第百六十二話 南方諸国情勢確認 (南方諸国全土地図あり)
大和元年十二月三十一日
明日は大晦日である。
松永家では年明けに新年会、その後論功行賞を行う。
今年末の松永家の勢力域は西はゴリアンから南はコトブス、トゥヘルにまで及んでいる。
ゴリアンに関してだが、後を任せたコンチンの働きにより、フィー家、フェー家を味方に付け参戦させた。
その効果もあり、ゴルトベルガー家、エッフェンベルク家に付き従っていた豪族らが独自で松永家に帰順したい旨を伝えてきたのだ。
一度その流れがおきれば、雪崩れ込むように次々とゴルトベルガー家を見限る者が続出した。
しかし最期までゴルトベルガー家当主は降伏をしなかったので、帰参した者らを含めた三千の兵で総攻撃をかけゴルトベルガー家を滅亡させたのだ。
これがつい五日前の出来事である。
彼らにとっては悲しいクリスマスだったね。
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「コンチン、ご苦労だったな。流石の手腕だ。年内に決着がつくとは恐れ入ったぞ」
「コンチン様、長期間の任務ご苦労様でした」
俺とエミーリアが一仕事を終え本拠に帰還したコンチンに労いの言葉を掛ける。
「いえいえ。三太夫殿たち忍衆の活躍がなければこうも順調にはいきませんでした。年明けの論功行賞では私よりも彼らに報いてあげてください」
「確かに三太夫がいなければあと二月は延びたやもしれんな。しかし、お前の指揮があったの話しだ。まあ今から領地配分については話すとしよう」
「承知しました。まずはその前に、今回の戦で得た領土を確認しましょう」
そうだな。
おっと、確か段蔵らが南方諸国全域の情報をまとめてくれたんだった。
ついでに南方諸国全域の情勢確認も行うとしよう。
「うむ、では地図だ。ジーモン頼む」
「はいでおじゃるー」
俺はジーモンから手渡された地図を机上に広げる。
「二人共見てくれ。実は忍衆のおかげで詳細な地図が完成したのだ」
この地図には主な勢力の分布が記されている。
そいて、添付書類にはそれらの勢力の国力が記載されていた。
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色付けされた地域は各勢力の従属勢力をも加えた支配領域になります。
色付けされていない白色部分は複数勢力が混在している地域になります。
従属勢力の個別情報と共に別途資料で説明します。
桃:松永家 石高五十万石 同盟:ファイアージンガー家 教会:仇敵
紫:ファイアージンガー家 石高五十五万石 同盟:松永家 教会:仇敵
赤:アホライネン家 石高六十五石 同盟:教会(半従属) 教会:親密
橙:教会 石高百二十万石 同盟:アホライネン家
黄銅:教会従属勢力 石高六十石 同盟:教会(従属) 教会:友好 備考:教会に従っている複数勢力
茶:アキーノ家 石高六十石 同盟:ベネット家 教会:敵対
黄緑:湖北連合 石高二十五石 同盟:湖北連合内で複数勢力が婚姻関係にある 教会:友好
青:ベネット家 石高三十石 同盟:アキーノ家 教会:中立 備考:ローズ公国と連携し亜人領域と敵対
クリーム:クルル家 石高十五万石 同盟:なし 教会:友好(従属間近)
灰:ドゥーン海賊国 石高百石 同盟:ベリルヘンゲン傭兵国 教会:仇敵
追記:亜人領域について
ローズ公国とベネット家に挟まれ苦戦。
松永家との連携を画策中。
親書を持参しました。
近日中に使者が来ます。
生息種族はダークエルフ、魚人系、翼人族が中心。
A地点:古戦場 テーベの戦い
直近の教会勢とドゥーン海賊国と数万規模の合戦が発生。
結果は引き分け。
B地点:古戦場 カイロネイアの戦い
教会勢とドゥーン海賊国の戦い
ベリルゲンゲン傭兵国より多くの援軍が派遣
教会勢は戦線後退を余儀なくされた。
大森林:妖精族の話し通り未発見迷宮が多数存在すると思われる。
大湖:イツクシマに大規模迷宮 その他の小島にも迷宮あり。
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端的にまとめるとこんな感じか。
全くいい仕事してくれるぜ。
「おお、これは素晴らしいですな!」
「本当ですわね! ここまでの情報量を得るのは教会でも難しいかもしれません」
コンチンにエミーリアは地図と共に添付された書類に目を向けると、すぐに感嘆した。
他国情勢をここまで詳しく収集するのは至難の業なのだ。
「うむ。だがこれでおおよその情勢は分かった。次なる一手はやはり西だな」
アホライネン家は守りを固めているようで自ら反撃をかける様子はみられない。
となるとここは国力の劣る湖北同盟を攻めるべきだ。
それに西の亜人領域の情勢が気になる。
三太夫の話によるとかなり切羽詰っているようだ。
俺としては今後協力関係を築きたいので、ぜひとも援軍を送りたい。
「はい。ですが、しばらくは領内の安定を図るべきでしょう」
「私もそう思いますわ」
ヴァンダイク領、ゴルトベルガー領、エッフェンベルク領では切り取った土地に加え、こちらに鞍替えした豪族連中も多い。
まずはここを落ち着けるのが先だな。
出来れば忠誠心の低い土地持ちを改易させるのも手だ。
「そうだな。五十万石まで膨れ上がったら領内統治に注力する必要があるな。また領内での生活水準の格差も減らすのも肝心だ」
「ええ」
だが気になるのが亜人領域の動向。
「ただ亜人領域への遠征ルートは確保したい」
「ですね。少数でしたらステップ地域から進軍することは可能ですが、大軍となると地竜の群れに感づかれるのは必至でしょう」
エミーリアの言うとおりだ。
しかし、ここから西へと突き抜けるのは不可能ではないが早晩には無理だ。
亜人領域からの親書には近く使者を送ると書いてあった。
まずは彼らの話を聞いてからだな。
「うむ、しばらくは領内統治に注力するか。新たな本拠地も決めねばならんし、やることは山積みだ」
「誠に……。人材確保もせねばなりませんね」
「ああ」
コンチンも切実な様子で内政官の必要性を感じているようだ。
「まあそれは年明けでよいだろう。今は領地分配だ。年明けには論功行賞を行いたい。一応俺の考えがある。それを土台に決めるとしよう」
俺はそう告げると、新たな知行地を書き記した地図を広げるのだった。
とりあえず暫定地図です。
今後変更の可能性もあります。