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第十五話 ビアンカの思い 地竜と遭遇

 およそ二日かけて交易路までの復路を無事に歩き切った。

 交易路との合流地点で一夜を明かしてから、日の出と共に起床し朝飯を食ってから道を南下する。

 時折南方諸国からやって来たと思われる隊商と、世間話や買い物などの気晴らしをしながらの、気楽な旅路だ。

 地図によるとこれから三箇所の休憩所を経て、ようやくステップ地帯を抜けられるようだ。

 今日は一箇所目の休憩所を目指して、一日ごとに二つ目、三つ目の休憩所へと歩を進め、三日後に南方諸国に入る予定である。

 

 この交易路から南方諸国に入ると、まずラスパーナと言う地域がある。

 ラスパーナ地方は大小様々な勢力が入り乱れており、唯一冒険者ギルドの証明書のみが、各勢力内で共通で使用できる身分証となっている程だ。

 

 俺はラスパーナ地方に入ったら、まずは近隣の第一勢力のナヴァールという地域に向かい、毎度お馴染みの情報収集をする予定でいる。

 そこから一応は冒険者をするつもりではいるが、その辺りは臨機応変に対応するつもりだ。

 

 よし、予習はこれくらいにして、気になっていた事があるので、少しビアンカと話してみるか。


「なあビアンカ、少し話したいんだがいいかな?」

「はい、なんでしょうか」

 

 ビアンカは笑顔で頷いてくれた。

 

「いや……、チカは両親に無事を報告する事が出来たが、お前にはまだチカみたいにしてやれてないのがな……」


 するとビアンカに僅かながら、表情に影が落ちたのが見えた。


「秀雄様に忠誠を誓った手前お恥ずかしいのですが、両親に無事を知らせたい、と言う思いが無いのは嘘になります。ですが、私の集落はチカの村のより距離が離れていたため、道すがら行くには無理があったのは、重々承知しておりましたので……」


 やっぱり普段は気丈に振舞っていても、中身はまだ十五の女の子なんだよな。

 まだ短い間だが一緒に過ごしたせいか、彼女の境遇に対して憐憫の情が湧いたのは否めなかった。

 俺は少しビアンカに対する態度を改めようと反省した。


「そうか、もしビアンカが里へ帰りたいと言うなら、すぐとは言えんが送っていくぞ」

「いいえ! 私は既に秀雄様に忠誠を誓った身。あなた様の下を離れるなどという不義は、出来るはずもありません。ただ母さまと弟に、一言伝えたいだけなんです」


 やはりビアンカは女の鏡のような女性だな。

 清楚な容姿にとは裏腹に、肉感的な体つきって、違う違う。

 彼女の誠実で献身的な性質を喜ばない男は居ないだろう、って事だよ。


「子なら親兄弟に対しての思いを持つのは、当たり前の感情だ。それを忠誠心などという言葉のまやかしで、押し殺してはならない。約束するよ、必ずビアンカを両親の下へ連れて行くと」


 これは決まっただろ。

 俺、今凄くいい事言った気がするよ。


「秀雄様……、ありがとうございます」


 ビアンカは目を赤くしながらも礼をしてくれた。


「礼はいらんよ。後でギルド辺りで手紙を出せるかどうか聞いてみよう。早い内に生存の報告をした方が、家族も安心するだろうしな」

「はいっ…………」


 彼女はついには、しくしくと泣き出してしまった。

 なんか他人から見ると、良妻を泣かせているダメ夫みたいな感じがするけど、俺は悪くないんだからね。

 イケメンモードの俺は、よしよしと彼女の背中をさすってやる。

 しばらくの間、言葉にならない声が漏れ続けた。

 そしてその声が途切れるまで、俺はビアンカを慰め続けた。

 


---



 ビアンカと話をして胸のつかえも取れ、気分よく旅を進めることができた。

 そろそろ三箇所目の休憩所に到着する頃だ。


「おっ、休憩所が見えてきたぞ」


 予定通り無事に到着出来そうな事に、ささやかな喜びを覚えながら、俺達は休憩所に近づく。

 しかし何か様子がおかしい。


 そこで俺は、パーティー内で最高の俊敏性を誇るリリを偵察に行かせた所だ。 

 おお、そう言っている間に、リリがこちらへ向ってキューンと飛んで来た。

 偵察任務が完了したみたいだな。


「お疲れさん、休憩所の周りはどんな様子だったんだ?」

「それがねー、ニンゲンと、とっても大きな蜥蜴が戦ってるよー」


 何っ、大きな蜥蜴だと。

 もしかしてそれって、ここ一帯の食物連鎖の頂点に立つ地竜だったりして……。

 いや、多分そうだろう。

 俺はギルドで魔獣図鑑なる物を購入して、ここ周辺の魔獣については、予習をしておいたのだ。

 

 地竜は討伐難易度では、A-に分類されている。

 ただし空を飛ぶ事は出来ない点と、あまり知能レベルが高くない事から、亜竜扱いにされている可哀相な竜だ。

 

 だが、なぜここまで地竜が出張って来ているのだろう。

 理由はよく分からないが、危険なのは確かである。

 

「さてどうするか……」


 俺は迷いがあったのか、つい独り言を呟いた。

 これまでだったら遠くから様子見をして、地竜が去るのを待ち、追い剥ぎをするところなのだがな。 しかし、これから俺は冒険者として活躍する予定なのだから、ここで名を示しておくのも悪い話ではない。

 それにチャレスとの訓練で実力を認めてもらい、自信を深めたのも大きい。

 

 はっきり言ってA-程ならば、全員でかかればなんとかなる自信はある。

 その根拠は……、時間が出来たので猫族の村で目を通した魔獣図鑑に書いてあったのだ。


------

 花妖精

 討伐難易度:S

 生息地:不明


 討伐ランクBである妖精の上位種。

 非常に強力な魔法を使う。

 その詳細は明らかになっていないものの、特に種族固有の花魔法は脅威。

 見た目は普通の妖精と殆ど変わらないため、捕獲、討伐する時には注意が必要。

 滅多に人前に姿を見せる事は無い。

 万が一出会った場合は、逃走をお勧めする。

------


 はい、そういう事なんです。

 いざとなったら、リリパイセンにお願いすれば何とかなるんじゃないか、という安心感があるのは大きい。

 

「ねー、ヒデオーどうするのー」


 うーん、俺はこれから南で名を揚げるつもりでいる。ならば手始めにここいらで狼煙を上げても悪くはない……。

 よし、やってみるか。


「みんな、これから地竜と思われる魔獣を倒すぞ! 俺とリリでぶつかるから、二人はクラリスの護衛と余裕があれば援護を頼む」


「うん」

「かしこまりました」

「了解ニャ」

「妾はお兄ちゃんを応援してるのじゃ!」


 皆の意思を確認し、俺は四人を引き連れ、休憩所へと駆け出す。 

 しばらくすると地竜が地団駄を踏んだと思われる、ドーンドーンと言う大音が響いてきた。

 そしてさらに近づくと、休憩所の建物に比して高さが倍はあるであろう地竜と、その周りで戦っている数人の姿が、俺の目に飛び込んで来た。


 なんだこれ、地竜は怒り狂っているじゃないか。

 俺はこれは何か原因があるなと思い、周辺を見回す。

 すると休憩所の建物の陰に、少年が何かを大事そうに抱えながら、縮こまっている姿を発見した。


「臭うな……」


 とりあえず地竜は後回しにして、あの少年も所に行くとしよう。

 俺達は一先ず戦闘には参加せず、休憩所の裏手へと回り少年と接触を図った。


「おい、これはなんだ!」

 

 近づくと少年の抱えているものが判明した。

 卵だ、それも特大の。

 なるほど、そういう事か……。


「えっ、これは……、お願いします! マルティナ様を助けて下さい!」


 少年はビクッとしたが、俺の問いかけに答えずに、助けを求めてきた。

 マルティナ様と言う名は気になるが、簡単に引き受けて遣る程、俺は甘ちゃんではない。


「その前にこの卵の事を言え! 言いにくいなら代わりに言ってやろう。これは地竜の卵なんだろ?」

「……」


 少年は何も答えない。


「このままだとマルティナ様とやらも、やられてしまうかもしれんぞ」

「……はい地竜の卵です。お願い助けて下さい…………」


 やっと認めたか。

 初めから地竜を倒すつもりではいたが、後々の展開を考えて少しでも有利に立っておくか。


「自分の尻は自分で拭けと言いたい所だが、通り際に死なれちゃあ気分が悪いんで、特別に助けてやるよ。だが後で事情は聞かせてもらうからな」

「分かりました……、だから助けてよぉ」


 少年の涙などどうでもいいが、マルティナ様と自分の為に頑張ってやるよ。

 俺は少年の頭を軽くポンと叩いてから、地竜と戦っている一団に合流せずに、不意打ちを仕掛けようと、移動を開始した。

 

「まず俺が地竜の右側面に回り奴の気を引く。その隙にリリが気付かれないように、地竜の左側面に回って

 不意打ちを仕掛けてくれ。二人は俺の後ろでクラリスを守りつつ援護を頼む」


 四人が頷くのを見届けてから、俺は地竜の気を引くため、ドタドタと足音を立てながら地竜の右側面の踊り出た。

 するとそこには百七十以上はあるスタイル抜群の銀髪の眼鏡エルフが、家臣と思われる兵士を引き連れ、地竜と戦っていた。


ナブールをナヴァールに修正しました

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