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混沌なる迷宮の王  作者: しいなみずき
Eランク迷宮
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迷宮レベル13 支配者の苦悩

魔物、罠、財宝などのランクを階位に変更しました。

申し訳ありません。

 迷宮の最深部。そこでフィルは、額に滲んだ汗を手で拭う。

 別に特段暑いと云うわけではない。俗にいう冷や汗というやつだ。

 先程迷宮に侵入してきた冒険者パーティー。決してフィルは彼らを舐めていた訳ではない。

 Eランク迷宮にした以上、これまで以上に手強い敵が来るのはある程度、想定はしていた。

 しかし彼らは戦力は予想以上だった。いや、ギリギリ予想内ではあったが、それでも内心油断をしていたのだろう。表面上はまだしも、内心ではかなり動揺してしまった。

 今現在、この迷宮で三番目に強いホブゴブリンが、ただの一人に、それも一瞬で負けたのだ。予想内とはいえ、その目で直に観て、動揺してしまったのは仕方のない事だろう。

 これは経験としてではなく、知識としてしか情報がないフィルの弱点だ。


 実際、あのパーティーがどのランクなのかは分からなかった。

 だが、予測は可能だ。

 冒険者ギルドの規約は知っている。探索が許されている迷宮は、自らが持つランクと、その前後の迷宮のみだ。

 よってFからDはほぼ確定。そしてホブゴブリンを瞬殺するあの実力から、恐らくD辺りと思われる。

 もちろん規則が変わってる場合もあれば、彼らが規則を破って低ランク迷宮に来たのかも知れないが……その可能性は低いと見ていいだろう。

 規則というものは大抵の場合、変えるのに時間がかかる。それに急を要さないなら尚更だ。フィルの中にある知識はそう古くはない。よって、可能性は低いだろう。

 そして規則を破った方の可能性は更に低い。なにせ、高ランク冒険者が低ランク迷宮に潜るメリットが、まるで感じられないのだから。


「まあ……計画的には成功だろう」


 フィルは誰もいない虚空に向かってそう呟く。何も知らない者からすればおかしく思えるだろうが、それは違う。

 癖というものは、人それぞれだ。そしてその癖は環境によって身に付き、自然に体に馴染んでしまうもの。それ故に人はその癖を意識せず、意識しても直すのが難しい。

 そしてフィルのそれも、環境によって馴染んでしまった癖の一つだ。


「問題があるとすれば、あのクラスの実力者がこの迷宮の攻略に本気で乗り出した時だが」


 この迷宮には、守護区域が未だ三層までにしか設置されていない上、魔物は一層を抜ければほとんどいない。

 つまり、もしも侵入者が一層を攻略してしまえば、残すは二体の守護者のみ。

 しかし一層の守護者を倒せるだけの力量があれば、一層と同じ守護者を配置してある二層、三層に手こずるとは思えない。


「対処する方法はあるが……アレ(・・)は三回までしか使えないからな」


 現状、フィルが高ランクの冒険者に対抗する手段は無い、わけではない。

 しかしそれを行えば、今後確実に、フィルの立てた計画に著しい狂いが生じるだろう。

 それはフィルとしては、最も避けなければならない案件の一つだ。

 計画に狂いが生じれば、フィル自身の生命が危険にさらされるのは間違いない。そしてそれは、結果的にフィルの目的を妨げることになることと同義なのだから。

 

「恐らく、これから侵入者は増えていくだろう。トロールが侵入者どもを殺し回れば魔力は溜まるが……やはり問題は討伐された場合と目撃者に逃げられた場合だな」


 その通りだ。既に冒険者達からすれば、この迷宮はEランク。そして通常Eランクにはトロールなど決して出現することはない。

 もちろん、人間側には、迷宮の仕組みを理解している者はいない。それは迷宮の構造的な理由から来ている。


 人間側が仕組みを解明していない以上、トロールがEランク迷宮から見つかったとしても、即座に危険指定され、攻略されるような事にはならないだろう。

 ちなみに、危険指定された迷宮はランクに縛られることはなく、高ランク冒険者によって即刻排除される。


 迷宮は、国の財産である。特に、名前が公式に付けられた高ランク迷宮に関しては、攻略してもいい数がある程度決まっている。

 もしも迷宮が国から無くなれば、一時的にその国の国力は劇的に上がるものの、その後、まず間違いなく経済的に破綻する。


 故に、国はもしも冒険者ギルドが暴走したときに備え、冒険者ギルドには独自の判断で、迷宮を危険指定することを禁じている。もしも危険指定する場合、その決定は国に判断を仰がなければならない。


 話が逸れたが、要はトロールが見つかったとしても、直ぐに攻略されることはないということだ。

 だがそれでも、確実に侵入者は減り、質は上がるだろう。


「それに、新しい魔物創れるようにしないとな。流石に、一番強い魔物がトロールでは困る」


 トロールは強力だが、その実力はオーガと殆ど変わらない。もちろん、多少はオーガよりも強いが、ゴードン、ジェイク級の冒険者との戦闘になれば、確実に負ける。

 それでは流石に不味い。というわけで、フィルは新たに魔物を創造出来るように、迷宮の強化をする予定だ。

 四層、五層を創造したことで、『スライム』、『スケルトン』、『トロール』を生み出せるようになった迷宮だが、それが全てではない。魔力を使えば、次の階層を拡張することなく、新しい魔物を生み出せるようになる。


「まあ今のところは、保留だが」


 しかしそれは予定なだけであって、云う通り、フィルに今するつもりはない。重要な案件だけに、フィルは口にしたが、魔力の量的にそこまで余裕がなあるわけではいのだ。


 また、魔物や財宝、罠などの階位も上げなくてはならない。上げれば上げるだけ、不審に思われるだろうが、既に財宝の件がある。ある程度ならそれと同じような特異な点と見なされ、そう問題視されないだろう。

 一つおかしな部分があれば、それに連なる部分でそれと同じ程度のおかしな部分が見つかろうと、一つ目の部分よりも怪しまれることはなくなる。人間の心理だ。 

 もちろん、中には怪しむ者も出てくるだろうが、それは仕方がない。

 まだ第二階位が最高階位だが、それでも他のEランク迷宮と比べれば余程強化されている。


 侵入者の排除と、最深部への侵入を拒むためには、まず魔物を増加させ、魔物の種類も増やし、魔物及び罠類などの階位も、上げなくてはならない。

 これをしておけば必ず攻略を防げる訳では無いが、やるかやらないかでは、相当違ってくるものだ。

 しかし魔力量の問題などがあり、そう簡単には進まない。


我ながら(・・・・)、酷く人任せだな。勝手なものだ」


 自嘲気味に、そう呟く。


「そう言えば奴等は(・・・)……」


 いや、今考えるのは止めておこう。

 心の中で、自分に言い聞かせる。アレはまだ早い。確定すらしていないのだから。

 それに今の自分には先にもっと考えなければならないものがあるではないか。

 階層が増えるとともに、更に迷宮の機能も増えた。それも上手く扱い最大限に利用しなければならない。


「くそっ、この感覚は非常に不愉快だ……さっさと結合し終わればいいものを」


 溜め息と共に愚痴を吐き出しながら、今後の迷宮をどうするか。計画にミスはないかを考える。


 フィルの苦悩は、まだ続く。





にゃんぱすー

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