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第一話 プロローグ

「ちくしょー、また駄目かよ」

 

 これで十回目を超えただろうか、また掛かってきた採用不合格の電話を切った後、手にしているスマホを布団に投げつけながら悪態をついた。

 

 俺の名は松永秀雄だ。

 年は二十一歳、現在就活真っ只中である。

 今、俺はある悩みを抱えている。

 それは先の様子からも分かると思うが、就職先が全く決まらないのだ。

 大学も所謂一流と呼ばれる所に現役で受かっているのにこの有様だ。

 

 まあ俺にも思い当たる節はなくはない。

 

 何かって?

 話せば長くなるが聞いてくれ。

 

 詳しく話すと、親族が経営する会社は数年前までは業績も好調で、彼等の生活も左うちわだったらしい。

 ただ調子に乗っていた親族は、その時に業績が不振だった大企業が頭を下げて申し入れてきたた提携話を、締結直前でドタキャンしたのだ。

 もちろんそれに伴う出資もパー、記者会見の準備までしていた大企業は怒り心頭。

 プライドを捨ててまでお願いしたのに、直前で裏切られたため親族達はかなりの恨み買ったようだ。


 その後、粉飾決算により過去数年の違法な経営が明るみになった親族の会社は、経営状況も黒字から一転、赤字に転落し経営は火の車になった。

 さらに株主代表訴訟により、親族個人にも多額の賠償金が課せられた。

 資産を売り払っても埋めきれない赤字額に、ついに資金はそこを尽き、不渡りを出す寸前になる。


 そんな会社に銀行が金を融資するはずもないので、親族は知り合いの会社に頭を下げるがどこも貸してくれるところがなかった。

 その原因は、金融緩和による景気回復で業績が逆にV字回復した先程の大企業のトップが、経団連の会長になり、裏で手を回していたのだ。

 親族は見事に倍返しを食らったのである。


 その余波を、恐らく全く関係のない俺も受けているんだろう。

 一流企業はてんでダメでその関連企業も全滅。

 残されたのはブラックしかない状況だ。

 

 これは詰みではなかろうか。

 薄々感付いてはいるが、もう少し頑張ってみよう。

 きっといい人もいると信じたい。


 俺は最後の悪あがきに、もう少し就活を頑張ってみることにした。

 


---


 

 三ヶ月が経った。


「やってられねぇ、ブラックすら不合格かよ」


 俺は世の中の理不尽さを感じている。

 なにもしてないのに、生まれた家だけで負け組確定か。

 俺の人相は自分でも分かるほど日に日に悪くなっている。

 こんな社会に対する、やり場のない怒りと失望を感じているせいだろうか。

 

「こんな世の中、何でもやった者勝ちだな。力さえあれば黒でも白にできちまう」


 このままだと犯罪に走りそうだ。

 そんな危険な考えをめぐらせながらも、惰性で就職サイトを開いた。

 おっ、これはなんだ、「一緒に農業しませんか、若者の農業従事者大募集」だとさ。

 場所は岩手と秋田の間というド田舎だ。

 ただ今の俺にはここしか残されていないかもしれない。

 まあ行くだけいってみよう。

 


---

 

 

 ガタンゴトン、ガタンゴトン。


 東北の片田舎へと向う電車の中。 

 たったの一両編成、乗客一人の在来線に乗ること三時間。

 ようやく先に見える山を抜けたら降車駅だ。


「最近は真田幸村じゃなくて松永久秀だよな」


 俺は携帯ゲーム機で戦国時代のゲームをしている。

 ここ数ヶ月の世の中の理不尽ぶりに、俺の人生観は百八十度変わった。

 歴史好きな俺だが武将の好みも、正統派の真田、上杉、徳川などから、梟雄の松永、宇喜多、遊佐あたりに変化した。

 特に松永久秀は苗字が同じで名前も似ていることもあり一番のお気に入りだ。

 彼の生き様は本当に素晴らしい。

 主君を毒殺し、将軍を暗殺し、っておっと蛇足だったな。

  

「おっ、トンネルに入ったな。ここを抜ければ目的地か、降りる準備をしておくか」


 戦国武将について熱く語っていたら、気づいたらトンネルに入ったようだ。

 俺は脇においてあったリュックに携帯ゲーム機をしまおうとする。

 

 すると突然、なんとも形容しがたい違和感が俺を襲ってきた。


「くっ、気落ち悪い」

 

 あまりの吐き気と頭痛に思わず頭を抱える。

 

「はあっ、はあっ」

 

 三十秒程くらいか、吐き気と頭痛が間断なく襲ってきたが、それもようやく引いてきた。


「一体なんだったんだよ。って……」


 痛みが消えたので目を見開いたところ、言葉を失った。


 俺は電車に乗っていたはずだ。

 なのに目の前には、木々が鬱蒼と生い茂る森の中だ。

 なにこれ、全く意味が分からんぞ。


「取り合えず落ち着かねばいかん」


 俺はとりあえず冷静になるため素数を数えることにした。

  

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