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第百五十二話 地妖精

 十分後。

 

 眼前には眼から流血しながら横たわっている地竜がいる。

 

 あれからぐだぐだの戦闘を観戦していた俺は冒険者たちの命が危ないと見て、雑魚は他の者に任せ地竜の相手をすることにした。

 詳細は省くが、途中それなりの攻防を繰り返したのち、エミーリアがひきつけている隙に火球を二十連発ほど横から不意打ちでお見舞いしてやると、案の定地竜は瀕死状態に陥ったので間髪入れずに眼球に剣をぶっ刺して止めをさしたのだ。


 そして、戦闘直後の今、呆気に取られた様子の冒険者たちの視線を一身に浴びているといった状況である。


 さてこのまま颯爽と帰るのは格好はいいが、身を張った意味がないので名乗りを上げるとしよう。


「冒険者の皆さん。俺は松永秀雄だ。この松永家の頭首である。見てのとおり地竜は俺が討伐した。安心するがよい」


「松永秀雄だって!?」

「でも領主様がなんでこんな所に……」

「多分迷宮の視察かなんかだろ。それに秀雄様はAランク冒険者でもあったはず。地竜を一蹴したのも納得できるぜ」


 名乗りを上げてから、冒険者連中は予想外の人物だったのか、次第にざわめきだし、ひそひそと話し始める。

 いきなり当主が現れて、状況が飲み込めないのも当然だろう。


「ふふふ、いきなりの出来事で驚いているのかもしてんが俺は本物だ。証拠として、この地竜の素材は俺の権限でお前達にやろう。これからも当家の迷宮で稼いでくれよ。ウラディ、処理はたのむ」

「秀雄様、わかりましたわ!」


 俺は至って当然といったふうな態度でウラディに指示を送る。

 

「おい、ウラディミーラ様があっさり従ったぞ」

「じゃあ、本物の……」

「しかも、素材もくれるって……」


 この地を治めるウラディがあっさりと俺に従ったのを見て冒険者たちも現実を飲み込んようだ。

 そして、地竜の素材をも貰えることに気付いた彼らはすぐにテンションが上がり、次第に歓声があがっていった。



---



 後の雑事はチェルニー家の者らに任せ、俺たちは旅の疲れを癒すべく、迷宮村の酒場で人心地ついている。

 

「迷宮村と聞くと大した食い物もでないと思っていたが中々いけるじゃないか」


 ウラディ、エミーリアを伴い三人での夕食中である。


「秀雄様にそう言っていただけると嬉しいですわー! ノブユキさんに福利厚生は大事なのでしっかりするよう言われてますの。ここは出来たばかりの迷宮で知名度も低いですから。最初の内は手付かずの宝を求めて冒険者が来るでしょうけど、それからここに定着してもらうには食の水準は高くするのが必須とのことですわ」


 ふむ、当家内政官の狸族のノブユキはしっかりやっているようでなによりだ。

 隣で、エミーリアも感心したように頷いている。


「そうかそうか。それは素晴らしいことだな。それに既に小さいながら歓楽街もある。いい仕事してるじゃないか」

「ええ! 男性は命を懸けた戦いの後は気分が高揚するので、真っ先に遊郭を建てるよう言われましたの。その結果、すぐに大繁盛ですわ!」


 うむうむ。

 分かってるじゃないか。


「それで、今日の地龍の暴走だがウラディに心当たりはあるかい?」


 実は一つ思う所はあるのだが、まだ言わず先にウラディに聞いてみる。


「私には全然わかりませんわ。まだ迷宮の上層部しか攻略していませんもの」


 だよな。


「うむ。この迷宮の規模を考えるとあの地竜は最下層で生息していたはずだ。そして最下層には地妖精が住むミニフェアリーガーデンがある。……おそらく地妖精が動き出したのだろう」


 実はここにきたもう一つの目的は、地妖精とのコンタクトである。

 すでにローラら水妖精により地妖精とのコンタクトは取れていた。

 しかしローラは先の奪還作戦で気落ちしたリリのケアのため本拠を離れることはできない。

 なので俺たちが来訪する日時だけを伝えておいたのだ。

 また我々が最下層に進むのは骨なので、迷宮構造を勝手知ったる地妖精にこちらまで出向いてもらうことにしたのだ。

  

 おそらく最下層は、ナヴァール湖の水竜のように地竜が生息しているのだろう。

 そして、今回地妖精が出張ったことで地竜に影響があったはずだ。


「なる程そういうことだったのですね。もう秀雄様もいけずですわ。知ってるならそうおっしゃってくれればよろしかったのに」

「ははは、悪い悪いついな」

「もう!」


「お話のところ失礼します。地妖精はそろそろこちらにくるということでしょうか?」


 酒の入っていないエミーリアが真面目モードで話しを振ってくる。


「うむ、辺りも暗くなったし妖精も目立たんだろう。そろそろきてもおかしくないはずだが……」


 と思った矢先、ローラ程度の大きさの魔力とその取り巻きの三つの魔力を感じた。

 

「ふふふ、そう思ってたらおでましのようだ」


 俺はそう言い、入口の方へ目を遣る。

 そこには地妖精と思われる妖精三人と一人の水妖精がおり、俺の姿を認めるとこちらへ飛んできた。


「あなたが秀雄さまですかー? すごい魔力だったのですぐに分かりました……」


 ブーンと飛んで来た地妖精は、けだるそうに机の上に座り話しかけてきた。


「ああそうだ。君はここの地妖精の長かい?」

「はい。私がここを任されてますブラニーです……」


 とだるそうに自己紹介してくる地妖精。

 なんか、どこかの二次元アイドルグループにいる、働らいたら負けTシャツを着た女の子を小さくした感じのようだ。

 

「おっおう、なんていうかわざわざ出張ってもらって済まんな。まあお疲れだろう、ジュースでも飲むかい?」


 いたたまれない気がしたのでつい気を遣ってしまう。


「リリ様の頼みなら断れませぬ。本当は引き篭もっていたかったんですけど、仕方ないですねー。ジュースありがたくいただきますー」


 とマイペースなブラニーである。


「秀雄様、この方はこんな感じですけどちゃんとやってくれると思いますよ! あっ、あと私もジュース飲みたいです!」


 と水妖精がフォローを入れる。


 まあ地妖精だからなのか、ブラニーの性格がそうなのかは知らんが協力してくれるのならば文句は言うまい。

 魔法の腕はサーラクラスはあるだろうからな。 

  

「わかったわかった。みんなの分のジュースと料理も頼んでやるから好きなだけお食べなさい」


「「「「わーい! ありがとうございますー!」」」」


 と四人の妖精は喜び机の上に腰をかけるのであった。

 

 一時間後。

 机の上には、お腹をパンパンにした妖精達が寝転がっている。

 久々の外界の美食に大変満足したようだ。


「満足してくれたみたいだな。ところで一つ質問がある。今日地竜が入口まできて暴れたのだが、何か知っていることはないか?」

「あー、あの地竜ですかー。あのアホ、私たちが見つからないようにゆっくり飛んでいたにも関わらず執拗に追いかけてきたんですよー。面倒なんで隠れてたんですけど、そんなことになっていたんですねー」


 と、ブラニーはシーシーとミニサイズの楊枝で歯間を掃除しながらそう告げた。


「つまり、お前たちを追いかけてきたアホの地竜が上層まで顔を出し、そこで冒険者と出くわしたということか?」

「たぶんそうだと思いますー」


 ブラニーは「私の責任じゃないですよ」といった感じで全く動じていない。

 

「まあ、わざわざ地竜と戦うのは面倒だもんな……」

「ですよねー。面倒事は避けるが一番です!」


 と最後の言葉はしっかりと強く宣言すつブラニーであった。

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