第百五十八話 ゴルトベルガー家攻略戦⑤
昨日からで三話目になります。
ロマノフ、アキモフ、ピアジンスキー軍が攻撃を開始してから二時間が経過した。
既に敵の横陣は十枚の内七枚が突き破られ崩壊寸前だ。
破られた陣の残兵をかき集めて横陣に加えているがほとんど意味はなしていない。
ダミアン率いるピアジンスキー騎兵の働きぶりは凄まじかった。
流石はかつて松永軍を苦しめただけはある。
勢いを失ったゴルトベルガー連合軍ではまともに相手ができないのは当然であった。
お忘れかと思うが、ゴロフキンら四天王も参戦している。
よくよく考えるまでもないが、彼らを一部隊として扱うとは贅沢すぎるな。
彼らにはそれぞれ一軍を預けても問題ないだろう。
リリたち妖精兵とナターリャさんの魔法兵たちも上空と後方から援護を続けている。
リリはまだまだやる気十分だったのだが、ブラニーが疲れてきたことに加え、大勢も決しつつあるのでそろそろお役目御免といったところだ。
「では締めといきましょう。獣人部隊を投入します」
「うむ」
最後に戦いたくてうずうずしていた、犬狼族、鬼族、熊族らの獣人を投入だ。
これで決まりだな。
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大和元年十月二十日
一週間が経過した。
その後ゴルトベルガー連合は退却を余儀なくされた。
もちろん松永軍は余勢を借り、守りが無いに等しいゴルトベルガー領内まで侵入した。
結果的に占領した土地はゴルトベルガ領の東部二万石程になった。
まだまだ余力はある。
なんかゴルトベルガー家がモブキャラのようにあっさり敗退してしまったが、こっちの陣容が充実していたが故だろう。
それに本番はこれからである。
有翼族からの伝令によれば、いまだヴァンダイク領に動きは無いとのこと。
おそらくはアホライネン軍と合流してから出陣するのだろう。
「先発隊がくるかと思ったが、アホライネンも慎重なこった。よほど俺たちは評価されているのかもな。もしくはゴルトベルガーはそう簡単にやられんと思い込み、時間的に余裕があると構えているかもしれん」
「あちらは戦力の分散は不利と考えているでしょう。今回はこちらの兵力が多いですからね。少なくとも兵力上で上回る必要性を感じているかと」
「コンチンもそうみるか。まだまだ舐めてくれていた方が楽だったのだがな。となると戦略を変える必要があるか? エミーリア、どうする」
予定では先発隊と小競り合いをするはずだったが少し具合が変わったかな。
「基本的な部分での変更はございません。まずはルール城からの敵進軍ルートに足止めと見せかけるために陣を敷きましょう。さすれば、足止めをすくくらいなのだから松永軍はゴルトベルガー軍にてこずり、まともに遣り合う気力がないと考えるはずです」
目的は敵をカラの町近くまで引き込むこと。
そのためには、奴らに松永軍が疲弊していることを見せねばならんからな。
「なるほど、その後はどうする?」
「アホライネン軍の攻勢が始まれば、被害が出ない範囲で戦います。そして、頃合いを見て退却をします。その際には、できればですが食糧も投げ捨てての逃走がよいかと。さすれば彼らは過信という名の自信を深めるでしょう」
「ふむ、しかし負けっぷりが良すぎると却って敵が警戒しないか?」
「流石は秀雄様、従来ならばその通りです。しかしこれを繰り返せすことが重要なのです。サーラ様やブラニー殿ら土魔法使いに活躍してもらい、退却後一定の間隔を開けて再び陣を敷きます。そしてまた足止めをする。しかし、しばらく戦ってから歯が立たないと見せかけてまた食糧を捨てて逃げる。これを五度も繰り返せば、アホライネン軍の過信は慢心に変わるはずです。そのタイミングで反転攻勢に出ればよいかと存じますわ」
素晴らしい。
アホライネン家は表面上は松永家に対して警戒心を強めてはいるが、奥底ではまだ侮りがあるだろう。
前回の戦いに参加していない将兵ならなおさらだ。
ゴルトベルガー連合と連戦という前提での戦いで、陣を捨てての敗走を繰り返せば流石に警戒心も薄まるだろうよ。
そこを上手く突いて……だな。
「うむ、俺は異論は無いぞ。コンチンはどうだ?」
「私も問題ありません。流石はエミーリアさんです」
「お二人にこうも褒められると照れますわ」
コンチンも納得の様子である。
ここは今回の山場だな。
勝利で松永家は群雄と呼んでも過言ではない一大勢力になる。
気合だ気合!
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大和元年十月二十六日
アホライネン家からの援軍四千、ヴァンダイク軍の援軍千とシュミット家の五百、神聖組四百を合わせて約六千と松永軍四千が対峙している。
我ら松永軍は急拵えの陣に籠もり、敵を跳ね返す構えを見せている。
こちらが全く攻めの姿勢を見せないので、痺れをきらしたアホライネン連合軍がゴーンゴーンと鐘を鳴らし突撃を開始した。
まずは、神聖組のガチホモの魔法隊二百による先制攻撃が来る。
「レジスト!!」
前線で指揮するエミーリアが指示を出し、妖精兵とナターリャさん率いる魔法隊がそれらを打ち消す。
「ふむ。まだまだうちの魔法隊は余裕があるな。妖精兵一に対して、神聖組二から三といった具合か?」
「はい、妖精兵は各個体がBランクですからね。それに匹敵する部隊は私の知る限りでは考えられませんね。神聖組の魔法兵の平均はCランク前後でしょうからこんなものでしょう」
とコンチンと戦況を見つめながら考察をする。
現在妖精兵はミラ方面に出張中のを除けは約八十だ。
妖精隊だけで敵の魔法隊を凌げる算段になる。
たとえ、アホライネン軍の魔法隊が出てきてもナターリャさんらがいるから問題はない。
またいざとなったら俺、リリ、ナターリャさんで神聖組五十は余裕で捌けるだろう。
リリで敵の大将格を封じて、俺とナターリャさんで雑兵を相手してもである。
今でも、ローラとブラニーが敵の大将格の小姓をいなしている位だもの。
それにこちらが大魔法を放てば敵はレジストせざるを得ない。
ただこの戦いで退却前提なのでその予定は無いが。
「だな。あとは敵の戦意を削がぬ程度に削りつつ、こちらに被害が出る前に退却か」
「はい、そのあたりはエミーリアさんに任せておけば問題ないでしょう」
「ああ」
退却のタイミングは重要なので、前線の指揮はエミーリアに任せている。
ゆっくり茶でもすすりながら待つとするか。
一時間後。
エミーリアから退却の合図が入った。
戦果としては敵の兵力は百程度は削れた。
それに対しこちらの被害は数える程度だ。
そろそろ敵が肉薄してきたので軽く槍を交えたところで撤退である。
「退くぞ!」
太鼓が鳴らされ退却に入る。
その際食糧も捨ててだ。
いざとなったらカラの町に行き、アイテムボックスに食糧をつめられるので飢える心配はない。
あとはこれを繰り返すだけだ。
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大和元年十一月一日
あれから野戦築城を繰り返し、五度アホライネン連合と矛を交えた。
どれもそれなりに戦ったのちに退却だ。
こちらとしてはサーラとブラニーら地妖精のお陰で、強度のある陣を配置でき、被害は百にも達していない。
ブラニーは疲れた疲れたとブーたれてたが、リリのとりなしにより地妖精共々頑張ってくれた。
もちろんサーラもだ。
それに対してアホライネン連合には、一回目の交戦で百、二回目で百、三回目で百五十、4回目で百五十、五回目で二百と、合計で七百程度の被害を与えている。
まあまあな被害が出ているのだが、毎回簡単に食糧や戦利品が毎回獲得できることと、死者の割合が少ないことからアホライネン連合内では慢心が生じているはずだ。
そして現在、戦線は予定通りカラの町近くまで後退をしている。
さて、そろそろ反転といこうじゃないか。
あと二話ほどストックあります。
なんとか次の展開までつなげたいです。