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第五十二話 バラキン領攻略戦 ①

 領地が広がったことで、前置きが長くなったがいよいよバラキン領へ進軍を開始する。 

 

 俺はエロシン領方面軍の大将として、エロシン領へと進軍をする。

 主だった面子はリリとビアンカにセーラである。

 兵力は四百だが、本気で攻め取るつもりではないので、この程度で十分である。


 既にナターリャ達のバラキン領方面軍三百も進軍を開始しているらしいので、遅れないよう俺達もエロシン領へと軍を進める。

 気になるのはピアジンスキー家の動きだが、そこはある意味出たとこ勝負な面もあるので、その場で臨機応変に対応することにしよう。

 

 俺が率いるエロシン方面軍四百はマツナガグラードを出立し、翌日にはエロシン領境へと到着した。

 ここには、先日急ぎ作った砦がある。

 ここには常時に五十の兵が詰めており、エロシン領からの不測に事態に備えている。

 

 俺達はこの日は砦に入り一晩を過ごし、明日改めてエロシン領へと侵入する予定である。

 エロシン家の現本拠地のザンクトは、バロシュ家領と目と鼻の先に位置する。

 そのためザンクトまで攻め込むと、援軍があっという間に到着し、会戦になる可能性がある。

 

 今回の目的はあくまで足止めなので、松永軍はエロシン領東部の占拠を目的とする。

 エロシン領西部の兵力二百に対して、東部は百だ。

 しかもその百人も各地に散らばっている。

 四百の兵で攻め込めば容易に落とせるだろう。


 松永軍は明けて翌朝、エロシン領東部へと進軍を開始する。

 領境の砦を出立し、向うはオホーチカ村である。

 何の変哲も無い人口三百人程の村である。

 

 エロシン領は西部に人口が偏っており、東部は人口密度が低い。

 そのため、進軍ルートにはこれといった町はなく、所々に散在する村落を占領することになる。

 

「ここは軽く落とすとしよう。まずは包囲して降伏勧告だ。一時間以内に開門しなければ攻め込むぞ」


 ピアジンスキー家の騎馬隊の進軍速度が分からない今、時間を掛けたくはない。

 オホーチカ村には申し訳ないが、ここでオタオタする訳にはいかないのだ。


「ヒデオー、白旗が揚がったよー!」


 一時間後、攻撃開始ぎりぎりまで粘られてようやく白旗が揚がり開門がなされた。

 リリが村の上空で特大のウインドボールを撃つ構えをしていたところ、これはいかんと思い降伏したのだろう。


「ようやくか。しかし無駄な戦闘が無くて良かった。早速中に入るとしよう」 

 

 松永軍は開門されると間髪入れずに、村の館を占領した。

 オホーチカ村に詰めていた守備兵は二十人足らずだった。

 もちろん全員捕らえて村の倉庫に押し込んでおいた。


「秀雄様、捕虜の収容は完了いたしました。そして村長にも松永家への帰属を約束させました」


 ビアンカが俺の代わりに、全ての雑務をこなしてくれたようだ。

 彼女は副官兼メイド、そして嫁という、スリージョブである。

 しかもそれをそつなくこなすのだから、大したものである。


「いつもありがとうな。これでオホーチカ村は落とすことができたな。では小休止の後、進軍を再開する。そう伝えてくれ」

「かしこまりました」


 ビアンカは俺の命を受けると、すぐに行動を開始した。


「あっあのー、私は何もしてないんですけど、いいんですかぁ」


 すると、俺の隣で突っ立っているだけのサーラが、バツが悪い顔で聞いてきた。


「ああ、サーラは気にしなくていい。適材適所という言葉があるだろ。出番がくるまで待っていればいいさ」

「適材適所? 取り合えず待ってればいいんですねぇ」

「ああ、そういうことだ」


 サーラはスラム育ちなので、教育をほとんど受けてこなかったため、知識に乏しい。

 現在マルティナが一から勉強を教えているところである。

 幸い知能は高いようで、現在急激に知力が上昇中だ。


「わかりましたぁ!」


 サーラはビシッと敬礼し、やる気をみせる。

 今は気を抜いてていいのだが、本人がその気なので黙っておく。


 そしてしばしの休憩を挟んでから、松永軍は再びエロシン領内へと進軍を始める。



---

 


 ナターリャ率いるバラキン方面軍は、旧シチョフ領とバラキン領を隔てる峠を越え、エロシン方面軍が領境の砦を出立した日にはすでにバラキン領内へと侵入していた。


 こちらに投入したのは旧クレンコフ家や、ヤコブーツク以北の兵が中心となっており、戦闘経験が豊富な精鋭揃いである。

 そのため進軍速度も早く明日にはバラキン家の本拠地へと到達するであろう。


「いよいよ明日は戦いねー。なにか緊張してきちゃたから、お酒でも飲んでリラックスしようかしらー」


 ナターリャが体をくねらせながら、ワインボトルに手を掛ける。


「ナターリャ様! 今日は絶対駄目です!」

「そうですよ! 明日が本番なんですから、それまで取っておいてくださいよー」


 これはヤバイ! と思ったのか、セルゲイとレフが体を張って彼女を止めに掛かる。


「んもー、連れないわねー。私だって緊張してるのよ。こんな大軍を率いることなんて初めてなんだからー」


 彼女は床に座り込むといじけてしまった。


 レフは、自分が先鋒になりたいって言ったくせに、と突っ込みたくなるのを必死でこらえ、まずはナターリャからワインボトルを奪取することに全てを注いだ。

 その甲斐あってなんとか、二人がかりでなんとか彼女の手からワインボトルを取り上げることに成功した。


「今日はもう寝ましょう。明日は朝一で進軍をしなければならないのですから」


 二人に説教され、しゅんとなったナターリャは無言でとぼとぼと布団へ向うと、不貞寝してしまう。

 

「セルゲイ、まだ油断はするなよ。演技の可能性もあるからな」

「ああ」


 ナターリャは空気を読まずにこの後ぐっすり眠ったのだが、レフとセルゲイは彼女を交代で監視をしたため、寝不足のまま城攻めを行うことになってしまった……。

 

 翌朝、バラキン方面軍は迅速に行軍をおこない、昼前には敵本拠であるバラキン村に到着した。

 バラキン村はシチョフ村と同様に山城のような造りとなっている。

 その中には百五十人の兵が籠もっているということだ。

 

「お昼ごはんを食べたら突撃しましょう。私とマルちゃんで城門を破壊するから援護を宜しくね!」


 ナターリャはやる気十分といった感じである。

 

「あの、兵の指揮は誰がやるのでしょうか……?」


 レフがそれとなく聞いてみる。


「そんなのあなたに決まってるじゃない」

「ですよね……」


 只でさえ寝不足なのに、全軍の指揮を丸投げされて不安で胸が一杯になるレフなのであった。


 二時間後、昼食を取り十分食休みを入れてから、いよいよ突撃を開始する。

 特に策もない力攻めだ。

 幸い敵軍には魔法士が数名しかいないらしい。

 そのため頑丈ばセルゲイやバレス隊の面々は、敵の魔法士になど気にせずに突撃する勢いである。 


「さあ、始めるわよ! 突撃開始!」


 ドンドンドンドンと太鼓が叩かれると、ナターリャを先頭に松永軍が大手門へと殺到する。

 先頭を行くのはバレス隊だ。


 彼ら三十人は騎士となり領地を下賜されているが、気持ちが守りに入ることはない。

 特にバレスの息子であるニコライとヒョードルの勇猛さは、若き日の父を凌ぐと言われている。

 セルゲイを先頭にしてバレス隊の面々は大手門前へ制圧のために、水堀に飛び込もうとする。


「ちょっと待ちな!」


 後ろからナターリャが叫んだ。


「全軍停止!」


 何事かと思いセルゲイが停止命令を出すと、後方から氷の風が飛んできて、堀の水をカチンコチンに凍らせてしまった。

 

「さっさと行きな!」


 唖然としているバレス隊の面々に、背中から再度ナターリャの叱責が飛ぶ。


「はっはいぃ!」


 セルゲイは尻をムチで叩かれたようにビクッと飛び上がり、氷の上を滑らぬように歩いていった。

 敵もまさか水堀を凍らせるなどとは思ってなかったようだが、気を取り直し先頭を行くバレス隊の面々に攻撃を加える。

 しかし数々に戦を経験し成長を遂げた彼等には、矢の一本や二本などは何でもなかった。

 セルゲイなどは腕に矢を受けたが、矢じりは筋肉の手前で止まっていた。

 ひょろひょろの弓矢は、彼の皮を破る程度にしか役に立っていなかったのである。

 このような芸当は武力の高いアンドレにしかできないが、それでも敵は面食らう。 


 見かねて三人の敵魔法士が彼等を食い止めようと魔法を放とうとする。

 しかしマルティナとナターリャが邪魔をしてくるので、どうすることもできない。

 矢も効かず、魔法も撃てない状況に、シチョフ軍は次第に焦り出した。


 さらに水堀が凍ったことで足場ができ、逆に渡りやすくなったため、後続の兵達も続々と集まり出し、気付いたら大手門前は松永軍が占拠していた。


「みなさんどいてください!」


 レフが大声で退避を促す。

 すると兵達も解っているのか、すぐに大手門から散開する。

 

「いけ! アイスアロー(大)!」

「アイスアロー(中)!」


 ナターリャとマルティナのダブル魔法が大手門を襲う。

 ガシャン! と氷の砕ける音と合わせて大手門の真ん中に風穴が空いた。


「今だ! 突っ込めい!」


 セルゲイが間髪入れずに声を上げ、先頭に立ち門の内側へと突入する。

 しかしバラキン軍もそう易々と大手門を明け渡す訳にはいかない。

 いよいよ白兵戦が開始された。


 セルゲイが待ってましたとばかりに、槍を振り回す。

 そのさまは寝不足のことなど完全に吹っ飛んでいるように見える。


 彼に続いてバレス隊の面々も次々と突入し敵兵と斬り合う。

 そして後続からも松永軍の兵が我先にとばかりに、城内へとなだれこむ。


 百人程いたバラキン軍の兵も、始めのうちはなんとか抵抗をしたものの、次第に数と質が共に勝る松永軍の猛攻を凌ぐことはできなくなり、程なくして二の丸内へと退却していった。


「さあまだまだ行くわよ!」


 ナターリャが更なる追撃を訴える。


「お待ち下さい。城内は攻めにくい構造になっています。強引に攻めては被害も拡大します。ここは一旦兵を休めてからにしましょう」

「母様、私もレフの賛成です。一度兵の整備を行いましょう」


 レフとマルティナが行きたがる面々を落ち着かせる。


「それもそうね。敵はまだまだ抵抗するみたいだしね」

「では、全軍一旦休憩し、陣形を整えよ」


 レフがほっと一息付き、全軍に休息の指示を飛ばす。

 そして兵達が安全な場所を確保し、座り込もうとしたそのとき、本丸から煙が上がった。

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