零の月 -終わりは始まり-
ある日、とある国でソレは起こった。
さらなる発展のため。
さらなる利益のため。
大義名分を振りかざし自らの欲に従って
禁忌の魔法を使ってしまった。
先代の王家により秘匿とされた禁忌の魔法。
決して開けてはならないパンドラの箱。
愚かな彼らは災厄に触れてしまった。
その先にあるのが絶望と知らずに。
哀しい悲劇の舞台には憐れな妹と愚かな兄、そして二人を見守る二人の守護者。
憐れな妹はある日突然堕とされた。
愚かな兄は憐れな妹だけを救おうとした。
愚かな兄は堕とされた妹を追って共に堕ちることを決め、二人の守護者は共に生き続けることを誓った。
彼らの終わりにして始まりの物語。
憐れな妹を汚したある国の終焉の記憶。
災厄と守護者は災厄を救うために
災厄の気配がある部屋の扉を開けた。
今までの部屋とはあまりにも違う、そう、異質な部屋だった。
壁も床も天井も全てが真白い部屋の中に、ただ一つだけソレは存在していた。
禍々しいまでに神聖なソレ
隣から発せられるのは災厄の力。
言葉にできない程の怒りは別のナニカに変わる。
抗うことすら烏滸がましく、畏怖すら感じる圧力。
禍々しくあまりに純粋な力の渦は、たちまち部屋を埋め尽くそうとする。
部屋に唯一存在するソレは
罪を懺悔する証
罪を贖うために神の子が行いし贖罪の証
まるで神話のように
まるで悲劇のように
まるで道化のように
神々しく憐れで滑稽なソレ
捧げられた莉音は神への犠牲か
はたまた神の全てを見届ける者か
「認めない」
全ての感情を押し殺した声で災厄は呪う。
「こんな運命認めない」
世界を呪うように
神を呪うように
言の葉を紡いでいく災厄。
その姿は何処までも崇高で尊く美しい。
災厄の最愛を汚した
その国は
災厄により罰を受けた
その日
世界は鳴いた
弔鐘の響く中で