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第百六十話 ゴルトベルガー家・ヴァンダイク家攻略戦⑦

 大和元年十一月五日


 松永軍はアホライネン軍への追撃の手を緩めなかった。

 俺は自ら三千以上の兵を率いヴァンダイク領内へ雪崩れ込んだ。

 その一方でナターリャさんとコンチンに二千の兵を預け、平行してゴルトベルガー領の攻略を任せた。

 ゴルトベルガー家は領都の兵を集めているので、コンチンが周辺部を削ることを提案したので了承した。

 

 ヴァンダイク家の兵力は千にも満たないだろう。

 アホライネン軍も尻尾を巻いて本国にご帰還だ。

 さらに、いいのか悪いのかファイアージンガー家もここぞとばかりにヴァンダイク領に攻め入ったとの報が入った。

 ヴァンダイク領は二家の草刈場となったのだ。

 ここからはスピード勝負になる。


「ということで、機動力のあるリリ、バレス、ダミアン、アルバロ、そなたらは各自手勢を率いてヴァンダイク領都ヴァンホーヘンを目指せ。ファイアージンガー家に先を越されぬよう、途中の城には脇目もふれるなよ」


「りょーかーい!」

『ハハッ』

「おうよ!」 


 四人が力強く返答する。


 俺はヴァンダイク領北部を制圧しながら領都ヴァンホーヘンへと進軍予定である。



---



 大和元年十一月六日


 リリ、バレス、ダミアン、アルバロは七百の兵を引き連れ翌日には領都ヴァンホーヘンに到着した。


「リリ様、皆様。城内を偵察してきましたがいまだファイアージンガー軍が訪れた形跡はございません。また城内に守備兵は五百程でした。今攻め入れば容易に落とせるかと思われますわ」


 水妖精のローラが報告する。

 ヴァンダイク軍も先の戦いで兵の半数は失い、領都に置ける守備隊は限られていた。

 

「うん、ありがとー。どーする? ちゃっちゃと落としちゃう?」


 リリはバレスらの意見を仰ぐことにした。


「言うまでもないですの。突撃じゃ」

「バレス殿の言う通りだな」

「俺も異論なしだ。今日中には落としてしまおう」


 バレス、アルバロ、ダミアンも攻撃に賛成とのこと。


「じゃーやっちゃおう!! バレス、指揮はお願いね」

「うむ、了解した。リリ殿は援護を頼む。ダミアン殿、アルバロ殿はワシと共に突撃するぞ!」

「オッケー!」

「承知した」

「腕が鳴るのう」


 バレスは陣形を整え、攻撃命令を下す。


 妖精兵が城壁のヴァンダイク兵を攻撃し、その隙にアルバロら猫族が城壁を軽々とよじ登る。

 簡単に足場を確保した。

 続いて猫族がバレス隊、ダミアンらのためにロープをつるし、そこを歩兵がよじ登る。

 

 あとは足場を確保しながら敵兵を切り裂くのみ。

 三十分もバレス、アルバロが暴れ廻れば、ヴァンダイク兵の戦意は著しく低下した。


「これ以上の抵抗は無駄じゃ! 降伏せよ! さすれば命は取らん!!」


 バレスはここが潮時とばかりに大声で投降を促す。


「バッバレス!! こっ降伏します!」

「いっ、命ばかりはお助けをー」

「おっ俺も俺も!」


 すると、待ってましたとばかりにヴァンダイク兵は次々を獲物を投げ捨て投降の意を示した。

 

 松永軍はその機動力を十分に利用しファイアージンガー家の火事場泥棒を許さなかった。



---



 大和元年十一月十日


 

 俺は、リリ、バレスらが領都ヴァンホーヘンを無事落としたとの報を受け、彼らにさらなる進軍を命じた。


 そして昨日、ファイアージンガー軍とぶつかったとのこと。

 結果的にヴァンダイク領の七割は松永家が、三割をファイアージンガー家で分け合った。

 しかし、ファイアージンガー家側で不満があるらしい。


 それも含めてこれから領都ヴァンホーヘンでファイアージンガー家側と会談をする予定だ。

 あちらも当主のユリアン自らおでましとのこと。

 前にも触れたが、当主ユリアンは戦果を示すため今回も自ら兵を率いてヴァンダイク領へと進軍した。

 良識派のイザベラは内政で手一杯のようで今回はいない。

 あちらの一枚岩ではないようだからな。

 面倒事にならなければいいが……。


「秀雄様ー。到着でおじゃるー」

「うむ。案内しろ」


 ここは敢えて迎えにいかない。

 今回の戦で加えた領地で、ファイアジンガーにも退け劣らない国力は手にしたはずだ。

 その上、アホライネン軍と神聖組をコテンパンに叩きのめしたのだ。

 ファイアージンガー家の若き当主ユリアンが一番欲しい戦での結果を出し続けている俺がなぜ迎えに行く。

 わざわざ媚びへつらう必要もないのだ。

 

 ということで俺はどっかり座りファイアージンガー家の面々を待つ。


 しばし後、扉が開かれファイアージンガー家の面々が入る。

 先頭にユリアンと思われる青年が、後ろにAランク冒険者の重臣『業火のボルケーノ』さんらしき男を引き連れて入場してきた。

 

「秀雄様、こちらがファイアージンガー家当主のユリアン様でおじゃる。で、こちらの方が重臣のボルケーノ殿でおじゃる」


 とジーモンが紹介してくれた。

 

「うむ。ユリアン殿にボルケーノ殿、俺が松永秀雄だ。この度の戦、御家のご助力感謝いたす。今日は戦勝祝いといこうじゃないか」


 俺はユリアンに対し、所詮は血統だけで当主についたガキといった具合で心底では見下している。

 それが態度にでるのはしょうがない。

 俺はここまでくるのでそれなりに修羅場をくぐってきたという自負はある。


「ちょっと待て! 松永殿、我は戦勝祝いに来たのではない! 領地配分について話し合いに来たのだ」


 ユリアンが俺のペースに乗るまいとなんとか言い返す。


「ああ、そうだったか。では領地に関しては現状のままでよろしいだろう。お互い己が手で掴んだ所で線引きといこう」


 俺はあたかも当然とういう風にドヤ顔で言い切った。


「だっ、だが我らの関係からして、この配分はおかしい。せめて五分の配分が適切であろう」

「そうだろうか。俺たちは死力を尽くしてアホライネンを単独で撃破したのだ。その果実を得るのは当然のことよ。こちらがヴァンダイク領全土を収めてもお釣りがくるさ」

「なっ……」

「神聖組を壊滅に追い込んだんだぞ。長年ファイアージンガー家を苦しめていた」

「しっ、しかし……」


 喰らい付いてくるユリアンを一蹴する。

 と、そこに…… 


「松永殿! さっきから黙って聞いておればー、お主は我らを愚弄するのか! お主が此度の戦で勝利できたのは我らがアホライネンに睨みを利かせていたからだ! それが無くば、今頃お主が地はアホライネンに蹂躙されておるわ! 逆にこちらが礼としてヴァンダイク領全土を掌握しても釣りがくるわ!!」


 ユリアンが場数の違いを見せ付けられているのが我慢できなかったのか、後ろで控えていたボルケーノさんが噴火寸前の様子で噛み付いてきた。

 ったくこういう馬鹿は本当に迷惑だ。

 この程度の奴らが腕力のみで重臣に居座っているのだから、ユリアンはいいように利用されるだろう。

 叔母で後見のイザベラの苦労が読み取れるわ。


「ボルケーノといったか。ここは当主同士の話し合いだ。三下に用はない。下がれ!」

「ぶっ無礼な!!」


 俺の簡単た挑発にひっかかったボルケーノさんは、ドッカンと噴火し剣に手を掛ける。


「まっ、待て」


 ユリアンの制止も聞かずに、ボルケーノは俺に切りかかってきた。

 アホのことだからここで俺を切ってしまえば万事うまくいくとでも考えてたのだろうな。

 

 無論ボルケーノの剣は俺に届きもしなかった。


 リリ、バレス、らAランク以上の強者がごろごろいる中でこの行いは無謀の一言に尽きる。

 バレスにその剣を止められたボルケーノは、皆にフルボッコにされて縛り上げられた。


「ボルケーノ殿はお疲れのようだ。医務室へ運んでおけ」

「りょ、了解でおじゃるー」


 ボルケーノをジーモンに運ばせ、ようやく邪魔者無くユリアンと対峙する。


「ユリアン殿」

「な、なんであろう」

「家臣はよく選びなされ。さもなければ破滅の道が待ってるぞ」

「……」


 ユリアンは言葉が出ない様子。


「俺の見たところ、あなたの叔母上は信頼に足る人物だ。彼女の言葉をよく聞き、信の置ける人物を側に置けば、おのずと功績はついてくる」

「しかし……」

「ボルケーノのような者の発言力が強く、無視すれば反乱される恐れがある」

「……」

「そのために戦で箔をつける必要があった」

「……」


 ユリアンは図星だったらしい。目を見開いて言葉出ないままだ。


「ふむ……、ではこうしよう。今回ヴァンダイク領の南半分は差し上げよう。すなわち五分の分割だ」

「えっ……、よいのか!?」

「でなければそなたの功績が立たんからな。だがボルケーノはそなたが罰せよ。理由は俺に手を掛けたことでだ。その上でそなたの手腕で五分の分割に持っていったことにすればよい。こちらから叔母上には話を通しておこう」

 

 ここでボルケーノを殺しそのまま本国へ返すこともできる。

 となると、ユリアンの立場は危うくなり、彼の意向はともかく松永家と衝突に道に進みかねん。

 まあその前にイザベラを筆頭とする良識派と対立し家内は割れるだろうが。

  

 一方で俺の案を呑めば、松永家に大きな貸しができ、頭が上がらなくなるだろう。

 少なくとも我らに今後理不尽な態度で臨むことは不可能になる。

 

 俺に従うか、重臣連中に従うか。

 ある意味究極の選択だな。


「わかった……、松永殿の提案を呑む。だが、アホライネン家、教会に対して共闘することは約束してもらおう。お互いの領地に攻撃があったときは必ず三千以上の援軍を送ることを。そして我の妹を娶ってもらいたい」

「ああ構わんよ」


 これで、ファイアージンガー家はアホライネン家に対してよい防波堤になるだろう。

 その隙にこちらは小勢力を併合し国力を高めればいい。


「本当であるか。感謝いたす」


 ユリアンは素直に礼を述べた。

 うーむ、根はよい子なのだろうがファイアージンガー家ほどの大家の惣領としては物足りんかもしれん……。

 

「気にするな。さあ、改めて祝勝祝いと行こうではないか」

「……そうであるな」


 ここで俺とユリアンの上下関係は決まった。

 まだ国力では差は大きくないが、個人的な部分でだ。

 あとはイザベラ叔母さんに話をつけ、ファイアージンガー家内のゴミ家臣連中を粛清させる方向にもっていくのが最上だろう。

 とは言うものの実際にそれが実現できるかはユリアン次第だ。

 俺の見たところでは、いささか覇気が足らんがな。

 まあ様子を見るしかない。


 だがとりあえずファイアージンガー家との関係には一区切りが付きそうだ。

 南はしばらく手出ししなくても大丈夫だろう。

 

 次は西か南かだな。


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