迷宮レベル3 僅かな選択肢
男は目を閉じ、微動だにしない。呼吸してるのかすらも怪しい。まるで立ったまま死んでいるかの様だ。
やがて息を吹き替えしたように男は閉じていた目を開ける。
「……残魔力は極僅か、か。このままだと迷宮を維持しきれなくなるが……まあ有るだけ良い方だろう。それよりもなにを生み出すか、だが」
男は思考する。
これも男の頭に知識として入っていることだが、迷宮はその構造上、迷宮核から魔力を送られると、その刺激により迷宮は魔物を生み出す。生み出される魔物は送る魔力量によって異なる。
生み出す魔物を選択する上で重要なのは魔力量とその魔物がどの程度の速度で迷宮を徘徊するかだ。
迷宮を徘徊する速度はその魔物の強さに関係はない。
この迷宮は広大だ。三層ある中の一層だけでもそれなりの広さがある。もし運が相当悪いものが次の階層に行こうとすれば、最悪一日かかるかもしれないほど。
ただ運がよければ数十分で辿り着いてしまうかもしれないが。
それほどの広さだ。迷宮の徘徊速度が遅ければその分侵入者と遭遇確率が落ちてしまう。
例えその魔物がいくら強かろうが侵入者に出合わなければなんの意味もない。
だがその魔物の徘徊速度がいくら高くとも弱ければ侵入者に対抗することが出来ない。
また、遭遇したときの事も考え、魔物の強さも考慮に入れなくてはならない事柄の一つだ。魔物によって狩りの方法などや状況や地形、その個体の弱点などで強さは常に変動する。
今現在生み出せる事が可能な魔物は『ゴブリン』、『ブラッドウルフ』、『ホブゴブリン』、『オーク』、『オーガ』の五体だ。
本来迷宮が生み出せる魔物はこれの比ではないのだが、魔力が少なく迷宮自体のレベルも低いのだ。これは仕方ないだろう。
通常の迷宮ならば弱いが大量に生産できる『ゴブリン』と『ブラッドウルフ』を選び迷宮核を防衛させるところだが。
『ゴブリン』と『ブラッドウルフ』は魔物として際下級に位置する。もちろんそれでも一般人なら軽く殺せるのだが、ある程度力を持った者には話にならない。
問題としては現在、この迷宮の魔力が圧倒的に少ないことだ。『ゴブリン』または『ブラッドウルフ』のみに残る魔力を全て注ぎ込んだとして、生み出せる数は精々百体ほど。これではあまりにも拙い。
その上魔力が枯渇することによって迷宮の維持が不可能となり、この迷宮そのものが崩壊するだろう。
『ホブゴブリン』、『オーク』、『オーガ』については強力だが徘徊速度も大して早くなくそれぞれ
大量の魔力を必要とする。
もしこれらに全ての魔力を使ったとして、『ホブゴブリン』の場合は三十体、『オーク』の場合は二十体、『オーガ』に関しては十体いけるかどうか。
これでは侵入者に対して自分を捕まえて下さいと云っているようなものだ。
さてどうするか。これだけ見れば手詰まりだが……。
瞬間、そこまで考えた男の頭に閃きが走る。
「――っ! ……なるほど。その手があったか」
迷宮に関する知識を吟味し、思考を終えた男は一人頷くと、目を閉じ迷宮の操作を始める。
「これなら大丈夫だろう」
男が選んだ選択は――