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第百三十話 ホフマン家攻略戦④

 大和元年六月十七日


 ここはアホライネン家領、神聖組駐屯地。

 この場所には、神聖組第二中隊・第八中隊の計二中隊が駐屯し、他家の動きに備えている。

 教会とアホライネン家との関係は蜜月状態にある。

 というのも現教皇は、アホライネン家の女系の血が混ざっているため、半ば親類といっても差し支えないからだ。

 教皇はそのコネクションを生かし、アホライネン家を上手く利用し、その手先としている。

 このような理由で、アホライネン領には現在神聖組が派遣されているのだ。


 さて、神聖組駐屯地はなんら変わりのない毎日を送っていた。

 朝は五時に起床し、聖書を暗唱し、礼拝を行う。

 そして、厳しい訓練を耐え抜き、夜には別の訓練に全力で取り組む。

 

 しかし、その平穏はホフマン家からの使者によりかき消されることとなる。

 

「ナーマ様! たいへんたいへんー。ホフマン家から使者がきましたよー」

 

 といいながら、神聖組第二中隊長パーチ=ナーマへと伝令するのは、彼の愛妾アキーナだ。

 アキーナは弾除け名人として知られ、これまで敵の射撃を一度も体に受けたことがない。

  

「なんですってー! あらやだ、イサーミお姉さまがご不在なのに、タイミングが悪いわー」

「そんなこといっても、ナーマ様しかいないんだから会ってくださいよ!」」

「もうアッキーたら、いうよねー。分かったわよ。今から会うから通して頂戴」

「かしこまりましたー。チョーさんも呼んできますねー」

「たのんだわよー」


 二人が仲むつまじいやり取りを交わすと、アキナがトタトタと天幕を出てホフマン家の使者と、八番隊隊長のチョーリキを呼びにいった。


 そして、五分後、アキナが、使者とチョーリキを引きつれて戻ってきた。


「ナーマさんちわっす。今日も相変わらずいいケツしますね。ああ、スパンキングしてーなー」


 このタチ男が、神聖組第八中隊長チョーリキだ。


「チョーさん! ナーマさんは僕のモノなんですからねー! 横取りしちゃだめですよー」


 アキナがたまらず口を挟む。

 すると、チョーリキがいきなりアキナの尻をスパンと叩く。


「なら、お前の尻で勘弁してやるよ」

「そ、そんなことって……。チョーさん……、もしかして切れてるんですか?」

「別に、切れちゃいねぇよ。今日は暖ったけーからコンディションがいいだけだ」


 二人がいつものようにスキンシップをとっていると、見かねたナーマが一言放つ。

 

「こら、二人共いい加減にしなさい! ホフマン家の使者殿の面前よ!」

 

「ごっ、ごめんなさい」

「正直スマンカッタ」


 アキナとチョーリキが揃って頭を下げた。

 ナーマは第二中隊の長を任されるだけあり、剣の腕は神聖組一と言われている。

 だけに怒らせると怖い。

 そのため二人は、素直にナーマのいうことに従ったのだ。

 ちなみに、一はナーマ、二がソージ、三がサイト、これが神聖組の三剣である。


「わかればいいわ。御免なさい使者殿、驚かせちゃって。それで、用件は何かしら?」


 ナーマは、ホフマン家の使者へにこりと笑い話しかけた。


「はっ、はい。実は現在ホフマン領は松永家に攻め込まれております。奴らは、三千を越す大軍で来襲し、残念ながら我らだけでは守りが困難と思い、神聖組の助力を請うべく、この度お願いに参りました」


 使者は、始めはガチホモたちの勢いに圧倒されていたが、ナーマに促されてからは真剣な表情に立ち戻り、ジークフリートから言いつけられた口上を述べた。


「そう、また松永がやらかしたのね。あの返事は嘘っていうわけね。いいわ、そこまで舐められたら、痛い目みせてやらないといけないわ! チョーさんやっちゃいましょう!」

「おう、俺はノンケだって食っちまう人間なんだ。松永をヒイヒイ言わせてやるぜ!」

「その意気よ! チョーさん」


 ナーマとチョーリキは、すでに非道な松永秀雄を宗敵とみなしていた。


「では、お力添えしてくださるのですね」

「ええ、安心して頂戴」

「あっ、ありがとうございます」


 こうして、ホフマン家は神聖組との交渉に成功した。

 

「じゃあ、行きましょうか」

「はい!」

「おう!」


 そして、ナーマ率いる第二中隊、チョーリキ率いる第八中隊の計二百人が駐屯地を旅立ち、遠くホフマン領へ向け進軍を開始した。


 

---



 ナヴァール川を挟んだ戦いで、勝利を納めた松永軍は、サーラら工兵隊に退路確保のための架橋を任せ、ホフマン領都ゼーヴェステンへ向け行軍し、その日の夕刻前に到着した。


 そして、夜営の準備を整えてから、主だった将を集めて軍議を開く。


「ふう、ここまでは予定どおりだな。今日は昼の戦闘で兵たちも疲れているだろう。皆に酒とご馳走を配り明日へ備えてもらおう。攻撃は夜明けと共に開始だ」


 俺は、居並ぶ将へと向けて声をかける。


「承知しました。それで、陣立てはどうしましょう?」

「うむ。今回は迅速に落としたい。なので、大手門と搦め手門の両方から攻めよう」


 ゼーヴェステン城の搦め手口は、ナヴァール湖上を迂回しなければならない。

 敵を牽制させる役割で十分なので、ここはボリスにやらせよう。


「ます搦め手口は、ボリス殿に先陣を切ってもらう。援護にはナターリャ隊を付けるので退路は安心してくれ。率いる兵はボリス殿の手勢二百五十に加え、ナターリャさんには二百五十とアルバロら獣人部隊を付けよう。よろしく頼む」


 ナターリャさんがいれは、退却時も容易にだろう。

 

「わっ、分かり申した。謹んでお受けいたす」

「了解よー。ふふふ、もしかして私が督戦隊かしらねー」


 ボリスは、ラターリャさんがいると分かって、若干安心した表情になったが、督戦隊という単語を聞くと、顔付きが一変さーっと血の気が引いたようだ。


「それは心強い。ではお願いしたします」


 俺は、青ざめるボリスを尻目にとっとと話をまとめ、次に移る。


「さて、次は大手門から攻める本隊だ。先鋒を切りたい奴は名乗り出ろ」


 現在の松永家は、バレス隊に獣人部隊の他にもロマノフ軍やチェルニー軍など精鋭揃いである。

 ボリス意外、誰に一番槍を任せても十分な活躍が期待できる。


「俺が!」

「いやわしが!」

「私がやろう!」


 と、いきなりヤタロウ、バレス、エゴールが手を挙げた。

 皆やる気マンマンだな。

 競争意識が芽生えて、互いが切磋琢磨している。

 いい傾向だ。


「師匠……、ここは俺にやらせてくれ!」


 んん、あとから手を挙げてきたのは、コトブス三国同盟のミュラー家当主のゲオルグ=ミュラーだ。

 彼は、エルフ好きなため、エルフ三人をはべらしている俺のことを師匠を呼んでいる。

 

「おお、ゲオルグ殿か。あなたは援軍の身だ。そこまで無理することはなかろう」


 遥々、コトブス地域から出兵してくれただけで感謝するべきなのだから、危険を伴う一番槍を任せる必要はないと考える。


「いいや、ここは俺がやらねばならん理由があるんだ」

「ほう、それはなんだい?」

「よくぞ聞いてくれた! 俺はここで手柄をあげて、松永殿にエルフを紹介してもらうんだ! ナターリャさんのツテや亜人のコネクションを使えば、なんとかなるだろう?」


 やっ、やっぱりな。

 そんなことじゃないかと思ったよ。

 こいつの、エルフ好きにも困ったものだ。

 使わされる兵たちが可哀相だ。

 しかし、無下に断っては心象が良くないだろう。

 

「ナターリャさん、だそうです。どうですか? 紹介できるアテはありますか?」


 とりあえずナターリャさんに聞いてみよう。 

 話はそれからだ。


「ええ、もちろん私の故郷にエルフは沢山いるわよー。でも問題は場所よねー。大山脈を越えてこっちまできたがる人が、いればいいんだけど」


 紹介できる人物がいると聞いて一安心だ。

 まあ、場所に難があるのは分かっていたので、驚きはない。


「ならば手柄を立てた褒美としては適当でしょう。翼人族を使って、こちらから出向くことはできませんか?」

「それなら問題ないわー。里にいけばよりどりみどりよー、ゲオルグちゃん!」

「ほっ、本当ですか!」


 ゲオルグはナターリャさんに話しかけられて、興奮の面持ちで言葉を返す。


「ではそれで決まりだな。他の者には悪いが、ここは盟友の意を汲もうと思う。ゲオルク殿に先鋒を命じよう。ただし、三百では心もとない。連れに好きな者を選べ」

「おっおう。ではやはりここはバレス殿にお願いしたい」


 まあ、そうだな。

 ここは、安心のバレスだろう。


「だそうだ。バレス、援護は頼むぞ」

「お任せあれ、殿!」

「うむ、あとは、臨機応変に指示を出そう。では軍議はこれにて解散だ。攻撃開始は明日明朝、皆早めに体を休めるように」


『はっ!』

『おう!』


 こうして、軍議はお開きとなり、松永軍は明日に備えて早めの就寝となった。

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