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第百四十二話 戦のあいだの雑事④

「あれから、心配したんだぜ。秀雄は今何やってるんだ。それにクラリスちゃんはどうした。元気でやっているのかい?」


 家への道すがらアンドレが質問してきた。


「あれから俺たちはミラリオンを経由して南方諸国へ向ったんだ。あそこなら一旗揚げられると思ってな」

「南方諸国か。あそこは戦が絶えんと聞くからな。成り上がる機会は十分あるかもな。それでどうだ、成果は出たのかよ」

「まあな。一応、南方諸国のウラールで家を興した。今では三千以上の兵を動かせるぞ」

「なっ、なんだって! もう一回言ってくれ!」


 アンドレはおどろいた様子で問いただしてきた。

 ふふふ、想定内の反応だ。

 

「だから三千だって。まあ、普通信じられんよな。俺も上手く行き過ぎてるとは自覚している」

「……本当みたいだな。お前は妖精に好かれていたし、一般人とは違うと思っていたが……。しかし、それにしても凄すぎるぞ」

「ははは、今日はこれまでの経緯も話してやるさ。込み入った話はあとでな。ところで、この村で五十人程の亜人を泊めることは可能か?」


 この村の規模と、ミラ公国では亜人が蔑視されていることを考えれば、五十人もの亜人奴隷を入れるのは難しいと思うが、一応聞いてみる。


「ごっ五十人か!?」

「ああ、俺は亜人融和という大義を掲げて勢力を拡張しているんだ。なので今回はそれを形で示すために、亜人差別が激しいミラで奴隷を買い、その者達を松永家で平等に働いてもらおうとしたんだ」

「そうか……、今考える。ちょっと待ってくれ」


 亜人融和という大義は便利だ。

 エロシン家やピアジンスキー家との戦は、対外的には自衛のための侵攻、そしてその延長という形でも問題ないはず。

 しかしこれから先、自衛のためという名目では無理がある。

 他家からは強欲な侵略者として危険視されかねない。

 また、松永家が亜人を重用している噂はじきに広まる。

 先の戦で教会が亜人軍団に脅威を感じ、勝手に亜人脅威論を振りかざすからだ。

 なので、これから亜人融和を強く主張していけば対立軸が明確になるので、信条の近い勢力との交渉はやりやすくなるだろう。 

 特に教会と敵対している勢力は。

 まあ、それはいいとして、うーんうーんと唸っているアンドレはどうだろう。

 

「無理しなくてもいいぞ」

「いいや、せっかくの秀雄が頼ってくれたんだ。あのときの蜂蜜の礼をさせてくれ。あの蜂蜜を食べてから母ちゃんの肌がつやつやしだしたんだ。お陰で、子供もできたんだぜ。それに村のみんなにもお裾分けしたら、村の女たちも大喜びだったんだ」


 おおう、アンドレ頑張ったんだな。

 おめでとう。


「それはよかった。祝いにまた蜂蜜をやろう」

「本当か! それはありがてえ。寝床の方は村の宿に集会所を使えば何とかなるはずだ。これから村長に掛け合ってくる。二人は先に家に行ってくれ」


 アンドレはそう言い残すと、一人走っていった。

 この村の領主はミラリオンにいるとのこと。

 そのためイチャモンを付けられる心配は少ないのだろう。

 大山脈に近いこのド田舎に好んで訪れる貴族は少ないのだろう。


 そして、ポツンと置いていかれた俺とリリは、アンドレの言うとおりに家へと向う。


「あら秀雄さんにリリちゃん! 久しぶりねー、元気だった? あら、クラリスちゃんはどうしたのかしら」


 ガチャリと扉を開けると早速シーラさんが出迎えてくれた。

 相変わらず元気だな。

 アンドレの言うように肌つやも良くなったみたいだ。

 

「クラリスは留守番です。今日は仕事できてますから」

「そう、残念だわ。でも秀雄さんとリリちゃんとまた会えて嬉しいわ。ささ、お茶を出すからくつろいで頂戴」

「ありがとうございます」


 俺たちはお言葉に甘えてソファーに座り、アンドレが戻ってくるまでくつろいだ。



---



 三時間後。

 

「どうしてこうなった……」

 

 俺はクビッと酒を呷り、村の広場で開催されている宴会を見る。

 リリが花魔法で花吹雪をおこし、場を盛り上げている。

 サーラはダークエルフの子ミネアと仲良く食事中。

 チカは村の子供たちと鬼ごっこ。 

 亜人奴隷たちも宴会を心から楽しんでいるようだ。 


 アンドレが村長に掛け合ってくれたお陰で、奴隷たちの宿は確保された。

 ここは亜人領域に近い村なので細々と亜人と交易というか売買を行っていたらしく、アンドレを見ればわかるように亜人蔑視は少ない。

 その礼として俺が村長に蜂蜜と幾許かの酒に金貨を提供したところ、村長が礼として宴を開催してくれたのだ。

 そのあとは村総出で歓迎を受けた。

 

「おう秀雄。飲め飲め」

「ああ……。ところで大丈夫なのか」

「問題ないわ。どうせここの領主の子爵はこんな田舎には税と徴兵以外興味はないさ。今はローザンヌへの出兵で大忙しだろう。事実ここからも何人かの若衆を持って行かれたよ。ったくこの田舎に面倒ごとを持ち込んで欲しくないんだがな。税も六割以上持っていかれるし良い事無しだぜ」


 アンドレは酒も入ったせいか、領主に対する不満をぶちまけている。

 相当恨みがあるのか、口調も徐々に激しくなる。 


「ミラも民にとってはきつそうだな。松永家は税は四割だぞ。どうだ羨ましいだろ」

「よっ、四割だってぇ!?」

「ああ」


 俺はサラリと言ってのけた。

 今のところ順調に勢力を拡張してるのと、内政による生産力の向上によって四割税でも問題ないはず。


「おい、秀雄! ミラまで出張ってくれねえか!?」


 アンドレはマジ顔を俺の眼前に近づけそう言ってきた。


「待て待て待てい、そう簡単に言ってくれるな。ミラに敵うはずないだろ」


 ミラ公国の石高は分からないが、少なくとも数百万石程度はあるだろう。

 三公国あわせて最低一千百万石以上としたら、まだまだ松永家には無理だな。

 

「だよな……。はー、俺も家が無けりゃ秀雄のところに引っ越したいぜ」


 引越しか……、言ってみるか。


「ならば引っ越せばいい。松永領にくれば家屋はこちらが用意する。それに初年度の税は二割としよう。ミラで苦しんでいるよりは随分よいと思うが」


 国の根幹は人だ。

 人口が多ければそれだけ国力は上がる。

 

「ほっ、本当かい!」

「俺は嘘はつかんよ」

「それは魅力的だな。前向きに考えさせてくれ」

「おう。よければ周辺の村にもこの話を広げてくれないか」


 ミラから人を抜き取ってやろう。

 この周辺でもそれなりに人は居るはず。

 話が広がれば万単位での人口流入もあるやもしれん。

 まあその頃になればミラ公国内でも問題になるだろうがな。

 どうせミラは腰を入れてこちらには攻め手はこれない。

 交易路経由でも、亜人領域経由でも大軍の運用は無理だからな。

 

「秀雄、お前も悪くなったな。以前はまだ初々しかったのに、今は随分変わった」

「いい方にだろ」

「ああ」

 

 アンドレは苦笑いを浮かべながら相槌を打ってきた。

 俺もいい笑顔で返してやる。

 

「だがお前のような奴が領主なら民は幸せだろう」

「そういってくれると嬉しい」

「よし、分かった。母ちゃんと話をしてから引越しについては決めよう。ついでに周辺の村にも話をしておこう」

「そうかありがとな。では一ヵ月後に答えを聞きに使者を送ろう。答えが是ならばそのときにこちらにきてもらうので準備はしておいてくれ」

「ああ、承知した」


 アンドレは酔いも醒めたようで、引き締まった表情で返答をした。


「難しい話は終わりだ。今日は飲むとしよう」

「おうよ」


 こうして夜は更けていった。



---



 大和元年七月十四日


 アンドレら村民に礼を言い、一行は亜人領域へ向けて歩を進める。

 目的は奴隷たちを送り届けてもらうためだ。

 難路なため、すでに馬車はアイテムボックスにしまい徒歩で移動をする。

 そしてしばらく歩き犬狼族の領域へと足を踏み入れた。


「そこの集団! 歩を止めろ!」


 俺たちは境界で警備をしている数名の犬狼族に呼び止められた。


「俺は松永秀雄だ。怪しいものではない」


 人族は俺一人。それ以外は亜人の集団なため、それほど警戒はされていなかったが、松永秀雄と名乗れば相手も気付くだろう。


「松永様!? 確かに噂どおり妖精を連れている……」

「うむ、俺は本物だ。ミラから亜人奴隷たちを買い込み、松永領へと送るためにここへときたんだ。お前たち、これからアントニオのとこまで連れて行ってくれ。話がある」

「むむむ、族長の名を知り呼び捨てるとは松永様かも……」


 そこじゃなくて、亜人たちが手枷なして従っているところに目を付ければいいのに。

 犬狼族は全体的に知力不足かもしれん。


「だから本物だって、さあ行こうか」

「わかりました。では犬狼族の本拠へと案内します。付いてきて下さい」

「うむ」


 彼らは一人の兵を案内役として差出した。

 俺たちは彼に導かれ犬狼族の本村へと向う。



---



 大和元年七月十五日


 一行は途中の村落で一晩を過ごしてから、犬狼族の本拠へと到着した。

 犬狼族の本拠は自然を要害である。

 周囲は深い森に囲まれた大山脈の麓に作られている。

 ここを拠点にしてミラ公国とやりあっていたわけか。


 そして俺たち四人は族長の屋敷へと向う。

 すると早速、犬狼族最強の男である族長のアントニオが出迎えてくれた。


「おう秀雄! よく来たな!」

「ようアントニオ久しいな」

「ああ、話には聞いてるぜ。あれから色々楽しいことになっているみてえじゃねえか。これから俺も参戦しようかと思ってたとこだぜ」

「ふふふ、それは頼もしい。ならば最近ミラがローザンヌへにご執心なことは知っているんだな?」


 犬狼族最強の戦士の加入は大き過ぎる。

 それにミラ公国の情報もそれなりに入っているようだ。 

 脳筋」過ぎると心配していたが、少し安心である。


「ああ、流石に領土が隣接していりゃな」

「だよな」

「お陰で俺たちは秀雄に協力できるぜ。あとはアンネローゼにも声を掛けるか。守りは鰐族のレジェスを置いておけば十分だろ」

「ははは、それは助かる」

 

 松永家の敵である教会を中心とする勢力が本腰を入れる前に、一気に勢力拡大といきたい。

 これはチャンスだ。

 まあ、カルドンヌが割れた時点でこの流れは十分想定できたがな。

 しかし、運気がいつまでもこちらに向いてるとは限らない。

 確実に生かさねば。

 

「それにわざわざ亜人奴隷たちを買い入れてくれて感謝する。俺たちでは資金がないのでどうすることもできないでいた。不本意ながら奴隷落ちした者も多いので、助けてやりたかったんだ」

「気にするな。これも松永家のためだ」

「そういってくれると助かる。彼らはマツナガグラードまでしっかり送ってやるから安心してくれよ」

「頼りにするぞ」

「おうよ」


 アントニオは任せろとばかりに胸を張った。

 

「さて、あともう一つ。これから松永家は亜人領域との交易量をさらに増やすため、そしてミラ公国への出兵を容易にするために道路をさらに広域に敷きたい。資金はこちらも請け負うのでどうだろうか。無論ミラ公国の大軍を運用させないような道幅でだ」


 以前から亜人領域との交易路を敷く工事は進めているが、これからはさらにもう一段階広くしたい。

 具体的には、馬車が辛うじてすれ違えるほどの細道を張り巡らせ亜人領域全体をカバーしたい。

 これなら一度に万の大軍は運用できない。

 隊列が延び延びになるので横腹を突くことができる。

 しかし松永側から兵を運ぶ際は、亜人領域内は同盟側なので隊列が延びても問題ない。


「秀雄が言うとおりなら構わないぜ。その方がこっちも潤うんだろ。難しい話は分からんから上手くやってくれや。狸族あたりと話を詰めてくれれば間違いねえぜ」

「ははは、わかったよ」

「おう、これで話は終わりか」

「ああ、以上だ」

「よし、じゃあ宴会だな」

「だな」


 そして、またしてもこちらからも酒と摘みを提供し宴会が開催された。



---



 翌日、五人は亜人奴隷たちを見送ったのち、リリの棲家へと蜂蜜を取りに向う。

 それからカルドンヌに足を運ぶ予定である。


 一人増えてるって?


 ああ、実はアントニオがすぐにでも同行したいと言い張ってきたのだ。

 松永側に送る人員の計画は事務方に丸投げなので問題ないとのこと。

 流石脳筋。

 こちらとしては特に断る理由もないので同行してもらうことにした。


 アントニオを加えた一行は速度を上げて、その日の内にリリの棲家へと到着した。

 

「はわぁー、お花がいっぱいですぅ」

「凄いのニャ。こんな花畑初めてなのにゃ」

「こんなところ初めてだぜ。流石は妖精族だな」

「へへーん。すごいでしょー」


 サーラ、チカ、アントニオが盛り上がり、リリが胸を張る。

 さて、蜂蜜を採ろう。


「さあ仕事だ。今日中に蜂蜜を採取するぞ!」

「りょーかーい」

「わかったにゃ」

「はいぃ」

「おうよ」


 ということで、俺たちは蜂蜜採取を開始した。

 数時間後には無事に蜜を回収し、新たな木箱も設置し終えた。

 その後は皆で食事を終えてから、各々この空間を満喫した。

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