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第百十九話 ホフマン家重臣との交渉

 大和元年四月一日


 すでに、論功行賞は終え、手柄を挙げた者への加増は済ませた。

 その後は、細々とした戦後処理を行ってからシュトッカー家へと赴き、カールと情報交換をした。

 

 そして、俺は、現在ザマー盗賊団領にいる。

 これからヒルダを影で支援してくれた人物、ハインツ=アイグナーと落ち合うことになってる。

 アイグナー領はザマー盗賊団が領域と接しているため、コンタクトを取ることは困難ではなかった。

  

 俺は盗賊団の根城でハインツを待ち構えていた。

 ここは背後の森を利用し、要塞化がなされている。

 いざとなれば森に逃げ込み、抵抗を続けることも可能だ。

 落とすには、片手間ではいかないだろう。


「秀雄様、ハインツ殿が到着したみたいだよ」 

「おお、ちゃんときたか。さて、出迎えるとしよう」


 俺は、大手門へと向う。

 するとしばらくして、ハインツと思われる男が近づき下馬した。

 ふむ、馬から降りたな。

 ホフマン家の連中は、尊大な態度を取ると三太夫から聞いていたが、彼においてはそうでもないようだ。

 やはり、まともな者は遠ざけられているのだろうか。


「ようこそいらっしゃいました。私が家当主の松永秀雄です。あなたがハインツ=アイグナー殿でしょうか?」


 ちゃんと下馬してくれたので、丁寧に挨拶をしよう。


「ええ、私がハインツ=アイグナーです。此度はお招きくださりありがとうございます」


 ハインツも頭を下げてきた。

 慇懃とまではいかないが、好感をもてそうな第一印象だ。

 

「では、中へ入りましょうか。ここに居座ってもなんですし」

「ええ、そうですね」


 ハインツの同意を得ると、俺たちはヒルダの案内の下、大手門を離れ客間へと向う。

 そして、客間の椅子に腰掛け茶を一杯すする。

 顔見知りのヒルダも交えて、他愛も無い会話で雰囲気を暖める。

 

「さて、そろそろ本題に入りましょう。今回ハインツ殿をお呼びしたのは、お分かりかと思いますが当家への協力を確約してもらうためです」


 会談までの約二週間のあいだに前もって情報収集をし、アイグナー家がホフマン家内で置かれている立場を調べていた。

 すると、その結果、ハインツは半ば主君を見限っていることがわかった。

 その理由は数年前、ホフマン家の当主ジーモン=ホフマンが、ハインツの妻を差し出すよう強要してきたのだ。

 それに腹を立てたハインツは、宿老のジークフリートに願い出てなんとか取りなしてもらった。

 しかし、ジーモンの怒りはおさまらず、なんとハインツの領土を減封する暴挙に出たのだった。

 理不尽な扱いを受けたハインツは、その出来事以来本家からは距離を置き、所領に引き篭もっているらしい。


「ふむ、松永家の要望は伺っています。噂のとおり、私が主君を見限っているのは事実。それは、ヒルダ嬢を支援していることからもお分かりかと思います。ですが、アイグナー家は長年ホフマンを支えてきました。私の本心はともかく、主家に対する長年の恩はあるものです」


 つまりは、寝返りたい気持ちはあるが、まだ踏み切るだけの決定的な材料がないと。

 己の妻を奪われそうになり、領地を削られてなお従うとは、ハインツさんも忠義深い性格だな。

 ホフマン家に置くにはもったいない人材だ。


「しかし、ジーモンという男は、傅役の宿老ジークフリートを除き、多くの忠義の臣を重役から遠ざけています。にも関わらず、何処の馬の骨とも知れない冒険者に多大な知行地を与え独立させる。これは、当主としてはあるまじき行為かと思いますよ。私ならばそのようなことはいたしません。事実、譜代臣であるバレス、ナターリャ、コンスタンチンには広大な知行地を与えています。いくら先祖から続く恩義があっても、我慢の限界があるのではないでしょうか?」


 冒険者に関しては、ジークフリートの立案らしいのだが、この原因を作ったのはジーモンなので、彼の責任にしておこう。


「むむむ、それは重々承知しています……。だが、そう簡単に寝返ることは私にはできません……」


 いきなり、我先にと寝返るのはよしとしないのか。

 歴史ある名家だけに、色々としがらみがあるのだろうか。

 ならば、戦で勝って、容易に降伏できる空気を作るしかないか。


「そうですか……。私としてもその気がない者に無理強いはしません。ならば戦のときは、病気とでもかこつけて、なるべく消極的な態度をとってもらえないでしょうか? もちろん礼はします」


 寝返りが無理でも、不戦を誓ってくれれば十分だ。

 これは、頷いて欲しいところである。


「それならば問題ないでしょう。わが領に攻めこむ素振りを見せていただけたら、迎撃を理由に出兵を断れます」


 ハインツとしても、積極的に戦に参加したくないのか、不戦についてはあっさりと応じてくれた。

 ふむ、寝返るのは先祖に申し訳ないが、ジーモンの下で戦うのも気に食わない、彼としてはここが落としどころだったらしい。


「それで十分です、感謝します。これでアイグナー家は、少なくとも敵ではなくなりました」

「ええ、こちらも飛ぶ取り落とす勢いの松永家と結べて嬉しく思います」


 あとは、アイグナー家を同様、ジーモンに不満をもっている騎士を紹介してもらえるかだ。


「話がまとまったところすいませんが、もう一つお願いがあります」

「ほう。それはなんでしょうか?」

「それは、ハインツ殿と同様に、主家に対し不平不満を抱えている者を、紹介していただきたいのです。もちろん見返りは支払います。アイグナー領が五千石になるよう加増いたしましょう」

 

 寝返りそうな者を紹介してもらえ、俺たちに協力するように口利きをしてくれたら、大幅加増をしても痛くはない。

 それに、ハインツは使えそうな人物だしな。


「なるほど。そうきますか。松永殿は、噂に違わぬ知略をお持ちのようです。それに加え魔法の腕も超一流と伺います。ならば単独からウラールを統一し、ホフマン家も苦しめられていたピアジンスキー家を圧倒してるのも納得がいきます。見返りの条件も、日和見宣言したばかりの私にしては破格です……。分かりました、アイグナー家に同調する者を紹介しましょう」

「本当ですか! ありがとうございます」


 よし!

 これで、ハインツが紹介した者との交渉が成功すれば、ホフマン家の三割近くを無力化できる。

 そうなったら、国力的にも当家が勝利する確率は跳ね上がる。


「ええ、今後は松永殿と長い付き合いになりそうですからね。ここは恩を売って損はないと思いました」


 これほど、冷静に物事が判断できる人物を冷遇するとは、ジーモンには逆に感謝せねばならんな。

 ジーモンの能力を数値で表したら、一条さんか劉禅クラスかもしれないな。

 

 問題は、土居宗珊ポジションのジークフリートだな。

 ここまでジーモンが愚だとしたら、今後継続的に、ジークフリートに内応を求める接触を何度も図ってみよう。

 もちろん応じるわけはないが、松永側がジークフリートが寝返るといった内容の流言をジーモンの耳にい届くよう、大々的に拡散させよう。

 したらば、無能な当主はすぐに疑心暗鬼に陥るだろう。

 もしかしたら、ジークフリートすら遠ざけられる可能性も出てくるかもしれない。

 実際、土居さんは処刑されているのだから、やってみる価値は十二分にある。


「ハインツさんのご英断、私は支持します。何かありましたら私を頼ってください。必ずや力になりましょう」

「ありがとうございます」

「では、この辺で切り上げますか……」

「ええ、長く領地を空けるのは不自然ですからね。これで失礼します」

「わかりました。ではお気をつけて……」


 俺は別れの挨拶を交わすと、ハインツを大手門まで見送った。

 そして、俺は領都へと帰還する。

 もちろん、帰り際に、ヒルダから燃料補給と称して搾り取られたのはいうもでもない。


 思ったより楽に交渉が進んだな。

 これはホフマン家の内情は、ガタガタだということを意味する。

 案外楽に滅ぼせるかもしれん。

 などと楽観的なことを考えながら、俺はマツナガグラードまでの道のりを駆けた。

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