは、既に組み立てられた木柵である。

 これを兵士達に運ばせて、積み上げた土塁の上に突き刺せば、立派な馬防柵の完成ある。


「さあサーラ、土を掘り返してくれ」

「了解しましたぁ。では行きますよー、……『ストーンシャベル!』」


 サーラが魔言をいうと、その名の通り、石でできた特大シャベルか上下に振動しながら地面に食い込んでいく。

 

「よいしょ、よいしょ」


 サーラの掛け声に合わせながら、シャベルが持ち上がり土を掘り起こす。

  

 俺も負けてはいられない。

 高火力のファイアーボールで地面を抉り取る。

 しかし勢いあまって斜面も削り取ってしまった。

 まずいまずい、これ以上削るとそこから回りこまれてしまう。

 仕方が無いがサーラを真似てシャベルを作るか……。


 俺は彼女に比べるまでもない程小さいストーンシャベルを作り出し、チマチマと作業をすることにした。

 リリも俺の真似をして一緒に土を掘り返してくれている。

 まあサーラが頑張ってくれれば問題ないのだから気楽にいこう。

 

「ふぅ、次は固めますねぇ。……『アースウォール!』」


 地面を掘り起こした後は、積み上げらた土を使いそれを固める作業だ。

 これはサーラの魔法によりあっという間に固められ立派な土塁となった。


「お前ら、ここに木柵を立て掛けろ!」


 すぐさま木柵を持ち、構えている兵達に指示を飛ばす。


『はい!』


 するとリリが風魔法で下から木柵を押し上げ、兵達の手助けをしてくれた。

 そのため楽々と土塁を登り切ることができたで、後は木柵を差し込むだけである。


 これで一セットが完了だ。

 時間にして三十分程だろうか。


 これを日が暮れるまで、延々と繰り返すだけである。


「よし、これで一つ完成だ。少し休んでから次に行くぞ!」

『おう!』

 

 そして五時間後には計十セットの、堀、土塁、柵の組み合わせが完成したのである。


 何重にも及ぶ堀に柵、そして側面は急斜面、よほどのことがない限り突破されることは無いと思える。

 我ながら見事な野戦築城だ。

 ほとんどがサーラのお陰だがな。

 

 明けて翌日、俺は一日で作り上げたとは思えないような陣を見て、満足気な顔をしている。

 これならば精強なピアジンスキー軍の騎馬隊といえども、そう簡単には突破することはできないだろう。


 さて茜によると、今日の昼ごろには敵がやってくるようだ。

 奴らもこの陣地を見たら驚くだろうな。

 後は斜面の上に弓兵を配置させて敵を待ち構えるとしよう。



---



 午前十一時を過ぎた頃、敵が姿を現わした。

 予定よりも一時間程早い。

 もちろん全兵が騎馬に跨っている。

 その数二百騎、後続からはさらにエロシン家から百の歩兵も参戦するようだ。

 

 この辺りの馬は西洋馬のように、体躯は大きい。

 騎兵とは名ばかりで、木曽馬みたく可愛い馬に跨る大男、という落ちは残念ながらないようだ。

 

 既に松永軍は配置ついている。

 一セットの堀、土塁、柵について二十五人の兵を配備している。

 そして側面の斜面の上には、五十人の弓兵が隠れている。

 残りの百名は、遊撃部隊に衛生兵だ。

 荷駄隊はリリのアイテムボックスのお陰で、ごく僅かの人数で済んでいる。


 さて、敵さんはどんな風に攻めてくるのだろうか。

 

 すると、ゴーンゴーンと鐘の音が鳴り響くと、敵騎兵が突撃を開始してきた。

 下馬することもなく、馬上のまま突っ込んでくる。

 馬は高級なはずなのに……、余程の自信があるのだろうか。


 そうだとしたら松永軍も舐められたものである。

 返り討ちにしてやる。


「第一波来るぞ! 槍隊は柵の隙間から馬を突き刺せ。俺が後ろから援護するから余計な心配は無用だ」

『はい!』


 五人の騎兵が横並びとなりこちらへと迫りくる。

 敵騎兵は幅三メートル程はある堀の前から飛び上がると、これまた高さ三メートルはある柵へと肉薄すると、馬体ごとぶちかまして柵を突き破ろうとする。

  

 しかしこちらもそう簡単に突破される訳にはいかないので、柵の隙間から槍を突き出し勢いを殺そうと試みる。

 

「ブヒヒーン!」


 槍が馬体に刺ささり、馬が嘶く。

 馬の性分は元来臆病なため、すぐに戦意喪失となり、上に跨る兵士は宙へ放り出される。


「いいぞこの調子だ」


 俺は空中を舞っている敵兵にファイアーボールを撃ち込みながら、味方の奮闘を称える。 


 第一波は凌いだ。

 だが柵は半分壊されかけている。


 間髪入れずに第二波がくる。

 側面からの射撃で一騎は殺せたが、同時に四騎は相手にしなければならない。

 なんとか二騎は柵前で無力化できたものの、残りの一騎が柵をなぎ倒し、こちらへ乱入してくる。

 そこに後続から遅れたもう一騎が柵内に飛び込んでくる。


「やらせるかよ!」

 

 宙に舞う馬体ごとファイアーボールで吹き飛ばした。

 リリもウインドカッターで馬ごと切り刻んだ。

 危なかったがなんとか水際で阻止した。

 

「ふーふー、なんとか凌げたな。ここはもう駄目だ。後退する」


 柵を破られたので、これ以上ここで粘るのは危険だ。

 敵への嫌がらせとして、敵騎兵の着地点に馬の死体を積み重ねてから奥へと退いた。


 さらに同じように二回突撃が繰り返された。

 そして俺達も一つ防衛ラインを後退させる。


 二セットの防衛ラインで二十騎を殺せた。

 だが敵は二百騎……、これはまずいぞ。

 敵が全力できたら耐え切れるか分からない。

 何か策を講じなければならないな……。 

 早いがあれを使うか……。


 俺は斜面の上の兵の指揮を執るビアンカに、手信号を送り側面の弓兵を少し後退させる。

 さて第五波がやってくるぞ。

 敵も四回の突撃で全滅を食らっているから、気合を入れてくるだろう。


 するとやはりというか、後方から偉そうな人が出てきたぞ……。

 なっ……、なんだあいつは。

 勿体ぶって出てきた将は、まるで世紀末の人が乗っているような馬鹿でかい馬に跨っている。


 いや、あれは馬ではない。その証拠に二本の角が生えている。

 あっ、あれはバイコーンだ!

 やばいよやばいよ、あんな化け物に突撃されたら馬防柵など破壊されちまう。


「リリあいつはやばい。あれを頼む」

「うん!」


 俺が頼んだのは、マヒ花粉撒き散らし魔法だ。

 ここは後方に山があるため、そこから風が吹き降ろしてくる。

 そのため俺達は風上に立つことになるので自爆の恐れがない。

 大魔法なので使うのは控えていたが、ここは出し惜しみしている場合ではない。

 リリさんやっておしまいなさい!


「んんー、『マヒマヒ攻撃ー!』」


 彼女の手から放たれた大量の粒子は霧状となり前方の視界を覆い隠す。

 目を細めればなんとか敵の動きを見ることはできるので、問題は無い。

 

 すると思ったとおり、前方の騎兵たちの動きが鈍くなっているようだ。

 次第にドタッ、ドタッと落馬する音が聞こえてくる。

 しかし完全に動きは止まっていない奴が何騎かいる。

 特にバイコーンに跨っているおっさんはピンピンしているようだ。 

 そして猛スピードで助走をつけて、柵をヒョイと飛び越えると、俺の目の前に姿を現した。

   

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