表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/167

第百十話 出陣準備

 大和元年二月二十七日


「秀雄さまぁ、はやく行きましょうよぉ」


 俺はサーラに腕を引っ張られながら、マツナガグラードから出立する。

 目的地は温泉なのだが、遊びに行くわけではない。

 街道整備の成果を視察するため、領内行脚をするのだ。


 身重の嫁たちは休養中で、チカは修行中、リリとクラリスも練習中ということで、今日はサーラと二人きりだ。

 そのせいか、彼女もご機嫌だ。


「おう、待てって。そんなに急ぐと、すぐ着いちまうぞ」

「あっ、それはだめですぅ。秀雄様と色々お話したいですぉ。お馬さんには、ゆっくり行ってもらいましょう」

「そこは御者に任せるとしよう」

「はい!」


 そう、今回は馬車で温泉街まで移動をする。

 街道がそれなりに整ったことに加え、ピアジンスキー領産の良馬百頭を、返還交渉で入手したので、難路を馬車で進むことも可能になったのだ。


 俺たちは、早速三頭引きの馬車へと乗り込む。

 将来的には、ユニコーンやバイコーンに引かせれば最高だが、まだまだ先の話だ。

 

「では、出してくれ」

「かしこまりました」


 俺は、御者へ指示を出す。

 出発進行だ。


 マツナガグラードを出てからは、しばらく険しい坂道はない。

 少しずつ、標高が上がっていくといった感じだろうか。

  

 ゴトン、コトン。

 蹄鉄音に、車輪が地面にこすれる音が入れ混じる。

 今のところ、乗り心地は合格点か。

 改良の余地はあるにしても、まあ悪くはない。

 今度、ドワーフにみてもらい、修正しよう。


「馬車って楽チンですねぇー」


 サーラが車窓から顔を出しながら、話しかけてきた。

 楽しそうでなによりだ。


「これまで歩いてばかりだったからな。たまには、こんなのもいいだろう」

「でも、これじゃあ太っちゃいそうなんで、やめておきますぅ。昨日をお腹ぷにぷにされちゃいましたしー」


 サーラは、昨夜俺が腹の肉を揉んだことを気にしているようだ。

 彼女には恩賞として、知行地の代わりに、蜂蜜やフルーツに菓子など贅沢三昧をさせた。

 その結果、普請で体を使っているにも関わらず、肉付きがよくなったのだった。

 昨日も夕食後に、蜂蜜をドバドバかけた菓子を食べていたのだから、太るのも無理はない。

 そろそろ再び蜂蜜を補充に行くので、ストック的にはそれほど問題はないが。

 

「ははは、だがそれはそれで味がある。お前の腹枕というのも試してみたいな」

「そんなぁー。ひどいですぅ。絶対やせてみせますからねぇ!」


 本気かどうかは分からないが、サーラはダイエットを開始するらしい。

 これから温泉で豪華料理が出るというのに……、全く説得力がないわ。

 

 さて、二人でイチャコラしているうちに、旧シチョフ領境の山道前に到着したので、馬車を乗り換える。

 ここから、山道用の四頭引きの馬車で移動する。

 馬も生き物なんで、大事に扱わないといけない。


 それから、坂の途中でもう一回、坂を登りきってもう一回、計三回馬車を乗り換え、ようやく温泉街に到着した。

 

「ついたついた。これほど順調にこれるとは思わなんだ。サーラよくやったな!」


 街道も、馬車が行き違えられるよう、十分拡張され、揺れが激しくないようしっかりと踏み固められている。

 流石に全面石畳は、時間が掛かるので無理な注文だが、時間があればそれも可能だろう。

 サーラはよく頑張ってくれた。

 俺は、彼女を労い耳を撫でてやる。


「はぅ、あっ、ありがとうございますぅ」


 相変わらずのいい反応だ。

 

 さて、行くか。

 

 俺は、もじもじしているサーラを引っ張り、いつものように組合長へと話をとおす。

 そして、フェニックスの間に。

 豪華な食事を堪能し、露天でムフフ。

 そして、湯から上がりサーラからマッサージを受け極楽気分だ。


 もう一度言っておく、これは視察である。



---



 大和元年三月二日

 

 あれから俺たちは、温泉街を出立し、旧クレンコフ村を経由して、旧アキモフ領へと向った。

 そして、交易路となる街道の状況を確認しながら、そこにサーラを残して領都へ帰った。

 交易路は急ピッチで整備が進められている。

 サーラも駆りだし、全力で行っているので、あと一ヶ月もすれば形になるはずだ。


 よし、街道整備は概ね順調。


 アキモフ領へ立つ寄ったついでに、銅山も見たが、そちらも徐々に産出量が増えているとのこと。

 こちらも、結果は出ているな。

 内政の進捗確認は、大体こんな感じだ。


 一方、軍事に関しては、しばし平穏な時が続いた。

 すでに、先の戦から四ヶ月近くが経過した。

 その間、外交関係も進展がみられ、調略も成果がみられた。

 そろそろ、行動を起こすべきだろう。


 これから俺は、コンチンと例の如く作戦会議を行う。


「おう、待たせたな」

「いえいえ、先程きたばかりですよ」


 会議室に入り、いつものように口を交わす。


「お前も分かってると思うが、そろそろ行動を開始すべきだ」

「ですね。機は熟したかと……」


 コンチンは頷いた。

 彼も同意見のようだ。


「だな。では予定どおりクリコフ家からだ」

「はい」


 俺は、地図を広げ、進軍ルートをなぞりながら話を続ける。


「現在の動員兵力は、傘下の勢力を含めると二千は優に超える。その内、クリコフ側には精鋭三百を送ろう。そして、ピアジンスキー方面には二千の大軍を差しむけよう」


 ピアジンスキー領には、アキモフ家を先陣として大軍を動かし、敵の目を向けさせる。

 敵の目が大軍に向けられた隙に、三百の精鋭がクリコフ領を、さらにはヴィージンガー領を削り取る作戦だ。


「なるほど、これは大掛かりな陽動作戦ですね。だが妙案です。ピアジンスキー家の兵力は、松永家に比して一段劣ります。兵の質も騎馬隊以外は劣る。そんな我が軍に攻め込まれたら、目を向けないわけにはいきません」


 現在のピアジンスキー連合の動員兵力は、守勢時でも千八百程度。

 ホフマン家と不戦協定を結んでも、三百程度の押さえは必要だ。

 ドン家とは、同盟を結んだので、兵を割く必要はなし。

 また、クリコフ家はロマノフ家と接しているので、動員は不可能。

 よって、松永家の主力に回せる兵力は、約千三百とみる。

 

「うむ、さらにドン家には、シュットッカー家のカールら三国同盟が、攻め込む素振りを見せる。無論守りが緩ければ、本気で攻めてもらう」

「さすれば、ドン家も援軍を回す余裕はなくなるでしょう。せいぜい数百人がいいとこでしょうか」


 コトブス三国同盟の動員兵力は、ロデ家やチチュ地域への押さえを差し引くと、千くらいだ。

 対してドン家の動員兵力は、傘下のブランシュ家も入れると、二千七百ほどだろうか。

 ファイアージンガー家、ヴァンダイク家、ホフマン家への押さえが約九百とみる。

 そして、三国同盟に宛てる兵力は、およそ千三百か。

 とすると、ピアジンスキー家への援軍に回せるのは、五百程度だ。

 つまり、敵軍は二千に満たないことになる。

 

 松永軍が二千以上でピアジンスキー領内へ攻め入れば、数の上では互角以上。

 俺たちは、すでに戦略上で優位に立っているのだ。

 それに加え、『埋伏の毒』に、寝返り工作の成功。

 敵にウルトラCが無い限り、逆転は難しいだろう。

  

「だな。数ヶ月に渡り、下準備をしてきた結果だな。もちろん国力自体が増えたことも大きいが」

「そうですね。亜人が加入したことで、兵の質と数も格段に上がりました。あとはやるだけです」


 コンチンも自信ありげに頷く。 


「うむ。では陣立てだ。クリコフ領へ方面の大将はどうするか。臨機応変に対応するため、経験豊富な人物が望ましい」

「うーん、ここはバレス様かナターリャ様、もしくは僭越ですが私、あとは秀雄様でしょうか」


 それしかないか。

 俺自ら精鋭部隊を率いたいが……、流石に二千を超す大軍に総大将不在はどうかと思う。


「ふむ。ここは適切な判断を下せるものが必要。統率力のみならず知力にも秀でている者が適任だ。コンチン、頼む」


 バレスとナターリャさんでは、ヴィージンガー家まで攻め入る判断を任せるには不安が残る。

 局地戦ならば、二人に任せるのだがな。


「わかりました。大役ですね」

「ああ、ここはお前しかいない」

「ご評価頂きまして感謝します。では、これから人選といきましょう」


 続いて、陣立てへと移る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ