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第百二十二話 フローラの教育?

 大和元年四月十八日


「松永秀雄! いいかげん私の相手をしなさーい!」


 執務室の扉がドンドンと叩かれる。

 ちっ、うるさいのがきた。

 これで三日連続だ。

 

「黙れフローラ! お前は人質なんだぞ! お前の親父の教育費に免じて、城での自由を与えてやったてるんだ。少しは立場を考えて慎ましい行動をしろ!」


 フローラとベルンハルトちゃんが、マツナガグラードへと送られてきたのは四月の頭だ。

 初めの十日ほどは、大人しく部屋に篭もっていたようだが、彼女の気性を鑑みるとそれも長くは続かなかった。

 ピアジンスキー領では、毎日ベルンハルトちゃんを乗り回し、武芸を磨いていたらしいからな。

 じっとしてることは、彼女にとって苦痛でしかないのだろう。


 でもって、それが三日前に爆発したのだ。

 俺たちが亜人連中と大宴会を繰り広げていると、彼女が痺れを切らし俺に駆け寄り、先の一言を放ってきたのだ。

 もちろん、面倒くさいので無視し、その場はリリとその下僕に成り下がったベルンハルトちゃんに任せることにした。


 これでひとまず落ち着くかと思われたが、翌日から毎日のように絡んでくる。

 フローラも外見は、東欧系の美女風の顔立ちに、茶髪のボブカット、スタイルも身長百七十以上の長身に加え、鍛錬で引き締まった体つきをしており、大人しくしていれば魅力的なのだが如何せんうるさい。

 ギャーギャー騒ぐ女は俺の好みではない。

 兎族ハンナの、爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ。


「私は、人質なんだぞ! もっと丁重に扱ってよ! これから温泉に行きたいんだ。連れていきなさいよ!」


 ははん、そういうことか。

 フローラは、ベルンハルトちゃんがリリから離れないので、リリやクラリスたちと一緒に訓練している。 

 その際に、色々と自慢話を聞かされて羨ましくなったのだろう。


「はいはい、そのうちな」


 俺は、まともに相手をする気はないので、適当にはぐらかす。


「もう! いつもそれじゃない! いいわよ、そんな態度なら……」


 すると、フローラは俺に近寄り腕を掴んだ。

 そして、俺の爪先を自身の首元にあて、強めに引っ掻いた。

 もちろん、彼女の首筋は赤痣ができている。


「いきなり何をするんだ!」

「きゃー! けだもの! 襲われるー! マルティナさん助けてー!」


 フローラは俺の手を掴んだまま、大声で助けを求める演技を始めた。

 なんて女だ!

 これでは痴漢冤罪まっしぐらじゃないか。

 まずいまずい、マルティナに気付かれる前に止めねばならない。


「まてまてまてーい!」


 俺は、フローラの手首を掴み、彼女を絡みつく腕を引き離そうとする。


「キャー! 助けてー!」


 フローラはそれを逆手に取り、叫ぶことをやめない。

 畜生! このままでは、確実にアウトだ。


「だまらっしゃい!」


 俺は空いている左手で、彼女の口を塞ぐ。

 端から見たら、完全に俺が襲っているようだ。


「んぐー! んぐー!」


 俺は力任せになんとか、絡みつく腕を引き剥がした。

 しかし、フローラも負けじと抵抗をする。

 すると、ここで俺と彼女の足が絡みつき、バランスを崩し俺が上に覆いかぶさる形で倒れこんでしまった。

 完全に不可抗力だ。


 ガチャリ……。


 そして、最高、いや最悪のタイミングで扉が開かれる。

 終わった……。

 完全にお約束のパターンではないか。


「秀雄君……、これは一体どういうことなの……」 

 

 おそるおそる顔を向けると、そこにはやはり鬼の形相のマルティナが立っていた。


「いやこれはちが――」

「助けて下さい! 秀雄様に乱暴されたんです!」


 俺の言葉にかぶせて、フローラが先手を打ってきた。


「秀雄君。あなたって人は見境がないのか!? 彼女は大事な人質だろう。そんな娘を手篭めにしようとするなんて……」

「いっ、いやこれは違うんだ」

「何が違うのだ! この姿が何よりの証拠でしょ!」


 それはそうだ。

 今は俺が、フローラに乗り掛かっている。

 これを見て、何もないと言う方がおかしい。

 

「ですよねー」

「ええ、申し開きはありますか?」


 マルティナは、おしおき体勢に入っている。

 ある意味ご馳走なのだが、今回ばかりは攻めがきつそうだ。

 氷の矢で掘られでもしたら、堪ったもんじゃあない。


「こっこれは、将来ピアジンスキー家を取り込むために仕方がないことなんだ……」


 俺はつい勢いで、重大なことをこぼしてしまった。


 すると、マルティナも元はクレンコフ村の領主、冷静に思案を始めた。

 そして、しばらく押し黙ってから口を開いた。


「そういうことなのか……。だったら、分からないでもないわね……。でも、いきなり襲いかかるのはどうかと思う。もう少し親睦を深めたほうがよいはずだ」


 マルティナは、しっかりと俺の発言を汲んで分析してくれた。

 あれっ、これってフローラ婚姻ルートに入った気がするんだけど……、気のせいかな。

 うん、きっとそうだ。


「うう、私も秀雄様と仲良くなりたくて、温泉に行きたいと言っただけなんです。そしたら、私が湯浴みする姿を想像したのか、いきなり襲い掛かってきたんですよぉー」


 フローラは、マルティナの前だと猫をかぶっているのか大人しい。

 何故か、フローラは嫁達と仲良くやっているようだ。

 人質生活を快適に送るため、正妻に取り入っているのだろう、まったく面倒な女だぜ。


「あら、それはいい考えじゃないか。秀雄君、温泉に行って親睦を深めてくればいいじゃない。最近カジノとかもできたんでしょ。視察も兼ねて行ってきなさい!」

「はっ、はい」


 一刻も早く、この場を静めたい俺は、その申し出を断れるはずがなかった。

 

「ふう」


 俺は、思わず一息つく。

 すると、隣のフローラが勝ち誇った顔で、こちらに視線を送ってきた。

 お前、温泉にいけるという目先のことで喜びすぎだ。

 俺たちのあいだには、すでに婚姻フラグがビンビンに立っているんだぞ。

 まったく、単純すぎるぞフローラ。



---



 そして、温泉へ。

 

 今回の同行者は、フローラ、リリ、クラリスだ。

 身重の三人は留守番として、ナターリャさんとヒルダは領地でホフマン家を警戒中だ。

 チカは修行中、サーラは普請中である。


 フローラがせがむので、今回もサーラを連れて行ったときと同様に、馬車での移動だ。

 道中、ピアジンスキー産の騎馬自慢がうざったかったが、リリとクラリスが喜んでくれたので、まあよしとしよう。


 他にこれといった出来事もなく、無事に温泉街へ到着した。


「お前たちは、先に部屋へ入ってなさい。俺は視察があるからな」

「うん、りょーかい!」

「分かったのじゃ」

「先に、温泉を楽しませてもらうわ」


 俺は組合長に、三人を先にフェニックの間へ案内するよう申しつけ、一人視察へ向う。

 行く先はカジノだ。

 コンパニオンは、フローラがうるさいので今日は諦める。


 カジノの場所は、温泉街の外れだ。

 パチンコ屋のようにきらびやかな装飾はしてはいないが、『カジノ』とでかでかと書かれた看板を掲げ、その下に『あなたの夢を叶えます。豪遊の軍資金、作りませんか』と射幸心を煽る文言も加えておいた。

 ここは俺の領土なので、パチンコ屋のように警察に気を使う必要はない。

 いいようにやらせてもらうさ。


 さて、現場視察といこう。


 そして、三時間後。

 俺はカジノの入口でやさぐれている。

 感想を言おう、これならよい収益源になるだろう。


 この三時間で金貨百枚をもっていかれた。

 財布はすっからかんだ。

 別にいいわ、どうせ国庫に入るのだからさ。

  

 カジノはもういい。

 部屋へと戻り、温泉に浸かろう。

 フローラはリリに任せておけばいいだろう。

 あのわがまま姫も、リリには弱いからな。

 こちらにきてからも何度も挑んでいるが、その度にボコボコにやられたため、ついに心が折れたらしい。

 今は、リリに弟子入りし、鍛えてもらっている最中だ。


 ただし、俺への態度があれなのは、どうかと思うがな。

 そのうち機会があったら。直接体に教え込むしかないのだろうか。

 いや……、決して変な意味ではないぞ、決して……。

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