第百五十七話 ゴルトベルガー家攻略戦④
「エミーリアよ、お前の予想では敵援軍の先陣、つまりはヴァンダイク軍が来るまでは早くて八日だったか?」
正式にメッツェルダー家とハイデル家を傘下に収め、現在改めて軍議を開き作戦を練っている。
「はい、使者がヴァンダイク領に到着するまでに二日、兵を集めるのに三日、行軍に三日と見ます。兵力は駐屯しているアホライネン軍千とヴァンダイク軍千の計二千ほどかと」
「なるほど。しかし二千では我ら四千の前では簡単に蹴散らされるぞ」
「おそらくは、我々がゴルトベルガー家に対峙している隙にルール城に入るのでしょう。その上でアホライネン家からの援軍を待つつもりかと。もしくは万全を期して合流してからの可能性もあります」
「ふむ、ではアホライネンからの援軍は何日後と見る?」
「私は二週間後かと。今回はアホライネン家もそれなりの兵力を集めるはずです。なぜならば、彼らは前回松永家に完敗を喫しておりますので」
「だな。流石に今回は油断はないだろう。それで兵力的にはどれくらいになる?」
この期に及んで舐めた様子で望んでくれれば願ったり敵ったりだが、それはないな。
松永家がファイアージンガー家と組んだことはあちらにも知れ渡っているだろうしね。
「私の予想ですが、彼らはアホライネン領北部からできる限りの兵を集めるはずです。正確には分かりかねますが多くても三千まででしょう。なぜなら地理的にアホライネン領からはナヴァール湖と大湖を結ぶトゥヘル川を風魔法を使い昇らねばなりません。川幅とアホライネン家が保有する船数に魔法士を考慮に入れると三千が限界かと」
俺の予想も大体そんな感じだ。
忍の諜報活動で近隣諸国の兵力配置は分かっている。
アホライネン家北部の石高は二十万石程度はあるとのこと。
兵力的には多くて五千までは見積もるが、エミーリアの言う通り三千がいいとこだろう。
「あとは神聖組か」
前回ぶつかった神聖組が二中隊、兵力的には四百程度だったか。
補充されていなければ三百くらいに減っているかもな。
「はい」
「あれは予定通りカラのガチムチに任せるか。あとはアルバロの脳筋を当てれは喜んで相手するだろうよ」
レフ率いる別働隊には、カラの町のガチムチギルマス率いる冒険者連中と、アルバロ・アニータ夫婦率いる猫族を配属している。
今回は神聖組を逃さぬようにな。
「確かに彼らならばありえますね」
「ああ。さて、となるとだ。ゴルトベルガー連合を大体十日程度で蹴散らせばよいのか。問題はどこまでやるかだ」
ゴルトベルガー連合を領境から追い散らすのはさほど難しくはないだろう。
だが、アホライネンらに疲弊していると思わせねばならぬのと、後のゴルトベルガー領攻略を視野に入れてそれなりに打撃は与えておきたい。
「ここは攻め時です。ゴルトベルガーを反撃できぬ程に叩いておかねば、援軍のアホライネン軍が来襲時に挟撃される可能性が残ります。その可能性を排除するためにも大きな被害を与えるがよいかと考えます」
とエミーリアが発言する。
「エミーリアが言っているが、皆はどう思う?」
「私は無理の無い範囲でしたら進軍しても問題ないかと」
「私も問題ないと思うわー」
「ワシは殿の命令に従うまでじゃ」
コンチンにナターリャさん、バレスも特に異論はないようだ。
それ以外の者にも意見を求めたが、ピアジンスキー家から参戦のダミアンらも頷いている。
まあ重臣連中が賛成なのだから反対する奴もいまいて。
「よし決まりだ! まずは眼前のゴルトベルガー軍を叩く! 先陣は……、誰にするか。我と思う者はいるか!?」
いつもバレスら重臣ばかりに手柄をあげさせてもな。
そろそろ新顔にも手柄を与えねばならん。
「秀雄様! ここは我らメッツェルダー家とハイデル家にお任せくだされ!」
まずはパトリックにドロシーが手を上げた。
「いいや、ここはロマノフ家がやりましょう」
とエゴールも手を上げる。
その後もダミアンや獣人たちも続々と手をあげる。
「ううむ。我慢できぬわい。わしもわしもじゃ!」
と最後にバレスが手を上げた。
おい!
流石にバレスにどうぞどうぞと譲るわけにはいかん。
ここは最初に手を上げたパトリックにドロシーでいくか。
「わかったわかった。先鋒はパトリックとドロシーに任せる。手勢の他に援護として魔法隊を付けよう。リリにナターリャさん頼む」
俺としては二人に手柄を与えたいのでリリ率いる妖精兵八十に、ナターリャさん率いる魔法隊百を援護として付けることにした。
「りょかーい。任せといて!」
「もちろんよー。久しぶりに滾るわねー」
リリはともかくナターリャさんがやる気になっている。
これは敵がやばいな。
「よし、これでまとまったな。詳細は追って知らせる。攻撃開始は明日だ。それまで各自体を休めておくように」
『ははっ』
ひとまず軍議はお開きだ。
俺も今日は早めに休むとしよう。
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大和元年十月十三日
砦の門が開かれ松永軍が動き出す。
とはいっても出てきたのは俺と本陣詰めの兵ばかりだ。
何故かというと砦のキャパシティを松永軍の兵力が超えてしまったため、公平を期して本部以外は陣を敷くことになったのだ。
「さて、出陣だ。太鼓を鳴らせ!」
「了解しましたでおじゃる!」
俺の命を受け勢いよく太鼓が鳴らされ、兵を再編し再び布陣しているゴルトベルガー連合へと攻撃を開始する。
まずは先鋒のパトリックとドロシーの手勢の千だ。
彼らはここで手柄を立てねば後がないとの思いなのか、こちらまで聞こえるほど大きな掛け声をあげ、士気高々に突撃を開始した。
その上空にはリリ率いる妖精兵が編隊を組んで飛行している。
さらにナターリャさん率いる魔法兵も後方から援護できるよう準備万端だ。
俺は神輿の上から観戦するとしよう。
「よっと」
ピョンと飛び上がり神輿上に着地し胡坐をかく。
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「みんないくよー!」
リリが率いる妖精隊は、リリを先頭に直後にローラとブラニー、その後ろに他の妖精たちと鋒矢の形を敷いている。
リリは同族とともにあることでいつもに増して魔力が漲りを感じていた。
それは妖精族が王の血がなすものなのかもしれない。
『おおーー!!』
リリに引っ張られ、彼女に従う妖精たちも気力に満ち溢れていた。
その結果が鋒矢という形の編隊になったのだ。
妖精達は自分達だけでも敵陣を突き破れると確信している。
「まずはアタシからー。んんー、トゲトゲ攻撃ー!」
口火を切ったのはリリ。
挨拶とばかりに長さ1メートルはゆうにあるトゲを連続して三十本射出。
「みんな、リリ様に続きますよ! 撃てー!!」
リリに続いてローラの号令と共に、他の妖精兵たちが一斉に魔法を放つ。
水妖精からは水弾が、地妖精からは岩弾がそれぞれ射出され敵に襲い掛かる。
バァァンと大音が響き渡る。
個々がBランクの実力はある妖精兵の魔法を全てレジストするのは、ゴルトベルガー連合の魔法兵では無理なことだった。
そしてさらに、
「喰らいなさい!!」
ナターリャさんら魔法隊百が追い討ちとばかりに魔法を放ち援護をする。
バババンッ
先程よりも大きな衝撃だ。
妖精兵の初撃ですらヒイヒイいっていたところにこの追撃である。
防ぐことは不可能であった。
「この機を逃すな! 全軍突撃だ!」
「メッツェルダー家に遅れを取るな! 突撃よ!」
先制攻撃に成功したところで、パトリックのメッツェルダー軍とドロシーのハイデル軍が突っ込む。
士気旺盛は彼らにとって、昨日の戦いで魔法とバレスら松永兵の恐怖を植えつけられたゴルトベルガー連合兵は相手にならなかった。
グサリグサリとゴルトベルガー連合兵は槍の餌食となるのみだった。
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攻撃開始から二時間は経過した。
ゴルトベルガー連合も無能ではないらしくそれなりの抵抗はみせてはいる。
しかし、こちらの攻撃を完全に受け止めることが出来ていない。
上空から確認したが、こちらの突撃体制を受け、丘の上から二百程の横陣を十枚重ねて受け止める算段だったようだ。
だがすでに四枚まで破られている。
こちらはバレスら主力は温存しているのにだ。
「この戦法は鉄板だな」
初撃で魔法で被害を与え精鋭で切りこむ。
そして魔法兵で個別に援護をしつつ蹂躙する。
「ええ、この辺りでは魔法戦に於いて我々に正面から対抗できる勢力はおりませんからね」
とコンチンが相槌を打つ。
妖精兵が百程加入したのは大き過ぎる。
一人で一般の魔法兵数人分以上の働きをするのだからな。
それに加えナターリャさんの魔法隊、有翼族の魔法隊が二十、さらには雷鳥のアンネローゼさんに頼めばさらに有翼族の魔法隊を調達することが可能だ。
「このままいけば、騎兵を使い横腹を叩く必要もないだろう」
「ですね……。話は変わりますが、そろそろ交代しましょうか」
「ああそうだな、パトリック達も疲れが見えてきた」
「はっ、エゴール殿、ボリス殿、ダミアン殿に伝令を。援護としてエミーリアさんの弓騎兵をつけましょう」
「うむ、ジーモン伝令を」
「了解でおじゃる!」
ささっとジーモンが伝令に走る。
松永軍の第二陣はロマノフ家、アキモフ家、ピアジンスキー家の計千二百に、本体からエミーリアの手勢百。
ボリスはともかくエゴールにダミアンがいるので問題ないだろう。
俺はまだまだ高みの見物と行くかな。