第四十一話 「避難訓練」
「えー、今日は避難訓練を実施する」
その日、品川区にある都立立山高校の朝のホームルームで担任の山田という男性教師がそんな事を言うのを、同校ミス研会長兼自称榊原探偵事務所助手の深町瑞穂をはじめとするクラスの面々はざわざわとした様子で聞いていた。友人でもある後ろの席の磯川さつきが瑞穂の肩を突いて小声で話しかけてくる。
「珍しいよね、この時期に避難訓練なんて」
「うん。何でだろ」
そんな事を言っている間にも、山田教諭は話を続けていく。
「ただし、何時間目にやるかは通知しない。いつ訓練が始まっても焦らないように心の準備はしておくように。それと、今回の訓練内容は『不審者への対応』だ」
「不審者、ですか?」
クラスの誰かが困惑気味にそう尋ね返した。二〇〇一年に大阪での小学校内殺傷事件があって以降不審者に対する訓練は行われるようになったという話は聞くが、てっきり火事や地震といったたぐいの災害がテーマだと思っていたので意表を突かれた形である。だが、それに対して山田教諭は少し苦い表情でこう答えた。
「知っての通り、一学期に当校を舞台にあんな事件が起こったので、犯罪に対する対応を確認するために実施する事になった。みんなも気を抜かないように」
その「事件」の当事者の一人だった瑞穂は何とも複雑な表情を浮かべている。六月の文化祭直前に立山高校で起こったあの同時多発殺人事件の爪痕は、今もなお深いもののようである。
「具体的にはどんな流れなんですか?」
「詳しくは言えないが、どこかの教室を不審者が襲う予定だ。今日はそのためにその道のプロの役者さんにお願いして本気の不審者の演技をしてもらう事になっている。あくまでも演技だが、かなりリアルな訓練になるはずだから、覚悟はしておいてくれ」
「はーい」
全員が少し気の抜けた返事をする。訓練は大切だし、一学期にあれだけ大きな事件があった以上ふざける人間はさすがにいないようだが、それでも高校の避難訓練に対する生徒の感想というのは一般的には「面倒臭い」というものだろう。
「まぁ、あんな事件があったし仕方がないのはわかるけどさ……正直何で今更って気はするよね。風邪で休んでいる美穂がちょっとうらやましくなってきた」
「まぁまぁ」
さつきのぼやきを、瑞穂がそう言って抑える。、とはいえ、山田教諭も生徒があまり乗り気ではないのは重々承知しているのか、特に咎めるような事はしなかった。
「連絡は以上だ。では、ホームルームはこれで終わって授業に移ろうか」
山田教諭はそう言うとそのまま教科書を取り出して何やら板書をし始め、生徒たちはそれぞれのペースで授業の体勢に入り始めたのだった。
一方その頃、立山高校近くの雑居ビルから突然一人の男が飛び出し、近くに駐輪してあった自転車に飛び乗ってそのまま逃走し始めた。と、後ろから何人もの男たちが飛び出し、その中の一人が持っていた無線に叫ぶ。
「捜一三係新庄から本部! 捜査中の大崎駅近くの雑居ビル内殺人事件において、被疑者が現場から逃走! 繰り返す、被疑者が現場から逃走した! 被疑者氏名・村里大樹! 現在鉄パイプを所持した上で自転車で西へ逃走中! 応援、頼む!」
『本部了解。直ちに周辺PCに追跡を要請する。そちらも追跡を続行されたし』
「了解!」
刑事……捜査一課第三係の新庄勉警部補は無線を切り、同時に周囲の警官たちが逃走した男を追いかけていく。と、そこへ新庄の上司である捜査一課三係係長の斎藤孝二警部と、その斎藤に呼ばれてこの現場に来ていたスーツ姿の私立探偵……榊原恵一がビルの中から姿を見せた。新庄が二人に呼びかける。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ない。しかし、まさかあそこまで身のこなしが軽いとは……少し油断したか」
榊原は渋い表情で村里が逃げた方を睨んだ。
この日、このビルに本社を構える小さなリフォーム会社のオフィスで、この会社の社長が何者かに殺害されるという事件が発生し、警察の要請で榊原も事件に介入していた。で、一通りの捜査が終わった時点で榊原は比較的あっさりとこの事件の真相に到達し、犯人として同社の経理担当社員だった村里を指摘したまでは良かったのだが、全てが暴かれた瞬間、村里は手近にあった鉄パイプを片手に大暴れ。刑事たちや榊原が取り押さえようとしたがそれすら振り切り、そのまま外へと逃亡してしまったのである。
「とにかく、あいつを捕まえないと」
斎藤がそう言った瞬間、付近を走行中のパトカーから無線が入った。
『品川8から全車へ! 手配中の被疑者を立山高校付近で発見! 自転車を車道に放置して高校の敷地内に侵入しようとしている!』
「立山高校、だって?」
その瞬間、榊原たちは思わず顔を見合わせていた。刑事二人にしてみれば数ヶ月前のあの同時多発殺人事件の舞台となった忘れたくても忘れられない場所で、榊原からすればそれに加えて瑞穂がいるはずの学校である。
「何か嫌な予感がしてきたな……」
榊原は思わずそう呟いていたのだった……。
村里は立山高校の敷地に侵入すると、改築中の部室棟の横を抜けて校舎へと向かっていた。勢いでここまで来てしまったが、はっきり言ってノープランもいいところである。とにかく、ここまで来たら人質でも取るか、校内に立てこもるしかない。
「ええい、くそったれが!」
村里はそう叫ぶと、鉄パイプを握りしめて手近にあった裏口と思しきドアから建物の中に侵入し、一番近くにあった教室と思しきドアを思いっきり開けて中に飛び込んだ。そこは授業中の教室で、一斉にこちらを向く生徒たちの視線を受けながら村里は大声で怒鳴る。
「おい、死にたくなかったら動くんじゃねぇ!」
我ながらドスの利いた声だった。悲鳴の一つでも上がるかと思っていたのだが、しかし生徒たちの反応は予想外のものだった。
「おー、もう来たよ! 一時間目からなんて思っていたより早いなぁ」
「確かに、先生の言っていたように本格的ね。すっごいリアリティ」
「すげぇな、写真でも撮っとこ」
まるで自分が来るのを待っていたかのような反応に、村里は思わず矛先が鈍った。いったいこれは何だというのだろうか。
藁にもすがる思いで授業をしていた教師の方を見たが、その教師の表情もなぜか「恐怖」ではなく「戸惑い」だった。
「あれ? 予定だと三時間目だったはずなんだが……予定が早まったのかな?」
そんなわけのわからない事を、首を傾げながら呟いている。村里は狼狽しながらも、もう後には引けないとやけくそ気味に叫んだ。
「おい、こいつが目に入らないのか! お前らおとなしく……」
と、その時だった。
「村里、動くな!」
後ろから追いかけてきた刑事たちが乱入してきた。それを見て、村里は反射的に鉄パイプを振り回す。が、狙った刑事はそれをタイミングよく避けて、じりじりと村里を追い詰めようとする。
「ち、近づくんじゃねぇ!」
村里は鉄パイプを構えながら必死に叫び、刑事たちは慎重に間合いを詰めようとする。そして生徒たちは……
「すっげー! まさかのアクションつきかよ!」
「刑事役までいるなんて本格的ね!」
「普段の避難訓練はまったくやる気がないのに、今回は凄いリアリティだ!」
「まぁ、この間の事件の後だったら、そうなるのかなぁ」
「そんなことより、いいぞ、もっとやれ!」
何とも無責任な発言のオンパレードだった。一方の教師も教師で、
「まったく、予定が早まったんならちゃんと連絡してくれないと困るじゃないか。こっちにも授業計画ってものがあるんだから……」
と、ぶつくさ言いながら生徒たちに避難を促す。
「はい、前の人から順番に避難して! 走らないように、前のドアから校庭へ向かいなさい!」
「はーい」
かくして、生徒たちは緊張とは程遠い返事をして、ぞろぞろと前の扉から出て行ったのであった……。
「え、もう来たの?」
不審者が侵入したという連絡を受けて職員室側が最初に示した反応はそのようなものだった。校長が首をひねる。
「確かに劇団の人にはどのタイミングで襲ってもいいとは言っていたが、一応、三時間目という指定はしてあったんだがな」
とはいえ、実際に避難が始まっているのは事実である。下手に訓練という情報があったために、まさか本物の殺人犯が乱入してきたとは誰も夢にも思っていなかった。
「まぁ、始まってしまったものは仕方がない。後で劇団には苦情を言っておくとして、とりあえず訓練を進めよう。考えてみれば、一時間目というのも意外性があっていい訓練になるかもしれないし」
そして、放送役の教師が放送室から全校に放送を入れる。
『えー、ただいま、校舎内に不審者が侵入したという連絡がありました! 生徒の皆さんはすぐに校庭に避難を……』
「うおー! 近づくんじゃねぇ!」
生徒たちが緊張感なく避難している横で、村里は刑事たちと死闘を繰り広げていた。鉄パイプを振り回しながら刑事たちを牽制し、何とかそのまま上の階に上がろうとする。刑事たちも緊張した表情を浮かべながら、村里を追い詰めにかかっていた。
「何でだよ! 何でこの学校の連中は、不審者を見ても全然緊張感がないんだ!」
村里の絶叫に、答える者は誰もいなかった。
「あれ、瑞穂どうしたの?」
廊下を避難しながら、さつきは隣を歩く瑞穂を見やっていた。その瑞穂はというと、なぜか少し深刻そうな顔をしている。
「うん……ちょっと気になる事があって……」
「気になる事って?」
「……これ、本当に訓練だよね?」
「いや、訓練でしょ。朝に山田先生もそう言っていたし」
「だよね。でも……さっき窓からちらっと外を見たんだけど、そこに先生がいたような気がして……」
「……先生って、あの探偵さん?」
「うん」
「確かに?」
「ちょっと見えただけだから断定はできないけど」
「……みんなに言わない方がいいよね」
「うん、言ったら絶対パニックになると思う」
そう言って、瑞穂はため息をついた。
「何か、物凄く嫌な予感がする」
「犯人は?」
「校舎内に侵入! 現在、先行隊が追い詰めています!」
校舎の入口で、新庄が斎藤にそう報告していた。傍らで榊原が苦々しげな表情をしている。
「まさか、またここに来るとは……」
「校内の避難は?」
「それが……なぜか不気味なほどすんなりと進んでいるようです。パニックも一切起こっていません」
新庄が当惑気味に言い、斎藤が考え込む。
「何だろうな。もしかして数ヶ月前の事件で生徒に耐性でもできたのか?」
「いや、あれはそんな生易しい事件じゃなかったような気がするんですが……」
「あるいは、事件を教訓に学校側が日頃から対抗策を練っていて、その成果が出ているとか」
実際はただの勘違いであってそんなに学校側が高評価されるような話ではないのだが、もちろんそんな事を榊原が知るはずもない。
「とにかく、パニックになっていないなら好都合だ。犯人を追い詰めるぞ!」
斎藤の言葉に新庄が頷き、榊原は黙って校舎を見やっていたのだった。
「え、本物?」
職員室で、校長は駆け込んできた刑事たちから事情を聴いてキョトンとしていた。
「そうです! あいつはこの近くで殺人を起こした殺人犯なんです」
「……訓練じゃないんですか? あなたたち、劇団の人じゃ……」
「どこの世界に本物の鉄パイプを持ってやる訓練があるんですか! それに、我々は本物です!」
そう言いながら刑事たちは警察手帳を突き付け、それで校長も事情を把握したようだった。
「た、大変だ……」
「生徒たちはこれを避難訓練だと思っているんですね?」
「は、はい。ど、どうしましょうか……」
「……下手に本当のことを言うとかえってパニックになります。ひとまず、全員が避難するまではこのまま押し切りましょう。あなた方も早く避難を」
「わ、わかりました」
教師たちが慌てて部屋を飛び出していく。と、ここで無線連絡が入った。
『先行隊より連絡! 犯人は屋上へ向かっている! 繰り返す、犯人は屋上へ……』
「行こう!」
刑事たちは職員室を飛び出していった。
「で、こうして避難したわけだけど……」
校庭で整列しながら、さつきは隣の瑞穂に話しかけていた。どうやら全校生徒がつつがなく避難できたようである。
「結局、これって訓練なの、それとも本物なの?」
「さぁ……」
瑞穂も自信なさげに首をかしげていた。だが、なぜか教師たちの動きが少し慌ただしくなったような気がするし、集合してからも一向に校長の挨拶がない。何より校門のところに堂々とパトカーが停車しているのが見える。嫌な予感はますますひどくなっていた。
さすがにこの状況に生徒たちの間からも不審げな声が出始めていた。何といっても六月にあんな事件が起こったばかりなのである。訓練だからこそそこまで緊張感はなかったわけだが、何かがおかしいと敏感に感じている人間も少なからずいるようだった。
「まぁ、避難したからには六月みたいな事にはならないと思うけど……」
瑞穂が控えめにそう言った時だった。
「おい、あれ!」
不意に誰かが屋上を指さした。見ると、屋上のドアを潜り抜けて、鉄パイプを持った男が屋上へ飛び出してきたところだった。その後から、スーツ姿の男たちも続き、そして瑞穂はその中に見過ごせない面々の顔を見た。
「あ……」
「ど、どうしたの?」
「えっと……あそこにいるの、斎藤警部と新庄警部補みたいなんだけど……」
「……それって、この間の事件を担当していた刑事さんの名前だったよね」
さつきが恐る恐る言う。ちなみに、彼女は六月の事件の際に彼ら二人にも会っていた。
「うん。そして、あの二人は避難訓練に付き合うほど暇じゃないと思う」
「って事は……これ、本物かぁ」
さつきが周囲に聞こえないように呟いて頭を抱える。と、その間にも事件は急転していた。
「く、来るなぁ!」
もはや逃げられないと悟った男……村里は、当然屋上のフェンスに駆け寄ると、そのまま身を乗り出そうとした。どうやら、自殺を図るつもりらしい。後ろにいる刑事たちに緊張が走る。
「早まるな! そんな事をしても何の意味もない!」
「うるさい! どうせ俺はもう終わりだ!」
と、そこで屋上にさらに一人の男が姿を見せた。
「ならば最後に一つ、教えてもらいたい事があります」
そこにいたのは、もはや説明不要の私立探偵……
「先生ぇ……」
瑞穂はガクリという風にうなだれた。正直、こんなところで出て来られてもという思いである。なお、榊原の顔は瑞穂やさつきと言った六月の事件の数少ない関係者しか知らないので、ほとんどの生徒は単に刑事の一人が喋っているとしか思っていないようである。
「な、何だよ!」
「私はあなたの仕込んだトリックを暴きました。ですが、最後に一つ、動機だけがわかりません。あなたが社長を殺した動機は一体何なんですか?」
その発言に、瑞穂はさらに脱力しそうになる。
「っていうか、先生が解決した事件の犯人だったんだ……」
「瑞穂、あんたの先生って、もしかして疫病神かなんかなの?」
「いやぁ、そんなはずはないと思うんだけどなぁ。少なくとも関与する事件はほとんど依頼が主体で、行く先々で事件が起こるなんて事はあんまりなかったはずなんだけど……」
と言いながら、正直あまり自信はない。まぁ、この辺は探偵としてのお約束なのだろう。それはともかく、その間にも村里はチラリと校庭の生徒たちを見た上で、覚悟を決めたように告げた。
「そうだな……死ぬ前に俺の動機をここで話しておくのも一興かもしれないな」
「前置きは結構。それで、動機は?」
榊原の言葉に、村里は独白した。
「あの会社、実は大分前から赤字だったんだが、社長の指示で粉飾決算をしていたんだ。けど、最近になってそれが銀行にばれかけて、そしたら社長が俺に全部の罪を押し付けようとしやがったから……俺は社長の指示でやっただけなのに!」
「だから、全てを押し付けられる前に殺したと?」
「そうするしかないじゃねぇか! 俺のせいじゃねぇんだ! そう思うだろう!」
そう言って村里は校庭の生徒たちに呼びかけた。それに対する生徒たちの反応は……
「え、そんな理由?」
「何て言うか……しょぼいよね」
「うん。こう言っちゃなんだけど、六月の事件のあいつに比べたら……」
「あの事件を受けての訓練だって聞いたのに、このシチュエーションはどうなんだよ」
「こっちの身にもなってくれよ」
予想以上に散々だった。これには村里も肩透かしである。
「な、お前ら何を言って……」
「あー……なるほど」
榊原は何か納得したかのように頷くのが瑞穂の耳にも聞こえた。あれから榊原に弟子入りして他の事件にも関与した瑞穂はともかく、他の生徒からしてみれば六月の事件のインパクトが相当強かっただけに、もっと大層な動機かと思ったら意外に普通の動機で肩透かしを食らった形という事なのだろう。もちろん、そんな事情を親切に説明するつもりは榊原にもないようであり、犯人自身予想外の反応に動揺しているようだった。
「で、どうしますか? この状況で飛び降りたら、はっきり言って間抜け以外の何物でもないと思いますが?」
「だ、黙れ! 俺を憐みの目で見るんじゃない!」
村里はそう叫び、一瞬視線が下へとそれる。それを見逃す刑事たちではなかった。
「確保だ!」
斎藤が叫んだ瞬間、その一瞬の隙を見過ごさずに刑事たちが飛びかかり、鉄パイプを奪い取って村里と屋上の床に押し付けて拘束する。
「畜生、離せよ!」
「離すわけがないだろう! 午前十時八分、被疑者確保!」
新庄がそう叫びながら村里の手に手錠をかけ、そのまま連行していく。斎藤や榊原たちも後に続き、屋上には誰もいなくなって静けさが戻った。そして、それを確認すると同時に今までどこにいたのか校長が生徒たちの正面に現れ、ざわめく生徒たちの前でこう宣言したのである。
「えー、以上で本日の避難訓練を終了します! 皆さんは、教室に戻って授業を再開してください!」
……かくして、立山高校は何事もなかったかのように日常へ戻っていき、これが訓練ではなく実際の事件だったと知る瑞穂ら少数の生徒を除いて、大半の生徒の頭からは村里の事など三十分も経たずに忘れ去られてしまったのだった……。
ちなみにその翌日。テレビのニュースでは昨日の事件の事が報じられていた。
『品川区のリフォーム会社の社長が殺害された事件で、警視庁は同社社員の村里大樹容疑者を逮捕しました。村里容疑者は犯行後に警察から逃走して都立立山高校の校舎内に侵入しましたが、幸い生徒の避難はスムーズに進み、学校側に被害はないとの事です。立山高校の校長は避難がスムーズに進んだ事に対し「六月の事件以降進めてきた非常時の対策がうまく機能したと自負している。今後も訓練などを積極的に行っていきたい」とコメントしており、今後は不審者の侵入事案に対するモデルケースとして教育委員会も……』
そのニュースを品川の榊原探偵事務所でぼんやりと眺めている瑞穂の横で、榊原は心底どうでもいいような口調で尋ねた。
「犯人を逃がしてしまった私が言うのも何だが……何というか、君の学校の校長は随分世渡りがうまい人のようだね」
「言わないでください……。正直、かなり恥ずかしいです」
次に避難訓練をする際は、ちゃんと真面目にやるからぜひとも地震か火事の設定でやってほしいと、瑞穂は心の底からそう願ったのだった……。




