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書き散らしの紙片

たからげ

作者: 秋沢文穂

 毎朝、福浦ふくうらいたるは顔を洗いながら右耳から垂れ下がっている一本の白い毛を確認する。その毛がまっすぐであれば快晴、うねっていれば雨と窓の外を見なくとも天気がわかってしまうほど慣れ親しんでいた。

 白い毛の状態を確認した後は最善の注意を払い、一晩で濃くなったヒゲにをあてる。うっかり切らぬよう鏡を凝視しながら、ヒゲそりを行う。

 朝一番に緊張をする瞬間。彼のかみそりを持つ手に力がこもる。いや、力をこめ過ぎてはいけない。力み過ぎてはかえって、間違えてそり落としてしまう可能性がある。



 達は高校生の頃まで、父方の叔母が経営する美容室にカットしに行っていた。

 しかしおしゃれ心のついた中学二年生の秋、一度だけ隣り街にある評判の高い美容院へ赴いたことがあった。その代償は、大きく大切な毛をばっさりと切られてしまった。たかが毛一本、されど毛一本。彼にとって大切に慈しみ育んできたその損失は、心に風穴が開いたようにすかすかになり寂しかった。

 それからというもの大学生になって上京するまで、髪を切るときは叔母の美容室へ行くようになった。

 大切な白毛を発見したのはもちろん叔母で、達五歳の頃だった。



 リズムカルにハサミを動かしている叔母が、突然「あらっ!」と声を上げた。

 午後の日差しに包まれた美容室は、少々退屈していた達の眠りを妨げ、びくりと体をふるわせた。

「たっちゃん、ここを見て。白い毛が生えている」

 叔母の声は五階建てのマンションを飛び越えるほど弾んでいた。彼が鏡に目をやると、右耳から十五センチほどの白い毛が垂れ下がっている。目をぱちくりさせながら、鏡越しに写る叔母を見つめた。

「この毛は宝毛と言ってね。大切にしてると、いいことがあるわよ」

 にこやかにそう話す叔母の顔に、彼はきょとんとしていた。そして叔母は再びハサミを動かしながら、「確かひいおじいちゃんにあったから、隔世遺伝かしらねえ」と呟いた。

 五歳の彼にとって「かくせいいぜん」という言葉はわからなかったが、「たからげ」という言葉は胸のうちに響いた。さらに叔母さんは「いいことがあるわよ」と言っており、なるほどと思う。その「たからげ」という名前の響きからして、夜空に浮かぶ星のように燦然さんぜんとしてきらめいていた。

 その時から達は、この「たからげ」を一生大切にしていこうと心に誓った。



 しかし、危機は常にあった。達の大切な「たからげ」は好奇の目にさらされ、触ろうとする者、引っこ抜こうとする者が必ず現われた。特に罪の意識が薄い人間ほど厄介な者はいない。

 小学生の頃、インフルエンザで学級閉鎖明けの登校日のことだった。あらかじめ予防接種を受けていた達は、インフルエンザにかかることなく閉鎖中も元気に過ごしていた。

 そんな彼のもとに恨めしげな目をしたマスクをした男子児童がやってきた。

「おい、福浦。どうしてお前だけ何ともないんだよ」

 至近距離に迫ったその顔は、RPGばりのモンスター級の恐ろしさである。

 だが達は勇気を振り絞り、「予防接種したから」と言葉すくなに答えた。

 マスク少年は顎でしゃくると、「おい、みんな」と呼びかけるやいなや、たちまち達の体は拘束をされ焦る。さらに男子児童は、「この毛に秘密があるのだろう」と、こともあろうか大切にしている宝毛をぶちっと引っこ抜いてしまった。

 その瞬間、達は「は、は、はくしょん!」と盛大なくしゃみを立て続けに繰り返し止まらなくなってしまった。くしゃみは十連発ぐらいだったろうか。ようやく止まったと思ったら、今度は鼻の栓が緩くなり水がしたたり落ちる。

 その様子を見ていたマスク少年は机にばんと宝毛を置き、「お、俺のせいじゃないからな!」とひどく慌てて自分の席へと逃げてしまった。被害者の達は焦げ茶色の平面に白い細線をぼうっと見つめ、よく伸びたものだと感心しながら意識が白いベールに包まれてしまった。



 達が目を開けると、自室のベッドの中にいた。幸いインフルエンザではなく、風邪だった。三十九度の高熱で、そのまま倒れてしまったらしい。そして学校から母親のパート先に連絡を入れたらしかった。

 宝毛を抜いたクラスメイトたちは謝罪しにやってきて、お見舞いとしてプリンをひとつ置いていった。スーパーの特売日によく売られている三連プリンのひとつだったが、熱のこもった口腔内では有効だった。そのプリンをありがたく頂戴しながら、これからは宝毛を人目にさらすのは止めようと考えた。



 熱が下がり登校すると、みんな驚いた顔をして達ことを見た。なぜならどんなに寒くても手袋やマフラーをして登校したことのない彼の耳に暖かそうなイヤーウォームがはめてあったからだ。おかしなことに一日中外すことなく授業を受けていた。

 寒い冬が終わり、温かな春がやってくると、達はヘッドホーンをするようになった。ヘッドホーンは耳にはめこむタイプではなく、クラブDJが使用するような耳をすっぽりおおうタイプのものだ。

 そんな奇抜な格好をして登校する達は、当然先生や上級生に目をつけられ、何かと説教をされたり、因縁をつけられたりした。しかし彼はひるむことなく先生に認めてもらおうと、必死に勉強をがんばり学年トップになり、ねじ伏せることに成功した。 また因縁をつけてきた上級生はズボンのポケットにゴム製のヘビを仕込んで投げつけた。最初の頃は効果てきめんだったが、次第に慣れて驚かなくなってしまった。今度は本物のヘビに切り替えてみると、面白いように一目散に逃げて行った。



 ところがその代償は大きかった。達は小学校を卒業し、中学生となり女のこの子とが気になる年頃に突入した。耳には相変わらず春夏秋はヘッドホーン、冬はイヤーウォーマーと奇抜な格好に加え、時々ポケットに仕込んでおいたヘビが顔を出し長い舌をにょろにょろさせる。そのいでたちからして、女の子たちを不気味がらせるには充分なほどだった。その挙句、彼女たちは達と隣同士はおろか同じグループになることを極端に恐れた。だから彼はクラスの人数が奇数の時は一人、女子より男子の方が多い時は男同士の相席になり、それが縁で垣内かきうち宏文ひろふみという親友ができた。



 ある夏の朝。見るからに暑苦しい顔をした垣内が達に話しかけてきた。

「うぃーっす! なあ、お前さぁ。いつもヘッドホーンしていて暑くねえの?」

 口調こそは軽薄に聞こえるが、眼差しは達のことを思いやっているようだった。確かに垣内の指摘どおり暑いし蒸れてあせもができている。しかも耳回りだけでなく、頭髪に合間にもできていた。

「まあ、そのとおりだけど……」

 相手を牽制するように控え目に答えると、垣内の目がしめたとばかりに輝く。

「じゃあ、そんなもん外せよ」

「嫌だね。外したら、俺は死んじゃうよ」

 クラスメイトたちに聞こえぬよう小声で答えるのがやっとだった。ところが達の心境など知らぬ垣内は驚いた顔をして、

「そんな大げさな!」

 大きな声を出し、教室にいるもの皆が一斉にこちらを向く。

「そんなこと言わずに外せよ」

 ひょいと軽く手を伸ばし、達の大切なヘッドホーンを外してしまった。あまりにも秒速だったため、達が押さえようとする前に耳からは外気がすうっと流れてくる。

 耳からは白い毛が垂れ下がり、恥ずかしさを押さえこむには遅過ぎた。垣内とその背後にいた女子たちは放心した顔で、真夏の太陽よりも熱い視線を彼の耳に送っている。



「な、なにすんだよ!」

 イスから立ち上がって抗議すると、垣内の表情がたちまちゆるんだ。

「すげえ! 生まれて初めて見たよ。こんなに立派な宝毛」

 感動と感心の混ざったような物言いをしながら、達の意に反してあっさりとヘッドホーンを返却してくれた。

「誉めてくれたありがとう。でも、これは他人に見せちゃいけないんだ」

「なんで? 隠すなんてもったいないじゃん。俺だったら毎日拝む」

 そう言って、おどけて達に手を合わせる。この軽い態度に憤りを覚えた達は、ぐいと垣内の胸倉をつかんだ。

「お前には、俺の苦労なんてわからないんだよ!」

 全身をわななかせ、鋭い眼光を向けられた垣内は驚き冷や汗が流れ出す。そして、こんなに必死になっている彼を思い、脅えながらも申し訳なさそうに訴えた。

「すす、すまない。くくくっラスの注目の的になってる……」

 垣内をつかむ手を緩めながら周囲を見渡すと、ぽかーんとした顔をしてこちらを見つめている。気不味さを覚えた達は下を向きながら、

「手荒な真似をしてすまなかった」と素直に謝罪をした。

 達の謝罪を聞いた垣内はさらに申し訳なさそうな表情をして、「俺こそ悪かった」と低い声で再度謝ってくれた。



 その日、達は休憩時間ごとに「たからげ」を発見した叔母の話や、小学校の頃の話をしてあげた。特に小学生の頃、宝毛を抜かれた話は垣内も「そいつはひどい」とかなりご立腹であった。

 こうして二人は腹のうちを分かち合い、無二の親友となった。そればかりか垣内は達の宝毛に触れようする者すべてを排除してくれた。おかげで達はヘッドホーンを安心して外すことができ、真夏になると表われるあせもがなくなっていった。

 しかしこの垣内という男。顔の象形はばらばらで笑っている赤ん坊でさえ、恐怖を感じて泣き出してしまうほどの醜い男だった。耳から白い毛を垂らしている達と、この垣内が並ぶと不気味さに拍車がかかり、女の子たちは後ずさりして教室やトイレに逃げ込んでしまうほど不評な二人組だった。

 こうして腹心の友を得た達は楽しい中学生活を終え、垣内と同じ高校へ進学することになり、当然二人の仲は継続するものだと思われた。



 高校生活は不思議とひとつの行事を終えるごとにカップルが一組二組と誕生していく。ムサイ二人にとってそんな色恋沙汰とは無縁の生活を送っていたが、思春期真っ盛りの男子であることには変わりない。お互いに話題にせずともほのかに思いを寄せる女の子が達にはいた。その女子とは事あるごとに二人にやかましく突っかかり、面倒見のよい姉さん女房的な存在だった。口やかましい存在であるにも関わらず達は妙に気になって仕方ない。これが果して恋なのかはよくわからないが、ある晩夢に現れるようになってますます気になっていった。夢の中の彼女は素直で愛らしく達だけに笑ってみせた。

 そんな些細なことがきっかけとなり、毎日顔を合わせる度に胸の高鳴りが止まらない。彼女が小言を言い終わり離れて行くたびに、ぼけっとした顔で聞いていやしないかと不安を覚えるのだった。



 そして春めいた気持ちを無理やりねじ込み高校三年の夏休み。大学進学のため補習に通うなか事件は起こった。少し早めに学校に到着した達が教室を覗くと、その例の彼女が着席して誰かと話をしているようだった。

「あのさ、S大希望してるの?」

「うん。だから大学へ行ったら一人暮し」

「俺もさ、S大志望なんだ。いっそうのこと、ルームシェアしねえ?」

「あ、いいね」

 その後にけらけらと笑う彼女の明るい声。

 達はどきどきしながら彼女の見上げている視線の先に移すと、無二の親友垣内宏文が前に机に尻をつけてキモさ倍増の笑みをこぼしていた。その奴の目付きときたら……。彼女をからめ取り素っ裸にしたようないやらしさである。また彼女もそんな垣内の視線に慣れているようで、まんざらではないような様子だった。二人のただならぬ関係を悟った達は、そのまま静かに辞去してその日の補習をさぼってしまった。



 行くあてのない達は街中をぶらつき、気付いたときにはゲーセンにいた。昼飯代ぐらいは所持していたが、到底ゲームなどする気になれない。他人が必死になって格闘ゲームをしているのを横目で眺めながら、自分という存在を情けなく感じた。

 どうして今まであの二人が付き合っていたことに気付かなかったのだろう。

 どうして彼女はあんなにキモイ奴と付き合っているのだろう。

 どちらから、先に告白をして付き合うようになったんだろう。

 達の頭のなかは疑問が次々と襲いかかり、身動きの取れない状態になってしまった。その一方で、あんなに口やかましい女はブ男で充分だ。あの女の容姿をよく見ろよ。胸だってぺちゃんこだし、鍋みたいにずん胴だし、足だって大根みたいに太いじゃないか。おまけに顔だって、不細工じゃねえか。


 今まで作り上げてきた彼女のイメージを壊す作業をしてみたが、達の心は空虚になってしまった。



 それから四年の歳月が流れた。達は中堅の大学に通い、四回生となっていた。

 高校三年の夏の失恋から女の子の尻を追わずに、勉強ひと筋に励んできたおかげで、比較的早い時期から内定をもらっていた。あとは残りの大学生活をのんびりと消化するだけになっていた。



 そんなある日のこと。いつものように一人で昼ご飯を取っていると、背後から小鳥がさえずるように賑やかな女の子たちの声が聞こえてきた。

「ねえねえ、あの人だよね? うちの大学のご本尊」

「あ! 本当だ。噂どうり耳毛が出てる!」

 指をさされたような気がした。新入生が自分のことを物珍しそうに見て指をさすのは、毎度のことでもう慣れてしまった。ご本尊扱いをしてくれるおかげで、大切な「たからげ」を引っこ抜こうなどとする者はおらず、平穏無事にキャンパスライフを送ることができている。

 ところが今回ばかりはそうはいかなかった。

「あのう」とか細い声がし振り向くと、体中にふんわりとしたオーラに包まれた女の子が真剣な眼差しでこちらを見つめていた。

「この毛は、どこから生えているんですか」

「どこって、言われても……」

 突拍子のない質問に達は、たじろぎ言葉を失った。



愛奈あいな、よしなよ」、「この人の迷惑になるでしょ」と友人たちが止めるのも聞かずに、この愛奈と呼ばれる少女は大胆にも宝毛の生えている右側の席を陣取った。

「あたし、決めた! 今日からこの毛の観察をするの!」

 そう堂々と宣言し、思わず達は物の言い方に苦笑をしてしまう。と同時に垣内も変わった奴だったが、この子も相当おかしいぞと警戒心を強めた。

「その人が落ち着いて、ご飯を食べられないでしょ?」

 今まで黙っていた友人が呆れて口を挟んできたが、達は自分と関わりたくないのだと悟った。

「えー、邪魔なんてしないもん。それに観察は新しい発見につながるって、さっき教授が言っていたじゃないの」

 目をぱちくりさせる女の子に、達ばかりでなく友人たちは茫然としてしまう。

 すっぽんのように離れる気などさらさらないと感じ、慌てて残っているご飯をかきこんだ。



「げほっ!」

 早食い作戦は失敗に終わり、激しく咳き込んでしまう。

 すると観察女子は「大丈夫ですか」と声をかけながら、優しく達の背中をさすってくれた。さすられた箇所がほんのりと温かくなっていき、花のような匂いに包まれる。肉親以外の女性に、触れられたのは何年ぶりだろうと考えてしまう。

「ありがとう。大丈夫」

 緊張のため上手く言葉にできていないような気がしたが、彼女はそんなことにお構いなくにっこりとほほ笑んだ。

 なんて、柔らかい笑顔なんだ!

 高校生の頃に好きになった女の子よりも、ずっと感じのいい子だと思った。

 瞬く間に達の脳内は夢想に落ちていく。このまま自分の彼女になってくれないだろうか。いやこんなに感じのよい子なら彼氏がいるかもしれないぞ。

 希望と絶望の波間に揺られながら、達は愛奈と肩を並べてお昼ご飯を一緒に食べるようになっていった。



 それからというもの愛奈は達の右側の席を陣取り、丹念に宝毛を観察した。

 毛先がストレートの日は快晴、うねっている日は雨と、達にとってあたり前の光景は愛奈の目を通し光り輝いていった。やがて宝毛に関する彼の忌まわしい過去を語るようになり、お互いの生い立ちや趣味、将来のことを語り合える仲に発展していった。

 愛奈のフルネームは片桐かたぎり愛奈と言い、両親と二人の兄と一緒に暮らしており、実家から大学へ通っていた。そして高校生の頃、好きな先輩はいたが告白することなく片思いに終わり、現在はフリーだと言う。達が質問をするまでもなく本人が話してくれた。

 また彼女は大切な宝毛のナイトとなり、手を伸ばして触ろうとする者から遠ざけ、わざとらしく話題を宝毛の話をする者にはおどけてみせた。愛奈は達にとって垣内よりも良き理解者になってくれた。



 そして現在。達は愛奈と結婚をし、榛乃はるのというかわいらしい女の赤ちゃんを授かった。

 シェイビングを終えた達がリビングに戻ると、榛乃の泣き声が聞こえてきた。

「あ! 達さん、はるちゃんのおしめを換えてあげて」

 キッチンから妻愛奈の声がした。どうやら朝食の準備をしているらしく、手を離せないらしい。

「うん、わかった」

 にこやかに返し、泣き叫んでいるわが子のもとへ行く。すると榛乃は顔を真っ赤にして、全身で不快感を表現しているようだった。

 早速、達は紙おむつを引っ張り出し、泣きじゃくっている榛乃の前に鎮座すると、「はるちゃん、おむつ換えようね」とまるで母親のような口ぶりで声をかけてあげた。



 達の父親は、まったく育児には無関心で母親任せだった。そんな父を反面教師とし、彼は積極的に育児に参加をしている。榛乃が誕生する瞬間もきちんと立ち会い、生まれてからも会社から真っ直ぐ家に帰り娘の顔を一分一秒でも長く拝むようにしている。もちろん、病院で行われた父親のための育児講習会にもきちんと参加をして、おむつの替え方を始め、ミルクの飲ませ方、入浴のさせ方まで頭に叩き込んだ。



 達は泣きじゃくりながら手足をばたつかせているわが子のおむつをそつなく交換してあげると、耳の奥でぶちっと鈍い音がした。嫌な予感がした彼は、なにも映っていない黒いテレビ画面を見つめる。

 なにかが足りない。慌てて視線を娘に落とすと、手にはきらきら銀色に光る一本の細い線を持っていた。

 おむつを交換してもらい気持ちいいのか、それともパパの分身ともいえる「たからげ」を気に入ったのかはわからない。たいそうご機嫌に笑っている。

 そのうれしそうな娘の顔を見た達は、怒る気持ちなんかどこかへ飛んで行ってしまった。

 ――まあ、いいか。俺には、たからげなんぞよりも大切なものがある。

 彼にとっての宝物は、毛よりももっと深く愛情を注ぎ込めるものとなっていた。


(了)

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