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第百五十六話 ゴルトベルガー家攻略戦③

 大和元年十月十二日


 朝は九時を回ったところ、松永軍はカミルが引き篭もっているルール城を横に見ながらゴルトベルガー軍を蹴散らすために進軍を開始する。

 今朝は早くより重臣らを集め軍議を行った。

 そこで早急に今後の作戦を伝えた。

 もちろん別働隊を率いるレフに対してもウルフら有翼族を飛ばしで伝令をする。

  

 さて、パトリックの話によると、領境には二千を超えるゴルトベルガー・エッフェンベルガー連合が陣取っている。

 それに対しハイデル家当主のドロシーが五百の兵で砦に籠もりなんとか足止めをしている状況だ。

 本来ならばさらに五百程度の兵が籠もるはずなのだが、我らを警戒してかルール城から同行するとの形になった。

 率いるのはパトリックで、カミルは療養中だ。


「ではワシらはいち早く援軍に向いまするぞ!」

「メンドーですがいってきますー」


「おう、頼んだぞ!」


 バレスと地妖精のブラニーとそれぞれ出立の言葉を交わす。


 バレスには騎兵を、ブラニーには妖精兵を率いてもらい本体に先んじて援軍に向わせる。

 五百対二千では、万が一があってはまずいからだ。


「いくぞ!」

「みんなー、いきますよー」


 二人の号令の後、バレス率いる騎兵四百と、ブラニー率いる妖精兵五十が出立する。

 ブラニーはバレスが操るバイコーンの上にチョコンと座りながらの出陣である。  

 自らの羽を使うのは億劫なのであろう。


 そして、俺たち本軍は三千以上の兵を引き連れ堂々とシュミット家領内を行軍する。



---



 バレスとブラニーらはその機動力を生かし昼過ぎには砦へ到着した。

 すると、そこではタイミング良いのか悪いのかゴルトベルガー連合が総攻撃の真っ最中であった。


「ほほう、これは良い時に着いたわい。助太刀せねばならんな! ブラニー殿、我らはこのまま敵の横腹に突撃しましょうぞ!」

「えー、とりあえず砦に入りましょうよー。私お腹空きましたー」

「いいや、ここは奇襲には絶好のタイミングだ。ブラニー殿、お願いしまずぞ。あとでワシの分もプリンも食べてよいから」


 バレスはちらっと腰巾着に入っているプリン五個をブラニーに見せ付ける。

 ナターリャ特製のドライアイス入りなので丸一日はもつ。

 

 ブラニーはこれまでのけだるそうな雰囲気から真逆に、カッと目を見開いてプリンを見つめる。


「プッ、プリンですか。五個全部食べてもよいのですか……?」


 そして半信半疑の眼差しでバレスに問いかけた。

 

「もちろんじゃ。ブラニー殿が尽力してくれるのならば、とりあえず二個ほど食べてもよいぞ」

「本当ですか!? 仕方ないですねー……、やりましょう。では早速プリンを二個お願いしますー」

「あいわかった。ほれ、食べなされ」


 ブラニーはバレスからプリンを受け取りウマウマと味わう。


 事前に秀雄からブラニーの扱いを伝えられていたバレスは、まんまと秀雄の言う通りにブラニーを操縦したのだった。


 三分後。


「攻撃開始!! かかれぃ!!」


 プリンをペロリと平らげたブラニーを確認し、バレスは号令を下す。

 

 ドドドドドドドドッ


 四百の騎馬の蹄が地を鳴らす。

 その騎馬の上空にブーンと妖精兵たちも編隊を組んで飛行する。


 バレスがピアジンスキー家から調達したバイコーンに跨り馬群の先頭に立ち、攻城中のゴルトベルガー連合軍へと突撃をする。

 その距離が近づくにつれ、敵軍も異変に気付く。

 しかし、時すでに遅し。


「妖精兵、撃てィ!!」


 バレスの号令と共に、五十の妖精兵が魔法を放つ。


 ドドーンと初撃を加え、騎兵が突撃だ。

 敵軍へと突っ込み、バレスは勿論のこと他の騎兵も己が槍を振り回す。


 完全に虚を突かれたゴルトベルガー兵は、いいようにその槍の餌食となり、前線は瞬く間に崩壊した。


 しかし、冷静にもゴルトベルガー軍は体制を建て直そうと一旦兵を引き、被害を最小に食い止めようとこころみる。


「ふむ、敵も愚かではないか。よし、できる限り追撃するぞ!」


 バレスが再び攻撃に転じようとし、ブラニーの方をちらりと見遣る。


「待ってくださいー。これだから脳筋はー。私達の任務は足止めですよー。二千の兵に突っ込んでどうするんですかー。こっちは五百もいないんですよー。敵は余力十分ですー。却ってこちらの被害が出るかもしれません」

 

 とブラニーが冷静に嗜める。

 ただブラニーはこれ以上働きたくないだけからの言葉なのだったが。


「……そっそうじゃった。我らの任務は足止めだったの。ここで無駄に被害を出すこともあるまいて。ブラニー殿すまんかったの」


 しかし最近知力向上に余念のないバレスは、その生半可な知識をフル活用しブラニーの言葉を丸呑みした。

 無論ブラニーの言も一理ある。


「いえいえー。それじゃあ砦に入ってくつろぎましょうー。そしてプリンもお願いします」

「うむ、砦を守るハイデル家のドロシー殿に挨拶してからの」

「はーい」


 バレスらは軽くゴルトベルガー連合軍の出鼻を叩き、友軍の砦へと馬蹄を進めていった。


 

---

   


俺たち松永軍本隊はバレスとブラニーを先遣させた後、通常の速度で行軍し、午後五時には目的地の領境の砦でと到着した。


 砦側は大軍を確認したのか、俺の到着にあわせて門は開かれ、バレスと共にハイデル家当主と思われる女性が出迎えていた。


「バレスにブラニーよ、援軍ご苦労だった。ところであなたがドロシー殿ですかな?」


 俺は馬上からバレスとブラニーを労い、ドロシーと思われる二十代半ばの女性に視線を送り話しかける。

 

「松永様、お初にお目にかかります。わたくしはハイケル家当主ドロシーと申します。この度の援軍誠に感謝いたしますわ」


 ドロシーはそう告げると、一礼し謝意を示した。


「頭を上げて下され。当家は礼を尽くし助けを求める者は拒みませぬ。パトリック殿とドロシー殿に助力するのは当然のことよ」


 ここは敢えて、シュミット家当主のカミルの名を外す。

 その言葉に反応して、ドロシーは表情を一瞬曇らせる。


「松永様……、失礼をご承知でご質問いたします。この場に我ら三家の盟主のカミルの姿が無いということは、何かしら無礼を働いたのでしょうか?」

「まあな……。それについては話が少しややこしくなる。詳しくは砦内で話すとしよう」


 俺がそう無表情告げると、パトリックも目配せをしドロシーを促す。


「……承知しました。ではお部屋へ案内いたしますわ。こちらへどうぞ」

「うむ」

 

 顔をこわばらせらままのドロシーに促され下馬した俺は、バレスら重臣を引き連れて砦内へと歩を進めるのであった。



---

 

 そして砦内の一室で、こでまでの経緯をドロシーに対して解説した。

 また、その間に有翼族からの連絡が入った。

 松永軍が進軍を開始すると間も無くして、ルール城からアホライネン家・ヴァンダイク家へ援軍を要請すると思われる使者が飛び出したとのこと。

 なのでそのこともドロシーに付け加えておいた。


「それではカミルは松永様に無礼を働いた上に、勝手にへそを曲げ引き篭もっているだけではないですか!? それに加え、松永家が出立するや否やアホライネン家への使者を送ったとは……。厚顔無恥も甚だしいですわ! それにもかかわらず松永様は我々のために戦って下さったのですか……」

「まあ、端的に言えばそうなるな。だがこれは当家にもメリットがあってのことだ。そう重く受け止める必要はない」

「ですが……」

「ならば、今後ハイデル家が当家の為に尽くしてくれ。パトリック殿のメッェルダー家のようにな」


 ドロシーは俺の話しを終始居たたまれない様子で聞き入り、口を開く時はカミルに対して怒りを抑えることができないでいた。


「ドロシーよ、我らメッツェルダー家は今後は松永様に忠誠を尽くす」


 パトリックは俺からの視線を受けると、この言葉で十分だとばかりに当家に忠誠を捧げるとだけ言い切りってから力強く頷いた。

 

「もちんろんですわ!! この御恩は必ずお返しいたします。今後は我らハイデル家も微力ながら松永家を支えさせて下さい」


 それに対しドロシーも頷き返し、こちらも力強く宣言した。


「うむ! 結構!! 今後はパトリック殿共々頼りにさせてもらうぞ」

「「ははっ」」


 二人とも跪き、俺に剣を捧げてきた。

 見たところ質のよい鉄剣といったところだろうか。

  

「ふむ……、その剣は受け取ろう。替わりにあれをやろう。ジュンケー! ミスリル剣を持ってきてくれ」

「承知しました」


 ジュンケーはタタタと小走りで退出した。

 二人はミスリルと聞き目を合わせる。


「あの秀雄様ミスリルとは……?」

「その通りあのミスリルだ。まあ現物を見た方が早いだろう」


 ということでしばしジュンケーが戻るまで、二人を座らせ待つことにした。

 そして、数分後田舎領主では見たことも無いような名剣を受け取り、二人が感激したのは言うまでもない。


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