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第十六話 地竜討伐 

 銀髪眼鏡エルフを見て、一言。

 何時かは来るとは思っていたが、これ程まで早くにその時が訪れるとはな。

 出合ってしまったよ、美女エルフに。

 しかもまた眼鏡と言う所がイイ。

 はっきり言ってどストライクです。 


 気付いたら、俺は近い将来を妄想していた。

 マルティナ様に怒られてる、俺の姿を思い浮かべながら。


 やばいやばい、今は目の前の地竜に集中しなければいかん。


 ここは地竜を挑発して、リリの付け入る隙を作ってやらないとな。

 俺はファイアーボールを地竜の横っ腹に放つ。

 牽制の為なので威力はそれ程強くは無い。

 放たれたファイアーボールはでかい図体の地竜に命中したが、かすり傷をつけた程度で、それ程ダメージは無いようだ。

 

「おい、飛ばない竜はただの蜥蜴って、誰の事か知ってるか? ……お前だよ」


 俺は手を招く仕草を見せ、地竜を挑発する。

 すると地竜も、馬鹿にされているのが分かったらしく、雄叫びを上げながら俺に突っ込んで来た。

 

 ここは魔法で相手してもいいが、せっかくチャレスに鍛えてもらったんだから、肉弾戦を試してみるか。


「はぁぁっ」

 

 俺は魔力を集中し、身体能力を最大限まで高める。

 地竜はチャレスよりは劣るものの、かなりの速さで俺に駆け寄り、頭に噛み付いて来た。

 

「遅せーよ」


 チャレスの速度に目が慣れていた為、俺は楽々とサイドステップで噛み付きをかわし、カウンター気味に地竜の側頭部に拳を入れる。

 それを受けて地竜は一瞬、星が飛んだような表情を浮かべたが、すぐに憤怒の形相に戻り再び噛み付く。

 

 こんなもんか、大体見切ったな。

 俺は先程と同じ動きでかわすと、お次は蹴りをお見舞いする。

 今度は少しグラッと来た感じだったが、すぐに攻撃を加えてきた。

 しかしまた俺はカウンターで返す。

 

 流石に接近戦は分が悪いと思ったのだろう。

 地竜は噛み付きを諦め、距離を取り魔法を使うようだ。

 

 ……それは下策だよ。

 なぜなら後ろには、リリが特大のウインドボールを用意して待ってるんだからな。

 

「リリ! 今だ!」 


 俺はリリに手を挙げ合図をする。

 すると彼女から放たれた特大のウインドボールは、魔力を集中するのに気を使ってる地竜の背後に直撃し、その胴体に風穴を開けると、そのまま草木をなぎ倒しながら遠くまで飛んで行った。


 さすがSランク、地竜などリリにとってはお茶の子さいさいだな。

 まあ実際戦ってみて、俺一人でもなんとか成りそうな感じだったから、Aマイナス以上の実力は、俺もあるのかもしれないな。


 さて、地竜も無事に討伐できた事だし、マルティナ様のご尊顔でも拝みに行くとするか。

 俺は地竜の息の根が止まっている事を確認してから、あまりの出来事に呆然としているマルティナ様一行へ声を掛ける為に歩き出す。


「みなさん、大丈夫かな? 苦戦していたようなので、助太刀させてもらったよ」


 一行の顔を見回しながら、言葉を飛ばす。

 もちろんしれっとだが、マルティナ様のご尊顔チェックは忘れない。 

 彫刻の様に整った顔立ちのクール系美人だ。

 特に切れ長の目に眼鏡をかけたその目元は、あっちの人なら堪らないだろう。

 蔑まれたい、罵られたい、乗っから……、おっとマルティナ様からお話があるようだ。


「ありがとう。危ない所を助けてもらって感謝する。私はマルティナと言う者だ。共に居るのは私の連れだ」

「いえいえ、俺は秀雄と言うしがない旅人です。ところでマルティナさん。先程、建物の裏手で地竜の物と思われる卵を、まるで家宝の様に大事に抱えていた少年を見かけたのですが、彼はあなたのお知り合いですか?」


 とりあえず、マルティナのせいで地竜がおびき寄せられて、他の隊商にも被害が及んだのだから、詰問はしておこう。


「……ああ、あの子は私の側仕えで、ヨハンと言う」

「では地竜をおびき寄せた卵についても、何かご存知で?」

「…………頼む、卵の件は見なかった事にしてくれ……。あれが無いと当家は立ち行かなくなってしまうのだ」


 ほほう、やはりマルティナは南方の豪族あたりなのだろう。

 だが当家が立ち行かなくなるとは、何か事情があるのだろうな。

 

 うーん、ここは悩み所だ。

 卵の件を衆目に晒して彼女を罰するべきか、黙っているべきか……。

 

 卵の件をばらして得る物は、地竜討伐の名誉と素材、見逃して得られる物は、地竜の素材に彼女と仲良くなれるかもと言う期待。

 名誉を取るか実を取るか……、言うまでもないな。

 マルティナ様のお願いを断る訳にはいかん。


「ふむ、何か深い事情がある訳ですね。今回は死人が出なかったので、大目に見ておきましょう。ただし地竜の素材は俺達が頂きますよ」


 マルティナの家に関しては、あえて聞かない事にした。

 だってぷんぷん臭うんだもん。

 もう既に回避不可能なのかもしれないがな。

 

「その……、出来れば地竜の素材も三割でいいんで、頂けると嬉しいんだが……」


 マルティナは申し訳なさそうに言ってきた。


「えー、地竜は殆ど俺達が倒したようなもんですよ。それを三割も取ろうなんて、流石に無理があると思うんですけどね……」


 俺達も金にそれ程余裕がある訳ではない。

 クラリスの持っていた分と、グリーンウルフを討伐した分位しか、まとまった金は得ていないからだ。

 その為、地竜の素材は、丸ごと持ち帰りたいのである。


「それはもっともなのだが……、私達には金が必要なのだ! でないと民が飢えてしまう。後生だから素材を譲ってくれ。借りはあなたさえ良ければ、私の体で返すから…………」


 なんだと、今聞き捨てなら無い言葉を耳にした気がする。

 まずいぞ、これまで冷静に考えて、この人に肩入れしても、彼女とお友達になる位の利益しか無かったのだ。

 それが今の一言でひっくり返ってしまった。

 銀髪美女エルフ、しかも眼鏡属性と言う希少種とウハウハになれる、と思っただけで心が躍って来てしまった。

 

 だが冷静に考えると、家が傾く程の事情に頭を突っ込みたくはないが、マルティナとは仲良くしたい。

 これは両立し得ない事柄だ。

 それにお礼を貰いに行くだけでも、色々と面倒そうだ。

 

 ん、待てよ。

 考え方を変えると、案外マルティナに肩入れするのもいいかもしれん。

 どうせ遅かれ早かれ、南方諸国で旗揚げするなり仕官するなりの事をするつもりでいる。

 ここで恩を売り、さらに彼女の家を建て直す事が出来れば、家中での俺の発言力も強まるだろう。

 そしてマルティナと結婚して家の実権を握れば、俺の異世界の目的達成の、「権力を握ってウハウハ生活」の足掛かりになるのではないだろうか。

 簒奪とか批判されても別に構わない。

 俺はマルティナに承諾を得てから実権を握るつもりでいるからな。

 粛清してまで、やる気は無い事は一応断っておく。


 つまり普通に仕官するか、少し落ちぶれた家に美女付きで仕官するかの比較だ。

 俺の価値観でよく考えれば、むしろマルティナ付きの方が好待遇だ。


 よしここはマルティナの話を聞いてみるか。


「そこまでの覚悟があるのか……。ならば俺もその気持ちに応えなければならないな。地竜の素材の半分は譲ろう。あと良かったら事情を聞かせてくれないか、出来る事があれば力になってやるぞ」

「ほっ本当に半分もくれるのか!? それに私に協力してくれるなんて嘘だよね。私はハーフエルフなんだぞ」


 何と彼女はハーフエルフだったのか。

 よく見ると耳が少し短いのかな。

 ハーフエルフってきっと差別があるんだろうな。

 半端者って扱いでさ。


「俺は人種で差別するのが嫌いでね。それにあなたから民が飢えると言う話を聞いてしまった以上、いても立ってもいられなくてね。飢えの辛さはよく知っているからな。それに俺は南方で一旗揚げるつもりなんだ、実力はさっきので分かるだろ。あなたと出会ったのはタイミングが良かったんだよ」


 飢えについては、テレビとか歴史知識でしか解らないけどな。 

 嘘も方便って言う事もあるだろ。


「そんな……信じられん。地竜の素材をくれるだけでもありえないのに、当家に協力するだと! あなたはうちの内情が分かってないから、そんな事言えるのだ。もし知っていたら、うちにまともに仕官して来る者などいないはずだ……」

「そうかな。俺は物好きなんで分からんぞ。とりあえず事情を教えてくれてもいいと思うがな……、その分の代金は支払っているはずだぜ」


 俺は地竜の死骸に視線を向けて、暗に説明しろと要求をする。

 すると、にわかには信じられないという表情を浮かべながら、ぽつぽつとマルティナが喋り始めた。


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