迷宮レベル34 集結
オルガン・ルルシュ。かつては才能ある人物として、周囲から尊敬と畏怖の目を集めていた人物である。
しかしDランクでその実力は伸びることを止め、現在では冒険者としての歴が最も長いことだけが取り柄の、今や引退をあと少しに控えた年となってしまっていた。
とはいえその実力は割合高く、更に初心者やDランク帯に滞在する冒険者へのアドバイスや面倒見のよさから、信頼はずば抜けて高い。
そんな彼が内に秘める、狂気にも似た上への憧れと、際限なき嫉妬。
それが今体現しようとしていた。
「おいてめえら、ここで帰りたいやつは帰ってくれて構わねえ。むしろこの話を他に漏らさなかっただけで十分感謝してる」
眼前に広がる数十人の冒険者達。見る限りではそこそこ有名な顔はあれど、殆どが名も知られていないDやEランクのパーティ。これらのほぼ全てがオルガンに指導されてこの職を軌道に乗せることに成功した者達。
受けた恩義は返さねばならない。親同然にすら思えるオルガンの頼みを無下にも出来るはずもない。そんな思いからの志願者達。
だが、それだけではない。『クライシス』。彼らの昇格速度は未だかつて類を見ないほど。このまま行けば、彼らに町ででかい顔をされるのは目に見えている。
ぽっとでが、調子に乗るな――そんな嫉妬にも近い怒り。
これら二つが相成って、この集団は結成されていた。
「なにいってんだよ、オヤジ。なんにも分かってない俺に一から教えてくれたあんたのためならよ、俺たちゃ地獄にでも飛び込んでやるよ」
「そうだぜ、オヤジのおかげで今がある。それに俺らにだって誇りがある。『クライシス』なんかに手柄はやらねえよ」
「おめえら……感動させてくれるぜ。よっしゃあ、いくぞッ!」
そうして一つの巨大な集団は、魔窟へと呑み込まれていった。
◇◇◇◇◇
集まったのは八人の男達。
『クライシス』。『レッドクラブ』。そして、『ベェネ・オルグレリア』。この三組。
昼頃、待ち合わせ時間通り、『昇格試験』の関係者の面々がそこに集っていた。
それぞれが少し距離を置いたところで、荷物の最終点検をしていた。
「ほう……あんたらが『クライシス』か。噂以上に強そうだ」
赤いバンドを腕に括りつけたのが特徴的な、至って平凡そうな男がそう呟く。
『レッドクラブ』のリーダーである、アカシキ。
彼はそう名乗ったものの、詳細が比較的秘匿されたこのパーティである。実際の本名なのかは不明だ。
「それは、光栄です。私たちもあなた方をみるのは今日が初めて。今日の攻略時にぜひその実力を拝見してみたいものです」
他よりも早く準備を終えたアデルは、『クライシス』の代表として『レッドクラブ』に挨拶をしにきていた。
「かー、こんな低ランクの迷宮で我々の実力を見れるとでも? 全く、冗談はよしてくれ」
「そ、それに、我々は実力を見せる、方ではなく、見る方だ。か、勘違いは、やめていただこう。ば、ばーか」
しかしそんなアデルの言葉に反応したのは『レッドクラブ』のアオカ。アカシキと同じように腕にバンドを巻いているが、その色は青。
どうやらわりとキツい性格らしく、初対面であるアデルに向かって遠慮なく怒りと見せる。
それに便乗する形で暴言を吐くのはキラ。腕には黄色のバンドをしている。気弱そうな見た目通り、発する声は震えているが、内容は対照的であった。
その二人の返答に目を丸くするアデル。
「お前ら……頼むから黙れ。……失礼したアデル君、アオカは無駄にプライドが高くてな。悪気は無いんだ。キラに関しては、ただのバカだから気にしないでくれ」
「いえ、確かにお二人の云う通りです。今回の攻略、どうか評価のほどお願いします」
キツいことを云われたのにも関わらず、むしろ此方の非を認める姿勢にアカシキはほう、と感心する。
「はっ、案外分かってんじゃねーか。ま、危なくなったら助けてやんよ」
「わ、分かってるなら、ゆ、許してやるよ」
アデルの態度に怒りが鎮火したようでアオカは相変わらずの態度でアデルにそう言い放った。
どうやらいきなりの衝突は免れたらしい。
アデルはキラに冷めた目を向けながら、喧嘩に発展しなかったことに胸を撫で下ろした。
低ランク、とは言え命が掛かっている中、リスクは確実に減らしておきたい。
故に問題は――
「おいおい、友達ごっこは終わったか? 終わったんならさっさと片付けちまおうぜ?」
ベェネ・オルグレリア。この男である。この男も準備が終わったのか、いつの間にか『レッドクラブ』に近付いていた。
出来ることならこの男とは迷宮になど入りたくはなかったアデルではあるが、この依頼をこなす上で欠かせない条件として入っていたベェネの参加。
なにかしらの障害になるとは思ったものの、始めからこうも雰囲気を悪くしにかかるとは、ある意味想定内ではあるものの、やはりこの男は邪魔者でしかないらしい。
「あぁ? なんだてめえ……?」
「ぶ、ぶっころ、さ、されてえのか」
「ははっ、雑魚どもが粋がるなぁ。ぶっ殺す? それは俺の台詞だぜ?」
空気が一瞬で張り詰める。まさに一発触発。そして肌を波打つ凄まじい威圧感。アオカは、完全にぶちギレていた。
いつでも戦いが行えるよう、臨戦態勢に入るアオカとキラ。
それに対して、ベェネは一筋の冷や汗を流しながら、それでも愉しそうに笑う。
「アオカァアアアッ!」
――瞬間背筋が、凍った。
その最中、アカシキが叫んだ。先程の冷静さからは想像もできない声量。それにビクッと反応して、ばつが悪そうにアオカは臨戦態勢を解いた。
「……チッ、命拾いしたな、Dランク。次はねえぞ」
「ね、ねえぞ……」
一発触発の事態はなんとか回避できたものの、アデルは冷や汗を垂らす。
とてつもない威圧感。これがCランクパーティの実力なのかと、内心驚きを隠せない。
「……おっと、お前さんの仲間も準備が出来たらしいな。そろそろいくか」
気が付けば他の『クライシス』の面々も確認が終わったらしく、こちらに向かってきていた。
「ですね、行きましょう」
――――
◇◇◇◇◇
Dランク迷宮、元『宝物庫』。そして現『魔窟』。
そこから少し離れた森の中に。集うは数十から成る軍勢。長い間剃られてない事が窺える伸び放題の無精髭。どの面をとっても凡そ善人どころか、普通の市民と思われる者が一人としていない。それほどに凶悪な顔ぶれ。
それもそのはず。
彼らは盗賊団『黒膿』。迷宮都市エディシスから少し離れた街『バリアル』に来る旅人や商人などを獲物に活動している盗賊団である。
その盗賊団が、エディシスの、それも迷宮の前に集合しているのには訳がある。
そのリーダーを務めるグヴァイは、その経緯を思い出していた。
その発端は数日前に突然やって来たある一人の男。
――――
数日前、彼らはある商人を襲った挙げ句男を殺し、その商人が連れていた女を戦利品として美味しくいただいていた。
無論彼らがいたのは根城である。一見すると只の洞穴。だがよく見ると周囲には人の形跡が残っている。
そこは繊細にカモフラージュを重ねた、彼ら『黒膿』のアジトである。
もちろんカモフラージュだけではない。無断に入ろうとするものには数多の罠が設置されている。かなりの人数で攻め込んだとしても、その罠や狭さに多くが力果てるだろう。
更に有毒ガス対策として抜け道も多々用意されている。
そして今は罠が作動中。何故分かるのか。それは何者かが侵入すればすぐさに分かるようになっているから。
そう、例えば、岩が落ちるとこによる振動などによって。
「て、敵襲!」
誰かが慌てた声でそう叫んだ。
だが盗賊団のリーダーを務めるグヴァイは慌てることなく指示を出す。
「珍しいな……落ち着けてめえら、まずは敵の数を報せろ!」
「伝達によると敵の数は一人! 単独でここに攻めて来やがったみたいですボス!」
「一人だと……騎士団じゃねえのか……? まさか自警団でもあるまい」
グヴァイは思考する。一人と云うことは余程自分の力に自信のあるバカか、迷い混んだ旅人なにかか……。
ともかくどちらにせよここは自分達のアジト。罠など多数が襲い掛かる中、奇襲にかけては手練れといっても過言ではない盗賊の集団。いくら強くとも、ゆっくりと削り取って殺すことは可能。それにグヴァイの実力はそこらの冒険者を軽く凌駕している。
「行くぞてめえら、誰であろうとここに入った奴は生かして帰すわけにはいかねえ。ぶち殺せ」
その指示に周りの男たちは歓声を上げる。彼らとしても自分達の住処に無断で足を踏み入れられ、黙っていられるほどの器量など持ち合わせていないのだ。
それは唖然。
敵が罠が多数仕掛けられている地帯を抜けたと云う報告を受けたグヴァイは敵がただの旅人である可能性を捨てた。
だがそれでもまだ罠は残っている。負ける気など一切存在しない。
――筈だった。
グヴァイが予想していたのは敵に近かった面子が、敵に対して攻撃を仕掛けているという図。
だがそれは容易く裏切られる。
まるで待っていたかのように通路に佇む一人の男。スキンヘッドに凶悪な面構え、更に無精髭は確実に堅気でないと分かる。加えて地に塗られたその腕は、その男がここで一体何をしたのかを物語っていた。
洞窟内にしては比較的広いその通路。その脇にゴミのように捨てられているのはグヴァイの部下であった。
どれ程の激戦だったのか。周囲の岩々が抉り取られている。そして転がる盗賊の中には横に両断された死体や顔が跡形もなく潰された死体、心臓部だけにポッカリとした穴が空いている死体などが散乱していた。
盗賊の性か、それを見た者が真っ先に感じたのは恐怖。仲間のことなど気にもとめず、ただこの場から逃げたいという思いのみが込み上げる。
怒りなど欠片も出てこなかった。
「漸く大将のお出ましか。あまり時間がないんだ。さっさと話を始めるぞ、グヴァイ」
「な、なんだてめえは……」
脅しをかけるように発したはずの言葉だが、そこに力は存在せず、ただの問い掛けに成り下がっていた。
「俺はボルグ。てめえらと同じ盗賊だ。つーか、お前もここに長くいるんなら、俺の名前も少しは聞いたことあるんじゃねえか?」
――ボルグ。
確かに聞いたことがある。少しどころではないが。
ボルグ、カーべといえば、ここ一帯で相当に有名な盗賊。
所以、かつて名のある盗賊団に騎士団が一斉に襲撃をかけた事があったという。その内の一つである断罪『死の渓谷』戦。当時名のある盗賊団に所属していたボルグ、カーべは、それを生き延びた数少ない強者である。
そして今、その人物が目の前にたって、その噂が事実であったであろうことを見せつけていた。
何より複数人を相手に息すら乱していないのはあまりに非現実的すぎる。
「その反応は分かったってことでいいんだな? じゃあここで質問タイムだ。俺は今からあるお方と一緒に迷宮へと向かう。それにお前らも付いてこい」
「め、迷宮……です、か?」
「その通り、付いてくるも付いてこないもお前らの自由。俺は強制はしない」
その言葉に盗賊達は困惑を顔に浮かべるものの、それを素直に信じ、行かなくてもいいのかと安堵を浮かべる――
「ただし、付いてこない奴は生きる必要などない。この場で俺が殺す」
「な――」
グヴァイを含め、盗賊達の顔が強張る。それがハッタリではないであろうことは周りに転がる盗賊の死体が証明している。
迷宮に向かう、そうボルグは云った。
盗賊と云えど迷宮は危険だ。無論ランクにもよるが、それをいきなり告げられ自ら進んで行きたがる者など居るはずもなく。
強制はしていないが、イエスと返事を返さねば殺すと、要は脅しているのだ。
その圧力と恐怖に駆られたのか、一人の男が情けない声を上げ後ろに逃げ出す。
「使えねえ」
呆れたような、静かな声が響いた。
その瞬間、逃げ出した男の背中が爆発する。血が吹き出し、辺りに綺麗な花を咲かせる。
穴が空いていた。明らかに貫通しているのが分かる、拳大の大穴。それが逃亡を試みた男にポッカリと存在していた。
「ひっ……」
何をされたのか。それはボルグの残身を見れば一目瞭然であった。ふっーと、息を軽く吐きながら、まるで何かを投げた後かのようなフォームを取るボルグ。
間違いない。彼は的確に、周囲に転がっていた岩を発射したのだ。
ただそれだけで凄まじい威力。これが騎士団の襲撃を生き残るほどの実力を持った男。グヴァイはその力を正に実感した。
「とっとと答えろ。来るのか、来ねえのか」
――――
「あらぁ、思ってたより集まったじゃない。あんたならもっと殺しちゃって精々五、六人かと思ってたけど。遅いから文句云おうと思ってたけどこれなら仕方ないわねえ」
ボルグを先頭に、綺麗に整列していた盗賊達。
その集団の真横から綺麗な女性の声が響いた。
「姉御、俺は殺人狂じゃないんですから……。まあ、それと元々この集団が大きかったのも一因ですね。本当はもっと早く帰る予定だったんですが、こいつらが思った以上に遅くて……すみません」
グヴァイはその内容に目を剥く。
思った以上に遅い。そんな訳がない。グヴァイ達はボルグに言われるがまま全力で目的地に向かったはず。途中死ぬ寸残までいった事すらあった。寝る間すら惜しんでここに辿り着いたのだ。最後体調を調えるための休憩を除けば、まさに地獄の行軍だった。
それをして遅いというとは、一体どういうことか……。
だがグヴァイを真に驚かせたのは、その女性。容姿が今まで見た中で最も美しいというのもあるが、何よりもボルグとの関係性。絶対の恐怖の対象であったボルグが、女性に対して明らかに下であるのが分かる。
あり得ない光景。果たしてこの女性は何者なのか。
そんな疑問が募るなか、女性がそんなことより、と一言、
「とっとと行くわよ。カーべ、ボルグ、準備は出来てんだろうな?」
「もちろんです姉御」
「俺も万端ですよ、姉御」
その女性の質問に後ろから声が発せられる。
慌てて振り向くとそこにいたのは青髪の色男。
気配をまるで感じさせないその隠密性は、いつでも自分達を殺せたのだと暗に感じさせた。
そして中に入った一向を迎えるのは闇。それを照らすのは以外にも全員に配られた光石。
しかし誰もが、これから待ち受ける魔物に緊張を隠せないようである。
そこへ、迷宮とは不釣り合いな可憐な声が響く。
「あー、楽しみね。わくわくが止まらないわ。運がいいことに布石も幾つか置いてあるしね」
「姉御、それより大丈夫ですか? 姉御は強い。ですが万が一、ということもあります。出来るだけ離れないようお願いしますよ」
「はっ、バカいってんじゃないわよ。万が一? そんなもの私には存在しなーい」
「あ、姉御! それは分かってますが……」
「それに第一、私の能力でなら絶対に負けない。特に一対一なら確実に。相手がどんなに強かろうが、私の前には無力。どう? 安心した?」
「姉御……」
「ま、そんなことより――――あのクズがここから逃げねえよう、楽しみが消えねえよう、退路は塞いでおかねえとなぁ?」
女の美しい顔が不気味に歪む。楽しみと言葉では云っているはずが、伝わってくるのは間違いなく怒気。
それも凄まじい。
女が手を地面へと突き刺す。
「――――《アイドーネウス》」
迷宮が、揺れた――――。
◇◇◇◇◇
計画が、漸く実る。既に、ギリギリではあるものの、遂行出来るレベルには達している。
フィルが立てた計画はそう難しいものではない。むしろ単純なものだ。
――迷宮都市エディシスを、丸ごと殲滅する。
望むのは比喩や軍事用語でない方での全滅。皆殺しだ。
そのための、命を掛けた下見。そして情報から得た調査が入るまでの残りの算出。
それに併せての黒術師の強化。
今漸く全てが整った。
あとはこの迷宮の魔力を全て拳の迷宮核に一時的に吸収させ、迷宮を去ればいい。
迷宮を去れば、否、迷宮から魔力を抜くだけであってもそれは迷宮を破壊するという行為に他ならない。ではフィルはその後どうするのか。簡単だ。その後は新たな迷宮を乗っ取る。そこからフィルの本領が始まるといってもいい。
既成のフォルムに頼っての不自由な魔物しか創造できぬこの迷宮、加えて既に異変に気が付かれてさえいる。このまま入れば間違いなく詰みが待っているだろう。
そんな迷宮など捨てて、新しい迷宮へ鞍替えするのがベストだ。
「……ゼロ、フォレスト。お前達は、この計画の要だ。既に知能は、一定領域に入っているお前達なら、理解しているはずだが、この計画はお前達が、最も重要だ。先行し、作戦の準備を行え。……ないとは思うが、例え私が予定時刻に現れなくとも、行うことだ。
理解したか?」
「……理解」
「ああ、大、丈夫」
それに頷き返事を返す二体。明らかに成長していた。フォレストに関してはまだ片言の要素は抜けないが、それでも数日前は無言であったのが言語を理解して行動できるのだ。とてつもない進歩であろう。
「……では、跳べ」
その声に従い二人の黒術師はフィルの瞬間移動陣によって外へと跳ばされる。
残るはフィルとセカンド。
彼らもまた、現在抽出中である魔力を完全に抜き取り終わると同時に、迷宮を退避する予定である。
その際迷宮全域に、巧妙に張り巡らせておいた魔術妨害式を発動させる。
そう、ジャミングによって冒険者の退避を妨害し、手強いであろう冒険者を皆殺しにする作戦も既に出来上がっている。
「……現在、二十一%か。……まだ掛かりそうだが、奴等が二、三階層まで辿り着くまでには、これも終わるだろう」
ふと、迷宮内を確認しようと、空中に映像を映し出そうとし――――迷宮が、揺れた。あり得ない。迷宮が揺れるなど。魔力を抜いたからか。いや、まだそのような段階ではない。ならば地殻変動か。違う。迷宮は簡単に云えば別の空間に固定されたもの。地殻変動で揺れるなどは、そもそもあり得ない。
だがなにより不可解なのが、その途端、フィルの魔力吸収が途切れたこと。
考えうるあらゆる事象であっても、フィルの魔力吸収が途切れるはずはない。何故ならこれは迷宮の構造自体が健全なら問題なく行える動作である。つまり、これは言い換えれば迷宮の内部構造が何かの異変をきたしたということ。
「……迷宮が、魔力を核に吸収されたごときで、誤作動するはずがない。……あり得ないはずだが、まさか、外部からハッキング、されたのか……?」
迷宮の内部構造は何よりも頑丈だ。その頑丈さを知るフィルからすれば、絶対に誤作動などあり得ないと断言できるほどに。
で、あるならば、その異変要素は外部から来ているという説が最も可能性がある。
通常ならば不可能だが、この世界には特殊な能力が存在する。もしかしたら、迷宮にアクセスする能力が存在するかもしれない。
何度アクセスしようとしても失敗する。十数回試し、それでもアクセスが出来ない。
「……と、すれば、能力者は内部にいる可能性が高い、か。何が目的だ……? 私の計画が悟られたのか? いや、それならば、また別の方法があったはず。……つまり、これは私に対してではなく、第三者に対する何かしらの攻撃、もしくは無差別的な迷宮に対する、侵入か。どちらにせよ、見つけ出し殺さねば、な。
セカンド、行くぞ」
フィルはそう結論付けるとセカンドを連れ、侵入者の元へと歩み始める。
本来は計画にはない事項だが、緊急事態であるからには仕方がない。
「……少々、厄介だが、こちらには魔力という絶対のアドバンテージが、ある。勿体なくはあるが、殲滅に大した時間は、かからないだろう」