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第百三十七話 リリのお散歩 

http://ncode.syosetu.com/n8423ci/18/

この話の一番下に簡易地図があります。


ポルタンテ王国とノースライト帝国の北が魔族領になります。

「ふーんふーんふーん」


 リリは一人ナヴァール湖上を鼻歌交じりに散策をしていた。

 論功行賞でリリは秀雄の肩に座りながら、旧ホフマン家の武将たちの品定めをした。

 その結果、秀雄に対し強い悪意を抱いていると感じられる者はいなかったのでリリは一安心する。

 論功行賞を終えてからは暇な時間ができたので、早速ナヴァール湖に繰り出すことにした。

 リリは秀雄と出会うまでに森の中や花畑の空間で暮らしていたので、湖を見るのは初めての経験だった。

 リリは初の湖の景色に新鮮さを感じ、それを楽しんでいた。


「湖って広いなー、たのしーなー。……んー、あれれっ?」


 リリは無用な争いを避けるため、水竜が住むといわれてるナヴァール湖の中央部へは踏み込まず外周を飛んでいたが、湖の中心部から水竜とは違った魔力を感じた。

 それはリリとは属性は異なるものの、親和性のある魔力であった。


 ブーン!


 リリはその魔力の出所が気になり、すぐさま風魔法を使い上空高くへと飛び上がる。

 

「おおー」


 すると上空のリリの目に映ったのは、直径一キロメートル程の円形の小島だった。

 リリはその小島へ向けて意識を集中する。


「んんん! もしかしてー」


 リリは小島にある魔力の出所を大体認識すると、すぐさまそこへと向けて羽を向ける。


 キュイーン!


 常人から見たらその姿を視認できないほどの速度でリリは滑空する。

 リリは夢中で島に向けて飛んでいたため、彼女の頭の中には水竜の縄張りのことは綺麗さっぱり無くなっていた。


「ギャ!?」


 一般人では視認できないスピードだが、無論ナヴァール湖の主である水竜にとっては、リリの姿を認識することができた。


「ギャギャ! ギャウー!!」


 水中からガバッと顔を出しリリの姿を確認した水竜は、無断で我が家に侵入してきた無法者に対して憤怒の表情を浮かべる。


 水竜はAランク魔獣である。

 普段は温厚な性格をしており、自ら人間を襲うことはない。

 食糧も肉食ではなく、魔力が多く含有される水草を主食にしているとされている。

 ナヴァール湖中央には魔力の吹き溜まりがあり、その周辺の水草にも影響を与えている。 

 そのためナヴァール湖の水竜は、湖中央部に住んでいるのだ。 

 

 しかし普段は温厚な水竜も、自身の縄張りを侵されたりその肉親や同族に危害が加えられる恐れがあるときは、性格が一変し敵の息の根を止めるまで怒り狂う。  

 

 リリを敵と認識した水竜は、自身の羽をバッサバッサと振動させ湖上から飛び上がる。

 

「ブハァァァ!!」


 そして、水竜はブレスをリリに向けて放った。

 ブレスとはいっても本物の水龍が放つ水属性の波動砲ではなく、水の塊を魔力により圧縮させ放った一撃なのだが。

 それでも冒険者にとっては十分過ぎるほど脅威ではある。


「んんー、なんかきたー」


 全速力で滑空するリリは水竜から放たれたブレスに視線を送ると、ひょいひょいと空中でダンスでも踊るかのように華麗にブレスを回避する。


「ギャッ? ギャーウウー!!」


 さくっと渾身の一撃を避けられ水竜は一瞬とまどいの表情を見せるが、すぐさま怒りへと舞い踊り咆哮を上げる。


「ギャギャ」

「グギャ」

「ガオン」


 水竜の咆哮によって、さらに複数の同族たちが水面に顔を出す。

 

『ブハブハブハァァァーーー!!!』


 そして、水竜たちが一斉にブレスを放った。


「またなんかきたー!」


 リリは後方から襲ってきた複数の水砲に気付く。

 リリは流石に遊び半分でよけることは危険と判断し、魔力を纏いスピード全開で宙を飛び回る。

 はたから見たら何をしているかわからないだろうが、リリはヒョイヒョヒョイと水泡の間隙を縫い華麗に回避をしてみせた。


『ぎゃぎゃうー……』


 リリの魔力が膨れ上がりを肌で感じ、さらに全力の強力攻撃をさくっと処理されたことを受け、水竜たちは意気消沈してしまった。

 水竜たちもユニコーンのベルンハルトちゃんよろしく、こいつはヤバイと本能的に感じとったのだ。


 リリはそんな水竜たちが大人しくなったのを確認すると、今が好機と隙を突いて全速力で目的地である小島へとギュイーンと突撃していった。


 

---


 十分後。

 リリは水竜たちとさよならしてから、さしたる邪魔も入らずに無事に小島へと上陸した。

 小島の周囲には結界といっては大袈裟になるが、外敵からの侵入を妨げる目的の膜が張られていた。

 しかし、リリはなぜか簡易結界にはじかれることなく、すんなりと内部に入ることができた。


「到着ー」


 島に降り立ったリリはワクワクしながら、早先程感じた魔力の出所でとパタパタと飛んでいく。

 そして、その出所の目と鼻の先へと近づく。


「ねーえ! 誰かいないのー?」


 リリはその場に近づいても姿を現さない者らに向けて呼びかける。

 しばらく繰り返し声を掛け続けると、茂みの中から一人の水妖精がリリの前に姿を現した。


「こんにちは。ここに同族の子が訪れるなんていつ以来かしら。よく水竜の棲家を無事に通過できたわね。初めまして、私はこの島を預かっている水妖精のローラといいます。あなたのお名前は?」


 水妖精のローラは自己紹介を終えると、リリの前へとパタパタと近寄りペコリとお辞儀をした。


「おおー、ゴホン……初めまして、あたしは花妖精のリリっていいます。湖をお散歩してたら、なつかしい気配がしたんでここにきたんだー」


 リリは同族と会話をするのは母親と別れて以来になるので、幾分緊張気味で挨拶をする。

 

「そうだったんですか……、って花妖精!! リリさんの魔力からもしかしてと思いましたが……、あなたのお母様はララ様ではありませんか?」


 ローラはリリが花妖精であると分かると、当初の落ち着き払った表情から一変、興奮した様子でリリに問いかけてきた。


「お母さんのこと知ってるの!?」

「やはりララ様の!! リリ様大きくなられましたね。我らナヴァールの水妖精共は、ララ様にお仕えしているのです」


 ローラはリリが主筋であると分かるや否や、リリの手の甲に口を付け臣下の礼を取った。


「ちょっとまってよー、あたしそんなこと全然知らないよー。だってお母さんはあたしを置いて出かけてるから……」

「あっ……、私としたことがつい興奮してしまいました。リリ様のおっしゃるとおりですね。まずララ様はこの大陸西部一帯、すなわり北の魔軍領域から南方諸国までの妖精の長でいらっしゃいます。リリ様は妖精族の姫であるのですよ。そしてララ様はその私の知る情報とリリ様のお話から推測すると、魔軍の侵略を受け失ったフェアリーガーデンを取り戻すために、現在魔軍と争っているいるのではないでしょうか」

「えっ…、あたしが姫? フェアリーガーデン?」

「はい、リリ様は次代の妖精族を束ねるお立場になります。もちろん長としての素養は申し分ありませんわ。ここまで水竜の攻撃を軽々と捌いてきのですから。次にフェアリーガーデンについてですが、これは話せば長くなるのですがよろしいですか?」

「うん、だじょーぶだよ。それにしてもお母さんがそんなに偉かったなんてなー、びっくりだよ」

「ふふふ、花妖精は妖精族の貴種なのですよ。それは一先ず置いておきましょう」


 ローラはリリが妖精族の姫であると告げてから、現在の妖精族が置かれている状況について話を始めた。


「……ふむふむ」


 十分後、リリはローラの説明を聞き終え納得している。

 

 ではここでローラの話をまとめよう。


 かつて妖精族は現在のローズ公国からポルタンテ王国周辺を中心に生活をしていた。

 数百年前は妖精族は周辺諸国の守護妖精として、人族との関係も良好だったという。

 ローズ公国の名の由来も、彼の地に花妖精繁栄していたことからローズという地名が名づけられたとの説もある。

 

 しかし、妖精族と人族の関係も時が経つにつれ次第に希薄化する。

 そして妖精族の繁栄も魔軍の伸張と人族との関係悪化により終焉を迎える。

 十五年前、ポルタンテ王国の北部にあった妖精族の本拠地であるフェアリーガーデンを、即位間もない魔王率いる魔軍に侵略される。

 人族とはローズ国やポルタンテ王国さらにはノースライト帝国が、妖精族を戦の道具として利用しようとしたため疎遠になってた。

 一方亜人たちも人族からの侵略を受け、妖精族に援軍を送る余裕はなかった。

 ララ率いる妖精族は孤立無援で魔軍と相対することとなったのである。


 ただそれでも当初ララや他の妖精の実力を考えると、魔軍とて容易にフェアリーガーデンを攻め取ることはできぬとの見方だった。

 それほどララの強さは定評があったのだ。

 さらにフェアリーガーデン周囲に張る大結界は、魔軍といえども簡単に侵入できるものではなかった。

 またこの戦いにはローラ一族も召集され、水竜のブレスを受け被害を出しながらも合流を果たし戦闘へと参加をした。


 だがその甲斐むなしく、魔軍に手痛い打撃を与えたもののフェアリーガーデンは落城寸前となる。

 その原因は味方妖精の裏切りである。

 魔軍は闇魔法により強引に闇落ちさせたララ側近の妖精を操り、フェアリーガーデンの大結界を崩壊させたのだった。

 

 結界が消えたことで、これ以上の抵抗は妖精族の存亡に関わるとララは考えた。

 幸い妖精族への被害は一割にも満たない。

 ここは兵力を温存し捲土重来を図ることにしたのだ。

 ララはフェアリーガーデンを諦めて、生まれたばかりのリリや健在の妖精たちを引きつれ、この小島のような各地のミニフェアリーガーデンへと引いたのだった。

 そして、ララは人質として御身に危険があるリリを隠し、自身は再び戦いに身を投じたのだった。

 ちなみにリリを誰とも接触させなかったのは、魔軍の闇魔法を警戒してのことだ。

 

 ローラ一族は、フェアリーガーデンでの戦いで多大な被害を被ったことと、この小島の周囲が水竜に占拠されており、出入りが容易ではないことから傷が癒えるまでこの地に留まるようにと命を受けているとのことだ。


 以上がローラが話したことの内容である。


「はい、これが私の知っている全てです。悲しいかな……、私やこのミニフェアリーガーデンの妖精たちの力では魔軍どころか、周囲の水竜らにすら手を焼いています……」


 ローラは一通りリリに己が知ることを打ち明けてのち、現在自身が置かれている状況を思い出したのが、表情を曇らす。


「そっか、お母さん大変だったんだね……。あたしにはそんなこと一つも言わなかったから知らなかったよ……。でも大丈夫! ローラお姉ちゃん、ヒデオならなんとかしてくれるよ!!」


 リリは落ち込んでいるローラに安心しろと言わんばかりに、自信満々で秀雄の名を告げた。


「ヒデオ様……ですか?」

「うん! ヒデオはねー、松永家のドンでアタシと一緒にいる人なんだよ。ただ今絶賛勢力拡大中なのだ。ヒデオに相談してみなよー。きっと助けてくれるよー」

「松永家の長ですか……。人族はあまり信用していませんが、リリ様がそうおっしゃるなら信じないわけにはいきません。この地で無力にさいなまれながら燻っているのは耐え切れません。ぜひ秀雄様にお引き合わせくださいませ」

「うん! じゃー今からヒデオのところにいこーよ! 付いてきて!」


 リリは秀雄ならば自身の母のことも含めてなんとかしてくれるだろうと確信し、ローラを秀雄の下へと連れて行くと決めた。


「承知いたしました。リリ様のお心のままに。みんな! 出てきなさい!」


 ローラはリリの申し出を受け入れると、茂みに隠れていた一族の妖精たちを呼び寄せた。

 すると、


「ハーイ」

「ただ今参ります!」

「わっかりましたー」


 とわらわらと五十近くの水妖精たちが姿を現わしたのだった。


「全盛期にはこの倍はいたのですが……、今ではその数も半減してしまいました。……さあみんなリリ様にご挨拶をして」


「はーい」

「承知」

「了解でーす」


 ローラは一族の水妖精たちをリリに紹介する。

 リリも初めて同世代の妖精たちと交流ができたことで、すぐにテンションがあがったのかあっという間に仲良くなった。


 交流を深めてから、妖精たちはいそいそと出発の準備にとりかかる。


「では行きましょうか。水竜の縄張りを通過しなければならないので、一族全員で出ましょう」

『おー!』

「ローラお姉ちゃん。水竜たちは多分だいじょうぶだよ」

「いいえ、リリ様に万が一のことがあっては大変です。ここは一族の全力を用いて無事に通過を致しましょう」


 ローラは水竜による被害をへらすべく集団で島を発つことにした。

 しかしリリはローラの心配は杞憂であると思った。

 というのも、ローラたちが出立の準備をしているときにリリは暇つぶしとして水竜たちの下へと向い、話し合いという形で交流を深めたからだ。

 Sランク魔獣一人とAランク魔獣五頭が腹を割ってお話合いをした結果、協力関係を結ぶことにしたのである。

 

「じゃー、出発だねー」


 リリはローラたちの準備を終えた様子を確認すると、はやる気持ちを抑えきれずに先頭に立って島から飛び立った。

 そして、彼女に率いられて後ろをローラを頭とする水妖精の編隊が追随したのだった。


 無論、道中水竜からの妨害はまったくなかった。



---



 さて、論功行賞も終わったところだしお茶でもしよう。


「茶をくれ」


 そう告げると早速ジュンケーが、小姓見習いのジーモンを引っ張りお茶汲みの指導をしながら緑茶を作る。


「はいどうぞ。熱々ですよ」

「どうぞでおじゃる」


 俺は二人から差し出された茶をすする。

 今日も緑茶が旨い。

 まったりと茶を味わっていると、リリの魔力を感じた。

 散歩から帰ってきたんだな。


 んん。

 なんだこの数は……。

 俺が予期せぬ自体に戸惑いを覚えていると、リリが扉が開いた。


「ヒデオー! お願いがあるのー!」


 といきなりリリがお願いをしてきた。

 後ろに五十はいるかという妖精を引き連れてだ。


「ブハッ!! アッチー!」


 俺は思わず茶を噴出し火傷をした。

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