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第四十七話(地図) 戦後の戦力分析

 三太夫達の活躍によって難なくココフ砦を落とすことに成功した。

 百人程度の守備隊ならば、彼等にかかれば赤子の手を捻る程度なのだろうか。

 それとも今回は敵に有能な将がいなかったのだろうか。

 どちらにせよ彼等は見事に作戦を成功させたのだ。

 ここは素直に賛辞を送るべきだろう。


 これでエロシングラード以北は手に入れたも同然だ。

 既にバレスやナターリャにより、領内の村々に松永家への帰属を促している。

 あと一週間もすれば全ての村が傘下に入るだろう。

 これで国力は倍近くまで膨れ上がることになる。

 ウラールにおいて松永家に肩を並べる者は居なくなったのである。

  

 だがこれで終わりではない。

 掃討戦が終わり、兵が再び集まり次第、エロシンの息の根を止めるべく進撃を再開する予定である。

 その後は孤立したバラキン家とガチンスキー家にも攻め入る予定だ。


 主力が戻るまで少々時間が空いたので、ココフ砦から戻った三太夫達にはエロシン家に南方三家の情勢を探らせている。

 出来ればピアジンスキー家辺りまでは探りを入れたいところだが、人手不足と危険度が高いことを理由に、断念せざるを得なかった。

 

 それ以外にもすべきことはある。

 サーラと色々お話をして、親睦を深めなければならない。

 俺の副官である以上、戦場で自然に連携が取れないと命取りになるからである。

 もちろん他の理由もあるが、それは言うまい。 


 彼女とはなるべく毎日食事を共にすることにした。

 早速今朝から実戦しており、今はその最中だ。


 ぱくぱく、ぱくぱく、ごっくん。

 サーラはリリ特製の蜂蜜が塗られたパンを、満面の笑みで頬張っている。

 やはり美味い食べ物には心奪われるようだ。


 しばらく好きに食べさせ、落ち着いたところで質問をする。


「サーラは何故エロシン領にきたんだ。ダークエルフはこの辺りでは生きていくのが辛いだろうに」


 わざわざエロシン領にきても迫害されるだけなので、せめてクレンコフなりアキモフなり選択肢はあったはずだ。


「私のお母さんが奴隷だったんですよぉ……。私はダークエルフのハーフなんですぅ。だから生まれもこの町なんですよぉ。生まれてすぐに捨てられたみたいですけどぉ……」


 あそこのスラムは男が少ないと思ったがそう言う事か、

 恐らく奴隷が生んだ子供達と用済みになった女奴隷を放り込んでたのだろうな。

 胸糞悪い話だ。


「私は運よく魔法が使えたんで、冒険者としてお金を稼ぐ事が出来たんですぅ。それでなんとかみんなが食べ繋げていたんですよぉ」

 

 いくらBプラスの冒険者とはいえ、ほぼ一人で三十人程の生活を支えていたのだな。

 それでは金も貯まるはずも無いか……。 

 なんかしんみりくる話だな。


「そうか。だがスラムの人達は既にエロシンが無駄に保有していた別宅に移動してもらったから、安心してくれ」

「本当ですかぁ! あっ、有難うございますぅ」


 サーラはこの時ばかりは心底安心した表情を見せた。

 出会ってから一番の笑顔だった。

 スラムの人達は家族同然に暮らしてきたらしいから、彼女の気持ちは俺でも察することができる。


「これで懸念事項も無くなっただろ。サーラにはこれから松永家で働いて貰う。改めて聞くがそれでいいんだな?」


 スラムからは半ば強引に連れて来たので、一応確認を入れておかなければならない。


「はい。みんなは秀雄様のお陰で生活が楽になりました。もう私がする事は特に無いですぅ。それに秀雄様みたいなお優しい方には、その恩を返さないといけないと思いますぅ、ぜひ私を雇って下さい!」


 サーラは穏やかな笑みを浮かべながら立ち上がると、俺の下へ跪き、手の甲にキスをした。

 そして彼女は少し照れくさそうにしながら席へと戻り、恥ずかしさを隠すようにスープを飲み始めた。


「そうか、良かった。ならしばらくは俺の副官として実務経験を積んでくれ。教育役には俺の嫁であるマルティナを付けよう。お互いハーフエルフ同士で、分かり合える面も多いだろうからな」


 俺は隣で食事を共にするマルティナを一見する。

 既に話は済んでいるので、彼女も目配せを返して賛意を示す。

 

 取り合えずサーラに関してはこんな感じでいいだろう。

 まだ俺には戦後処理や今後の戦略を考えるなど、すべき事が山積みなので、急ぎ飯を処理してから部屋を後にする。

 


---



 食事を終えたところで、すぐにこれからの行動指針を立てなければならない。

 俺はコンチンを部屋に呼び、会議を始める。

 リリは知能が高いので、話しの内容が解るので俺の頭に乗りながら参加をする。

 そしてマルティナとサーラも連れてきている。

 

「忙しいところ、顔を出してもらって悪いな」


 レフはママノフ館、バレス、ナターリャは領内の掃討戦に出張っているので、知力が高いのはこの面子位である。

 ビアンカとチカは亜人達のケアに回ってもらっているので、今回は参加していない。 


「いえ、そろそろこの町も落ち着いてきたので時間はありますので。そう言えば、この町の名称はどうするのですか。流石にエロシンの冠はいけまんせんからね」


 コンチンの言葉で思い出した。

 少し前にエロシングラードから改名しようと思い立ったのだった。

 

「そうだな……、この町はしばらくは我々の本拠地になるだろう。何か良い名は無いかな」


 最初は単純にマツナガグラードにしようかと思いもしたが、それだと自己顕示欲の塊のように思われてしまいそうなので、自重することにした。


「そのままマツナガグラードでいいんじゃないですかね。秀雄様の威光をウラール中に示せると思いますよ」

「あたしもそれがいーと思うよー」

「これでエロシンに打ち勝ったことを証明できるしな」

「私は皆さんにお任せしますぅ」


 皆はマツナガグラードがお好みらしい。

 少し恥ずかしい気もするが、俺一人だけ反対しても気持ち悪いので、皆の言うとおりにマツナガグラードにするか。

 

「ならそうするか。次の評定で正式に決めるとしよう。話は逸れてしまったが、今日は今後の攻め方について決めようと思ってな。まずはいつものように、話の解る者でたたき台を考えたいのだが、誰か意見はあるかな?」


 マルティナとサーラは基本はお任せだから意見を求めるのは酷だ。

 リリは地頭はあるが如何せん知識不足だろう。

 だとするとやはりコンチンに意見を求めるしかないか。

 俺は彼に視線を向け発言を促す。


「はい、では僭越ですが、私なりに思う所を述べさせて頂きたいと思います」


 彼は机に開かれているウラールの地図を使いながら、淡々と語り始めた。


挿絵(By みてみん)


「こちらの地図には、ウラール地域から見て西にあるナヴァール地域、南西にあるドン地域、南南西にあるコトブス地域の情報が記載されております。同盟勢力は同じ色にしておきました」


 この地図を見ると、ウラールが辺境だということがよく解るな。

 ナヴァール湖から下流になると、川の広さが違うのだろう。

 それにより土地が肥沃になるのだろうか、明らかに人口密度が変わっているな。 


「ナヴァール地域は湖を挟んでホフマン家連合とピアジンスキー家連合が争っています。その南のドン地域では、この地に長らく根を張っている豪族のドン家が八割以上を支配しており、機を見てはナヴァールへと侵入する気配があります。コトブス地域に関しては、この地図には記載されてないシュトッカー家を中心に、ドン家と争っているようです」


 ふむふむ、下の方もなかなか香ばしい事になっているじゃないか。

 お互いが争っているからこそ、今迄ウラールまで手が及ばなかったのだから、当然ではあるがな。


「これは中々良い感じで混沌としているな。俺達も付け入る隙は十分ありそうだ。悪いな、続けてくれ」

「私も秀雄様のおっしゃる通りと存じます。しかしまずはウラールを完全支配することが先決かと……」

「それは俺も思う。コンチンはどのような手で行くのが良いと思うんだ?」

「私は当初の予定通り、迅速にエロシン家を滅ぼすべきかと考えます。その後にバラキン、ガチンスキーと取ってから南方三家に望むのが良いかと」

「俺もそう思う……。だが何か引っかかるんだよな」


 そう俺が呟くと、場の雰囲気は静まり返り、しばらく静寂が続いた。

 気付いたら長考していたようだ。

 皆俺の発言を待っている。

 気まずいので場を取り繕うと、何か口に出そうとした時、扉がゴンゴンと叩かれた。


「入って良いぞ」


 すると許可をするや否や、三太夫が飛び込んできた。


「どうした! 何かあったのか?」


 すると彼が息を切らしながら告げて来た。


「昨日、エロシン家がピアジンスキー家と同盟を結びました。エロシン家からロジオンが人質として身を預ける事で、なんとか合意に達したようです」


 何か引っかかると思っていたが、そういうことだったのか……。


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