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第四十五話 エロシン領侵攻④

 ママノフ館を離れてから進軍速度を上げ、エロシングラードへと移動する。

 移動距離はそれ程長く無いので三時間程進めば領都が見えてきた。


「秀雄様、ただ今戻りました」


 俺の前にドロンと姿を現わしたのは三太夫だ。

 彼が戻った、それはエロシングラードの情報の収集を終えたことを意味する。


「ご苦労さん。それで中の様子はどうだったんだ」

「既に我が軍の来襲を察知したようで、先程搦め手門からバシーリエと見られる一団が出て行くのを確認致しました。恐らく城内はもぬけの殻と思われます」


 やはり予想通りだな。

 恐らくまだ余力が残っている南方へ逃げ込むつもりなのだろう。


「そうか。ならば無駄に兵力を消耗せずに領都を取れるな。これから俺達は進軍するから、また何かあったら報告を頼む」

「はっ、畏まりました」


 そして再びドロロンと煙を巻き、三太夫は姿を消した。

 相変わらず神出鬼没である。

 ちにみに、このドロンは忍術と言う魔法の一種らしい。

 各流派により一子相伝の異なる体系があるそうだ。

 前から気になっていたのでつい聞いてみた。 


「やはり予想通りだったな」


 俺はコンチンに一言告げる。


「はい。これでエロシングラード以北は当家が押さえられるでしょう」

「そうだな、これで俺達の国力は倍増する」

「ウラールで当家に敵う相手は居なくなるでしょう」

「ああ、そろそろ他地域の情勢にも目を向けなければいけないな」


 まずはウラールを統一する。

 しかしここが終着点では無い。

 クラリスと契りを結んだ以上、それを守るのが男という者だ。

 まあそれは建前で、本音は俺の野心に因るのだけれどな。

 

「そうですね。ここは南方諸国でも辺境になります。他所の情報は入りにくいですが、何かしら対策を取った方が良いでしょうね」

「バロシュ家の裏には他家が控えている事だしな。この戦が落ち着いたら、先を見据えた行動を取らないとな」

「ええ」


 本当ならば目の前の戦に集中しなければならないところだが、三太夫の話を聞いてつい先を考えてしまった。

 俺は領都に近づくにつれ気合を入れ直す。

 そして程なくしてエロシングラードの城下町へと到着した。


「ヒデオー、どうするの?」


 リリが頭の上から訪ねてくる。


「そうだなー、まずは包囲して降伏勧告をしよう。それで駄目なら力攻めだな。恐らく兵力も足止め用に何人か残してる程度だろうから、楽に落とせるはずだ」


 そう言い皆を見渡す。


「私も秀雄殿の意見に賛成だな。無駄な血は流さないほうがいいと思う」


 マルティナに続き他の面々も首肯し賛成の意を示す。


「反対はいないようだな。ならば使者を立てるとしよう。人選はコンチンに任せる」


 これでしばらく時間ができたな。

 ならば家族サービスをと思い立ち、嫁達と共に城下町を観光しながら時間を潰すことにした。

 

 数時間後、城内の兵の開放を条件として、エロシン側は降伏を受け入れた。

 時間稼ぎは十分できたと考えての判断であろう。

 無駄に話を延ばされていたみたいだからな。 

 

 そしてさらに時間を掛けて城門が開門された。

 松永家はウラール最大の都市エロシングラードを占領したのであった。

 


---



 この町を占領してすぐに思った。

 いや前から考えていたことだ。

 エロシングラードと言う名前はどうかと思う。

 ソ連のスターリングラードとかレニングラード、のような感じだろうからな。

 後で皆に改名についての意見を募ってみよう。


 領都を占領したからといってもまだやるべきことは山積みだ。

 松永軍は他の村落を無視してここまで来た。

 そのためエロシン領内は掌握しきれてない。

 

 特に百人程の兵が立て籠もっているココフ砦は、目の上のたんこぶとなり得る存在だ。

 迅速に攻め落とすべきだろう。

 しかしココフ砦に籠もる将兵は士気が高いと聞く。

 まだ当主が生きている事から考えると、希望は捨てていないと見るべきか。 

 だとすると力攻めは考えものだ。


 領都から北上し、ココフ砦前の川を挟み陣取っているアキモフ・ロマノフ連合軍と挟撃し包囲するのが上策だろうな。

 川からの水を塞き止めれば、そのうち干からびるだろう。 


「ココフ砦は出来る限り迅速に落としたい。包囲以外で何か妙案はないものか?」


 包囲すれば時間はかかるが確実に落とせる。

 だができれば早くに落としたい。

 少し欲張りすぎかもしれないが、皆に意見を求めることにした。


『……』


 やはり誰も口を開かない。

 仕方無い、ここはコンチンに二百程を預けて包囲してもらうか。

 と思っていたら、屋根裏からサササと三太夫と茜が参上した。


「秀雄様、我々ならばココフ砦を内から崩して見せましょうぞ」


 三太夫は自身有り気に献策をしてくる。

 

「それは本当か。しかし内から崩すと言ってもどのように。たかが五人程度で百の兵を掻き乱せるものなのか?」


 三太夫ならなんとかしてくれそうな気がするが、もし失敗したら貴重な忍を失うはめになる。

 俺はあまり乗り気では無い風に言葉を返す。


「勿論です。我々の忍術で砦内を混乱させ、その隙に開門します。百人全てを相手にする訳ではありませんので造作も無いことです。秀雄様に頂戴した多大な恩を返すには、今が我らにとって最高の好機なのです。どうかご命令下さい」

 

 彼は余程自信があるのか、それとも手柄を立てんと気負っているのかは分からないが、やる気は十分過ぎるほどに伝わってくる。

 ここは今後の関係のためにも、三太夫を信頼してやらねばいかんだろうな。

 下手に却下して、やる気を損なわれては敵わない。


「その意気や良し。好きなようにやるがいい。ただし、念のためにリリを援軍として付ける」

「はっ、承知致しました」


 彼女がいれば最悪逃げ出せるだろう。

 

「リリも危険だが頼めるか?」

「うん、帰ってきたらご褒美ちょうだいねー」

「ああ勿論だとも。今度二人でお出かけしよう」

「わーい! あたし頑張っちゃうからねー」

「それは心強いな。でも三太夫達の手柄まで奪っちゃ駄目だぞ。適切な援護を心掛けなさい」

「はーい!」


 彼女は俺の頭の上で立ち上がり、元気よく手を挙げながら返事をした。

 

「それではリリ様も我らと打ち合わせをしましょう」

「うん」 

 

 するとリリは俺の頭から飛び立つと、三太夫と茜と共にドロンと消えていった。

 なぜリリもドロンしたかは突っ込まないことにしよう。


「後は二百程をココフ砦に向わせるとしよう。その辺りは皆で話しておいてくれ。俺は少し領都の様子を見回りたい」


 俺はビアンカ、チカ、クラリスを連れて城下町へと足を運ぶ。

 領都と言う位だからどんなものなのかと思い回ってみたが、やはり辺境の中ではマシといった程度である。

 ミラ公国の公都ミラリオンに比べれば月とスッポンだ。

 比べる相手が間違っているかもしれないがな。


 一通り回ってみたが一箇所を除けば、特に目を引く場所は無かった。

 唯一気になったのがスラム街である。

 規模は三十人程度と大きくはないのだが、そこには迫害されている亜人やそのハーフが一纏めにされ押し込まれている。

 彼らは農繁期に僅かな賃金でこき使われており、その日の糧を得ることすら困難であるらしい。

 

 俺は流石に見過ごす事はできなかったので、スラム内を視察することにした。

 中に入ると、其処には雨風を凌げるかも不安になる程の、ボロ家が立ち並んでいる。

 その中には仕事にあぶれた男や、子供を抱えた母親などが世捨て人のような目付きで居るはずだと思っていた。

 

 しかし家の中は空っぽだ。

 すると先の方に白煙が立ち上がっている。

 どうやら炊き出しを行っている奇特な人がいるようである。

 スラムの住民は皆そこへ集まっているのだろう。


 勿論俺達もお裾分けを貰うためでは無く、その奇特な人物の顔を拝もうと炊き出し会場へと足を運ぶ。

 居並ぶ行列を掻き分け、向った先に居たのは人族ではないようだ。

 普通に考えて、人族至上主義の教会が行うはずもないしな。

 

 では誰だろうと思い、目を凝らして見てみる。

 そして俺の目に映ってきたのは、笑顔で獣人達に配膳しているダークエルフのお姉さんだった。


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