第百五話 亜人代表との会談①
俺は、亜人代表の方々を引き連れて、アキモフ村の館へと案内する。
「こちらです。入ってください」
建物の中へと入ってもらい、大広間へと先導する。
全員が着席したのを確認し、俺は自己紹介を始める。
「先ほども名乗りましたが、改めて申します、私が松永家当主、松永秀雄です。よろしければ皆様のお名前を教えて頂けませんか?」
俺は、椅子から立ち上がり一礼し、各代表に挨拶を促す。
すると、猫族の代表が立ち上がる。
ちなみにチャレスではない。
「おほん、では言おう。わしは猫族最長老のセシリオと申す。チャレス坊より、そなたの噂は耳に入れているぞ。今日は宜しくの」
まずは猫族の老人が挨拶をした。
年齢的に、彼が代表なのは納得だ。
年の割りには元気そうだ。
普通にここまで歩いてきたのだから、当然か。
「次は俺だな。犬狼族のアントニオだ。ハビエルが色々と世話になってるみてえだな。俺も一枚噛ませてくれよ」
続いて、セシリオの隣の犬狼族の男が名乗った。
彼が犬狼族の王だな。
つうか族長ね。
年齢は三十代半ば、とっても強そうです。
どうせ獣化ができるんだろ。
「じゃあ、僕の番だね、栗鼠族のディノっていいます。こう見えても、心は大人なんですよ!」
子供用の椅子からピョンと立ち上がったのは、身長五十センチメートル程度の小人だ。
いつも子供に間違えられるのだろう。
大事なことなので、初めに言っておいたのだな。
そして、彼の隣に座る女性が立ち上がり、一礼した。
「初めまして松永様。私は兎族のタバサです。よろしくお願いしますね」
ええよろしくと、俺は頭を下げた。
うさみみだ! ではない。
ここは大事な交渉の場だ、気を引き締めろ。
それから順番に鹿族、狸族、鰐族、鬼族、熊族、翼人族の代表者が挨拶を終えた。
次が最後の地精族である。
「わしで最後じゃな。わしは地精族、もしくはドワーフ族のヴィンセントという。武器なら、酒と金をくれりゃあ作ってやるぞ」
これで全員が挨拶を終えた。
まだ挨拶だけだが、松永家に対して好意的な感じがする。
「皆さん、丁寧な自己紹介ありがとうございます。丁度、時刻も正午前です。先ほど伝えたとおり、昼食でも食べながら会談をしましょう。ビアンカ、頼む」
「かしこまりました」
ビアンカは、サササと部屋を出る。
そして、一分もしないうちに食事を運んできた。
早速俺達は、乾杯を済ませ会食を始める。
まずは、各種族の代表とたわいもない話をして、親睦を深める。
そして三十分後、そろそろ場も暖まってきた頃合いだ。
このあたりで交渉に入るとしよう。
「話も弾んでいるところで、ここで本題について話をさせてください。お聞きのことと思うが、今回皆さんを呼んだのは、交易・交流について、話をするためです。これまで亜人領域と人族との間では、積極的な交易は行われていませんでした。ミラ公国・南方諸国には差別があるためです。ですが、過日松永家がウラールを統一し、亜人領域と領土を接しました。これを契機に、我々は本格的な交易に乗り出すつもりでいます」
まだ言いたいことはあるが、ひとまずこれくらいにして、各代表者の顔色を窺う。
嫌そうな顔つきの者はいないな。
狸族や、羊・山羊族、そしてドワーフ族なんかは、すでにホクホク顔だ。
戦闘系の種族と違い、交易品となるものを大量にもっているところは、金を匂いをかぎ付けているのだろう。
「もちろん、品物だけではなく、軍事力や内政官の提供といった、人的な側面からも積極的に交流を図っていきたいと思っています」
これに反応したのが、犬狼族・鬼族・鰐族・熊族といった戦闘系の種族。
彼らには交易といっても、あまりピンとこなかったのだろうか、それとも売れる商品が無いのかは分からないが、軍事力の提供というフレーズを聞き、顔色が変わる。
「秀雄はすでに、犬狼族を好条件で雇ってくれているもんな。さらに戦力が欲しけりゃ、いつでも言ってくれ。ノースライト帝国で魔軍と戦っている奴や、冒険者として遊んでいる奴らにも声を掛けてやるぜ!」
口火を切ったのは、犬狼族のアントニオだ。
おそらく、ハビエルから色々と話を聞いてるのだろう。
自己紹介のときも、一枚噛ませろといってきたので、間違いない。
彼の話から推測すると、やはり松永家の雇用条件は良いのだ。
魔軍と戦っているノースライト帝国においては、亜人はあまり優遇されていないようだ。
冒険者をするにしても、余程の高ランクで無い限り、安定した高収入は難しいはずだ。
ならば、松永家が光って映るのは無理もないか。
「それは心強い。ボリバルが率いる犬狼族の一団は、先の戦でも目覚しい働きをしたのでね。ぜひお願いしますよ」
身代金でそこそこの金を得たので、それを回せば結構な人数が雇えるはずだ。
「ならば俺たち鬼族も雇ってくれ!」
「ずるいぞ。我ら鰐族も頼む!」
「なんの熊族の方が、遥に役に立つぞ」
「待ってよ。私たち兎族も、衛生兵なら役に立つわよ!」
と、積極的に売り込みをかけてきた。
俺としては嬉しいのだが、あんまりこちらに人を回しすぎて、問題ないのだろうか。
ただウサミミ看護婦は最高だ。
それは間違いない。
また、兎族をコンパニオンに加入させるのも手だな。
「それはありがたいのだが、松永家に多く回しすぎて、ミラ公国への押さえは疎かになりませんか?」
ミラ公国が、隙あらば亜人領域を狙ってくる可能性も、否定できない。
一応聞いておこう。
「それは問題ないじゃろう。ミラが、亜人領域に大軍を送り込むことは、地形的に無理じゃの。もし攻めてきたとしても、領域奥に引き込んでから遊んでやれば、尻尾を巻いて逃げるじゃろうよ」
返答をくれたのは、猫族の最長老のセシリオである。
俺も、リリの棲家に向うときに亜人領域を突き抜けたが、とてもじゃないが大軍は通れないと感じた。
街道も整備されておらず、獣道レベルの道しかない。
あそこでゲリラ戦を行えば、大丈夫そうではある。
「なるほど。確かにそうですね。ならば、今後は、鰐族や鬼族に熊族の方にも積極的に参加を願います。今月末に採用面接があるので、早く雇われたい方はぜひご参加してください。もちろん個別に話も受け付けますし、内政官も大募集しているんで、他の種族の方も歓迎しますよ」
俺の話を受けて、アントニオら戦闘系の種族の面々は、一様に頷き納得してくれた。
もちろん、それ以外の種族も好感触だった。
「これで軍事関連については、区切ります。質問があれば、あとで俺やノブユキに聞いてください。なんでも答えますので。次は、貿易関連ですね。松永家としては、亜人領域で生産されている品を買受、他家に流通されたいと思っています。品は、需要があればなんでも構いません」
亜人領域で、どのような品が採取されたり、生産、加工がされているかは細部までは分からない。
そのため、そこを調べるのはノブユキの仕事になる。
彼には、南方で需要がありそうな品を、亜人領域内においてくまなく調査してもらう。
そして、見つかり次第、順次買い付けることにする。
無論、狸族の竹製品に釜、犬狼族領内で取れる薬草など、すでにこちらが把握しているものは、すぐに買い付ける予定だ。
「だったら、私の抜けた羽でもいいのかしら?」
「近くの森に、おいしい木の実が一杯ありますよ!」
「私たちの角切れば、良い武器になりますよ。また生えてきますので、いかがですか?」
翼人族の代表のアンネローゼに、栗鼠族のディノ、鹿族のトマスが次々と提案をしてきた。
むむ、どれも需要がありそうだな。
「もちろん価値があれば、買い取りますよ。食糧や嗜好品との交換でも構いません。査定に関してはノブユキにやらせますんで、彼に聞いてくださいね」
「ええ、わかったわ」
「はい、ノブユキさんにですね」
「じゃあ、帰りがけに一本査定してもらいます」
鹿族のレインさんが、物騒なことを言ったが、聞かなかったことにしよう。