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第十二話 猫族の村①

 そろそろ村の入口が見えてきた。

 すると入口から出てきたチカが、俺の方へと走ってくる。 

 

「おーい! 父ちゃんに秀雄のこと話してきたのにゃー。お礼を言いたいみたいなんで、家まで案内するのにゃー」


 無事話が着いたみたいだな。

 安心したぜ。

 俺が人族だからと言う理由で、門前払いを食らったらどうしようかと思っていた所だ。


「それは良かった。ぜひとも会わせてくれ」

「じゃあ付いてくるのニャ」


 俺達はチカの後ろについて村の中へ入っていく。

 中を歩くと、俺の目に映るすべての人に漏れなくネコミミが付いていた。

 男のネコミミはともかく、幼女から熟女までネコミミが付いている光景は圧巻だ。

 そして種類も猫、虎、ライオンなど様々だ。

 だがそのネコミミの集団の中でも、とりわけチカの美しさは輝きを放っていた。

 なんたらコンテンストのボーイッシュ部門があったら、断トツでナンバーワンだろう。


「チカありがとな。これからも魚一杯食べさせてやるからな」


 俺はチカに礼を言わずにはいられなかった。

 ただでさえ希少なネコミミ娘だと言うのに、その中でもトップクラスの美少女が俺に付いてきてくれるなんて……。

 正に盆と正月、いや盆暮れ正月が一緒に来たような気分だ。


「ふにゃ、いきなりどうしたのにゃ? でも魚を食べさせてくれるのは嬉しいニャ!」

「なんでもないよ、ただ言ってみたかっただけだ」

「ふーん、でも悪い気はしにゃいのニャ。って言ってたらもう家についたのにゃ、ここにゃ!」


 チカが指し示した家は村の中でも一際大きく、数百坪程の敷地に庭が付いた木造平屋である。

 俺は竪穴住居のような建物を想像していたが、その予想は裏切られた。

 恐らく、猫族はそれなりの文明レベルを持っているのだろう。

 そしてこの家の大きさから推測すると、チカの両親は恐らくこの村で強い発言権を持っていると思われる。 


「随分と立派な家だな。もしかしてチカのご両親はこの村の有力者なのかな」

「にゃふふ、実はチカの父ちゃんはこの村の村長なのにゃ」

「もしかしてと思っていたが、やっぱりそうか」


 これは面白いことになったな。

 村の長が直々に礼を言いたいと言うのならば、少なくとも悪いようにはされないだろう。

 それにもしかしたら、お礼に何かいい物でも貰えるかもしれないしな。


「それに、チカの父ちゃんは村で一番の戦士にゃんよ。ねーねー、ここにいてもしょうがにゃいから、中に入らニャい?」


 村一番の戦士とは会うのが楽しみになってきたな。

 これ以上待たせるのも悪いんで、いい加減チカの言う通りに家の中に入るとするか。 


「ああ」


 チカに肯定の意を伝えると、彼女は待ってましたとばかりに入口の扉をガバッと開けた。

 するとそこには、ガチムチの虎獣人のおっさんと青年の二人に加え、彼らの後ろに控えている、チカによく似た美熟女のネコミミ奥さんが出迎えてくれた。


「ようこそ我が里へ! わしはここの長でありチカの父でもあるチャレスと言う。こいつは息子のチッチ、控えているのが妻のセリナだ。あなたが秀雄殿かな?」

「はい」

「秀雄殿、この度は我が娘、チカを救って頂いて誠に感謝する。猫族は一般的に気まぐれだと巷では言われているが、わしに限っては断じてそんなことはない。受けた恩は財を売り払ってでもお返しする。君達がこの村へ逗留する間は、わしが出来得る最大限のもてなしをすると約束しよう」


 チャレスは俺が入ってくるや否や、頭を下げて礼を言ってくれた。

 彼に続いて息子と思われる青年と奥さんも頭を下げてきた。

 チカは空気が読めずに、にゃははと笑っていたが、チャレスが眼にもとまらぬ速さで立ち上がり、チカの頭をガチコンと叩きつけ、力ずくでチカをお辞儀の体勢に持って行った。

 もちろんチカは涙目である。

 

「みなさん頭を上げて下さい。俺はいたずらに獣人を差別する輩が気に食わないのです。人として当然のことをしたまでですよ」


 だが、チカとビアンカが美少女じゃなかったら助けなかったんだけどな。

 ここは空気を読んで、イケメンの様な立ち振る舞いで問題ないだろう。

 

「おお、君のような人族に出会ったのは初めてだ。わしは感激したよ。さあさあ玄関にいても心地が悪いだろうから、居間に移動しよう」


 チャレスは頭を上げると、俺達を奥へと案内してくれた。

 奥さんのセリナさんはお茶を入れに台所へと姿を消した。


「皆さん遠慮なく座ってくれ。チカ! お前も女らしく母さんを手伝ってきなさい」


 俺達と一緒に座り込んだチカが早速小言を言われる。


「父ちゃん……、チカがお茶入れ下手にゃの解ってるでしょ。母ちゃんにまかせ――」

「うるさい! とっとと行きなさい!」

「……はいにゃ」


 チカはチャレスに怒られて、しぶしぶと台所へと向っていった。


「やっと行きおったか。見苦しい所を見せて済まんな……、あの娘は昔からお転婆でな。聞いた話によると、人族に捕まった理由もおもちゃに釣られてだと言う。身内にしか話せない程の恥ずかしい理由ではないか。秀雄君、チカをここまで連れてくるために、色々な意味で大変苦労したと思う。改めて礼を言わせてくれ」


 この様子だとチャレスはチカの教育にとても苦労しているようだな。

 

「いえいえ、俺達もチカの明るさには助けられましたよ。それにあの悲惨な状況を経験した後に笑顔でいることは、簡単には得がたい才能だと思いますよ」


 これは本当だ。

 彼女とリリがいる事で話が盛り上がり、パーティー内の雰囲気も良くなっている。


「そう言ってもらえると助かる。チカの処遇は追々話すとして、良かったら連れの方々を紹介してもらえると嬉しいのだが」

「ああそうでしたね、まず俺の――」


 俺はチャレスにリリ達を紹介した。

 チャレスはやはり、リリの存在には驚いていた。

 

 その反応は当然として、ビアンカについても衝撃の事実が判明した。

 彼女は己の出自を言ってはいなかったが、チャレスには一目で分かったようだ。

 なんとビアンカは犬狼族の高貴なる血筋らしい。

 チャレス曰く、毛並みが他の犬狼族と比べて段違いで綺麗らしい。

 またその色も犬狼族の王族の証である赤が入っているとのことだ。

 ただビアンカが言うには、自分は傍系のさらに外れの血統らしく、暮らし向きも平民同然だったようだ。

 何か三国志演義の主人公みたいな感じだな。

 

 そして、俺がビアンカになぜ出自を黙ってたのか問いかけたら、

「私は一個人として秀雄様にお仕えしているつもりですので、家名は捨てました。強いて言うなら松永の方が……」

 なんて嬉しいことを言ってくれたのだ。


 さらに、俺には良く分からないがまじまじとビアンカを観察すると、たてがみが赤みがかっていた。

 ちょいと中身まで見てみようと思った時は、真っ赤な顔をされ


「秀雄さま、ここでは恥ずかしいですぅ……」


 なんて言われて、不覚にも昇天しそうになっちまったぜ。 

 

 ふう、話を戻すと、チャレスが言うにはその赤が濃ければ濃いほど、王族の力を強く発揮できるらしい。

 ビアンカはまだ十五との事なので、まだまだ能力が伸びる余地はあるとのことだ。


 そして一通り自己紹介を終えてからは、茶と共に酒も運ばれてきた。

 もちろんチャレスに酒を勧められる。

 俺は酒は好きな方なので、緊張感は切らさない程度に付き合うことにした。

 そして机を囲んでの歓談は、いつしか宴会へと変わっていったのだった。

 

 しかしほろ酔い気分の俺は気づいていなかった。

 チャレスの息子、チッチの目に憎悪の炎が灯っていることを。


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