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第十四話 猫族の村③ チャレスの実力

 猫族の村に逗留すること一週間となった。

 本当ならばさっさとチカだけ頂いておさらばする所なのだが、色々と事情が重なったのだ。


 まず一つ目は、あまりにもチッチが不憫だったので、少し位はチカとの時間を作ってやりたかった。

 もしあのまま別れの挨拶もままならないで旅立ったら、彼に与える精神的なダメージは相当だろう。

 また病まれても困るので、俺からチカを説得して少しの間、彼の相手をさせる事にした。


 二つ目はチャレスに基礎的な戦闘技術を教えてもらった為だ。

 チッチとの戦闘の後、チャレスが俺に興味を持ち、半ば強引に手合わせをする事になった。

 

 一本目は魔法抜きで相手をしたのだが、三分程でやられてしまった。

 魔力を全力で集中して身体能力を最大限まで引きあげて、なんとかチャレスの攻撃を裁けたのだが、それが精一杯だった。

 このままでは魔力切れが見えてきたので、捨て身で攻撃をしたのだが、あえ無く返り討ちにあったのだ。

 俺の攻撃は技術も経験も不足しているため、チャレスにとっては容易に避けられるのだろう。


 続いて、魔力が回復するまで一息入れてから、魔法ありの二本目が行われた。

 ここが本番だ。

 

 俺は一本目の経験を生かして、チャレスを懐に入れない作戦を採用した。

 まずフレイムサークルと命名した、術者を中心に直径約三メートルの円状の炎の壁を出現させる魔法を使い、防御態勢を整える。 

 この魔法は一度使うと、術者が止めるか、自身の魔力が枯れるまで効果が継続する。

 さらに術者が移動をしたら、炎の壁も同時に移動する優れものだ。

 俺は左手に蜂蜜を持ち魔力を補給しながら使っていたため、半永久的に効果が継続するのだ。


 卑怯と思われるかもしれないが、そうでもしないと勝てる見込みが無いのだから、仕方が無かったのだ。

 蜂蜜での魔力回復も戦術の一環と考えれば、本番さながらの演習が出来るとも考えられる。

 次に二十センチメートル程のファイアーボールを、周囲に五個同時展開する。

 これはファイアーサテライトと名付けた。

 ネーミングセンスは突っ込まないでくれると嬉しい。

 展開出来るファイアーボールの数は術者の魔力量によって増やせるが、俺には五個が限界だった。

  

 チャレスもこのレベルの魔法はなかなか見た事が無かったのだろう、一本目の時のようにいきなり突っ込んでは来なかった。

 俺は相変わらず蜂蜜をちびちびと飲みながら、『待ち』の一択だ。

 チャレスが突っ込んできたら、安全地帯からファイアーボールの連発を繰り返すだけだ。

  

 すると、動かぬ俺にしびれを切らしたのか、チャレスは魔力を高めると、いきなり獣の咆哮を上げ、ありえない速さで筋肉達磨が突っ込んで来た。

 俺はさすがに炎の壁には突っ込んでは来ないだろうと思い、動きが止まった所にファイアーボールを打ち込む構えだ。

 しかし筋肉達磨は止まらない、炎の壁の前まで来ると両足でしゃがみ込んで跳躍したのだ。

 炎の壁の高さは五メートルはあるのに、それを飛び越えてきたのだ。


 だが救いは彼を以ってしても、飛べるギリギリの高さだった事だ。

 彼は空中で身動きが取りにくくなっている。

 好機とばかりに、俺はどでかい的にファイアーボールを全弾打ち込む。

 チャレスはブロックを作って五発のファイアーボールをすべて受け止めたが、さすがにダメージを負っているようで所々に火傷を負っていた。

 

 そして俺はすぐさま次弾の準備に取り掛かる。

 と同時にバックステップをする。

 

 チャレスは炎の壁が移動するとは思っていなかったらしく、驚きの表情を見せる。

 俺は、また同じ事を繰り返してやるつもりだ。

 この時、「いいハメ技を見つけたぜ」と慢心してしまった。

 

 するとチャレスは空中でニヤリと笑うと、彼の体が一瞬光に包まれた。

 するとあら不思議、筋肉達磨が猛獣の王こと虎さんに変身しちゃいました。

 そして虎さんは颯爽と二段ジャンプで俺の目の前にピタリと着地。

 これ『チャレス』って言うG難度の新技ですか?

 そして俺は猫パンチを顔面に見舞われてノックアウト、試合終了となった。


 最後は投げやりな気持ちになってしまったが、こんな感じで手合わせは終わった。

 その後チャレスは俺に「魔力レベルは高いのに、戦闘技術と経験が全然足りてない。良ければわしが教えるぞ」と親切に申し出てくれた。

 日本では柔道の部活程度の格闘経験しかない俺にとって、チャレスの申し出は渡りに船だった。

 そして一週間みっちりと訓練をしたことで、付け焼刃だがそこそこのレベルアップに成功したのである。

 さらに厳しい訓練の成果か、魔力量も初期の二割増し程度まで増加したのだ。


 最後に三つ目は、皆を安全な場所で落ち着かせてやりたいと思ったからだ。

 これまでずっと人族からの、差別や追手の目を気にしながら旅をしてきた。

 ようやく落ち着ける場所に来たので、しばらくここで過ごし英気を養ってもらおうと言う配慮である。


 だがもう一週間も居付いた事だし、そろそろ潮時だな。

  


---



 翌日、俺達はようやく村を出立する。

 

 昨晩その事をチャレスに伝えると、彼はいそいそと倉庫へと向かい、数品の装備品を持って帰って来た。

 餞別に色々とくれるらしい。

 わかってるじゃないか。

 俺には理力の籠手、リリには翡翠の髪飾り、クラリスには理力の杖、ビアンカには黒曜石の剣、最後にチカには黒曜石の小剣となにか丸薬が入った小瓶をくれた。

 

 チャレス曰く、俺は接近戦の方が才能があるというので、杖と同じ効果を持つ籠手を頂いた。

 あとチカにあげた丸薬は、猫族一の薬師でもあるセリナさんが作り上げた特製のものだ。

 これは数十秒ではあるが獣化を可能にする効果があるらしい。

 

 獣化はおいそれと出来るものではない。

 そもそもチャレスクラスの者でなければ、自力で発動する事はできない。

 しかもその変身継続時間は数分程度。

 まさに全猫族で三指に入るらしい、ガチムチおっさんにふさわしい技能だ。

 

 しかしセリナが作った薬を飲めば、獣化の素質がある者なら一粒で約十秒の獣化が出来るらしい。

 ただし副作用が半端なくて、四粒以上は魔力量の多寡によっては死亡する危険性があるので、運用には注意してくれとの事だ。

 ちなみに一粒でも、三日は全身筋肉痛で寝込む程の副作用らしい。

 セリナ曰くこれは嫁入り道具のような物だと思って欲しいとの事だ。

 我が身を犠牲にしても主人を守ると言う、番としての覚悟を持てと、チカに暗に示したらしい。

  

「色々とお世話になりました。また近くを通り掛かったら、ぜひお邪魔させて下さいね」


 俺達は村の入口まで送りに来てくれた、チャレス夫妻とチッチに別れを告げる。

 チッチの件だが、この一週間でチカが上手く丸め込んだらしく、徐々に顔に生気が戻ってきているようだ。

 俺に対しての態度も表面上は大人しくしているが、まだ一物あるような感じがする。

 だがもう去るのだから、どうでもいい事だがな。


「秀雄なら何時でも歓迎さ! 次に来る時は、どれ位強くなってるか確かめてみたいしな」

「はは、まあ頑張りますよ」

 

 あんたと本気でやりあったら、命がいくつあっても足りねえよ。

 俺はつい愚痴りそうになるのをぐっと堪えた。


「秀雄さん、チカが迷惑掛けるけど、どうかよろしくお願いしますね。あの子には態度を改めるように、きっちり言いつけておきましたから」


 セリナは色々チカに嫁入りの心構えを説いたらしい。

 まだ俺達はそんな関係になっていないのにな……、もちろんチカがその気なら、俺はウエルカムだけどね。

 

「秀雄殿、チカをよろしくお願いします」

「ああ任せておけ」


 最後にチッチと言葉も交わした。

 とりあえずお疲れ、お前の気持ちも解らなくはない。

 これから頑張れよ。


 さあでは行くとするか。


「では皆さんさようなら。また会う日まで」

「父ちゃん母ちゃん、一応兄ちゃんも、じゃあにゃー!」


 俺達は別れの言葉を投げかけてから、行きと同様にチカを先導役にして、交易路へ合流するべく歩みを進めた。 

  

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