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第四十話(地図) 論功行賞

 その後、さらにエロシン領やバラキン領に余勢を駆って進軍する事も考えたが、様々な観点から今回は断念する事にした。

 一つはエロシン軍の被害がクレンコフ村の戦いの時程、甚大では無かったと言う事だ。

 前回の恐怖が染み付いているのだろう、挟撃されるや否やすぐさま兵力の薄いアキモフ・モマノフ連合軍へと反転すると、全力で兵の薄い場所へ突撃をして、尻尾を巻きながら逃げ出した程だからな。

 その為、被害は三十程度だろうか。

 損傷率は一割強程なので、一度領内へ退却すれば再度軍を建て直し領境を固めて来るだろう。

 恐らく二百以上の兵は配備出来ると思われるので、無理攻めをするべきでは無いと考えた。

 

 またバラキン領に攻め入るには、南方三家との兼ね合いが難しい為、一先ず保留する事にした。

 またシチョフ領からバラキン領までは山道が続いているため、兵の疲労を考えての面もある。

 

 二つはシチョフ領の戦後処理をきっちりと行わなくてはならないからである。

 もしさらにエロシン領・バラキン領の一部を取ったとしたら、確実にアキモフ家がごねて来るだろう。

 これだけの領土を切り取ったのだから、幾許かは俺にも寄越せと。

 だがシチョフ領だけなら、「アキモフ家の働きなど大した事が無い」と言いさえすれば、そこまで強欲に来られる事は無いと踏んでいる。

 ロマノフ家とは既にガチンスキー領を譲る事で話が付いているので、謝礼として戦費に色を付けた程度を支払えば問題無いだろう。


 ではその事を伝えに軍議を開催するとしよう。

 俺はコンチンに指示を出し、全員にシチョフ村の館へと召集をかける。


「この度は皆のお陰で無事シチョフ領を奪取する事が出来た。アキモフ家とロマノフ家の方々には非常に感謝している」 


 俺はアキモフ家の将とコンチンへ向けて謝辞を送る。

 ロマノフ家の援軍はコンチンに指揮をさせるようにと、俺からエゴールに働きかけておいた。

 その方がやりやすいからな。


「いえ友軍として当然の事を行ったまでです」

「私も右に同じです」


 アキモフ家の将に続いて、コンチンも無難に返す。


「そうか、では今後も有事にはお互い協力しあうとしよう。と、前置きはこれ位にしてシチョフ領の扱いについてだが、これは先に話した通り松永家が有する事で宜しいだろうか」


 実は、既に根回しは済ませてある。

 俺(リリは肩に乗っている)とコンチンにアキモフ家の将の三人で、前以て秘密裏に会合を開いていたのだ。

 そこでは、やはりアキモフ側が取り分を要求して来た。

 しかもシチョフ領の三分の一に値する領土を松永家から割譲するように、との馬鹿げた要求だ。

 最初は高い額を提示して、徐々に引き下げると言う腹積もりだとしても、同盟勢力を相手にする言動ではない。

 俺は勿論反発したが、アキモフ側はシチョフ領の六分の一に相当する領土を割譲しろと言って来た。

 お前らは兵を出しただけで何もしてないだろうがと、言いたくなったが、ここでコンチンの出番である。

 彼に「ロマノフ家は金銭で結構です」と援護射撃を入れてもらう。

 そしてアキモフ側に対し、そちらの要求は道理に反していると、懇々と説明をした。

 それを受けて流石に二家を敵に回すのは得策ではないと踏んだのか、大人しく金銭で諦める事になったのだ。


 アキモフ家は自分で首を絞めたようなものだ。

 俺は以降の戦には、アキモフ家はエロシン家への牽制程度に留めるつもりだ。

 シチョフ家を手に入れた事で、松永家の国力は倍近くまで上昇した。

 その為、使い勝手の悪いアキモフ家に頼る必要は無くなったのである。

 

 話を軍議に戻そう。

 このような取り決めがあった為、アキモフ家は嫌そうな素振りを見せながらも、渋々と頷かざるを得なかったのである。


「そうかそうか、アキモフ家の方は筋が解っているようで何よりだ。しかし何も差し出せないのは気が引けるので、金貨五百枚を謝礼として差し上げようと思う。ぜひ受け取って欲しい」


 兵五十人で一人当たりの、戦費が金貨十枚も行っているとは到底思えないので、十分な謝礼だと考える。

 ロマノフ家にも同額の謝礼を渡した。

 だがその半分はコンチンの手柄として、彼の領地運営に充てる事になっている。


「では遠慮なく受け取らせて頂きます」


 と、一礼すると黙りこくってしまった。

 何か感じ悪いが無視だ、無視。


 同盟勢力に関してはこれで問題ないだろう。

 

 次はシチョフ領の処遇である。

 さすがにここも俺の直轄領にするには人手が足りなさ過ぎる。

 現在の松永領はすべて俺の直轄領と言う形になっているので、ここは誰かに与えてやりたい所である。


 一旦軍議はお開きにして、アキモフ家には退出してもらい、身内だけで話を続ける事にする。


「ようやく邪魔者が消えたな。これで気兼ねなく話せるわ。これから論功行賞を行う。ナターリャさんが居ないが、まあいいだろう」


 集まった面々を見回す。

 すると皆それなりには期待している感じはするな。

 前回は俺の個人的な戦だったが、今回は皆で勝ち取った勝利なので褒美に期待するのは当然だろう。


「では言い渡す。まずはバレス、そなたはクレンコフ村の戦い以降、ヤコブーツク攻略戦に代表されるように、数々の戦功を上げて来た。よってこれまでの貢献も踏まえ戦功第一とする。そして知行地としてシチョフ領の南西部を与える。そしておまけとして、息子のニコライとヒョードルにも幾許かの領地を与える」


 俺は地図に指で枠を描き具体的な位置を示す。

 バレスには大変世話になったのでこれ位は当然だろう。

 息子の二人も親譲りの豪腕で、二人でシチョフ家の当主を討ち取ったので、少ないが報いてやらないといけなかったのだ。

 

「秀雄殿、これはあまりにも過分ですぞ。これは旧クレンコフ領と同等以上の国力でないか。この半分で良いですわい。残りは他の者に与えてやって下さい」


 流石はバレス、アキモフとは大違いだ。 

 

「いや、あなたにはバラキン家とエロシン家の両方を牽制してもらう。この為にはそれなりの兵力と、有能な指揮官である事が不可欠だ。それに値するのはあなたかナターリャさんしかいない。ナターリャさんには別の役割があるので、ここはバレス、あなたしかいないんだ」


 本当にこの地はを安心して任せられるのはバレスしかいない。

 俺は頭を下げて頼み込もうとする。


「分かったわい。秀雄殿は当主なのだからそう簡単に頭を下げんでも良いですぞ。当主様のおっしゃる通り、このバレス命に代えても、両家に相対する事を約束しますぞ」

 

 バレスは胸をドンと叩いて、任せろと言って来た。

 そしてニコライとヒョードルも、バレスに続いて俺に謝辞を述べた。 

 

 では次に行こう。


「次にコンチン、お前は烏合の衆とも言える同盟軍を率い、兵力に勝るエロシン軍の足止めに成功した。さらに挟撃により同軍に打撃を与える事にも寄与した。さらにこれまでの内政面での貢献も加味すると戦功第二と言ってもいいだろう。お前にはシチョフ領北部を与える。だがそれでは現在の領地から飛び地になる為、俺の直轄地からキローフ村を割き、そこを代替地として与える事にする」


 コンチンに与えるのは約人口千人分だ。

 だが現在の彼の領土から離れると運営が難しくなるので、人口は少し減るが土地柄の良いキローフ村を与える事にした。


「有り難く頂戴致します。今後とも秀雄様の右腕となり得るよう精進して行く所存であります」


 コンチンは本当に感謝をしているみたいだ。

 そりゃあ命を狙われる状況から、領地も倍以上に加増されたのだから、喜ばないはずがない。


「さて戦功第三はナターリャさんだが、ここにはいないので後回しだ。彼女にはシチョフ領北西部と俺の直轄地を与え、対エロシンの先鋒となってもらうつもりでいる」


 彼女は今回の戦に参加できなくて、文句を言っていたので次はしっかり働いてもらう事にしよう。


 そして、レフ、セルゲイにシチョフ領南東部を与えた。

 後はリリ、ビアンカ、チカ、マルティナにも名目上の領地は与えたが、実質的には俺の直轄地となるだろう。

 あとはバレス隊の精鋭達にシチョフ領東部の土地を、区分けして与える事にした。

 

 これでシチョフ領の分配は終わりである。

 と思ったがマルティナがおずおずと手を上げて来た。

 

挿絵(By みてみん)

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