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第百二十七話 ホフマン家攻略戦①

 大和元年六月十四日


 松永連合軍三千百五十は、旧クリコフ領、現コンチンの知行地へと集結した。

 そして松永軍本隊は、レフ率いる三百と別れ、ヒルダ領を通りホフマン領へと進軍を開始した。


 道中の街道は急ピッチで整備したため、不便ではあるもののそれほど苦もなく進むことができる。


「サーラ、ご苦労だったな。急にやらせてしまって」


 彼女には、このルートで攻め入ると決めた二ヵ月前から、ロマノフ領~旧クリコフ領~ヒルダ領へと続く街道の整備を行ってもらった。 

 特に旧クリコフ領・ヒルダ領間の街道は整備されていないといっても等しいレベルだったので、必要に迫られたためだ。


「いいんですよぁ。私はこれくらいでしか秀雄様のお役に立てませんからぁ。蜂蜜分の働きはします!」


 サーラは、ベアホフが蜂蜜を狙っているのを知ってか、油断をしたら自分の取り分が減ると思ったらしく、より気合入れて働いてくれた。

 お陰で、彼女にとってもよい魔法訓練になっただろう。


「ありがとうな。これは褒美だ、試作品だが食べてみな」


 俺は、リリから受け取った小瓶とスプーンを差し出す。

  

「なんですかぁー、黄色くてプニュプニュしてますぅ。甘くていい匂いですぅ。私が食べちゃっていいんですよね?」

「ああ、お前のために、領都からもってきたのだからな。遠慮せず食べてくれ」

「わかりましたぁ。じゃあ頂きますぅ」


 サーラは、小瓶の物体をパクパクと口に入れると、その瞬間、恍惚とした表情となった。

 

「ひっ、秀雄様ー! これおいしすぎますぅ! なんなんですかぁ!?」

「これは、ご褒美プリンというんだ。最高の材料に最高の蜂蜜を加えて作った、正にご褒美にために作られた一品だ」

「ごっご褒美プリン……、恐るべしですぅ……」


 サーラは、食べ終わったあとの空き瓶を真剣な眼差しで見つめている。


「頑張り次第では、また作ってやるからな」

「本当ですかぁ! 私、頑張りますぅ!」

「ああ、期待しているぞ」

「はいぃ!」


 さて、サーラとの絡みはこれくらいにして、進むとしよう。



---



 大和元年六月十六日


 松永軍は、ヒルダ領を通り抜け、ホフマン領へと入った。

 本来ならば、領境の敵兵が五百は集まり抵抗するところだ。

 しかし、ハインツ率いるアイグナー軍が積極的に攻撃を仕掛けないため、直轄領の兵二百程度では、松永軍の足止めをすることもできなかった。

 

 そのため松永軍は、スイスイと軍を進めることができた。

 このままピピン領を左手にみて領都ゼーヴェステンを目指す構えだ。

 もし、ピピン家が協約を反故にして攻め込んできたら、レフがピピン領を攻め取り挟撃すればいいだけだ。

 ピピン家の動員兵力は二百に遠く満たないので、大したことはないだろう。

 

 ゼーヴェステンはホフマン領を南下し、ナヴァール川を渡河した地点にある。

 ちなみにナヴァール湖を挟んで上流側をウラール川、下流側をナヴァール川としている。

 

 さて、敵さんは、どう出るだろうな。

 兵力はこちらが有利、場所は川を挟んでだ。 

 状況的には、長宗我部元親と一条兼定がぶつかった四万十川の戦いにかなり似ている。

 

 ここからゼーヴェスデンまでは、少数で松永家の精鋭かつ大軍を跳ね返せるような要害と呼べる施設はないはずだ。

 俺とコンチンの予想だと、ホフマン軍は川を挟んで布陣している。

 そこで、松永軍が渡河する瞬間を狙うのだろう。

 もしかしたら、ポポフ家当主が駆りだされるかもしれんな。

 そうなったら仕方がない、ポポフ家への調略が不発になるが諦めよう。


「まだ、敵は迎撃に出ないようだな。このまま領内を荒らしまわるのもいいが、北部は騎士連中の知行地が中心だ。石高が格段に高いナヴァール川周辺、もしくは川以南の肥沃な土地を手に入れたいものだよなあ」


 ホフマン家の国力は、ナヴァール川周辺かつ以南の土地と、ナヴァール湖周辺で五万石近くが集中しているはずだ。

 ナヴァール湖上端から西に水平線を引っ張ったその上の土地の石高は、一万五千石ほどだ。

 しかも、その七割方を日和見騎士が占めるので、ホフマン領北部を荒らしまわっても意味がない。

 やはりナヴァール川周辺の肥沃な土地を狙うべきだ。


「そうですね。これだけの大軍を動かしてるわけですから、戦費もそこそこかかっいてます。ここは、形ある成果が欲しいものですね」


 コンチンはそういうが、戦費はそこまでかさんではいない。

 武器・防具はすでに支給されており、あとは食糧だけだ。

 それも、穀物相場が安いときに、アイテムボックスを用いて買付けも行っているので、それほど問題ない。

 要は負け戦でも、死傷者を多く出さなければ補償をしなくてすむので、戦費はそこまではかからないのだ。

 

「まあな、だがそうなるとホフマン軍は、ナヴァール川を利用して迎撃にくるはずだ。やはり一戦交えるしかないな」

「そこは致し方ないかと。ですが、敵が地の利を生かしてきても、今の我々にはそれを跳ね返すだけの力があるはずです。ここは正々堂々を攻め入りましょう」


 コンチンが珍しく強気だ。

 彼も、これまで忍がもたらした情報を元に予測を立てたところ、いけると判断したのだろう。


「おう、ここまできたら行くしかないな」

「はい」


 そして、松永軍はナヴァール川までの、小砦を蹴散らしながら南下を続けた。



---



 大和元年六月十七日

 

 松永軍が、ホフマン領に侵入した翌日、早馬がホフマン家の本拠地であるゼーヴェステン城へと到着し、戦況を伝えた。


「爺! これはどういうことなのでおじゃるか! 松永軍は何故楽々と領内を進んでおるのじゃ! もしや爺が裏で手引きしているわけではあるまいな! あれだけ麿に諫言をしておいて……。もしや! 麿に対する忠義は嘘っぱちだったのでおじゃるかー!」


 ゼーヴェステン城は大広間で怒り狂っているのは、ホフマン家当主、ジーモン=ホフマンである。

 彼は、以前から度々、爺ことジークフリートが松永家と裏で通じているという噂を耳にしていた。

 初めのうちは、ジークフリートに限ってそのようなことはない、と信じていたのだが、繰り返される流言に疑心暗鬼となっていった。

 そして、今回松永軍が悠々を領内を闊歩しているという報告を受け、さらにジークフリートの疑惑を耳にすると、その疑念を頂点に達し先の発言が生まれたのだ。


「若様、幼少時分よりお仕えしてきた私が裏切るなどありえませぬ。ここは冷静に考えてくだされ。これは松永秀雄が企てる離間の策ですぞ! ここで、間違った判断を下せば、それは松永家が思いのままです。どうか若様、ご自重くだされ……」


 ジークフリートは己が知らぬところで、主君に対してもこれほど深く松永家の調略の手が及んでいることに驚いた。

 彼は、ジーモンの周囲には敵の手が及ばぬように厳重の警戒網を敷いていたのだが、それをいとも簡単に破るとは思ってもいなかった。

 ジークフリートは松永家の諜報網に恐れおののいた。

 しかし、ここで後悔しても遅い、と思い直す。

 そして、癇癪を起こしている主君を諌めることに全力を尽くす。


「うるさい、うるさい! 爺はいつもそうじゃ! いつも麿のことを否定する! 今度ばかりは、麿の好きなようにするでおじゃるからなー!」

「しかし、それでは松永家が思うつぼです。どうか、どうか……」

 

 しかし、それは無駄な努力だった。

 それでもジークフリートは、必死にジーモンを押し留めようとする。


「黙るでおじゃるー! さもないと爺でも許さんぞよー! うっ、打ち首じゃ、じゃぞー!」

『!!』


 ジーモンの行き過ぎた言葉に、大広間にいた家老らの空気が張り詰める。

 今ジークフリートを処罰すれば、ホフマン家が崩れるのは必死だからだ。

 

「若それはお止めくだされ!」

「そうです! ここでジーク様を斬っては、松永を利するのみです」


 と家老全員が、覚悟を決めてジーモンを諌める。


「……皆がいうなら麿も考えよう。じゃが! 此度の戦は爺は謹慎じゃ! 戦場で裏切られてはたまらぬからの。誰か! 爺を連れていくでおじゃる!」

「若様……」


 ジーモンは、余りの衝撃に言葉を失っているジークフリート軟禁させるように命じた。


「これで、安心して出陣できるでおじゃる。さあ、各々方出陣でおじゃー!」


 ジーモンは事前にジークフリートが用意していた策を用いて松永軍を迎撃すべく、出陣の命を下した。

 ちなみに、謹慎させた者が計画した策を用いるという矛盾を、彼は特に気にしていなかった。

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