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第百四十三話 戦のあいだの雑事⑤

 懐かしき森を出た五人は北へと進む。

 まずジェル川を、小早をアイテムボックスから取り出して渡る。

 渡し舟が出ている場所まで向うのは面倒だからだ。

 そして、ローザンヌ王国との領境へ。

  

「秀雄、着いたみたいにゃ。あそこに関があるニャ」


 チカが遠目を利かしてくれた。

 さらに少し進むと俺の目にも関の外観が映る。


「おう、そうだな」


 ミラ公国とローザンヌ王国を物理的に隔てる関として、サンヴァルテン門がある。

 この門は、カルドンヌ家がミラ公国へ対応するために作られたものだ。

 長年ミラ公国への防波堤として機能してきたが、ほんの十日前、二万のミラ公国軍により陥落したらしい。

 本来守備として入るカルドンヌ兵が機能していないのだから仕方が無いか。

 

「確かここはミラに取られてるんだろ。俺たちが無事に通れるとは思わねえな」


 アントニオが顔をしかめる。

 

「だろうな。俺はともかくお前は顔が割れてるかもしれんし……。ここは面倒だが山を越えるか」

「ああ、みんなには悪いがそれが無難だぜ」

「いいってことよ。俺たちなら大して苦でもないさ」


 サンヴァルテン門は南に大山脈があり、北側はミラ・ローザンヌ・ノースライト三国に跨る森がある。

 ちなみに森の最奥には未発見迷宮がありミニフェアリーガーデンもあるが、今は捨て置こう。

 門はお約束どおり攻めがたい位置に作られている。

 それでも籠もる兵がいなく、士気が緩くては落ちるものか……。

 または内通者がでたかだな。

 

「ならば森に入るか?」

「ああ、森は獣人にとっては庭も同然だ」

「チカもそれがいいと思うニャ」


 続いてリリにサーラも頷き賛成する。


「ならばそれでよし、森へ入ろう」


 ということで、一行は門を迂回して森を通り抜けローザンヌ王国は旧カルドンヌ領へと進む。


 

---



 あれから半日ほど経過しだだろうか。

 五人は無事森を抜けカルドンヌの地を踏んだ。

 

「ふう、少し深く入ったがなんとかなったな。お疲れさん」


 俺は、先導役を買って出たアントニオに向けて労いの言葉をかける。

 彼のお陰で何事もなく通過ができた。

 魔物もそれなりに出たし、木々の密度もあった。

 そこを方向感覚がくるわずに動けるのは流石は獣人だろう。


「この程度朝飯前だぜ! 帰りも任せてくれよ!」

「頼もしいな。任せる」

「おうよ」


 無事森は抜けられたが、ここはどこだろう。

 地図はあるにはあるが、ローザンヌ側の地形を詳細に書かれているものはあいにく持ってはいない。

 南方諸国に出回ることは少ないからだ。

 今後のために帰りに買っていこう。  


「ヒデオー、もう休もうよー。お腹すいたしー」

「そうにゃ。おなかペコペコニャ」

「私も賛成ですぅ」


 リリたちはお疲れのようだ。

 そうだな、日暮れも近いし今日はここでテントを張ろう。

 アントニオにチカは夜目が利くが、初見の土地で無理することもあるまい。


「よしわかった。ではそうしよう。チカとサーラは飯の用意をしてくれ」

「はいにゃ」

「はぁい、分かりましたぁ!」


 俺は、リリとアントニオに手伝ってもらいテントを張る。

 そして、できあがった飯を食い、一夜を過ごした。



---

 


 翌朝、テントを片付け一行は歩き出す。

 目的地は旧カルドンヌ家が領都ドゥミニオン。

 この都市はローザンヌ王国西部でも一、二を争う規模とのこと。

 まずはそこへと向い情報収集をしよう。

  

 ということで、まずは道なき道を小道にぶつかるまで進む。

 しばらくその道を走るとなんの変哲もない村が見えた。


 クラリスの話だとカルドンヌは亜人差別は少ないらしい。みなで村へ入っても問題ないだろう。


「失礼、俺はこういうものだ。この村に冒険者ギルドはあるかい?」


 俺は四人を引き連れ門番へと話しかけ、冒険者手帳を見せる。

 

「んーなになに、ぎょえ、Aランク冒険者様! こっ、こんな田舎にはギルドはありませんよ。ギルドは二つ村を超えた町にあります。でもなぜあなたのような方がこの村へ?」

「実は西の森を抜けてきたんだ」


 思ったとおり、いい反応をする門番に用意していた事情を説明する。


「なるほど、森をですか? ああ! ミラのせいで通行が難しいみたいですものね」

「ああそういうことだ」

「流石はAランク冒険者様。ならば合点がいきます」

「うむ。まあギルドがないなら、ここで補給をしたい。店を教えてくれ」

「はい喜んで!」


 門番はAランク冒険者はさぞかし村で金を落としてくれると思ったのか、笑顔で俺たちを店へと案内してくれた。

 そして連れて行かれた商店で近辺の地図を買う。

 これも細かな地形は記載されていないが、手持ちのものより随分ましだ。

 地図以外にも、幾つか商品を買ってやる。

 門番の期待に応えてやらんとな。

 四人に小金貨三枚を小遣いとして渡し、好きなだけ買わせてやる。

 これだけ買えば十分だろう。 


 さて買い物も済んだ。

 小さな村なのでこれ以上いても仕方がない。

 出るとしよう。


 一行は門番に別れを告げ村を出て街道をひた走る。

 五人の走力を以ってすれば、今日中にも目的地の町へつくはずだ。

 そして翌日には領都ドゥミニオンに到着するだろう。

 

 カルドンヌの広さはウラール・ナヴァール・コトブスを合わせたくらいだ。

 やはり広い。

 ウラールより人口密度が濃いことを考えれば、国力は五十万石はあると見積もれる。 

 周辺諸侯も合わせれば二万以上の動員を楽にできそうだ。

 クラリスの父が上洛を試みたのも納得である。


 それにしてもローザンヌ王国は強そうだ。

 国が割れていなければ、ここ一帯で最強国に違いない。


 道中そんなことを考えながら俺は走り、三時頃には目的地の町へと到着する。

 町の名はランヌという。

 ここを治めているのはかつてカルドンヌ家に従属していたチョチョカイナ男爵である。

 彼はカルドンヌ家を裏切りこの町を盗った。

 現在チョチョカイナは子爵を僭称している。


「すまないが、領民以外は入場料を取る。一人銀貨一枚だ」


 門番の兵士が申し訳なさそうに通行税を請求してきた。

 予想するに、領主が変わって税を取るようになったのだろう。

 

「ああ、五人分だ」


 俺はごねずに銀貨五枚を支払う。


「一人多いぞ……。って妖精!」

「まあな」

「Aランク冒険者なら不思議でもないか。確かに受け取ったとおってくれ」


 門番はリリに驚きはしたが、気持ちよく通してくれた。

 ミラの賄賂上等の門番とは大違いである。

 ローザンヌでも旧カルドンヌ領が特別なのかもしれんが、気分はいい。


「さてギルドに行くぞ」

『おー!』

 

 ということで予定通り町に入るなり冒険者ギルドへ。

 余談だが、各地の冒険者ギルドは、経営が国や場所によって異なるが、ランクについては共通らしい。

 冒険者の流動性を考えた上の配慮であろう。


「失礼。こういうものだが、マスターはいるか」

「あら見ない顔ね。……今すぐ読んできましゅ!」


 冒険者手帳を見て受付嬢がすっ飛んで行った。

 しばらくして俺たちも奥へと案内される。


「おまたせした。私がこの町を預かる者だ。こんな外れの町に大物がくるとは珍しい。何が目的だい?」

「風の噂だとカルドンヌは面白くなっているみたいじゃないか。少し楽しもうかと思ってね。ミラに気付かれぬよう西の森を抜けてきたんだ」

「なるほど……。亜人を連れているだけあってミラがお嫌いか」

「そんなところだ」

「ふむ。ならば知る限りの情報は提供しよう」

「助かるよ」


 マスターもミラ公国に攻められ情勢が芳しくないことを感じているのか、貴重な戦力になるやもしれぬ俺たちに進んで情報を提供してくれた。


 一時間後。

 俺たちはギルドをあとにした。


「なかなか有意義な情報が入ったな」

「だねー」

 

 リリも頭の上でご満悦である。


 さて今の話をまとめるか。


 現在のカルドンヌは五勢力が混在している。


 まずポーンドゥー家。

 彼もチョチョカイナ子爵と同様、かつてカルドンヌ家の従属勢力であり、こいつが先導してクラリスの父を裏切った。

 現在領都であるドゥミニオンを領し、伯爵を僭称している。

 石高は元来の領土を合わせて三十万石ほど。

 カルドンヌの第一勢力である。

 

 それ以外に、チョチョカイナ家と同程度の勢力が四つ。

 それぞれの石高は五万石から十万石のあいだと思われる。

 この五家はカルドンヌ家を滅ぼすまでは協力関係にあったが、その後は領地配分で揉め、関係は良好とはいい難い。


 しかしそれも過去形である。

 四家の内の一つ、サンヴァルテン門周辺を支配していた子爵家はミラ公国によって滅ぼされた。

 原因は五家の歩調が合わなかったことだ。


 その結果、ミラ公国軍は領都ドゥミニオンまでの進路を確保した。

 勢いに乗ったミラ公国軍は、そのまま領都へ向けて進軍をしているらしい。

 

 どうするか……。

 実は領都に向う最大の目的は、旧カルドンヌ家家臣を見つけ出すため。

 おそらく、心ある者はレジスタンスとして活動しているはず。

 もちろん戦争をチラ見して、ミラの戦力確認も大事だが。


 ミラ公国にカルドンヌを取られたら厄介だ。

 なぜならば、将来ミラ公国を攻めるとしたら亜人領域を経由するつもりだ。

 さすれば、ミラ公国の東端から順に占領することができる。

 敵援軍により挟み撃ちを受ける心配がないのだ。

 しかし、カルドンヌをミラ公国が占領した場合、カルドンヌからの援軍により挟撃を受ける可能性が高まる。

 また単純にミラ公国の国力を増加させるのも気に食わない。

 仕方ない、ポーンドゥー伯は気に食わんがここが将来の松永家のためだ。

 勝敗に決定的な影響を与えられるか分からんが、嫌がらせくらいしてやろう。

 

「アントニオ、喜べ。戦えるぞ」

「なんだって!?」


 アントニオは耳をピクつかせ、喜色を浮かべる。

 

「ふふふ、詳細はドゥミニオンに行ってからだ」

「なんだよー。教えてくれよー」

 

 アントニオがブーたれるが無視。

 さあドゥミニオンで旧カルドンヌ臣とコンタクトを取ってみるか。

 情報屋に金を積めば出てくるだろう。 


 というわけで、時間が惜しい。

 一行は町を出て、全速力で領都ドゥミニオンへと向った。

 

 

---  


 

 時速四十キロメートル以上で走り続けた甲斐あって、その日の内に領都へ到着した。

 実力者五人旅だからこそ可能な強行軍である。


「ここがクラリスの故郷か。なかなかのところだな」

「そーだねー。綺麗な町だねー」

「秀雄、情報ニャ!」


 おお、そうだ。

 観光をしている場合ではない、情報を掴まねば。


「となると、お約束で歓楽街だな」

「だよねー」

「私もそうおもいますぅ」

「俺は、よくわからねえから秀雄に任せるぜ」

「チカも同じニャ」

 

 早速町民に聞き込み五人は歓楽街へと向い、あえて裏路地へと入る。

 明らかに治安の悪そうな場所である。

 すると歩くこと数分、すぐにチンピラ共に囲まれた。


「おいおい、ここは俺たちの縄張りだぜぇ。よそモンが勝手に入ってくるとはどういうこった。通行料として有り金置いていきな」


 正にテンプレ。

 すがすがしいほどである。


「おい、お前ら、この町で一番の情報屋を紹介しろ。金はやろう」


 俺は手のひらに火球を浮かべ、リーダー格のチンピラにそう告げた。

 

「まっ、魔法!? ひいぃ、教えます! 教えますから殺さないでぇ!」


 こういう態度きらいじゃないぜ。

 さらにすがすがしい。


「分かったから教えてくれよ」

「はいぃ。でも俺じゃわからねえんで、兄貴に聞いてもらってよろしいですか?」


 まあ下っ端じゃわかんねえか。

 

「構わん」

「では案内しますので着いてきてくだせえ」

「うむ」


 俺たちはチンピラに案内され、小汚い裏路地を進む。

 しばらく歩くと一際立派な建物へと着いた。


「さあどうぞ」


 ここがこいつらのアジトらしい。


「おう」


 チンピラに連れられ応接室へと。

 こいつは応接室へとおせるくらいには、そこそこ偉いらしい。

 そこでしばし待つ。

 突然ガチャリと扉が開けられ、ボスと思われる初老の男が姿を見せた。


「待たせたな。あんたが凄腕の魔術師か……。とんでもないな……」


 マフィアのボスと思われる男は、俺たち五人を見回すと額の汗を浮かべる。

 それなりの実力者のようだ。

 相手の実力を見抜く眼力はある。

 

「まあな。実は町で一の情報屋を紹介して欲しくてな。もちろん礼はする」


 俺は金貨を数十枚渡す。


「いらんいらん。あんたらに貸しが作れるだけで結構。おい、すぐにゴトーの奴を呼んでこい」


 ボスはお付の男に指示を出す。


「済まんな」

「構わんよ」


 そして無言のまま時が過ぎる。

 しばらくしてゴトーという情報屋が部屋に入ってきた。


「わしは出るとしよう。あとは好きにしてくれ」


 ボスはくわばらくわばわといった感じで部屋を出て行った。

 それを確認して俺たちはゴトーと向き合う。

 ゴトーはマフィアのボスが萎縮する姿を見て、あきらかに畏怖が伝染している。


「単刀直入に聞く。旧カルドンヌ家の残党の居場所を教えろ」

「……だっ旦那! それはあっしも知りませんよ……」


 ゴトーは、一瞬言葉を詰まらせそういった。


「俺は彼らに危害を加えるつもりはない。これを見ろ」

 

 俺はクラリスから預かった家紋入りの剣を見せる。

 

「こっ、これは!」

「おっと、余計なことを考えるなよ。もう一度聞こう、旧カルドンヌ家の残党の居場所を教えろ」

「はっ、はい。わかりやした――」


 ゴトーは指輪を見て何か思ったのか、つらつらと居場所を語った。

 分かってくれたらしい。

 力ずくで吐かせなくてよかった。


「これで全部か?」

「はい、これがあっしが知っている全部です」

「わかった、十分だ。これは礼だ。もう帰っていいぞ」


 金貨十枚を握らせる。


「あっ、ありがとうございやす」

 

 ゴトーは感謝し喜び去っていった。

 

 ゴトーが言うには、旧カルドンヌ家の残党は三つの集団に分かれているらしい。

 一つはチョチョカイナ子爵領内にある村落に、二つは冒険者として、三つは義賊として。

 一つ目の集団は女子供が中心。

 それ以外はカルドンヌ家に忠誠心を持っている譜代騎士が多いとのこと。

 彼らは侵略者のハイエナ共に降らなかった。

 その分信頼が置けるはずだ。

 一方、ハイエナ共に降り所領を確保した奴らもいる。

 そいつらは駄目だ。

 話をしても、筒抜けである。


 コンタクトをするなら三つ目の義賊だな。

 女子供は後回しとして、冒険者も全員と会うまで時間が掛かる。

 それを考えると義賊が優先だろう。

 ゴトーから根城の場所も教えてもらえた。

 

 さて、明日にでも義賊たちに会いに行くとしよう。

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