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混沌なる迷宮の王  作者: しいなみずき
サバイバル編
40/44

狂信者②

 かなり距離を飛ばされた。イガルデはようやく止まった銀色の槍を見る。イガルデが本気を出してすら、簡単には止まらないとてつもない威力を宿していた。

 恐らく男の力だけではない。これがこの魔術武装の魔法、推進力を引き上げる火系統の魔法だろう。とは言えこれからはもうほとんど魔力を感じない。単発式の魔術武装、つまり今回の戦闘ではもうこの武器は役に立つ事はない。そう判断したイガルデは、それでも念のために槍を反対方向に遠投する。


「それよりも、早く皆を助けなくてはな」


 流石にあの数の敵を相手にするのはあの三人とて危険はある。故に三人より四人。そう思ったイガルデだが、


「とは言え、簡単には行かしてくれない、であるか」


 イガルデの前に立ちはだかるのは先程の集団のリーダー格の男。リザルドである。


「その通りだ。特に俺の顔に傷をつけた貴様は、俺が直々に始末してやろう。……なに、安心しろ、貴様の仲間もすぐに一緒になれるさ」


 そう言い終わると、リザルドは腰から短剣を二つ引き抜く。

 その武器から感じられる魔力。魔術武装なのは間違いないだろう。


 抑えきれない笑い。イガルデは、強敵を前に笑っていた。


「フンヌッ!」


 先に仕掛けたのはイガルデ。最強の拳を存分なく振るう。一直線に放たれた拳を、リザルドはギリギリ、掠り頬を軽く裂く程度で収める。

 カウンター気味に繰り出された二刀の短剣。通常ならば拳を叩き込み、短剣ごと敵を粉砕するイガルデだが、流石に魔法が付加されている武器を相手に迂闊なことは出来ない。

 華麗なバックステップと共に、二刀を避けると、近くにあった手頃な石を手に取り、握力だけで砕くと、リザルドに投げ付ける。

 リザルドはそれを難なく二刀の短剣で破壊していく。


「なるほど、右の方は雷属性であるか」


 小石となった破片を砕く際、リザルドが咄嗟に使用した短剣。その一つが破片を砕く度、光と共に電撃を放っていた。故に片方の短剣の魔法を看破するイガルデ。


「チッ!」


 その指摘が当たっているからだろう。舌打ちをすると鋭くイガルデを睨み付ける。

 魔術武装は籠められた魔法を発動する際は基本的に任意で行える。しかし単発式の、つまり戦闘中なんども使用する機会があるタイプの武器は、殆どの者がその発動タイミングを接触、衝撃によって常時展開できるようにしている。

 リザルドが咄嗟に反応した以上、イガルデに見抜かれるのは当然とも言えた。


(しかし、左は無反応であるか。左手にあることから、恐らく毒などの威力を必要としない魔法の可能性が高いであろう)


 楽しみながらも、冷静に敵を観察する。敵は魔物とは違う、人である。盗賊の討伐は何度か行ったことがある。人を殺すのに最早禁忌感はない。ないが、人は頭を使う。故にトロール戦のような単純な力比べをしてしまえば、この男には勝てないというのは理解していた。

 頭を使う。普段やらないだけで、出来ない訳ではない。むしろ、その判断能力は相当のもの。


 怒りに短剣を振るう速度が速くなる。それをリザルドの歩幅や踏み込みに合わせてテンポよく、滑らかに避け続けるイガルデ。そこに、緊張も危機感も存在しない。


 それに焦りを感じたのか、更にイガルデに踏み込み、左の短剣を突き刺そうと迫る。


「確かに動きはいい、しかし判断がまだまだ拙いであるな」


 それを読んでいたかのように、左手を足で蹴り上げる。


「な、に……!」


 驚きに満ちた声で眉を吊り上げる。イガルデに蹴り上げられた左手は、持っていた短剣を離してしまい、凄まじい勢いで通路の天井部へとぶつかり、突き刺さり落ちてこなくなる。


「フハハハハハハ、行くぞ使徒とやらッ!」


 好機と見たイガルデは、拳を速攻で顔面へと叩き込む。それに対応したリザルドは短剣を拳の線上に置くが、些か対応が早すぎた。イガルデは容易くそれを回避し、コースを腹部に変更。拳で発生する音とは思えない重音が響き、リザルドが痙攣しながらよたよたと後ろに下がる。

 イガルデの拳で、最も恐ろしいのがこの局面だ。彼の拳は彼の扱う技術『極技』により、衝撃を体内に拡散させる。だから吹き飛ばない。しかし、故にその威力は普通の拳を遥かに越える。先程イガルデの拳を耐えたはずのリザルドでさえ、意識が混濁しているのだろう、目の焦点が定まっていない。口からは泡を吹き、言語として意味をなさない何かを呟いている。

 その様子に心痛めることなどなく、イガルデは容赦なく、更に拳を叩き付ける。顔面を、腹部を、急所を、肩を、首を、足を、叩く叩く叩く叩く叩く叩く。

 思い付く限りのあらゆる箇所を連打していく。

 その全てが衝撃を体内に浸透させる悪夢の拳。どこに打とうが衝撃が内部へと伝わり、臓器を破壊していく。


 既に残った短剣も落とし、連打が終わると同時にリザルドは力尽きたように地面に伏した。

 如何に魔力循環で体内も強化できるとは言え、これだけ叩き込まれれば流石に生存は難しいだろう。


「ふう、早く団長達の支援に行かねば――」


 そう思い、通路を駆けようとした瞬間、足が掴まれる。

 咄嗟に下を見ると倒れた筈のリザルドが行かせないとばかりにイガルデの足首を握っていた。


「俺は……第一、使徒、リザル、ド。アフ様より、与え、られたこの、力……貴様な、どに、敗北を、するわけ、には……!」


 既にあらゆる箇所の骨も折れ、激痛が走っている筈のリザルド。しかし、それ以上に湧き出る闘気。死にものぐるでイガルデの足を掴むその姿は、同情ではなく、一人の戦士としてイガルデに躊躇いを抱かせた。



 ――それが過ちとも知らず。


 リザルドが残った片方の腕を懐に持っていき、何かを取り出すと、口へと運ぶ。

 咄嗟に嫌に予感のしたイガルデは足を掴む手を振り払い、蹴りを顔面に叩き付けた。

 思わず吹き飛ばしてしまったが、それは失策である。


「……うぐうぅううううう、こ、これが……これこそが神の力ッ!」


 立ち上がる、リザルド。体から大量の蒸気を発しており、熱を帯びたかのように体が赤くなっていた。立ち上がれないほどのダメージを与えた筈。その筈ではあるが、現状がそれを否定する。

 いや、聞いたことならあった。些細な傷を回復する回復薬(ポーション)。その中でも最高ランクの回復薬(ポーション)はあらゆる傷を回復するということは。だがそれはもっと高ランクの冒険者や近衛兵にのみに携帯が許されているものであって、一般にはそう簡単に手が届くものではないと。

 しかし、何故それをこの男が持っているのか。アフという人物は、一体何者なのか。


 しかし、今はその考察に意味はない。息を吹き返したこの男をもう一度叩かなければならない。

 相手をじっくりと観察し直す。


 すると、リザルドの魔力が上昇する。先程よりも、幾分も高い魔力循環の速度。

 それは、先程よりも身体能力が上昇していることを告げている。


 リザルドが鋭い目を向けた瞬間、腰に差していたナイフを投擲する。紙一重でそれを避けるイガルデ。だが隠し持っていたナイフを再度投擲。相当の速度で放たれたそれは、頬を軽く削り取る。

 更にもう一本、腰から取り出したのは鎖鎌。

 それを勢いよく投擲する。異様な武器に驚いたイガルデだが、それを今度は余裕を持って回避。間合いの広い分取り回しの効かない武器であるがゆえに、無防備となったリザルドに攻勢へと転じる――しかしそれは突然曲がりイガルデに襲い掛かってきた鎌によって、中断せざる得なくなった。


「なんとッ!」


 それは一見するとただの鎖鎌。しかしよくよく注視すると、それには魔力が感じられる。

 高度な技術によって隠蔽された魔術武装である。


 腹部を軽く切り裂かれ、血が辺りに飛び散る。カウンターで迫った鎌に拳を叩き込み、地面へと激突、地面が抉れ、破片が飛び散る。

 しかし無傷。イガルデの本気の一撃を食らってもなお、曲がることなく健在だった。

 そこに再度ナイフが投擲。今度も紙一重で避けるイガルデだが、瞬間ミスを悟る。


 ――爆発。

 爆風と砕けたナイフの破片により、咄嗟に腕で顔面をガードしたが、それでも少なくない傷があちこちにできる。

 その隙を付き、鎖鎌の鎖が腕に巻き付き、鎌が肩に刺さる。だが貫通する一歩手前、まだ浅い部分で鎌の柄の部分を握り、何とか引き離そうとする。

 しかしそんなイガルデを嘲笑うかのように、少しずつ、少しずつ刀身が食い込んでいく。

 不味いと思い、筋肉を引き締めて、刀身がこれ以上食い込まないようにするイガルデ。しかしそれはとてつもない痛みと引き換えである。だがそれを好機と見たイガルデは、鎌の刺さっていない方の拳を強く握り締め、リザルドへと駆ける。

 それを舌打ちすると、リザルドは牽制にナイフを投擲する。それを見たイガルデは爆発系統の魔法が籠められていると看破、二度目ともなれば、隠蔽してあったとしても流石に見分けはつけられる。あくまで隠蔽が有効なのは初見のみ、注意していれば見抜けるため、ただの一発芸である。


 用意していた呪文を唱える。


「――『簡易障壁』」


 爆発と同時、イガルデを障壁が包む。簡易故に録な耐久力も持続力もないが、爆発の威力を打ち消すには十分であった。


 しかしあと少しの所でイガルデの体が壁に叩き付けられた。腕に巻き付く鎖が、思い出したかのように意思を持って動く。


(こやつ、恐らくこの魔術武装は扱いなれてはいないのであろうが、それでも厄介であるな! だが、だからこそいいッ!)


 ズンズンと響く突き刺さった刃物の痛みと、ぶつけられた衝撃が、イガルデの体力をじわりじわりと削り取っていた。気を抜けば腕が切り落とされるであろう事態、それでもなお、気分の高揚は収まるどころか、より強くなる。


 ぶつかった衝撃で砕けた壁の破片を手に持ち、リザルドへと投げ付ける。それをリザルドはしっかりと見極めて避ける。


「フンッ!」


 好機。そう見たイガルデは肩に刺さった鎌を渾身の力で引き抜き、巻き付いた鎖も同時に抜く。リザルドが操作への意識を別に向けた一瞬を狙った早業。

 続けて今度こそと突進する。それを妨害すべく鎖鎌を操るリザルドだが、動きを読んで動くイガルデに攻撃が当たらない。そうしている内に、気が付けばイガルデの間合い。仕方なしに鎖鎌を放り投げ魔力循環を更に高め、特に目に負荷をかけることで、動体視力を急激に引き上げる。

 脳の処理に重たい負担がかかり、長時間続けると失明、脳機能への損壊がある危険な行為。だが彼は躊躇わなかった。

 イガルデの拳にそっと手を触れ、横にずらす。そうすることで進行方向が変わり、直撃を逃れる。その直後に拳を顔面へと叩き込むが、イガルデの反射神経も並外れており、そう簡単には当たらない。

 イガルデの蹴りが跳ねるが、それは跳躍することで回避。リザルドは咄嗟に下を通過しかけた足を踏み場にすると、お返しとばかりに蹴りを繰り出す。

 蹴りが直撃する少し手前で掌を進行方向に置かれ、威力を抑えられる。僅かな衝撃で間合いを若干離れたと思った瞬間、イガルデは再度拳を握りリザルドへと叩き付ける。それを一歩と顔を引くことで避け、掌底を鳩尾へと放つ。イガルデも掌底に手を添え、ずらすことで回避。蹴りが放たれるが、脳の処理速度が追い付かず、目眩が一瞬をリザルドを襲い――逆に鳩尾へと叩き込まれた。



 だが叩き込まれた瞬間に復帰したリザルドは、後ろに自分から吹き飛ぶ。

 ――痛みはあるが、まだ戦える。リザルドは最終手段としてアフから渡されていた最後の魔術武装を展開した。


 イガルデが追撃に駆け出した瞬間、リザルドはポケットから三つの小さい丸い弾のような銀色の物体を取り出す。

 一体どれ程所持しているのか、苦虫を噛み潰したかのような表情をつくる。だがそれでもまだ笑える。これほど強敵、何という楽しさか。


 三つの球体が放り投げられ、空中で三角を作ると赤、青、黄色にそれぞれ輝き始めて、イガルデへと向かって直進して来る。

 全力。イガルデが出せる全力でその内の赤い球体を殴り付け、壁へと吹き飛ばす。殴り付けた直後、爆発が発生しイガルデの指が二本消失する。魔力によって特に防御を固めていたが、それでも小指と薬指が吹き飛んだ。

 即座に理解する。これはあまりに危険な代物であると。だがそれでも気に止めている暇などない。赤色の球体は砕け散ったが、青と黄色の球体が未だ健在であることに変わりはない。

 それがイガルデを向かって来ている。無論避ける――が当然のように追尾してくる二つの球体。

 イガルデは仕方なく即席の魔法を展開する。

 本来ならばあまり魔法は使いたくはない。そう思う。イガルデ常に魔力循環で身体能力を強化しているため、同時に魔法を使うことはあまり負担の少ない事ではない。

 だが、それでもだ。


「――『簡易障壁』!」


 見えない壁が発生、球体を防ぐ。が、それも一瞬。球体は障壁を苦もなく破壊し、イガルデを追い掛け続ける。

 爆発しない。赤い球体を破壊した時には確かに、拳と接触した瞬間に爆発した。故に何かとの接触が爆発条件と判断したイガルデだが、それをあっさりと覆される。


「拳を失うのは、覚悟しないといかんであろうな」


 イガルデは指を無くした左拳を、向かってくる二つの球体に向かって叩きつけた。


「ぬぅううう……!」


 しかし駆け抜ける衝撃は途方もなく、拳どころではなく、腕そのものが使い物にならなくなる。拳は一瞬で骨の髄まで凍り、それを雷撃が破壊し、更に腕まで駆け登り、身体中に痛みを与える。

 それでも何とか耐え抜き、動かなくなった左腕を確かめる。


 拳は無いが、原型は留めている。これならばアデルの持つ治療術で、失血死や、破傷風などの予防は可能だろう。町の治療術師に頼めば、もしかすると治るかもしれない。


「ば、ばかな……あ、あり得ねえ」


 それを呆然と見つめる男。余程自信があったのだろう。アフという人物から貰ったと思われる大量の魔術武装。しかも肉体まで何かしらの方法で強化していたと思われる。何せ魔力を使っていない状態でイガルデよりも強い肉体を持っているのだ。

 それでも尚、勝てなかったという事実。リザルドは、先程までの飾った言い回しではなく、素の驚きを示していた。


 イガルデがそれを睨む。獰猛な笑顔と共に。


「ひぃ……く、クスリ、クスリを!」



 思い出したかの様に、後ろポケットから紫色のクスリを取り出す。そしてそれを飲み干した束の間、忽ちにして体が回復していく。そして上がる魔力に身体能力。

 感じ取るのは溢れるようにして出てくる万能感と充実感――――そして体を貫く、数多の衝撃だった。


「フハハハハハハハハハハハハハハハ、ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ――――」


 あまりに隙だらけのリザルドに、回復した瞬間にそれを上回るだけのダメージを叩き込む。顔を陥没させ、肩を捻り、腹部を抉り、それでも尚止まらないイガルデの拳。あまりの威力に、リザルドの体が空中に持ち上がる。しかしそれでも吹き飛ばす、宙に浮くサンドバッグが如くイガルデの拳を受け続け――――





 イガルデが肩で息をする。ここまで苦戦し、ここまで相手を完膚なきまでに叩きのめしたのはいつ以来だろうか。

 地面に転がる、かつてリザルドだったはずの肉塊を見詰めて、そう考える。

 酷い有り様だった。全ての威力(エネルギー)を一身に受けたリザルドは、服の原型は残ってはいたものの、肉体は完全に人の形状ではなかった。


「少し自分を見失っていたようであるな」


 だがそれよりも、早く仲間の元へ戻らなければ。

 その思いがイガルデの足を動かした。






 そこにいたのは大小様々な傷を負ってはいるものの、盗賊らしき集団を全滅させ終えていた仲間だった。


「イ、イガルデ! 大丈夫ですか、その傷!?」


 そこに駆け込んできたのはアデル。直ぐ様治療術をイガルデに施してくる。無くなった拳と焼け焦げた腕、そして全身に渡る様々な傷。電流によって受けた火傷、肩にある深い刺傷、全身にある擦り傷などを見る。


「一体どれ程の強敵だったんですか」


 イガルデの実力は並外れて強い。この中で唯一魔術武装をしていないが、それでも肉弾戦ならばこの中でもずば抜けているだろう。

 そんなイガルデがここまでの重傷を負うなど、生半可な相手では不可能だ。


「うむ、なかなかに良い相手であった」

「……まだそんなことを言う。ともかく、直ぐに町の治療術師に見せた方がいいです」

「確かに、その怪我はやべーな」

「とは言え、まずはここから出る方法を見付けなくてはならんが……」


 早目に見せなければイガルデの拳が元通りになるか分からない。しかし、この迷宮から抜け出せない以上、どうするべきか悩む。


「取り敢えずの応急措置はしておきました。ですが、貴方は次から戦闘には参加しないで下さい。いいですか?」

「な、なんということを……それは酷いので――」

「いやいや、流石に諦めろってイガルデ。やべーってどうみても」


 バルドゥルに言われる事で、渋々と諦めるこの男。どれ程戦いたいのか。


「ん、動いたな」


 その時、迷宮がまた揺れる。


「一体どうなってんだか、早いとこ原因を――」


 その時、全員が一斉に、視線を通路側に向ける。

 冷や汗がダクダクと流れ、悪寒がこれでもかという程に走る。


 ――見られている。

 何かに。とにかくヤバい。直感がそう告げる。ヤバい何かがこちらを見ている。


 触れてはいけないものがある。それは様々だ。想像してみれば、簡単に思い付く。猛毒や炎、或いは人の怒りを買ってしまった時。

 一斉に。

 一斉にだ。その、触れてはいけないあらゆる物に触れてしまった経験が、感覚として過剰になり呼び起こされる。


 それは同時に、毒に漬かり、炎を浴び、刃物であらゆる箇所を突き刺され、とてつもない怒りを買ってしまったかのような幻覚をほんの一瞬だが確実に、彼らに味合わせた。


 それはゆっくりと、ゆっくりと、こちらへと向かって来ているのが分かった。


 何よりも。

 経験が叫ぶ。

 これは――――何よりもヤバいと。




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