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第四十六話 エロシン領侵攻⑤

 俺は炊き出しが終わるのを待つことにした。

 途中で話し掛けても失礼と思ったからである。

 領主と言っても傲慢な態度を取ればエロシン家と同じと思い自重する。

 民には松永は違う、と思って貰わなければならないからである。


「ごめんなさい……。これでお終いなんですぅ……」


 なんか情けない声を出しているのは、まさかのダークエルフちゃんだ。

 外見はナイスバディなのに、喋り方が全く体つきに追いついていない。

 うん、これはまたこれで味があるな。

 

 などと思いながらも、ようやく炊き出しも終わったようなので声を掛けようと、ダークエルフちゃんへと近づく。


「お疲れの所、失礼する。あなたはよくここで炊き出しをやっているのかな?」


 話しかけると、俺の存在に気付いたのか、ペコリと頭を下げる。

 

「はっはい、週に三回はここで炊き出しさせて貰っているんですぅ。皆さんお腹空かせてると思って……」


 何か悪い事でもしでかしたような顔つきで俺の方を伺ってくる。

 おそらく人族である俺を警戒しているのだろう。


「怖がることはないよ。俺は亜人を迫害したりなんかしないから。現に隣にいる犬狼族と猫族の娘は俺の嫁だからな」


 二人が俺に好意を持っているのが分かったのか、ダークエルフちゃんは少し警戒心を解いたようだ。


「君はダークエルフだろ? 失礼だがこの町では、施しを与えられる程の稼ぎを得るのは難しいはずだ。良かったらどのようにして稼いでいるのか教えてくれないか」

 

 彼女を怖がらせないように、なるべく優しく言葉を掛ける。

 

「はい、私、こんな感じなんですけど、一応冒険者なんですぅ。Bプラスの。ですのでお金は少しはあるんで、みんなにご飯をって……」


 何ぃ、どう見ても冒険者には見えないんだが。

 この雰囲気から魔獣を倒す姿は想像できんな。

 だがBプラス程の実力者なら、この程度の施しなら何回でもできるな。


「なるほど、それなら合点が行くな。ああ、まだ名乗っていなかったな。俺は松永秀雄と言う。先日此処を占領した松永家の当主で、冒険者ランクはAになる」


 すると辺りがざわつき出す。

 もちろんダークエルフちゃんもビクビクと挙動不審になる。


「安心しなさい。俺はエロシンのようにあなた達を迫害したりはしない。対策はこれから考えるが、取り合えずの衣食住は保障するからそう怯えないでくれ」

「皆さん、秀雄様の今のお言葉は犬狼族の誇りに賭けて、この私が保証します」

「チカも猫族の誇りに賭けて保障するニャ」


 同じ獣人であるビアンカ達の言葉が効いたのか、ざわつきも次第に収まって来る。

 ダークエルフちゃんも半信半疑であるが信じてくれたようで、遅ればせながら自己紹介を始める。


「領主様に先に名乗らせちゃって申し訳ありません……。私はサーラって言いますぅ。ウラールで冒険者してるんです」

 

 サーラか、何とか仲間に引き込みたいな。

 ヴィクトルは亜人嫌いだから登用しなかったみたいだが、俺はぜひとも欲しい人材だ。


「亜人に厳しいこの辺りでは大変だったろうに……。サーラは優しいんだな」

「そっそんな事ないですよー。私はただ困った人が見過ごせないだけなんで……」

「いや、それができる人はそう多くはいない。ところでサーラはこれからも冒険者を続けるのか?」

「はいぃ、私が稼がないとみんながご飯食べられませんから……」


 やはり金目的で冒険者をやっているようだ。

 亜人達が飢えるのは見過ごせないのだろうな。


「いや、もう冒険者を続ける必要は無い。俺が領主に成った以上、民が飢えることは無い。何かしら対策を考えよう」

「えっ、本当だったんですか。さっきの話……」


 サーラは俺が本気だと分かったらしく、目をぱちくりさせている。


「本気も本気さ。俺が嘘言う訳無いだろ」

「あっ、ごめんなさい。領主様を悪く言うつもりは無いんですぅ」

「分かってるさ。まあ話を戻そう。スラムには今後は俺が食糧を出す。なのでこれからサーラはすることが無くなり暇になる。そこで、良かったらだが俺の所で働かないか? サーラのような有能な人材を俺は求めているんだ」

 

 俺は誠意を込めて彼女に頭を下げた。

 このクラスの者が領内に在野で浮いているケースは滅多に無いだろう。

 それにダークエルフと言う希少種。

 そして可愛い。

 はっきり言って土下座してでも欲しい人材だ。

 だが俺は腐っても松永家の惣領なので土下座はできない。

 精一杯の譲歩で、頭を下げるのがやっとだった。


「やっやめて下さいー。行きます! 行きますからー」


 サーラは断りでもしたら、処罰されると思ったのだろう、すぐに同意してくれた。

 よし、後は信頼を得られるようにするだけだ。

 その辺りはマルティナ達が上手くやってくれると期待したい。


「本当か! では早速荷物をまとめて城まで行こう。俺も手伝うから家まで案内してくれ」

「はいぃ、でっでも私の家はここですよぉ」


 サーラが指し示したのは、目の前にあるボロ家だった。

 そうか……、領都に限ってだが、亜人はスラムに押し込められているんだったな。


「そうだったな……、悪いことを聞いたな。早いとこ荷物を纏めようか……」


 気まずそうに言葉を返すと、サーラはコクリと頷き、掘っ建て小屋のような家に入る。

 俺も中に入るが、そこは何も無い殺風景な部屋だった。

 たいして荷物は無いらしく、すぐに用意は終わる。

 その時間、僅か数分程だろうか。

 

 炊き出し用の大鍋はスラムの共有財産なんだそうだ。

 サーラが寄付したらしい。

 

 なんか良い娘すぎて涙が出そうになっちまったが、ここは我慢する。

 

 そしてスラムの住民にすぐに対策を行うと約束をしてから、サーラを引き連れて城へと戻った。

 暫定的だが、彼女は俺の副官として扱うことにした。


  

---



 ココフ砦を包囲するは松永軍二百に、アキモフ・ロマノフ連合軍百の計三百人。

 率いるはバレス、レフ、セルゲイの松永家が誇る三羽烏。

 

 そしてその中には三太夫一族にリリの合わせて六人の決死隊がいる。

 彼らはこれからココフ砦へと忍び込み、内から敵を崩すつもりだ。

 作戦開始は今日の深夜。

 なので今から下準備を済ませなければならない。

 一行は闇夜に紛れ砦内へと侵入を試みる。


 早速忍術を駆使し壁をよじ登る。

 黒装束を身に纏っているため、遠めからでは彼等に気付く者はいない。

 一行は僅か三十秒足らずで、高さ十メートル以上はある城壁を登り切った。


 そして六人は散開し食糧庫へと向う。

 夜番の兵は二人。

 倉庫の屋根に張り付く三太夫と茜が同時に飛び降り兵士の頭をカチ割る。

 一瞬で絶命した兵の懐を三太夫は弄り鍵を取り出す。

 それを茜に渡し鍵を開けさせる。

 自身は兵の死体を持ち上げて倉庫の中へと放り込む。

 そして二人は倉庫内へ入り所々に火薬を仕掛ける。


 同じ事が他の倉庫においても行われていた。

 三太夫が倅の段蔵とその嫁のお銀によって。


 そして敵兵の監視は妻の千代女が行う。

 リリは千代女の胸の中でお休み中だ。

 何かあった時の為に待機しているのだ。


 時間にして十分足らず早くも準備は整った。

 後は夜が明けるのを待つのみだ。

 茜とお銀は倉庫内で身を隠し、後の三人は砦内の適当な場所へと散らばって行く。


 そろそろ予定の時刻になる。

 二人は同時に導火線に点火をする。

 間も無くドカンという音が鳴ったかと思うと、しばらくして食糧庫から煙が立ち上がる。


 勿論守備兵は爆発音に目を覚ます。

 皆何事かと思っていると、


「裏切り者が出たぞー!」

「お味方裏切りー!」

「内通者が食糧庫に火を点けたー!」


 言った様々な声色が、突如四方八方から叫び声が聞こえてきた。 

 これは千代女の得意技だ。

 彼女は七色の声を扱うことが出来る。

 それに三太夫や段蔵の扇動が加わると、砦内は瞬く間に混乱した。 


 五人は予定通りに大手門へと疾走する。

 そして混乱の為に連携が取れない、門前の兵の目の前にドロンと姿を現わすと、一瞬で懐に入り込み首元を掻っ切る。

 断末魔は出させない。これがプロの仕事である。 


 そして大手門を開け、跳ね橋を下げる。

 後は本隊にお任せだ。


 五人は再び闇夜に紛れドロンと姿を消した。

 相変わらず、千代女の豊満な胸ではリリがぐっすり眠っていた。

 

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