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第百二十九話 ホフマン家攻略戦③ ナヴァール川の戦い②

 俺は、上空で待機するウルフを凝視している。


「合図はまだか……、きた! 全軍突撃だ! 対岸の敵を蹴散らせ!」


 そして、ウルフから合図が送られるや否や、神輿上で立ち上がり軍配を振るう。

 さあ、ホフマン軍、お遊びは終わりだ。


「リリは竜巻を放て! ナターリャさんは敵の魔法攻撃をレジストしろ! 陸・空の魔法隊は杭を破壊しろ! サーラはバリスタの大矢をブロックし、翼人魔法士たちを守れ! 」


 俺は矢継ぎ早に指示を出す。


「うん!」

「了解よ!」

『ははっ!』

「分かりましたぁ!」


 三人と一団から諾意が返ってくると、まず先程から魔力を蓄えていたリリが動く。


「んー、くらえー!」


 リリの手から特大竜巻が放たれる。

 その竜巻は、モーセの十戒のようにナヴァール川を二つに割きながら、ホフマン軍へと向っていった。 


「よし、これで先制攻撃ゲットだ!」


 ポポフ家が当主クリスチャンは、ジークフリートが軟禁されたのが理由かは知らんが、参戦していない。

 そのため、モブ魔法士のレジストではリリの大魔法を食い止めることができない。

 それでも、竜巻の威力を六割方は相殺している。

 これに、クリスチャン=ポポフが加わっていたら、リリの竜巻はレジストされていたかもな。

 まあ、リリがフルパワーで撃てばまだまだ威力は出るはずだが。


「おらおらー、もっと撃ってきなさいよー!」


 ……ナターリャさんは、順調に敵の魔法を捌いているようだ……。

 渡河部隊を攻撃する敵魔法士は七人くらいだろうか。

 この程度のモブ魔法隊だったら、レジストに徹したナータリャさんならば余裕だろう。


「ストーンウォールー!」


 サーラも、翼人魔法隊が大矢を食らわないように、上手く援護をしている。

 飛来してくるバリスタ矢の進路に石壁を設置し、射撃をほぼ無効化している。

 

 そして、モブ魔法隊十二名と、翼人魔法隊十名が順調に杭を除去をする。

 すでに、数十本の杭を取り去った。

 そのかいあって、松永軍は大した被害を出さずに渡河を進めている。


「これは、俺の出る幕はないな……」


 我が軍の力は圧倒的ではないか。

 特に、新規加入した鬼族のヤタロウ=オニコジマと、熊族のベアホフの肉壁ぶりは凄まじいものがある。

 彼ら獣人部隊のお陰で、前線の推進力は凄まじいことになっている。

 まあ、武力が化け物クラスの奴らにミスリル装備をつけているのだから、当然といえば当然だな。 


 そして、三十分が経過した。

 すでに全軍の半数以上は渡河を完了し、ホフマン軍を蹂躙している。

 兵の質は完全にこちらが有利だ。


「あとは時間も問題だな」

「そうですね。では我々も渡河し、援護しましょう」

「ああ、そうだな」


 ほとんど勝負は決まったので、俺とコンチンは悠々とナヴァール川を渡る。

 

 さて、敵はどれくらいもつだろうか。

 敵の魔法士も手一杯。

 そして、頼みのバリスタ兵もそろそろ前線の獣人部隊が制圧できるだろう。

 ホフマン軍は、俺の見立てだともって二時間だろうな。

 別働隊がバレス隊を撃破すると思い頑張っているのだろうが、逆の結末になるだろう。


「では秀雄様、行きましょうか」

「おう」


 俺は、陣形が崩れかけているホフマン軍目掛け突撃を開始し、バシャバシャと水しぶきを撒き散らしながら単独で前線まで駆ける。

 そして、蓄えていた魔力を放出する。

 

「くらいやがれ! ファイアーストーム!」


 このファイアーストームという魔法は、リリの竜巻を応用した大魔法だ。

 今回のバージョンは、炎竜巻が一定範囲を周回するように設定してある。

 そのため、魔力も食うが、密集した敵兵を一掃するには最適の魔法だろう。


 さて、今しがた放った竜巻の様子を観察しよう。

 

「ふむ」


 俺は、満足気に呟いた。

 それはもちろん、敵陣を炎竜巻が縦横無尽に動き回っているからだ。

 敵魔法士はリリやナターリャらの魔法を防ぐので精一杯で、俺のことはノーマークにせざるをえなかったようだ。


 俺は、炎竜巻の勇姿を見届けると、さっさと後方へ戻る。

 ふう、一仕事終えたぜ。

 この一撃で、有利な戦局がさらに、こちらへと傾いたはずだ。

 

「これで決まりですね」

「おそらくな。あとは高みの見物といこう」

「はい」


 これ以上俺が出張って、部下の手柄を奪うこともないだろう。

 以降は茶でも飲みながら神輿の上でくつろぐとしよう。


「秀雄様! 粗茶ですが」


 そう思った矢先、ジュンケーが神輿の下から盆を頭上まで持ち上げて、茶を出してきた。

 うむうむ、幼いにも関わらず気が利くことよ。


「おお、ありがとな。褒美だ、これを食べなさい」


 俺は茶を受け取ると、ジュンケーに菓子を渡す。


「やったー! ありがとうございます!」


 ジュンケーは嬉しそうに、菓子を受け取るとその場で口に放り込み、うまうまと食べている。

 うん、平和で結構。



---


 

 一時間後。

 

 松永軍は、それからも兵の数・質共に劣るホフマン軍を圧倒している。

 すでに全軍が渡河を終え、敵を川辺から三百メートル以上押し込んでいる。

 ホフマン軍は潰走目前だ。


「さて、そろそろバレスが姿を現しそうだ……。おお、見えた!」


 十五分前、ウルフからバレル率いる五百の迂回渡河部隊が、敵の別働隊を打ち破ったとの報告が入っていた。


 ホフマン軍は、戻ってきたのが味方ではなかったことに驚いているようだ。

 前線のアルバロら獣人部隊の足は、敵の物見より速いからな。

 ジーモンへ報告が行く前に到着したわけだ。


 こうなれば、ホフマン軍は挟撃されるだけだ。

 ほら、すでに後方でジーモンと思われる一団が戦線から離脱をしているようだ。

 そして、ジーモンに続いてホフマン全軍も潰走を始めた。 


 ふむ、一気にジーモンを捕らえたいところだが、敵もまだ千五百以上の兵が戦線に残っている。

 なので、奴の周囲の守りも堅いだろう。

 ここは、着実に敵の兵力を削り、以降のゼーヴェステン城攻略戦を優位に進めよう。


「全軍に伝えよ。優先するは、敵兵力を削ることだ。バレス隊の動きを利用し、敵を包囲殲滅しろ! 包囲を完了したら、降伏を促せ」

 

 俺がそう大声を発すると、周囲に控える伝令たちは一目散に走り出しその命令を全軍に伝えた。

 すると、数分後には迅速に俺の指示が全軍へと伝播し、素早く混乱する敵兵を包囲した。

 もちろん、包囲するまでの時間に約半数の兵には逃げられたが、残った七百以上の兵を取り囲むことに成功する。

 松永軍は二千六百以上の兵がいるので、七百人程度の兵力ならば問題なく包囲することができる。


 さて、これ以上の戦闘の継続は虐殺になってしまう。

 適度に戦ってから、降伏してもらおう。

 そう思ったら、流石はバレスとナターリャさんがタイミングを分かっていたようで、敵に降伏を促している。

 敵兵も松永軍の精強さを身に染みて感じたのだろう、すぐさま剣と槍を捨て投稿の意を示してきた。

 

 これも松永軍の武勇が高まっている証拠だな。

 以前よりも、敵の戦意が喪失するのが早い気がする。

 特にホフマン軍からしたら、苦しめられてきたピアジンスキー軍をいとも簡単に破ったのだから、松永軍の評価が高いのは当然か。


 まあ、自軍の称賛はこれくらいにして、素早く首検分を行い、敵本拠地のゼーヴェステンへと攻め込むとしよう。

 謹慎しているらしい、ジークフリートが手を打つ前にな。


 そして二時間後、素早く首検分を終え、昼食を取り、隊列を整えた松永軍は、日の入りまでにゼーヴェステン城へと到着するべく、街道を再び南下する。 

明日以降からの年末年始にかけては、予定が立て込んでいるので、ペースを落とします。今後ともよろしくお願いします。

似たようなことを、活動報告にも書きました。

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