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第百三十九話 戦のあいだの雑事①

 大和元年七月五日


 俺はバレスに旧ホフマン領を任せ、本拠マツナガグラードへと帰還する。

 妊娠中のマルティナ、ビアンカ、ウラディミーラの様子はどうだろうか。

 ちなみにチカは忍びの里で修行中だ。

 そちらにも近い内に顔を出すとしよう。


 マツナガグラードの町へと到着すると、早速三人の嫁とクラリスが出迎えてくれた。

 此度の戦は激戦が予想されたのでクラリスは留守番をしてもらい、城で訓練をさせていた。


「秀雄君おかえりなさい。三太夫さんから勝利の知らせを聞いたわ。教会軍を蹴散らすなんで流石ね」

「お兄ちゃんお帰りなのじゃー」

「秀雄様おかえりなさいませ。長期の出兵お疲れ様です」

「秀雄様ー、おかえりなさいませ。ウラディは信じておりましたよー」


 と、マルティナ、クラリス、ビアンカ、ウラディからそれぞれ労いの言葉をかけてもらった。

 そして、俺も四人を抱きしめる。

 するとクラリスはリリに対抗するように俺の肩に乗っかってきた。

 いつもの光景だ。

 戦の後だとなんだかなつかしく感じ落ち着くな。


「皆の尽力により勝利することができた。三人とも留守を守ってくれてありがとな。こちらは変わりなかったか」

「ええ、特に変わりなく平和な毎日だったぞ」

「そうか、それはよかった。それで腹の調子はどうだ」

「三人とも無事安定期に入ったわ。安心して頂戴。明日に定期検診があるからそこで性別が分かるはずだぞ」


 マルティナたちは俺が戻ってくるまで待っていてくれたのだな。

 それにしても大事がなくてなによりだ。


「ほほう、そうかそうか。では明日は俺も一緒させてもらおう」

「ええ、お願いするわ。ところでサーラ、秀雄君は遠征中にオイタはしなかったよね」


 マルティナは思い出したかのように、サーラに対し俺の下半身事情にチェックを入れる。

 おれは、戦のあいだはナターリャさんにヒルダにサーラとだけだぞ。

 何もしていないが、ついマルティナから目をそらしてしまう。

 これは条件反射だな。 


「はい、秀雄様はナターリャ様とヒルダさんと私以外とは何もなかったと思いますぅ」

「そう、よかった。また妾が増えたら流石にね……」


 俺だって好きで増やしているつもりはないんだからな。

 仕方なく、仕方なくなんだ。


「マルティナ、サーラの言うように何もなかったよ。……さあ、城へと入ろうじゃないか」

「そうね。秀雄君は戦帰りだものね」


 ふう、危なかったぜ。

 下手に言い訳をして失言をする前にさっさと城に入るとしよう。


 俺は話しを切り上げ、城下町を勝利の報を聞きつけた町民たちからの歓声を浴びながら通り抜け、マツナガグラード城へと帰還したのだった。

 余談だがその道中、新たに小姓として紹介したジーモンを皆に紹介した。

 その結果、ジーモンを鍛えるという名目でマルティナからの提案により、今後時間が空いたときはクラリスと共に訓練を行うこととなった。

 がんばれジーモン!


 

---



 大和元年七月六日


 マツナガグラードへ帰還した翌日、予定通り医者を呼び嫁たちの腹を診てもらう運びとなった。

 

「わざわざ足を運んでもらって悪いな」

「いいえ、秀雄様の御子を身ごもっていらっしゃるお三方に無理をさせるわけにはいきません。喜んでこちらから出向かせていただきます」

「心遣い感謝する。診てもらってくれるか」

「分かりました。それでは早速だが診てくれるか」

「かしこまりました」


 診察を始めるようお願いすると、医者はすでに横になっている三人に腹に順に手をかざした。

 

 十分後、診察が終わったようだ。

 その間俺は嫁たちに話しかけ気を使っていた。

 茶でも飲んでいたらあとで何を言われるか分からないからな。


「どうだった?」

「お三方とも順調で全く問題ありませんでした」

「それはよかった。性別の方は分かったのか?」

「はい、今お伝えしてもよろしいでしょうか」

「ああ頼む」


 今周囲にいるのは、俺と三人だけなので問題ない。

 リリとサーラはクラリスとジーモンの稽古をつけているのでここにはいない。

 もちろんリリとクラリスとサーラには追々話すつもりでいる。


「ではお伝えします。マルティナ様とウラディミーラ様は男子を、ビアンカ様は女子を身ごもっておられます」

「やっやりましたわー!!」


 身籠った子が男子と分かったウラディは、ベッドからビョンと飛び上がりガッツポーズを作り興奮している。


「ウラディ! あまり興奮するな。腹の子にさわるやもしれん」

「ああっ、そうでした……。ごめんなさい」


 ウラディはしゅんとなり、愛おしそうに腹をさすりながらゆっくりとベッドの上へと腰を下ろす。


 そしてウラディが落ち着いたところで、もう二人へと視線を移す。

 

「マルティナ、ビアンカよかったな」

「ええ、これで跡継ぎである男子を作ることができ、正室の役目を果たせるかと思うとほっとするわ」

「私は秀雄様の子供ならば、男の子でも女の子でも構いません。子を授かったことがこの上なく幸せです」


 二人とも結果に満足してるようだ。

 よかったよかった。

 

「秀雄君。あとはチカとサーラよ。早い内にお願い。不公平はよくないわ。間違って母様に付けることはないようにね!」


 マルティナは正室として身籠っていない二人に対しても気を使ってくれた。

 そうだなナターリャさんはともかく、チカとサーラにも子ができるよう頑張るか。


「マルティナの言うとおりだな。これから次の戦まで時間が空くので、チカも手元に一時戻してサーラも入れた三人で頑張るとしよう」

「ならばこちらもそのようにシフトを組んでおくわ。お願いね秀雄君」

「うむ。任せておけ」


 夜の生活を任せろというのもなにか木っ恥ずかしいが、これも当主の務めである。

 胸を張って応えよう。


「あのー、私はそろそろお暇してもよろしいでしょうか」


 嫁たちと会話をしていると、横から気まずそうに医者が話しかけてきた。


「おおっスマンスマン、ご苦労だったな。礼はあとで届けさせる」

「ありがとうございます。では失礼致します」


 マルティナは医者に夜の話を聞かれたことに赤面してしいる。

 久しぶりに見るマルティナが照れている姿はやはり可愛いな。

 

「さて、診察も無事終わったことだし飯にしよう。今日は、リリたちも呼びみんなで食べるよう」

「そうね」

「かしこまりました」

「はいですわー」


 時間も昼なので、俺たちは昨夜に続き久しぶりの家族団欒を楽しむことにした。



---


  

 大和元年七月七日

 

 俺は、リリ、クラリス、サーラを伴いチカを迎えに忍びの里へと足を運んだ。

 山奥にある里へと着き、質素な木造の門を潜る。

 里内では、百人程に膨れ上がった亜人の子供らが訓練をしている。

 以前はマツナガグラードのスラムにいた子がほとんどだったが、最近は新たに獲得した領地の亜人からも希望者を募った。

 そのため人数も膨れ上がったのである。

 今後も余裕があれば亜人奴隷の購入も計画している。 

 また亜人領域からも、養いきれない子供がいたらこちらに回してもらう予定だ。


 さて、まずは千代女に挨拶をするか。

 三太夫、段蔵、才蔵らは基本諜報活動に専念しているので留守になりがちだ。

 ここで指導をしているのは、千代女にお銀、さらには才蔵と共にきた忍たちが主である。


「大したもんだ」


 俺は里内を歩きながらその様子に感心する。

 日本でいうアスレチック公園を、さらに二段階ほど難易度を上げたほどの訓練施設を、忍の子と亜人の子たちが一所懸命に挑戦している。

 子供たちを遊ばせつつ体力づくりをさせているのだな。

 

「おーい。千代女さんは何処だ?」


 俺はアスレチックで指導をしているお銀に声をかける。

 するとお銀はサササとこちらへ近づき頭を下げる。


「これは秀雄様。このような所に起し下さるとは。義母ならば裏山でチカ様と鍛錬をしております。これから案内いたします」

「そうか、仕事中悪いな」

「いいえ、他の者が加入したお陰で大分楽になりましたので問題ありません」

「それはよかった。ならばお願いしよう」

「かしこまりました。あっ、先日は温泉に招待して下さいましてありがとうございます。久しぶりに夫と息抜きができました。不在の夫に代わってお礼申し上げます」


 段蔵が南方諸国の情報を集めてくれた褒美にフェニックスの間へ招待したのだったな。

 喜んでもらえて何よりだ。

  

 お銀は礼を折れると、子供たちの訓練を他の忍に任せ裏山へと小走りで案内してくれた。

 あとを追いかけること約三十分、到着したようだ。

 木々のあいだで二つの人影が高速で動いているのが見られる。

 チカと千代女が模擬戦でもやっているのだろう。

 

「こちらになります」

「うむ、ここで待つか。二人のことならすぐ気付くだろう」

「はい。すでに鍛錬を中断してこちらに向っております」


 お銀の言うとおり、今しがた木々の間を飛び移っていた二つの気配がこちらに高速で近づいてくる。

 動きから察するにチカも大分腕を上げたな。

 そして、シュシュシュとチカがこちらへ駆け寄り、ジャンプ一番俺に抱き付いてきた。


「秀雄ー、久しぶりニャー。チカに会いにきてくれたのかニャー?」


 チカは尻尾をブルンブルンと揺らし、耳をピコピコさせながら喜びを表してきた。


「ああ、修行の成果を確認にきた。ある程度成長していれば一先ず俺の下へ戻ってもらおうと思ってな」


 俺はチカにそう告げると、共にこちらへきた千代女へと視線を送る。


「秀雄様、このような山奥までご足労ありがとうございますだ。チカ様はすでに上忍といっても差し支えないほどの実力を身に付けられましただ。まだ成長の余地はありますが、いつ戦場に出しても問題ないと思いますだ」

「チカ、千代女ばあちゃんに扱かれて強くなったのにゃ。秀雄の護衛は任せるのニャ!」


 おおう、上忍クラスまで上達したか。

 まあチャレスの娘たけあり血統は折り紙つきだ。

 鍛えればモノにならないはずがない。


「そうかそうか、よく頑張ったな。これで俺も枕を高くして眠れるぞ」

「安心するのにゃ」

「これから雑事が増えるのでチカの護衛が必要だ。頼むぞ」

「了解なのにゃ」


 流石に千代女とお銀の前で子作りのために迎えに着たとは言えないので、別の理由をつける。


「では千代女、チカを預かるぞ。また時間ができれば修行を頼むからな」

「はい、承知しましただ」

「うむ」


 話がまとまったので、俺たちは下山し里へと戻った。

 チカも別れの挨拶をしたいだろうし、クラリスもアスレチックで遊びたがっているようなので、今日はここに泊まるとしよう。

 千代女もすでに宴会の準備にとりかかっているので、好意に甘えるとするか。


 その夜、里の忍と子供たちが集まり、みなで猪鍋をつつきながら宴が開催された。

 俺は久しぶりに味わう鍋の味をなつかしく思い、箸が進み腹がパンパンになるまで食べてしまった。

 リリとクラリスは子供たちと戯れ、サーラとチカも猪鍋のご馳走を堪能していたようなので何よりである。

 

 そして翌日、千代女とお銀たちに別れを告げ一行はマツナガグラードへと向った。

  

---


 城に戻って一人思案する。

 さて、これからいろいろやることがある。

 政事の実務は基本コンチンとノブユキに任せているので、俺の判断が必要な事態にならない限りは問題ない。

 俺がやるのは雑事だ。

 まずは、亜人奴隷の購入だ。旧ホフマン領から金貨を接収したことで資金にはかなり余裕ができた。

 近辺で奴隷が売買されているのはカラの町、さらにはミラ公国の公都ミラリオンだ。

 ホフマン領からならば距離もさほどではない。

 状況によっては旅行がてら足を伸ばしてもいいだろう。


 次は、迷宮探索だ。

 以前迷宮入って無双する自己満足はやりたくないとっていたが事情が変わった。

 ミニフェアリーガーデンへと向い、妖精たちの協力を仰ぐべきと判断をしたからだ。

 さらにギルドをとおして、ミニフェアリーガーデンがある未発見迷宮を知らせ迷宮都市として大開発をしなければならない。

 さらなる投資をして冒険者を呼び込むとしよう。

 まあ、それが目的でカラの町やミラへと向うわけでもある。

 カラの町のガチムチギルド長とお話するかな。


 続いて、ゲオルグにエルフを紹介するついでに大山脈以東の亜人領域への訪問だ。

 将来的に交易や人材交流を深めるためにも、様々な亜人と友好関係を結びたい。

 

 その他にも、ピアジンスキー家を傘下に収め、その良馬やユニコーンやバイコーンで競馬をするために温泉地に競馬場を建設したりとやることは色々ある。

 時間が許す限り順に処理していこう。

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