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混沌なる迷宮の王  作者: しいなみずき
Fランク迷宮
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迷宮レベル7 難易度上昇

「時計はないが、体感から……かなりの時間寝ていたみたいだな」


 目が覚め、辺りを見回すと同時に男はそう呟いた。その後僅かに目を閉じ――


「フィラデルフィア」


 ――と、一言。


「そう、フィラデルフィアだ。これを私の名にしよう」


 フィラデルフィアとは、男の居た世界に存在するアメリカ合衆国ペンシルベニア州南東部にある都市の名前だ。

 フィラデルフィアは、この世界に来る前の男の唯一訪れた海外であり、偶々その名前を覚えていたのだ。


「うむ。やはり名前があるのはいいな。略してフィルだ。

とはいっても使う相手がいるのかだが……そこはまあ、置いておくか」


 男――フィルは問題の先送りをすることで、無理矢理納得するとそこで再度目を閉じた。


「さて、問題は今ある魔力だ。これをどう使うかなのだが……」


 フィルは悩む。まずフィルは、今回得た魔力の運用をいくつかの選択肢に絞った。


 一つ目は第二階層の守護区域を製作したあと残りの魔力でゴブリンまたはブラッドウルフなど弱いが大量に生み出せる魔物の階位を上げ生み出すこと。


 二つ目は守護区域を製作するところまでは同じだが、生み出す魔物はバランスよく大量に生産すること。


 三つ目は魔物のランクを一通り上げたあとバランスよく生み出し罠や財宝を製作すること。


 取り敢えず他にも案はあったがこの三つに絞ってみた。三つ目の案にある財宝だが、この迷宮の魔力量は現在でも少なく恐らくだが見つかってはいない。そのため侵入者から見れば(・・・)この迷宮は生まれたての迷宮に見えるだろう。そして生まれたての迷宮の価値は非常に高いため財宝がなくとも彼らはこの迷宮を見つければ自ら喜んで来るだろう。

だがあまり建設的な策ではない。最初の内は良いだろうが時間が経つにつれて噂は広まり警戒されるだろう。そして最悪この特異性から上位の冒険者が来るかもしれない。

それではダメなのだ。目指すのは冒険者が命を簡単に賭けられるほど価値のある、それでいて難関で最深部までは辿り着けない、いや、たどり着かなくとも利益がでると思われる迷宮だ。

 しかしこれはあくまで三つ目の策の利点だ。この意見は建設的だがある意味では無駄が多い。財宝とはそもそも見つかる可能性があるとも限らないし、見つかってもその者が死なずにか帰れるとも限らない。それに生まれたての迷宮という美味しい餌があるのにわざわざに不審思われる可能性のある財宝を置くのも、という欠点もある。

 ならば財宝に使用する魔力を代わりに魔物の階位を上げるか、或いは生産に使うか。悪くはない。そうすることで生まれたての迷宮だということに不審を抱きにくくなるだろう。これはオーガなどに当たれば恐らく怪しまれるが、FランクかソロのEランクならまず生き残れる可能性は低いだろう。だがこれは

低いだけであり、もしも生き残ったり、Eランクのパーティーが来ればその時点でアウトだ。

 オーガの出没する生まれたての迷宮など怪しくて、Fランクの冒険者などで挑もうとする者は激減するだろう。これは一つ目と二つ目の案にも言えることだ。だが実際魔物を大量に生み出さないのも不審だ。よって最初の方はなるべく魔物は弱いもので固めることに決める。階位を一つ上げたところで気付かれる可能性は極めて低いものと思われるので上げても問題はないだろう。

 以上のことから始めのうちの方針としてはとにかく侵入者は殺すこと。

 守護区域は――冒険者の間ではボス部屋らしいが――なるべく見つからないようにする。

先程攻めてきた二人組の冒険者はここが新生迷宮だろ思い込んでいたので気付かなかった、或いはただ純粋に知らなかっただけなのかはよく分からないが本来守護区域は入る前によく観察すれば分かるようになっている。これは迷宮のクセのようなもので、階位を上げることで見つかり難くすることは可能だが完璧に偽造することは不可能なのだ。

 またそのように迷宮のクセを探ることに特化したものを世間では解除師と呼び、解除師ら偽宝箱や罠なども解除或いは回避することが出来るため非常に引く手あまたの職業だ。

 話がそれたが、出来るだけこの二つのことを守ってくことに決めた。

ただ守るのは決めたのだがまだどの選択肢にするかは已然決まってはいないのだが。


 一つ目と二つ目の案はどちらかというとバレない様にするならば最適かもしれない。ただもう一つ守護区域を創るのには魔力がかなり必要となってくる。なので三つ目と比べ融通が効かないのが難点だ。

 だがその分守りは固くなる。なにせ二つの守護区域だ。当然だろう。


 そこまで考えてフィルは口を開き――


「ここは……一番目の策、だな」


 ――そう決断する。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






 目を開けたフィルは溜め息を吐く。既に魔力を使いきったあとだ。


「あれだけあった魔力が一気にここまで減ると少し泣きたくなるな……」


 僅かに湿っぽい声を出しながらフィルはぼやく。だがこれで現在の迷宮は以前よりもずっと危険で、フィルにとっては非常に頼りがいのあるものとなった。



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