表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/167

第三十一話 追撃戦②

 馬を手に入れた事で、兵士達の進軍速度が格段に上がった。

 無論俺は馬なんか乗った事もないので、自力で走る。

 ビアンカとチカも同様にだ。


 俺達はウスリースク村を出立してから、その一つ先の人口百人程度の村で一晩の宿を借り受けた。

 その村もウスリースクと同様に、無条件で俺達に従ってくれた。

 もちろん見返りとして、施しを与える事は忘れない。


 明けて翌朝、俺達が次に標的とするのはエロシン領北東部における最大の町、ヤコブーツクだ。

 この町さえ奪取してしまえば、残りは頂いたも同然である。

 俺はまずこのヤコブーツクを取ってから、そこを基点としエロシン領北東部を平定する予定である。

 その後の進軍は、流石に防備を固められる可能性と、戦後の統治を上手くやれる自信が無い為、敵軍の様子を見ながら臨機応変に対応して行く事にしている。


 ここからヤコブーツクまでは、距離にして二十五キロメートル程だろうか。

 緩やかな下り傾斜が続くので、二時間も見れば十分到着できる距離である。

 上手く行けば今日中に落とせるかもしれない。


「ではこれからヤコブーツク目指して進軍するぞ。ここからは戦闘の可能性が高まると思われる。解っていると思うが、各員気を抜かないように」


『おう!』 

 

 バレス、レフを筆頭とする精鋭達はやる気十分のようだ。

 ちなみに、セルゲイはお留守番だ。

 さすがにマルティナとナターリャの女二人に後処理を任せるのは気が引けた為、レフとセルゲイのどちらかを残す事に決めたのである。

 なかなか二人とも譲らなかったので、俺がじゃんけんを教えてやり、それで決着を着ける事にした。

 その結果レフが勝ったと言う訳である。

 

 俺達は掛け声高らかに宿を借りた村を出立し、ヤコブーツクを目指し進軍を開始した。



---



 道中は流石はエロシンと言った所で、思いの外、道が整備されており、急がずとも二時間弱程進軍するとヤコブーツクの街姿を視界に納める事が出来た。


 ヤコブーツクはバレスの話によると人口二千程の町だ。

 だがそれは周囲の衛星都市も合わせた数であり、町自体の人口は六百人程である。

 町の中心には城と言っても受け入れられる程度の建物があり、非常時には町の周囲に点在する集落からも兵が集められ、その城に立てこもるらしい。


 そしてこのヤコブーツクを預かるのは、ヴィクトルの叔父に当たる人物で、名をロジオンと言う。

 エロシン家一門の中では年長者であり、それなりに有能であるらしい。

 現在そいつが居るかどうかは分からないが、そんな事は俺達には関係無い。

 ヤコブーツクはどちらにせよ、俺が頂かなければならないのだから。

 

 敵の様子を確認する為リリを偵察に行かせた所、城下町には兵士が居ないようだ。

 恐らく砦に集まっていると思われる。


「まずは、城下町に入り町民から話を聞く事にしよう。それから作戦を考える事にしたい」


 バレスをちら見すると、「うむ」と頷き返してくれた。

 意見が纏まったのを受けて、一団は町へ向けて堂々と進軍を開始した。 


 閉ざされた門を強引にこじ開けてヤコブーツクの城下町に侵入したが、建物は軒並み扉が閉められ、人の気配一つ見られない。

 恐らくロジオン当たりが、俺達の襲来を嗅ぎ付けて民に指示でも出したのだろう。


「物静かだな。取り合えず手頃な家に聞き込みを掛けてみるとしますか」


 俺は立ち並ぶ建物の中でも、一際大きな建物の戸口をドンドンと叩く。


「おーい、誰か居たら返事してくれー。俺達は民には危害を加えないと約束する。だから開けてくれないかー」


 と大声を掛けてみたが反応は無い。

 

「仕方ないな……」


 不本意だが、扉を力ずくで抉じ開ける事にした。

 ドン! という音と共に半壊された扉の向こう側には、中年の男が壁に張り付きながらうずくまっていた。


「強引な真似をして失礼した。先の言葉通り、あなたに危害を加えるつもりは全くない。これは迷惑代だ、受け取ってくれ」


 俺は信用してもらう為に金貨を数枚渡す。

 すると半信半疑ながらも町民の男は、こちらの話を聞く体制にはなったようだ。


「落ち着いた所悪いが、幾つか質問をさせてくれ」


 なるべく笑顔で語りかけると、町民の男は首肯した。

 そして俺は城の兵数と指揮官、エロシン軍の情報について、男が答えられる限りの情報を聞き出す事に成功した。


 男から聞き出した内容は以下の通りだ。

 まず砦に居るのはロジオン、彼は自身の領土を捨てる事は出来なかったらしく、自らの手勢である敗残兵を纏め上げ五十人程度で城に篭っているらしい。

 町民達は俺達を恐れてより、ロジオンに徴兵される事が嫌で家の中に引き篭っていたらしい。

  

 続いてエロシン軍の情報だが、やはり纏まった集団ではなく、散り散りになって自身が所属する地へ逃げ帰っているようである。

 これならばしばらくは軍として体裁を成さないだろう。

 

 いい情報が聞けた。

 城に篭るの凡その人数が分かったのは大きい。

 五十人程度ならば砦の全てを守りきる事は不可能だろう。

 これはいけそうだな。


「ありがとう。これで聞きたい事は終わりだ。後は戦いが終わるまで家の中で待っていてくれ。なるべく早く終わらせるからな」


 まだ震えている町民に礼を言ってから、俺達は建物の外に出る。

 

「五十人程度ならば、どうにかなりそうだ。だが俺は城の構造も地形も知らないから、策を練る事もできない。ここは思い切って力攻めで行こう」


「そうだのう。ここは我らの力の見せ所だな。秀雄殿、ここでこれまでの恩を返して見せますぞ!」

「士気の落ちた五十人の雑兵など私達の敵ではありませんな」 

『そうだそうだ』


 バレスもレフも他の兵達もやる気マンマンのようだ。

 

「よしならば、さっさと攻め落とすとしよう」


 俺達はやる決めたら行動は早く、小走りで城へ向かう。

 しばらくして城の外観が見えてきた。

 

 これはやはり城と言うよりは、館に毛が生えた程度だな。

 クレンコフ家の山城に比べて、こちらはどちらかと言うと、外観は西洋風の城に近いのかもしれない。

 大手門の前に水堀があり、ここを抜けると館への細く曲がりくねった道が続いている。

 その間もそれなりに仕掛けがあるのだろうが、その道はそのまま館へと繋がっているようだ。

 城の規模もそれ程ではないし、なんとかなりそうだな。


「バレスさん、準備はいいですか」

「おう! 秀雄殿の号令があれば何時でもいけるぞ」

「では行きましょうか……、突撃開始だ!」


 俺の掛け声と共に、全員が一団となって大手門を目指す。

 敵もその様子に気付いているようで、水堀を渡られないように銃眼から矢を放ち抵抗をする。

 しかし俺とリリが銃眼目掛けて魔法を放ち、それの付いている壁を破壊する。

 すると中の弓兵が丸見えになった。

 いい的が出来たので、俺とリリが各個撃破する。

 すると弓兵による反撃も止み、バレス隊が簡単に大手門前を占拠する事が出来た。

 

 今魔法を使ってみて分かったのだが、先日戦いで経験値を積みまくったお陰なのか、この程度の魔法を連発しても全然疲れなくなった。

 魔力量がさらに上がったのだ。

 最初の頃と比べると、四割程魔力量が増加しているように感じる。


 それはさて置き、銃眼の壁を壊した隙間から俺、リリ、ビアンカ、チカの四人で大手門の内側へと周り込み魔法をぶつけると、集まっていた三十人程の兵は被害を出しながら一目散に逃げて行った。

 この時何人かは、俺の魔法を見て戦意を無くしたのだろう。

 武器を捨てて投降してきた。


 そして投降してきた兵士らに大手門を開門させ、バレス達と合流しロジオンの居る館へ向け進撃を開始する。

 

 館へ向う坂の途中で、投石や煮え湯を掛けられるなどの嫌がらせはあったものの、カウンターで魔法を撃ち返してやったら黙りこくってしまった。

 その後もそれなりに手間を掛けた場面はあったものの、一人の死者も出さずに館へとたどり着くことが出来た。

   

 館には恐らく数十人の兵が待ち構えているだろう。

 ここは油断せずに行くとしよう。

 俺は扉をファイアーボールでぶっ飛ばし、中へと侵入する。

 するとやはりそこにはロジオンと見られる男を中心に、三十人程の兵が待ち構えていた。

 

 さあ殺り合おうか、と思い魔法を放つ準備を始めると、バレスが俺の肩を押しのけて先頭に立ち大声を張り上げた。


「わしと戦うつもりがあるなら相手になってやるぞ! さっさと掛かって来んかい!」


 と挑発する。

 

 するとロジオンと思われる男が、


「げぇ、バレス!!」


 と誰かさんも驚きの奇声を上げて、すぐさま武器を捨て投降の意を示した。

 大将が降伏したのを見て、他の兵士達もホッとしたような表情で次々と武器を捨て投降して来た。

 

 俺達はバレスのお陰もあり、無傷でヤコブーツク奪取に成功したのである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ