迷宮レベル1 異変
男は困惑していた。いや、それも当たり前だろう。目覚めたら自分は見たこともない石造りの簡素な部屋にいたのだから。
この部屋には不釣り合いな出口らしき立派な扉はあったがノブもなく、押てもびくともしない。
また不思議なことに、この部屋全体が薄く光っていて暗くはない。
「まいったなぁ。……誘拐でもされたのか俺?」
とは云ったものの、男はあくまで一般市民だ。勤めていた会社もごく平凡なところで家もお世辞にも裕福とは言いがたく、おとなしく暮らしてたゆえに誰かに恨みをかったことなど無いはずなので、誘拐される覚えはない。
ではこの状況は何か。
「まあここで慌てても仕方ないか」
男は胸に一抹の不安を抱きながらも、冷静になるように努めた。
「とは言ったものの冷静になったところで――――なんだコレ?」
弱音を吐いている途中で、自分の足下に赤く光輝く石に気付く。
――美しい。
男がその石を見たときの感想がそれである。形自体は何処にでも有りそうな物だが、その石が放つ光からは、神々しさと禍々しさを同時に感じさせられた。
そしてその石に、男が意識せずに触れたのも仕方ないことだろう。
「――――――――」
石に触れた瞬間、これまでに体感したとこもないような痛みが男を襲う。
そして全てが、世界が反転した。
男は右手を抑えこみ、狂ったようにのたうちまわる。
大の大人が叫び声をあげ、顔を自身のヨダレでべとべとに汚している。
それも仕方のないことだろう。何故なら激痛が全身に走り、右手の甲の血管が、右手、右肘、首筋、こめかみにかけて破裂寸前だと主張している。
激しく脈打つ血管は、右手から何かが流れ込んでいるようにも見えた。
しかしそれもすぐに終わる。
理解出来ない。
訳が分からない。
自らの感覚全てが分からない。
まだ立っているのか。
倒れたのか。
何が起きているのか。
呼吸はしているのか。
自分は誰か。
なんだこれは?
ここはどこだ?
どうして生きている?
どうしてどうしてどうしてどうしてどうし――――――
少し変えてみました