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第十一話 「因縁の対決」

『至急、至急! 警視総監から直々の指令あり。SATに対して出動命令。至急現場に急行し、所定の任務に当たれ!』

 警視庁内に緊急放送が入り、黒い重装備に身を包んだ男たちが所定の場所に集合していく。SAT隊長・高橋正義警部は緊張した面持ちで彼らの集合を待っていた。

 SATは一九九五年の函館ハイジャック事件で初めて国民にその姿を見せた、警視庁の誇る最強の特殊部隊である。その内情は一般には極秘事項とされ、隊員は自分がSATメンバーである事さえ周囲に話してはならないとされる。このため、家族でさえ彼らが何をしているのかは知らないのだ。ただ、想像を絶する過酷な訓練をしているのは間違いない。

 そんな精強なSAT部隊に、今まさに警視総監直々の命が下ったのだ。その命令は、高橋率いるSATにとってはある意味因縁ともいえる命令だった。

「よく聞け! つい、今しがた警視総監から命が下った。あいつらから、またしても声明が届いたとの事だ」

 その言葉に、隊員たちの顔も緊張する。

「我々の目的は、長年警察に歯向かい続けているあいつらを今度こそ徹底的に叩き潰す事だ。普段の訓練を思い出せ! 俺たちには敗北は許されない! 我々の敗北は、すなわち警察の敗北なのだ!」

「はっ!」

「行くぞぉ!」

 高橋の言葉に、隊員たちは覚悟を決めた表情で車に乗り込んでいく。車はすぐに動き出し、密かに現場に到着する。

「いいな。ここを出たらもうそこは戦場だ。一切気を抜くな!」

「了解」

「よし……では作戦開始だ!」

 その言葉が発せられた瞬間、警視庁が誇る最強部隊が、現場向かって飛び出していく。そして……


「ホームラン!」

 アンパイアの言葉に、マウンド上のSAT隊員はがくりと膝をついてうつむいた。他のSAT隊員たちも絶望的な表情で天高く舞い上がったボールの行方を見ている。そんなSAT隊員たちを尻目に、ベース上をユニホーム姿の女の子が駆けていった。見ると、反対側のベンチには中学生くらいの女子生徒しかいない。

 と、その相手側のベンチからキャプテンらしい女の子が出てきて、茫然としている高橋に話しかけた。

「あの、もうやめますか? 一応、もうとっくの昔にコールドになっていますし」

「うるさい! まだ諦めてたまるか!」

「いや、でもさすがに68-0じゃ、どうしようもないでしょう」

 そういってキャプテンが見やる先には『警視庁草野球交流大会』の文字の下に、警視庁側が圧倒的なスコアで負け続けている得点板があった。その得点板の近くの観客席で、私立探偵の榊原恵一とその自称助手の深町瑞穂がぼんやりと試合を見つめていた。

「瑞穂ちゃん、何で私はこんなところにいるのかね?」

「私の中学の後輩が参加している女子野球部の草野球大会を見せるために、私が強引に誘ったからです」

「だが、正直こんな情けない試合は見ても楽しくないぞ」

「いやぁ、これって毎年警視庁が民間との交流のためにやっている大会なんですけど、最初の年からなぜか一度も警視庁側は勝った事がなくて。業を煮やしたのか去年からSATまで投入してきたんですけど、去年は史上最悪の187-0のスコアで敗北しまして……」

「女子中学生のチームに負けるSATってどうなんだ?」

「で、榊原さんから見て感想はありますか?」

 榊原は少し考えただけで、あっさり言った。

「まぁ、とりあえずSATはあの重そうな装備を外してプレイするべきだと思うがね。あれは野球をする格好じゃないだろう……」

 榊原の見守る中、重装備で身を固めたSAT隊員たちは、「なぜ勝てないんだぁ!」と叫びながらプレイを続行していた。


 日本は、今日も平和だった。


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