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第百六十一話 ゴルトベルガー家・ヴァンダイク家攻略戦⑧

 大和元年十一月十二日


 ファイアージンガー家との会談を終え領境は決まった。

 領都ヴァンホーヘンを含む北を松永家が、南をファイアージンガー家が領することとなった。

 面積的には松永家の四に対して、ファイアージンガー家の六だ。

 石高的には五分なのでいいだろう。

 アホライネン家を受け止めてくれると思えば五分の分割も悪くない。

 

 その後、俺はリリら足の速い部隊を率いゴルトベルガー連合を攻め立てているコンチンとナターリャさんに合流した。

 

 二人は本隊がヴァンダイク領を攻略している間にゴルトベルガー領の守りの薄い部分を効率的に攻めた。

 その結果ゴルトベルガー領の約五割、石高的には四万石を奪取したのだ。


「コンチン、ナターリャさんご苦労だった」

「いえ、たいした事はしてませんよ。守備兵がいない城を攻めただけですから」

「ほんとよねー。私が詠唱を始めたらすぐに降伏してくるのだもの。歯ごたえがなかったわー」

「ははは、そうですか。それでゴルトベルガー軍は要衝の城で守りを固めているのか?」


 ゴルトベルガー連合は、松永家の強さに恐れをなしたのかその戦力を集中させ、なんとか本拠を守り抜くつもりらしい。

 こちらが連戦であること見越しての戦略だろう。


「はい。あちらは日程的にそろそろこちらが兵を退くと考えているはずです。なんとか守って時間を稼ぐ算段かと」


 松永軍はここのところ連戦だ。

 そろそろ疲れが溜まってきてもおかしくはない。

 事実それなりに被害は出ている。

 ゴルトベルガー家を強引に攻め落とすこともできようが、となると無傷での奪取とはいかないだろう。


「なるほど、ゴルトベルガー当主は無能ではないか」

「ですね。流石にシュミット家を追い詰めていただけはあります」

「となると回りから崩していくのが適当とみるが、……コンチンはどう思う?」

「私はまず同盟のエッフェンベルガー家に使者を送り寝返りを持ちかけます。それと同時にゴルトベルガー家の西にあるフェー家、フィー家に使者を送りましょう。ゴルトベルガー家を攻め立てるようにと」

「ふむ、エッフェンベルガー家はともかく、フェー家とフィー家はアホライネンの脅威に晒されていたようだ。此度の結果をみて傘下に入るやもしれんな」


 エッフェンベルガー家はゴルトベルガー家と婚姻関係になるから寝返りは微妙だが、フェー家、フィー家ならば待遇次第でいけそうな気がする。 

 

「はい。あそこは国力も低く緩衝地帯のような扱いでした。アホライネン家、ニールセン家を中心とする湖北連合、さらにはゴルトベルガー家に囲まれておりましたため」

「しかし、事情が変わったと」

「ええ、我々がゴルトベルガー家とアホライネン家の影響力を排除しました。フェー家・フィー家はどこか寄主を決める必要性があります」


 コンチンはいい笑顔でそう告げた。

 まあ寄主を決めなければ、松永家が強引に盗るのだがな。

 コンチンもそのことは十分承知した上での発言だろうて。


「だな。とりあえず俺はマツナガグラードに帰る。後は任せていいか?」


 そろそろ本拠に帰り溜まった内政を決済せねばならない。

 しかしマツナガグラードへ帰還すると臨機応変な対応が難しい。

 そろそろ本拠地を変更せねばな。

 場所は、旧ホフマン領都ゼーヴェステンと言いたいが、ここはバレスが頑張って統治しているのでまた鞍替えするのは可哀相だ。

 ならば盗ったばかりのヴァンダイク家領都だったヴァンホーヘンが適当か。

 トゥヘル川を下ればいつでもアホライネン領に侵攻できる姿勢を示すのは悪くない。

 

「お任せください」

「おう、兵はどれほど残せばいい?」

「二千で十分です。調略をしながら、続けて手薄な部分をじわじわ崩すだけですので」

「うむ、了解した。任せたぞ」

「ははっ」


 俺はゴルトベルガー領の攻略はコンチンに任せ、一先ず本拠に帰ることにした。

 あとはコンチンが逐一連絡を入れながら上手くやってくれるだろう。


 

---



 大和元年十一月三十日



 ここは教会総本山。

 松永家により神聖組・アホライネン軍がコテンパンにやられたことを受けて、ただいま緊急会議中である。

 召集されたのは、神聖組組長ミーサ、教会騎士団長ヴィトーリオ、そしてアホライネン家当主ミカ(男)である。

 

「教皇様教皇様! なんとかして下さい! 松永が調子乗りすぎなのよん! チョーさんにアキーナを殺りやがったのよん! もう生かしておけねえ!!」


 教皇と顔を合わせるなり口を開いたのは神聖組み組長ミーサである。

 彼は、本名はイサミ=ドーゴンというのだが可愛らしくないのでミーサと改名し呼ばせている。


「イサミ! 教皇様の前で口が過ぎるぞ!」


 と教会騎士団長ヴィトーリオがたしなめる。

 

「ヴィト君、ミーサって呼んで! 騎士団は被害が出てないから自分は冷静なんでしょ! ヴィト君は昔からそう! 私の気持ちなんてまるで無視! 去年には勝手にあんなくされビッチと……」


 余談だが、ミーサとヴィトーリオは幼馴染である。

 ミーサ(男)が勝手にヴィトーリオに対して恋心を抱いていたのだが、無論ヴィトーリオにその気持ちなどまるでなく、教会から派遣された巫女とあっさり結婚してしまったのだった。

 ミーサとしてはやるせない気持ちでいっぱいなのだ。

 

「……」


 ヴィトーリオは何も言えない。いや言えるはずがない。

 ミーサがガチホモだとしても親友でもあるので、下手に刺激するのもはばかられるのだ。

 

「お二人とも落ちつきなされ。ここは冷静に考えるべきだ。現在の状況を鑑みれば、我らは松永家に注力することはできぬ。もちろん他勢力を手打ちをすれば別だがな。しかし、たとえ松永に力を傾けても得るものは少なく、失うものは大きい。松永・ファイアージンガーに対しては守りを固め、これ以上の勢力拡大を許さぬ方向にすべきだろう」


 口を挟んだのはアホライネン家当主ミハエル。

 彼は教皇の娘を貰いうけ、外戚として教会内でミーサ、ヴィトーリオに並ぶ権勢を持つ。


「ミハエル殿! 私達はチョーさんを失ってるのよん! 放置しておけないわん! 制裁よ、制裁!!」


 ミーサは間髪いれず反論をする。

 彼としては殿を引き受けて甚大な被害を被っているので引き下がりたくはない。


「イサミ、ここは僕もミハエル殿に賛成だ。冷静になれ。例え松永を倒したとしてもその報酬は労力に見合わん。さらに亜人領に接し統治もままならぬだろう。松永は捨て置くべきだ」


 ミハエルとヴィトーリオは松永家の実力を冷静に分析していた。

 松永連合の石高は多く見積もってもせいぜい四十万石。

 しかし、その兵は精鋭の集団だ。

 ここを自ら攻め込むには割に合わない。

 ならば石高の高い大湖南岸を完全に手中に収め、西の教皇領と領土を接し、さらにはヴィトーリオ率いる教会騎士団が中心となり、現在一進一退の攻防を繰り広げているドゥーン海賊国に手を伸ばした方が建設的であると。

 さすればその石高は数百万石となり松永家など恐れるに足りない存在になるのだから。


「わかるわ! わかるわよー! でも私の気持ちに収まりがつかないのよん!!」


 ミーサもわざわざ北に出張る必要性は感じていない。

 それよりも他に戦力を集中するべきと理性は訴えている。

 東はドゥーン海賊国、さらにはベリルヘンゲン傭兵国が援軍を送っている。

 さらに大湖西では成り上がりのアキーノ家などの群雄が西の教皇領を狙う。

 先の戦で戦力を削られたことを考慮すれば、北は守りを固めるべきなのである。

 守れば松永・ファイアージンガー家も簡単に攻め入ることはできない。


「イサミ! いい加減にしろ!!」

「だってだってー」


 ミーサはだだをこねる。


「うぉっほん! そなたらの気持ちはわかった。我としては松永のような異分子を放置するのは不愉快である。しかし、奴らよりドーゥンの異教徒を征伐することが第一である。ここは北は守るべきであろう。無論ミーサの思いもわかるがの……」


 ここで、これまで三人の話しを黙って聞いていた教皇が重い口を開いた。


「教皇様……、でも……」


 ミーサは流石に教皇に対して強く出れないが、まだ諦めきれていない。


「最期まで聞きなさい。もし今後松永が脅威になるならば北教会に使者を送ろう」

「北ですか……!?」

「しかし、あそことは二百年前の大シスマ以来不干渉を誓っているはず……


 ヴィトーリオとミハエルは驚きを隠せないでいる。


 北教会とは三公国に本拠を構える一大宗派である。

 北教会は三公国に影響力を保持しており、三公爵は北教会の宗派に属する。

 また、かつてはこちら南教会と一つだったが、様々な問題から分裂している。

 

「あくまでも万が一である。あちらも松永のような異分子が力を持つことは気に食わんだろう」

「なるほどねん。でも私の心のもやもやはどうすれば……」

「ヴィトーリオよ。今週一杯ミーサと訓練してやれ」

「教皇様!!」


 ミーサは喜色満面になった。


「そ、それは……」


 ヴィトーリオはあからさまに表情を曇らせる。


「ありがとうございますわん! ここは騎士団と合同訓練で引き締めますわん。私はヴィト君と模擬戦で肌と肌のぶつかり合いですわん!」

「うむうむ、精進するのであるぞ」


 教皇は満足気な様子であった。


「では教皇様、今後は北は守り、南は攻めるとの方針で進めてまいります」

「うむ。それでよい。ヴィトーリオ、ミーサもわかったな」

「はっ」

「わかったわん」


 ミハエルは二人を横目に教皇に確認をし、教皇は正式に三人に今後の方針を伝えた。


 教会としては北教会に頼み三公国の力を借りるまで追い込まれてはいない。

 松永家としてはその点は僥倖だったというよう。

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