表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/167

第百六話 亜人代表との会談②

 さて、次は本命だ。

 俺は、ドワーフ族の代表のヴィンセントさんへ視線を向ける。


「ヴィンセントさんには、私からお願いがあります」

「なんじゃ? 武器なら、いくらでも作ってやるぞい」


 すでで酒をがぶがぶ飲んで、いい感じに酔っ払っているドワーフ族のおっさんは、にやりと笑いながら言葉を返した。

 なかなかフランクな感じだな。

 話し易そうな人でよかったわ。


「ご想像のとおり、ドワーフ族の方々には、松永家で使用する武器・防具の、製作・開発をお願いしたいのです。もちろん報酬は支払います。それ以外にも、領内の鉱山開発を手がけてくだされば、さらに助かります。どうでしょうか?」


 ドワーフが加われば、様々な武器・防具を低コストで製作できるだろう。

 それに武器開発や、旧クレンコフ領での鉱山開発も手伝ってくれればいうことは無い。


「うむ。最初に言ったように、酒と金さえくれれば、時間がある限りは協力するぞい。最近はミラとの戦もないため、商売あがったりだったんじゃ。松永殿の申し出は願ったり敵ったりよ」

 

 ほほう、それは丁度いいな。

 ならば、ついでに何人か松永領内に派遣してもらい、職人に技術を伝授させよう。

 門外不出ならば仕方ないが、そうでなければ鍛冶師全体のレベルの底上げになるはずだ。


「それならば、ぜひお願いします。またできれば松永家が鍛冶師の教育役として、何人か登用したいのですが、お願いできますか?」

「いや、人族に技術を伝えることはできん。それは伝えたくないのではなく、伝えてもそれを実行することができないのじゃ。我々の技術には魔法の素養も必要になる。ドワーフ族に比して、人族は魔力に長けている者が少ない。我らの技術は人族に向いてないんじゃよ。だが、松永家に派遣するのは問題ないぞい。そいつらを鉱山開発に回してくれい」


 そうか……、そんな理由があるのなら、残念だが仕方がないな。

 魔力のある人族は、ほとんどが魔法士になる。

 好き好んで鍛冶師になる奴などいない。


 ただ人材を派遣してもらえれば、鉱山開発が進むな。

 ヴィンセントさんには感謝せねばならん。


「ならば、諦めるより他はないですね。では、それ以外の面でのご協力をお願いします。細かな条件については、ノブユキと話してください」

「うむうむ、承知したぞ。のう松永殿、この酒はとても旨いの」


 ヴィンセントは、空になった五本のワインやシャンパンの瓶を指差している。

 三十分にして五本空けるとは、どんだけハイペースなんだと思うが、彼の感じだとおかわりを要求しているようだ。

 高級酒だと知っているのか、控えめな態度をとっているところが、なんか微笑ましいな。


「まだまだおかわりはありますよ。みなさんもじゃんじゃん飲んでください! 料理も沢山あるんで、食べたりない方は遠慮なく申し出てくださいね!」


 俺は、ビアンカにおかわりの酒を取りにいかせてから、ヴィンセントを含む全員に対し言葉をかけた。


「ほほー、松永殿はわかってるのー」


 と、ヴィンセントが喜色満面になったかと思えば、


「本当か! まだまだ食わしてくれるってよ! 秀雄! おかわり持ってきてくれよ!」


 と、犬狼族アントニオのテンションが一気に上がった。

 そして、彼に続き、俺も俺もと各種族が手を上げてきた。


「どうぞ、どうぞ」


 もちろん、断るはずもなく、すぐに追加の料理を運ぶようにと指示を出した。

 そして、酒が樽ごと、料理が鍋ごと運搬されてきたら、各々が競うようにしてもっていった。


 獣人の食欲はすごい。

 これだけ食えば、狩猟だけじゃ食糧は賄えないな。

 犬狼族などは、食い扶持減らしで外に出るくらいだから、食糧が有り余っている状況ではないのだろう。

 羊・山羊族のような農耕系の種族の土地も、余剰が大量に出るほど肥沃ではなさそうだ。

 ここは松永家が、安価で食糧を仕入れて回してやる必要があるな。

 

「すごいな……」


 まだ昼過ぎだというのに……。

 おかわりの酒がきてから、大盛り上がりになっている。

 

「めでたい、めでたい。さあ、松永殿も一杯やりなされ」


 俺が外からぼーっと、その様子を眺めていたら、猫族のセシリオが気を利かせて、グラスワインを差し出してくれた。


「あっ、これはどうも」


 俺はグラスを受け取り、彼とグラスを合わせてから、口を湿らせる。


「みんな、松永殿に期待しておるのじゃよ」


 セシリオがそっと俺の隣に腰掛けると、おもむろに話し始めた。


「それは買いかぶりすぎでは?」


 ここは、無難に控えめな返答だ。

 彼の真意がまだ分からないからな。


「謙遜しなさるな。お分かりかと思うが、これまで亜人領域の周囲を取り巻く環境は厳しかったのじゃ。北はミラ公国、南はエロシン家やホフマン家。彼ら人族とは、細々と交易はあるものの、亜人差別が酷い。そして、西はステップに、東は大山脈が立ちはだかる。翼人族のおかげで、山の向こうに住むエルフら、他種族との交易はあるものの、それも限りがある。そこで、松永殿が瞬く間にウラールを統一し、我々を重用するとの申し出。期待しないほうがおかしいのじゃ」

 

 セシリオのいうことは、もちろん俺としても分かってはいたが、当事者の口から出た言葉には重みがある。

 俺は、これまで亜人領域がおかれていた不遇な状況を、再認識した。

 

 また、彼の口からエルフという単語が出たので、ここでエルフについて触れておこう。

 ナターリャさんから聞いた話によると、エルフは大山脈を隔てて東にある亜人領域に、集落を形成しているらしい。

 その中に、さらにいくつかの氏族があり、ナターリャさんは一つの氏族の長の娘だそうな。

 彼女がどんな事情でクレンコフ村に住み着いたのかは、わからない。

 俺がエルフに関して知っている知識はこの程度だ。


 一方、ダークエルフについでだが、彼らはここからはるか西方の、ローズ公国の南に位置する亜人領域に居るらしい。

 サーラはスラムの生まれなので、そんなことは分からない。

 これもナターリャさんに教えてもらったことだ。

 いつ、どの場所で聞いたかは、察して欲しい。


 エルフに関してはこの辺にして、俺はセシリオへと向き直る。


「やはり、そうでしたか。薄々は気付いていましたが……」

「ただ、これからは松永殿のお陰で、我らにも光明が見えてきたわい。松永家が南方諸国で一大勢力になれば、自然と我らも繁栄するのは自明の理。我らは全力で支援させてもらいますぞ!」


 セシリオは、にこやかだが、眼光鋭く俺を見つめ、手を差し出してきた。

 もちろん、俺もその手を握り返す。

 

 よかった、彼らとは互いよい関係が築けそうだ。

 

「こちらこそよろしく頼みます」


 セシリオは握る手に力を込めて頷いた。

 そして、しばらく二人でちびちびとやっていたら、

  

「おーい、秀雄! お前も飲めぃ!」


 と、横から酔っ払った、アントニオが俺の手を引っ張り宴会の輪の中へと引き込んだ。


 仕方ない、付き合ってやるか。

 

「わかったって、飲もう飲もう」


 俺は場の雰囲気に流されて、ワインを呷る。

 そして、そのまま夜までぶっ通しで、手持ちの酒がなくなるまで宴会は続いた。



---



 翌朝。


 俺は、二日酔いで痛む頭を抑えながら、これから帰還するという、各種族の代表たちを見送りに、アキモフ村の門口へと向う。

 到着すると、すでに全員がぞろい踏みしていた。

 アントニオやヴィンセントなどは、酒を樽ごと呷っていたのに、ケロリとしている。

 まったく、うらやましい体質ですこと。


「では皆さん、また会いましょう。帰りの道中はお気をつけてお帰り下さい」


 俺は、彼らに別れを告げると、手土産の品を渡す。


「こちらこそ、手厚い歓迎、痛く感激した。今後ともよろしくお願いしますぞ」


 俺は、セシリオを始めとして、各種族の代表たちと挨拶を交わす。


「ではノブユキ、あとは頼む」

「はい。分かりました」


 領境までの見送りはノブユキに任せる。

 そして、彼らは、行きと同じくノブユキに先導されて、亜人領域へと帰って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ