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混沌なる迷宮の王  作者: しいなみずき
Fランク迷宮
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迷宮レベル6 名を持たぬ者

 石造りの非常に簡素な作りの部屋に、漆黒のローブ纏った人物がいる。先日異世界から召喚された男だ。

 男は空中に浮かぶ鮮明な映像から目を放すと疲れた風に溜め息を吐いた。


「ふぅ……。全く、一時はどうなる事かと思ったが……なんとか勝てたようだな。」


 男はつい先程二人の冒険者――ゴードンとジェイクと呼びあっていた――がこの迷宮に侵入したところから、オーガに殺されるまでの間、目を離すことなく監視していた。

 当たり前だろう。何もする事が無い上に自分の生死が賭かっているのだ。


 因みに、男が対侵入者用に選んだ魔物とは

オーガである。しかしオーガは一匹しか選択していない。いや、一匹しか生み出せなかったのだ。それは男が『守護区域』を設けたため。当初、ゴブリンからオーガまでの魔物しか生み出せ出来ないものと思い込んでいた男だが、魔石から得た知識を探っていく内に他にも選択できるものがあると思い出した(・・・・・)

 『守護区域』とは、ある一定の魔力を使用することで上の階層から下の階層に通じる場所にのみ創ることが出来る特殊な部屋で、その部屋を創り、中に守護者となる魔物を迷宮核の魔力を使用することでその守護者の『階位』を三に上昇させるもの。

 選択する魔物は、普通に生み出すことが可能な魔物にのみ限られている。

 また『階位』とは、その魔物の格の様なもので、それが上がれば上がるほどその魔物が強くなる。

 

 尚この迷宮の魔物は現在守護区域にいる守護者――オーガ以外のランクは一だ。他の上位迷宮ではランクが三、四の魔物などざらではない。


「そう言えばあの二人の冒険者……確かゴードンとジェイクといった名前だったが……名前か。よく考えたら()は召喚されたときに名前が消えているんだったな」


 召喚――正式には召喚術式――は対象の住む世界から、この別世界に強制的に連れてくる『超越級魔法』の一つである。超越級魔法――全ての魔法の頂点に立つ魔法の階級であり、その魔法の発動には絶大な魔力とともに生命力、精神力、その魔法を使用するに耐えられる肉体などが必要となる。

 更に超越級の魔法を発動した際の反動は凄まじく、発動までは耐えられてもその反動に耐えきれず粉々に吹き飛ぶこともある非常に危険な魔法だ。

だがもしも発動、反動ともに耐えられればこれ程強力な魔法は存在しない。

 しかしその修得にも大変な時間がかかり、才が無ければ生きている内の修得は不可能である。

 以上から超越級魔法が如何に危険で尚且つ強力であるのか理解してもらえただろう。

 

 そして発動、反動ともに耐えきり、異世界人を呼び出したのがこの男である。だがそれでも、その召喚された者は反動か完全に耐えきれずに、召喚完了まであと僅かのところで消滅した。

そのため召喚対象である男は完璧には召喚されずにいくつかの何か(・・)を置いてきて召喚されてしまったのだ。

 召喚云々は男の勝手な推測にすぎないのだが、魔石から得た知識を検証した結果その推測に辿り着いたのだ。あながち外れている訳でもないだろう。

 まあ今はその事はについては大した問題ではない。分かるのはただこの男には名前が無いということ。


「なら……名前が欲しいところだな。流石に名無し(ノーネーム)では締まらない」


 といった理由で男はしばし自らの名を考えることにした。












「うむ…………。これは……なかなか難しいものがあるな。自分に名前をつけるのにここまで悩むとは思わなかった。」


 かれこれ一時間程、男は悩みに悩んでいた。その時間をもう少し別のことに使えばいいものを。


「こればっかりはな……。この世界に来てまで日本人っぽい名前にしてもあれだしな。かと言ってそれ以外の名前は思い浮かばない……。まあ仕方ない、これは保留だな」


 一旦名前を考えるのを止め男は目を閉じた。


「完全に忘れていたが、取り敢えずどの程度魔力が貯まったか見てみないとな」







◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇







「――素晴らしい。最初と比べれば魔力が相当増えている。まあ……あそこまで苦戦して以前より少なかったら涙ものだがな」


 男の声は若干弾んでいる。

 胸に一抹の不安を覚えながらも、魔力量を確認したところ、当初の五倍は増えていた。

 男の迷宮のランク的に決して少なくはない魔力量だ。


「恐らく、あのジェイクとかいう魔術師が大きかったんだろうな……大斧使いも魔法は使っていたがだろうな。残りは二人が所持していた魔石だろう」


 魔石が思いの外少ない魔力しかないのは魔石だから。としか言いようがない。魔石は固体として存在しているが故に迷宮とは相性が悪いのだ。

 「さて、他に確認するか」そう小さく呟き再度目を閉じる。


 迷宮核から操作出来る事は、どの魔物を生み出すか決めるだけではない。先程説明した『守護地区』を含め、およそ全ての迷宮の機能を操作可能だ。

 守護地区が創造出来るのは上層から下層に繋がる部分のみ。その他の部分にも創れることは創れるのだが、創った瞬間に迷宮が崩壊する。これは迷宮内に満ちる魔力と迷宮の構造上仕方のないことだ。


 守護地区を第一層に創るのと、第二層、第三層に創るのでは必要となる魔力が大きく異なる。

 基本、守護地区は深い層に創れば創るほど、構造的に不安定になる。そのため維持する魔力を大量に必要とするからだ。

 また、迷宮核にのみ備わる特殊な魔法がある。その魔法の名を『強化術式』。

 『強化術式』は迷宮とそれから創り出されるものにのみ有効な術式であり、対象にもよるが基本的に大量の魔力を消費する。

 しかしこれを行使されたものは階位が上がり、元々持っていた能力の強化、特殊な能力の開化、身体能力の向上等々、非常に便利な魔法だ。

 ちなみに現在の守護地区は階位がまだ一なので魔物の階位も三までにしかならない。

 例えば階位が四の魔物をそこに配置したとしても逆に弱くなるのだ。故に防衛面を考えるにしてここの強化は必須となってくる。


 次に重要なのは武器だ。武器を創る分の魔力を消費すれば指定した魔物に武器を持たせて生み出すことが出来る。

 現在武器は通常のものしか生産出来ないものの、これも『強化術式』で階位を上げることにより特殊な武器を生産出来るようになる。


 魔物を迷宮内に配置するのもいいが、やはり初期の段階の魔物では決定力に大きく欠ける。

 そこで、魔物が狩りをする上でのサポート、それ単体での決定力があるものが欲しくなってくる。

 それが罠だ。他の迷宮にも数多く設置されておりその重要性及び活用方は様々だ。

 罠自体、迷宮の構造と深くかかわっているためやはり初期段階の迷宮で設置出来るものは少ない。

 『落とし穴』、『財宝トラップ』、『モンスターハウス』の三つだけだ。

 『落とし穴』はバレやすく、例え引っ掛かっても良くて骨折程度と大して効力はない罠だが生産が容易だ。

 『財宝トラップ』は財宝を設置し近寄って来た者を爆風で吹き飛ばす。ハマれば強いタイプの罠だろう。

 『モンスターハウス』についてだが、これは他の二つの罠に比べ非常に危険だ。これは設置した部屋に入った場合、その場で魔物を大量に生み出し侵入者を排除するもの。全く気が付かずに入った者には奇襲となるため特に有効だ。

 ただしその分魔力の消費量も相当なのだが。











 確認を終えた男だが、その息づかいは荒かった。


「……少し、疲れたな。ある程度の確認は終わった。あとはここからどう強化するか、だな。まあ迷宮に(のうみそ)がいる分他の迷宮よりもアドバンテージは大きいだろう」


 男は一人そうごちると床に創ったベッドに崩れ落ちた。


「これは……召喚と、核がまだ完全には馴染んでいないせいか? まあ少し寝れば馴染もう。侵入者が来れば……分かる、だろうし……。」


 相当の疲労が溜まっていたらしく、言い終わると同時に男は眠りについた。





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