表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/167

第九十九話 統一後の戦略③ 論功行賞(地図)

 さて、翌朝。

 

「イタタ……」


 俺は腰を押さえながら起き上がる。

 もう慣れっこだ。 


 今日は朝から、昨日の話の続きがある。

 俺は、軽く朝食を取り、会議室へと向う。


「おはようございます」

「おう」


 昨日の今日なので、自然に話し始める。


「昨晩はお疲れ。エゴールに続いて、お前も結婚を決めたとはな。式は任せておけよ」


 実は、昨夜二人で食事をしているとき、コンチンの結婚話をすることになった。

 エゴールも結婚したので、ついでにお前も身を固めたらどうか、と勧めたのだ。

 もちろん相手は茜だ。

 忍の数も近いうちに増えるので、彼女の負担も減るからだ。


「まだ彼女には伝えていないのですから、黙っていてくださいよ」

「ああ、もちろんだ」


 そして、酒の勢いも手伝い、思い切って結婚をすると決めたのだった。

 エゴールとダブル結婚式なども考えたが、それでは見世物のようで、流石に不憫と思い、口には出さなかった。

 まずはエゴールで、次にコンチンの順が無難だろう。


「それで、今日は昨日の続きだな。内政、外交、戦後処理ときて、次はピアジンスキー家の攻め方だな」

「ええ。秀雄様は何かお考えがあるようですね? バロシュ家の当主とは、なにやら話してしたようですが……」


 コンチンも分かっていると思うが、一応話しておこう。


「まあな。今回の戦を受けて、連合内の結束に綻びが生じるはずだ。俺はそこを突こうと思う。ピアジンスキー家単体ならば、それほどでもないからな。手始めに、バロシュ一族からだ」


 バロシュ家のミラノを除く一族は、『埋伏の毒』として、ピアジンスキー家に入り込ませることが決まっている。

 昨晩タイミングよく、ピアジンスキー家から捕虜返還の使者が訪れたようだ。

 

 丁度いい。その交渉で一族の者は、身代金と良馬を何頭か頂いた上で、解放してやる。

 そして、定期的に忍を送り、敵の内情を知らせてもらおう。

 

「なるほど。当主の命を質に入れて、我々に協力を促すということですね」

「ああ、対外的にはミラノを斬ったことにして、秘密裏に軟禁してく。さすれば、ピアジンスキー家へ引き受けられた奴らも、松永家に従うしかないだろう」

「それは名案ですね。バロシュ家は連合内でも古参なので、ダミアンも無碍には扱えないでしょう」


 俺も名案だと思う。

 連合の弱点を上手いこと突けたのではないか。 


「だな。それ以外にも、忍の数が増え次第、連合内で不満をもっていそうな者を探すとしよう。上手くいけば寝返ってくれるかもしれん」


 これから本格的に、敵領内での諜報活動に乗り出すつもりだ。

 知行地が百石程度の騎士にも、面倒くさがらずに声を掛けるつもりでいる。

 塵も積もれば山となる、というからな。

 

「では、まずは調略から始めるということでよろしいですか」

「ああ。そして頃合いを見計らって攻め込むとしよう」 

「承知しました」


 コンチンも満足気な面持ちである。

 松永は戦ばかりではないことを、見せ付けてやろう。

 

 さてこれで、昨日の残りは片付いたな。

 ではお開きとするか。


「では話はこれで、終わりだな。他に何かあるか?」

「はい、最後に私から、一つ提案があります」


 とコンチンが申し出てきた。

 

「なんだ。言ってみろ」

「ウラール地域を統一しましたので、ここで元号を設定しませんか?」

「ほう」


 元号か……。

 ここ南方諸国では、教会が発表している暦はあるが、一般的には使われていない。

 むしろ、他の有力諸侯は、独自で元号を制定しているほどだ。

 

「これから先のことを考えると、このタイミングが適切かと」

「言われてみればそうだな。だが教会から睨まれないだろうか。只でさえ、我々は亜人重用で問題視されているらしいからな」


 南方諸国の亜人差別は、勢力ごとにより態度が異なる。

 だが、中でも教会は、排斥の筆頭であるのは間違いないと分かった。

 まだ彼らからの正式なコンタクトは無いが、非公式に領内の教会から嫌味は言われている。

 

「それはありますが、彼らの本拠地はここから遠く離れていますし、松永領への道中には、敵対勢力も存在します。そのため、大きな問題ないかと思います。せいぜい秘薬が送られてくる程度でしょう。それに亜人排斥を訴える彼らとは、これからも相容れることは難しいでしょう」


 どの道、このまま行けば教会とは対立する。

 今のうちから態度を明確にしたほうが、かえってよいかもしれん。


「そうだな……。松永が亜人融和のアイコンとなるのが最善か」

「さすれば我々の思想に同調する者も、自然と集まってくるでしょう」


 そうなったら、戦力的にも充実を図ることができそうだ。


「よし! お前の案を受け入れよう。元号は大和とする」

「では、今年中に発布いたします」

「ああ、それでいこう」


 

 これで、会議は終わりだ。

 地域を統一したことで、本当にやるべきことが増えたな。

 まあ、一つ一つこなすとしよう。


 そして、俺とコンチンは部屋を出て昼食を共にとることにした。



---


 

 翌日、論功行賞である。

 

「では秀雄様、お願いします」


 いつものようにコンチンに促され、昨日一生懸命書き上げた紙を手に取る。

 それを見ながら、これまたいつものように口を開く。

 

「うむ。バレスは前へ」

「おう!」


 バレスがトカドカと俺の下へくる。

 

「お前は数に勝る敵重装騎兵を受け止め、ピアジンスキー四将が一人、ドラホを返り討ちにした。その功がなければ我が軍は崩壊していただろう。よって戦功第一とし、カラフの町二千石を与えよう」


 二千石という単語に、ざわめく。

 これでバレスの知行地は五千石だ。

 松永家の領地からみると、宿老クラスになったわけだ。

 

 皆も、俺がしっかり家臣には報いる、ということが分かっただろう。  

 

「有り難く頂戴します」


 そして、バレスはドカドカと席に戻る。

 これからも、若者たちの目標として頑張ってくれ。


「次はリリなのだが、領地を与えても意味が無いので飛ばそう。なので、戦功第二はエゴール殿に繰り上げる。前へ」

「承知した」


 エゴールは随分と素直に、俺の下へと寄り一礼した。


「では沙汰を言い渡す。あなたは敵左翼の騎兵を翻弄し、実質的に無力化した。それにより中央突破までの時間を稼ぐことができた。よって戦功第三として五百石を与えよう。またマリアの輿入れを、ここで正式に決定する」


 バレス以外の者で、突出した手柄を立てた者はいない。

 こんなもんだろう。


「かっ、感謝いたす! 今後も松永殿の下で、貴家を支えると誓おう。また、五百石の土地は不要。我々は、この戦で、それほどの働きをしたとは思わん」

 

 ほっほー。

 『下』って言っちゃった。

 ありがとうマリア。

 ツツーイは今後も重用しよう。


 それにエゴールも随分と殊勝になったものだ。

 せめて金貨くらいは与えてやろう。


「それは心強い、まるで万騎の兵を得た気分だ。土地がいらんのならば、代わりに金貨五千枚を与える。辞退は許さん。また、式についてはこれから調整しよう。以上だ」

「承知した」


 エゴールは、喜色満面の体で、席へと戻っていった。

 マリアをもらえることが相当嬉しいのだろう。

 こんな笑顔は初めて見たわ。

 

「では次は、バロシュ家の大将を捕らえたウラディミーラだ。あなたもエゴールと並び戦功第三とする。土地と金のどちらが望みだ?」


 ウラディミーラは、すっ飛んできた。

 近い、近いよ。


「私はお金がいいですわ! まずはチェルニー領の開発をして、民を豊かにさせなければいけません」


 いい心がけだ。

 また、俺に配慮もしてくれたのだろう。


 五百石から得られる税収は、金貨約千六百枚。

 金貨で支払うならば、三年分の税収が適当か。


「ではそうしよう。ウラディミーラには、金貨五千枚を与えよう。領地経営に生かしてくれ」

「はい。ありがとうございます」


 これで戦功第三までは終わったか。


 あとは、コンチンにお任せでいいな。

 詳細は、近日地図を更新してもらい、確認しよう。

 

 そして、最後はアキモフ家か……。

 今回は百名しか送らずに、ボリスは不在。

 約定どおり、国替えをしてよいものか。

 この際、少し削ってやろうか。

 だが、今は耐え時だ。

 寝返られても困るので、ここは奴を調子に乗らせておこう。

 次の戦は、アキモフ軍を先鋒という名の肉壁として扱う予定だ。

 アキモフ兵には悪いが、主君の行いが悪すぎだ。

 まあいい、あとで正式に国替えをすると使者を送るか。 

 

 これで戦後処理に関しては、一段落だ。


「コンチン、後は頼む」

「かしこまりました」


 俺はドカッと椅子に腰を下ろし、茶をすすりながら論功行賞の様子を眺めた。



挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ