第百二十三話 教会からの使者と教会の動き
大和元年四月二十日
すでに温泉街から帰還した。
フローラも十分と湯を堪能したようで、満足気な表情をしていた。
また、帰りの道中で、女性用のサービスをもっと充実させろと要求してきた。
例えば、ヘルシーな料理を作ったり、エステやマッサージ系を充実させたり、など色々女性目線の意見を述べてきた。
とは言っても、この世界で金を持っているのは多くは男性だからな。
女性サービスを充実させても、費用をペイできるかどうか分からない。
まずは、収益を暗黒並みの黒字にしてからだ。
現在、松永の温泉地は、家の伸張やギルドの喧伝もあり有名になりつつある。
カジノもでき、収益も右肩上がりになるだろう。
このままいけば、金貨一万枚以上の収益源になるだろう。
フローラの要望は、そのあたりで取り入れよう。
また、俺はそれでは満足せずに、温泉街周辺の旧シチョフ領を開発する。
前にも述べたが、競馬場、さらには闘技場なんかも作ろう。
最終目標は、ここを南方諸国一の観光地にすることだ。
せっかく権力手に入れつつあるんだ。
好きなことをしよう。
ふう、これでしばらくフローラに絡まれることもなくなるだろう。
これからは、再び対ホフマン戦に集中できるな。
さて、まずは戦力の確認だな。
そう思い、俺が地図を開き部隊確認をしようとしたら、ゴンゴンと突然扉が叩かれた。
随分と大きな音だ、何かあったのだろうか。
「入れ」
「失礼します」
俺が許可をするや否や、コンチンが小走りで近づいてきた。
「どうした。お前が急ぐとは珍しいな」
「ええ、それだけのことが起きました。先程、領境に教皇からと思われる使者が現れ、親書を置いていきました。こちらになります」
といい、彼は手紙を差し出した。
ほう、とうとうきたか。
誰の差し金かわからんが、教会も松永家のことを気に掛けるようにはなったか。
「そうか、一体何を書いてあるんだろうな」
「私もまったく……」
だろうな、俺たち田舎者が教皇様のご意向など分かるはずもない。
「だが、褒められることはないだろうな」
「ですね……、いきなり破門はないと思いますが」
「そうだといいがな。というか、もともと俺たちは教会に属していないが、そんなの関係ないだろうな」
「ええ、言ったもの勝ちでしょうしね」
「まあいい。とりあえずは読んでみよう」
俺は、親書の封を切り中身を取り出し、一読する。
ふーむ、なになにー。
むむむ、なんという上から目線、こんなことは到底飲めん!
「どうでしたか?」
コンチンが不安げな表情で覗き込んできた。
「これはひどい。お前も読んでみろ」
俺は、口に出したくもないので、彼に手紙を渡し読んでもらうことにした。
「失礼します、……これはひどいですね……」
やはりそう感じるよな。
では、親書に記載されていた内容について簡潔に説明しよう。
まず一つは、松永家は亜人重用をやめるようにとあった。
さらに、亜人を娶るのは好ましくないため離縁するようにとも、命令口調で書かれていた。
次に二つ、松永家は此度の戦で獲得した権益を放棄し、教会に寄進するように、とも書かれていた。
もちろん上から目線である。
さらに三つ、松永家は今後、周辺勢力の脅威となる行動を控えるようにとも書かれていた。
最後に四つ、松永家はこの三つの命令に従わないければ、宗敵とみなし破門すると書かれ、その下に教皇の押印がされていた。
「ああ、いきなり過ぎるな」
「ですね。教会は強く出れば、我々が素直に引き下がると思っているのでしょう。所詮は辺境の弱小として見ているのでしょうね」
コンチンの言うとおりだな。
教会勢力の国力は分からんが最低百万石以上はありそうだ。
それに加え、息のかかった勢力も入れれば、その倍の二百万石以上にまで膨れ上がるかもしれん。
その教会の立場からしたら、松永家など路傍の石程度にしか見ていないのだろう。
でなければ、このような要求はしてこないはずだ。
「これは無理だ。だが、このような態度でくるということは、教会もここまで大軍を派遣する余裕がないのか、その必要性を感じていないのだろう」
「はい、彼らにも敵は少なからずいますからね。ファイアージンガー家などの大勢力もありますし、このような辺境まで大軍を派遣する余裕も、その気持ちもないのかもしれません」
「だな。最低百万石を超える勢力が、距離の離れた数万石の松永家に関わる必要性は少ないだろう。ならば、今のうちに勢力を拡大しておこう」
「そうですね。でしたら、使者への返答はどうしますか?」
さあ、これが問題だ。
ここで、頭に血が上って拒絶をするのは下策だろう。
そのうちにぶつかるだろうが、ここは要求を受け入れるフリをしておこう。
さすれば、すぐに破門とはいかないはずだ。
「ここは、快諾しておこう。だが、それは表面上、裏では完全無視だ。これでしばらく時間が稼げるだろう」
「それが最善でしょうね……。のらりくらりとできる限り引き伸ばしましょう」
「うむ。そのように返信をしたためよう」
そして、俺はコンチンの監修のもと、先程のの要求を全て受け入れるとの親書をしたため、使者へと返信した。
この返事を、教会側が信用してくれればいいのだけれどな。
まあ、そのあいだにさっさと、ホフマンを落とすとしよう。
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ここは教皇領にある教会総本山。
秀雄が教会への対応に追われているとき、こちらでは月に一度の定例会議が行われていた。
円卓を囲むは七人。
教皇を中心として、右側に枢機卿が三人、左側に神聖騎士団から三人が出席している。
すでに、議論すべき内容は粗方終え、あとは解散するのみといったところで、一人の男が口を開いた。
「あの教皇様、一ついいかしらん。些細なことかもしれないけど、ナマちゃんの第二中隊がナヴァールに行ってきたの。一応伝えておこうと思っただけですわよん」
とオカマ口調で話すガチムチ男は、神聖組組長のミーサ=ドーコンだ。
彼の本名はイサミというのだが、可愛らしくないといいミーサに改名した。
ちなみにナマちゃんとは、神聖組第二中隊隊長の、パーチ=ナーマである。
神聖組は、百名からなる中隊が十隊集まり形成されている。
その他にもミーサ親衛隊と、鬼の副長率いる督戦隊がある。
「おお、ミーサ。話は余の耳にも入っておる。北東の辺境で、松永という異邦人が暴れているらしいな」
教皇は、威厳タップリに髭を撫で上げながら、言葉を発した。
「そうなのよん。なんか小僧が、うるさいみたいだから百人程送ったのよん。でも、間に合わなかったみたい。ピアジンスキーが停戦してたの。根性がないわよねー、今度調教しようかしらん」
「ははは、神聖組にかかれば容易いだろうな。だが問題は松永だろう?」
「そうでしたわん。教皇様、松永の処理はどうしましょう?」
ミーサは松永家を潰したあと、秀雄をどのように掘るかについて早くも妄想を膨らませていた。
はやる気持ちを抑えるように、教皇に問いかける。
「ふむ……、松永には先日使者を送ったのだが……、どのような返事がくるのだろうな。我らとしては、あのような辺境にかまける必要はないが、あまりにも不遜な態度を取れば、神聖組を再び派遣してもよい。もちろんホフマンあたりから、願いを受けても同様だ」
教皇はそうミーサに告げた。
「流石教皇様。お話がわかりますわん。今度、体が空いていたら、あたし自らちゅぶしてきますわん。いいですわよねん?」
と、ミーサが意気込む。
それを見て周囲の面々は、またいつもの癖が出たなと苦笑していた。
ミーサは、活きのいい若者を見つけては、入念に掘り込んで、その者を廃人か自身の愛妾に落としているのだ。
「ははは、ミーサは相変わらずだな。だが、お前にはドゥーン海賊国方面の任務があるだろう。それが済んでからだな」
「わかってますわん。ドゥーンの活きのいい海の男もやりがいがありますわん。でも松永には、ビビビときたんですわん。ウホッ! こりゃあ、楽しみでしょうがねえな!」
最後ミーサは、地が出て男言葉になる。
それには、他の者も笑いをこらえるのが精一杯であった……。
そして、定例会議は終了した。
教皇軍の暴れオカマに目を付けられた秀雄!
彼の将来に暗雲は立ち込めるだろうか?
それは誰にも分からない。
フローラの件は、軽いコメディで書いたつもりが、ここまで言われるとは思ってもいませんでした。
面倒なのでばらしますと、フローラは、追々ドS調教で従順にするつもりでした。
色々言われて、これから書く気も起きないので、明日は更新できないかもしれません。
一応報告しておきました。